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16、衝撃の事実を知りました

「あれ?お兄ちゃん、こんなところでなにしてるの?」


「!?し、しまった…僕まで一緒になって寝ちゃったよ…」


いつの間にか眠ってしまっていたらしい。顔を上げると志穂が不思議そうな面持ちで僕の顔を覗き込んでいた。


「もうパーティ終わっちゃったよ?お兄ちゃん、もしかしてロクに食べてないんじゃないの?」


「うっ、そういえば…」


今日僕がパーティで食べたものと言ったら、調理中にちょっとつまみ食いした野菜と、寝る前にサーシャからもらった肉串だけだ。


ああ、思い出したらお腹が…


呆れたようにため息をつく志穂を見て、なんだか情けなくなってきた。せっかくのバーベキューだったのに、何も食べずに寝ただなんて…


やっぱり僕はバカなんだろうか…


「まったく、しょうがないな~お兄ちゃんは。はい、これ食べなよ」


そう言って志穂が差し出してきたのは、お皿に盛り付けられた色とりどりの料理だった。どうやらバーベキューの残りみたいだ。


僕のためにとっておいてくれたのだろうか。


「ちょっと冷めちゃったけど、きっと美味しいよ?」


「あ、ありがとう志穂。いただきます!」


僕は志穂から料理の皿を受け取り、がっついた。自分でも驚くぐらいお腹が空いていたみたいで、体が勝手に次から次へと料理を口に運んでいった。


肉汁が口いっぱいに染み出し、そこに焼かれて少し甘くなった野菜たちが放り込まれる。肉汁と合わさって、甘みがさらにまし、食欲がおさまらない!


「もう、お兄ちゃんったら、そんなに勢いよく食べなくてもいいのに」


「むぐむぐ…だって、ものすごくお腹空いてたんだもん…はむはむ」


「でも口に物を入れたまま喋らないあたりさすがだよ。どんな状態でもマナーは守るんだね♪」


「もっきゅもっきゅ…う~ん、たまたまだと思うよ?僕だってそういうことしたことは散々あるし…あ~む♪」


は~、食べるのってやっぱり最高♪


…あれ?そういえばサーシャは?


ふとあの居眠り少女のことが気になって、自分のお腹のあたりを見る。だけど、そこには眠るサーシャの姿はなく、かわりに白と紫のチェックの入った帽子が掛けられていた。


「これ、サーシャが被ってた帽子だ」


フードのような形のそれは、間違いなくサーシャの身に着けていた帽子だった。手に取って初めてわかったけど、これけっこう大きいな…


毛布代わりに掛けていってくれたのだろうか…やっぱり優しい子だな…


「お兄ちゃん、それどうしたの?」


「え、ああこれのこと?」


ずっと僕の食事風景を無言でじっと見ていた志穂が、食事の手を止めていた僕にそう質問してきた。


たぶん見慣れないものだったから、純粋に気になったんだろう。


…正直に言えば、きっと志穂はいろいろと問い詰めてくるだろう。ちょっとだけはぐらかしておこう。


「たぶん、一緒に遊んでた子の物だと思う。あとでその子に返しにいかないと」


一応嘘は言ってない。子供の中にはサーシャも含まれているからね。


「ふ~ん、そっか……女の子じゃ、ないよね?」


「え?」


「まさかお兄ちゃんが小さな女の子に手を出すわけないよね?」


…なんか志穂が恐い。背中からどす黒いオーラみたいなのが出ている気がする…


サーシャは幼女ではないけど、さすがにそれを言ってしまったらオシマイだ。


僕は帽子を服の中に入れ、ゆっくりと立ち上がり――――


「ここは…逃げるが勝ちー!」


「あ、こらお兄ちゃん!逃げるなー!!」


僕は地面を蹴り上げ、全速力で屋敷へと向かった。


後方から妹の怒りの声が聞こえてくるけど、振り向いたりなんかしないで、走り続けた。






◆◆◆◆◆◆





「よし、なんとか逃げ切ったぞ…」


勢いよくお屋敷の中に入り込み、一息つく。志穂は追いかけてはこなかったけど、止まってはいけない気がして全力でここまで走ってきた。


おかげで息が絶え絶えだよ…


ちなみに志穂から渡された料理は、走りながら完食しました。おかげで脇腹が悲鳴をあげてるよ…


「あ、やっと戻ってきた」


「ロロ?」


汗を拭い、視線を上げる。バスタオルやら石鹸やらを持ったロロが、呆れたような目で僕を見ていた。


今日は呆れられる回数が多い日なのかな?


