15、家族が増えました
僕の発した『子供大好き宣言』によって、なんとかこの場は丸く収まった。
正直、言った本人である僕はまったく納得できていないんだけど、なぜかみんな納得してくれた。
フィーや志穂、ムラマサは「素晴らしい考えだ」と目を輝かせていたし、姉さんや優奈、フィーは「新しいプレイが確立した!?」と口元をだらしなくさせていた。三人とも、よだれヨダレ…
子供たちのほうも、ロロを除いた全員が笑顔で騒いでいた。どうやら納得してくれたみたいだ(大半はよくわかっていないんだろうけど)。僕としてはダドリーが何も言わなかったことが意外だったけど。
ちなみにロロは、サーシャの説得により渋々うなずいてくれた。サーシャさん、さすがです。
さて、話もまとまったことだし。
「フィー、ムラマサ、これからみんなで『家族パーティー』を開くから準備を手伝ってほしいんだけど、いいかな?」
せっかく家族が増えたんだ。パーッと騒ぐのもアリでしょ。
ちゃんと食材とかも大量に用意してあるしね。
「かかか家族パーティですか!?それはつまり私とカイト様が夫婦の仲になるという…キャー!」
「わ、わしはまだこ、心の準備が出来ておらんのじゃが…」
どうしてこの二人はこうも盛大に勘違いするのだろうか。今の話の中にそんな勘違いをする要素はまったくなかったと思うんだけど…
「落ち着いて二人とも。ただ外でバーベキューでもしようかなっていう提案だからね」
「へ?そ…そうですか…残念です…」
「…しょぼん」
なぁー!なんでこんなに落ち込むのさ!罪悪感が半端じゃないよ…
…仕方ない。ここは―――
「手伝ってくれたら、特別に僕特製のバニラアイスを食べさせてあげるから―――」
「カイト様!テーブルの配置はこんな風でどうでしょうか!」
「主!大量の木炭と大きな金網を見つけてきたぞ!これで一気に調理が可能じゃぞ!!」
「―――それでいいかなって早いよ!?」
僕が話し終わる前に、もうすでにいろいろと準備を始めているフィーとムラマサ。あれ、さっきまで目の前にいたはずなのに…
僕のバニラアイス程度でこの行動力…この娘たちの将来が怖いです。
そんな二人に少しだけ恐怖しつつ、屋敷の庭のあちこちでキャッキャッと楽しそうにしている子供たちに目を向ける。
無邪気に騒いでいるチビッ子たちに和む。ある男の子たちは走り回り、ある女の子たちは地面に座ってなにやら楽しそうにお喋りしている。
どうやらみんな仲がいいらしく、一人ぼっちになっている子とかはいないみたいだ。入れ替わり立ち代りで遊んでいる姿は、平和的でちょっと安心した。
ロロは地面に胡坐をかいて、ダドリーやサーシャと何かを話し合っているみたいだ。時おりニッと笑顔を見せているあたり、暗い話ではないようで安心した。
「それにしても…やっぱりものすごい人数だな~」
総勢49名の大小さまざまな子供たち。一番年下なのは確か2歳だったっけ。ほとんどの子が大きくてもせいぜい小学校高学年程度だろうか。となると一番の年長者は自称14歳のロロか、それとも少し大人っぽいダドリーだろうか。
いずれにしろ、これだけの人数の子が集まっているんだ。
「…あいつをこの中に投げ込んでみたいね…」
そう、僕が姉さんたちに陵辱されていたときに、真っ先にその場から逃げ出した憎いあいつ。
いったいどこにいったんだろうか…
「ふぁ~海斗無事か~」
気配察知!
「おりゃー!!」
「は?っておわぁああああああ!?」
のんきに頭を掻きかき、屋敷から出てきた孝を目視で確認した僕は、その場から跳躍。コンマ1秒で孝の背後に回り込み、孝が反応する前に腰を掴んで、全力で投げ飛ばした。
目標?そんなの―――
『ぐはっ。痛っ、おいなにしやがる海斗…ってうわぁなんだこいつら!?わ、ちょ、やめろ!群がるなぁぁぁぁぁ!!!!』
子供たちのいる真っ只中に決まってるじゃないか。
投げた先から、孝の悲痛な叫び声が聞こえてきた。
へっ、僕を見捨てた罰だ!ざまぁみろ!!