「まったく、あんたが主催したパーティーだったのに、開催者本人がいなくなってどうすんだよ?」


「いやぁ、ちょっと居眠りしちゃってさ。そういえばロロはこれからお風呂?」


僕がロロの持つ風呂用具を指差しながらそう言うと、ロロはつまらなそうにつぶやいた。


「別にボクは体を綺麗にしたいだなんて言ってないんだけどな…カホ、だったっけか。あいつが『ちゃんと体は清潔にしないといけません!』だとか言って、こいつを押し付けてきたんだ」


ロロは、まるで初めてそれを見るかのような目で、石鹸を手の中でコロコロと転がしている。


それにしても、姉さんがそんなことを…いつもはあんなにだらしないのに、こういうときだけ姉らしいことをして…


僕のときも、そういうしっかりした態度でいてほしいものだよ。


「はぁ…それにしてもまいったな…ボク、フロなんて一度も入ったことねぇから、どうしたらいいかわかんねぇよ…」


「え、風呂に決まりなんて特にないけど…」


でもロロからしたら、もしかしたら『風呂』っていう存在は、未知のことなのかもしれない。いや、たぶんそういうことなんだろうな。


う~ん、何かいい案は…あ、そうだ!


「ねぇロロ、僕も今日はまだ入ってないから、一緒に入らない?」


「ぶふぅ!?」


そんな提案をすると、ロロが思いっきり吹いた。


そして顔を真っ赤にしながら僕に食って掛かってきた。


「お前何言ってんだよ!?そんな、一緒に入るだなんて…」


「え、風呂って別に一緒に入ってもまったく問題ないと思うんだけど」


異性同士ならまだしも、ロロは男の子(、、、)だからまったく問題はないはず。


「で、でもフロって、ははは裸で、は、入るんだろ?」


「え、まぁ普通はそうだね」


混浴ありのところは水着着用だったりする場合もあるけど、基本は裸だ。


僕たちは慣れてるからあまり気にならないけど、やっぱり知らない人からしたら、裸で他の人と一緒にお湯に浸かるっていうのが理解できないんだろう。


ま、慣れちゃえばどうということはないんだけどね。さすがに女の子と入るのは無理だけど…


というか僕の場合、混浴にトラウマが…


「ややや、やっぱりダメだ!おまえと一緒になんか入れるかよ!」


「いやでも、お風呂の入り方わからないんでしょ?」


「うっ」


痛いところを突かれたようで、ロロはそれ以上言葉を紡げなくなってしまった。


何か反論しようとはしているみたいだけど、何を言えばいいのかわからないみたいで、口をパクパクしているばっかりだ。


ふぅ、これじゃあ埒があかないや。


「よし、それじゃあさっさと行こうか♪」


「は、ちょ離せ!引きずるなー!!」


僕はロロの手を引いて、浴場へと向かうことにした。


引きずられる形になったロロが必死になって叫んでるけど、いちいち反応していては朝日が昇ってしまうので、あえて無視することにした。






◆◆◆◆◆◆






「ふぅ、ああ~やっぱりいい湯だな~♪」


なんとかロロを浴場までつれてきた僕は、先に服を脱いで湯船に浸かった。


服を脱ぎ始めたときに、ロロが声にならない叫び声をあげたときは正直かなりびっくりした。男同士なんだし、そこまで驚かなくてもいいだろうに。


で、ロロはというと。今だに脱衣所でもたついている。


「はぁ…僕ってそんなに嫌われてるのかな…」


同性と一緒に入るだけなのに、ここまで嫌がられるとさすがに傷つく。まぁ僕もそこまで意地にならなくてもいいんだけど、せっかくだし仲良くなりたいな~って思ったんだけど…


「思ったよりうまくいかないな…」


「何ため息ついてんだよ」


「ふぇ?」


声を掛けられ、顔をそちらに向ける。


視線の先に、先ほどまで脱衣所であたふたしていたロロが立っていた。顔は耳まで真っ赤にし、今にも泣き出しそうな表情をしている。


う~ん、さすがに罪悪感が湧いてきたよ…


「…ごめん。そんなに嫌だった?そこまでダメなら、僕はあとで入ることにするよ」


今日は諦めて、またどこかで仲良くなれる機会を伺おう。


そう思いながら扉に近づくと、すれ違いざまにロロに腕を掴まれた。弱々しい、触れるくらいの強さだった。


「べ、別に嫌ってわけじゃない…ただちょっと、は、恥ずかしい、だけだ…」


「そ、そう、なんだ…」


顔を真っ赤にして俯きながらぼそぼそ喋るロロを見て、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきた。


い、いかんいかん!何を恥ずかしがっているんだ僕は!ロロは男!僕とおんなじ男子だぞ!!


こ、ここは話題を振ってなんとかこの場を切り抜けねば。


「そ、それにしてもロロはそこまで恥ずかしがるの?」


ちょっと意地悪な質問だったかもしれないけど、この際仕方ない。


あの妖精に頼ったりなんかしたら、ロクなことにならないし。


するとロロは俯いたまま、ごにょごにょと言葉を発した。







「だって…男と女(、、、)が裸で一緒にいるだなんて…恥ずかしい、だろ?」







「へ?」


ちょっと小さくて聞き取れなかっただけだろう、うん。


「ごめん、もう一回言ってくれる?」


「だ、だから男と女(、、、)が裸になって一緒に湯に浸かるなんて、恥ずかしいだろ!!」


……あれ?


「僕は男だよ?」


「はぁ!?何とぼけてんだよ、知ってるってのそんなこと!」


え、じゃあ、え?


あれ?


「ロロは…男の子…だよね?」


瞬間、僕の体が宙に浮き上がった。


ロロの渾身のアッパーカットによって、僕は頭から湯の中に突っ込んだ。


水中から辛うじて浮き上がった僕に向かって、涙目のロロが声を張り上げて叫んだ。







「ボクは…ボクは女(、、、、)だ!!」







…ああ、そりゃ反抗もするわけだ。


謝ったら…許してくれる、かな?







◆◆◆◆◆◆






「まったく、なんか変だと思ったらそういうことかよ!いくら胸がないからってひどすぎだろ!?」


「本当にすみませんでしたっ!!」


湯船から上がった僕は、頭が床に陥没かんぼつするんじゃないかってほどの勢いで土下座した。


ああ、申し訳なさで死にたくなる。誰か…誰か僕に青酸カリを!!


まさかロロが女の子だとは思わなかった。でもよく見れば、まつ毛は長いし目も大きい。バスタオルも胸の位置で巻いていたから、よく考えればわかったはずなのに…


うわぁ、女の子だってわかったらどんどん恥ずかしくなってきた。


「と、とりあえず僕は出て行くから!」


土下座をやめ、扉に向かってダッシュ!


そう思って駆け出した。ええ、駆け出しましたとも。でも、無理でした。


体が、動かなかった…否、動かせなかった…


「ま、待ってくれよ…ボクにフロの入り方、教えてくれるんだろ?」


顔を赤くしてもじもじしながら言うロロ。その言動とは裏腹に、僕の左腕を掴む握力は尋常ではなかった。


まずい、下手をすれば、殺られる!


たぶん無意識のうちに力加減ができなくなってるだけなんだろうけど、無意識で腕を破壊されるなんてごめんだよ!


「と、とりあえず湯に浸かろうぜ、な、な?」


「う、うん…わかった…ってちょっと待って!その状態で湯船に入るのはまずい!!」


「え?なんでだよ!」


いや、なんでって言われても…


今のロロは体中に泥やら果汁やらを被っていて、かなりベタベタだ。そんな状態で湯船に入れば、いろいろと大変なことになってしまう。


それを除いても、一緒に湯船に入るのはまずい気がする!水着ならまだしも、僕らは裸。そんな状態で湯船に入るのはいろいろとまずい!


と、とりあえず何とかせねば。


「湯船に入る前に、まずは体を綺麗にしなくちゃいけないんだ。だからまずは、そっちのシャワーで体の汚れを落とさないと」


よし、自然な感じで言えた!


僕の作戦はこうだ。


①:ロロが体を洗う。その間に僕は湯船に浸かる。

②:ロロが体を洗い終え湯船に浸かったら、今度は僕が体を洗い始める。

③:すばやく体を洗い、すぐにこの場を脱出。湯船には入らない!


これなら一緒の湯船に浸かることなく、さらに今回の目的の『ロロにお風呂の入り方を教える』も達成できる!


どうだ!僕だってこれくらいの作戦は考えられるんだよ!!


「え、でもボク、体の洗い方なんてわかんねぇから…カイトが…洗ってくれよ…」


…だめだ。僕の作戦ではこれ以上の対策はできない。


というか一緒の湯船に浸かるより難易度高いよその注文は…


上目遣い&涙目のロロに、僕は『NO』という勇気はなかった…


やっとこロロの性別を明らかにすることができました。と言っても、正直バレバレだった気はしますが…


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