「ねぇ海斗、なんか向こうから子供に揉みくちゃにされてる孝の声が聞こえてくるんだけど」
「あれは罪人の叫びだから放っておけばいいのさ」
いつの間にかパーティーの準備に加わってくれていた姉さんが、トング片手にこちらに歩いてきた。暑かったのか、上半身はタンクトップの涼しげな格好になっていた。下も短いホットパンツに着替えて、いかにも今どきの若者って感じだ。
…あれ?
「ねぇ姉さん、僕の服はどこ?」
ついさっきまで姉さんが着ていたのは、午前中に僕から剥いだ深緑の和服だ。それがどこにもそれが見当たらない。
さすがにあれを取り返してもう一度着る気はないけど、ちょっとだけ行方が気になる。
「ああ、あれは私の大事なコレクションとして自室に飾って…じゃなくて、なくしちゃったテヘ♪」
「姉さんって嘘つくのホントに下手だよね…」
姉さんの部屋には僕の私物がどれだけ置かれているのだろうか。今度姉さんがいないタイミングで回収しておくとしよう。
「っと、そうだ忘れるところだった。『準備が出来たから海斗に調理を始めてほしいです』ってフィーちゃんが言ってたわよ?」
「え、もう準備出来たの?」
僕がムラマサたちに頼んでから、まだ10分も経ってないんだけど。
見ると、赤々と燃える木炭の上に畳一枚くらいの金網が設置されており、すぐにでも焼き始めることが可能な状態になっている。テーブルも50人超が余裕をもって座れるくらい大きいのが、芝生のところに置かれている。
そのそばでせっせと準備をしている人影が数名、フィーとムラマサ、それに志穂・優奈・美琴、いつの間にか手伝っているイリアの5人だ。
…やっぱり僕のまわりの女の子たちは、並の行動力ではないみたいです。
「ねぇねぇ海斗、お姉ちゃんも頑張って準備したんだよ?だから私にもバニラアイス作ってね♪」
「え、あ、うん。もちろんだよ♪」
どこでそれを知ったんだろうか…まぁなんだっていいか。
姉さんの視線が僕の下半身にいっていたのがちょっと気になったけど、たいしたことじゃないだろう。
腕捲くりし、体をグッと伸ばす。
「それじゃあそろそろ僕もやりますか!」
◆◆◆◆◆◆
「カイトさんカイトさん」
「あれ?サーシャ、こんなところに来てどうしたの?」
子供たちの歓迎パーティー、もといバーベキューは大成功。焼いた肉やら野菜やらを美味しそうに頬張る子供たちは、心底幸せそうだった。
で、ある程度の調理が済んだので、孝やイリアに後の事を任せ、僕は庭の隅のほうで一休みしていたのだ。
庭の隅は暗く、バーベキューをしている噴水近くの広場が眩しいくらいに明るく見えた。
そのバーベキュー会場から一人の女の子がこちらに走ってきた。サーシャだった。
手に肉串を持っている姿は、なんだか無邪気に見えて可愛かった。
サーシャは僕の座っている隣に腰を降ろし、肉串の一本を僕にくれた。ちょっと小腹が空いていたのであちがたくいただくことにした。
「カイトさん、このたびは私たちを迎え入れていただき、本当にありがとうございました」
「むぇ?いきにゃり改まって…むぐむぐ、ごくん…どうしたの?」
噛み締めていた肉を喉に流し込み、サーシャのほうを見る。紫の月明かりに照らされたサーシャは、まるで母親のような穏やかな表情をしていた。
「スラムで生きてきた私たちにとって、人の温もりというのは皆無でした。だから、今こうして温かい食べ物をみんなで食べられるってことが、本当に幸せなんです」
「そっか…」
温かい食べ物…それはきっと料理の熱とかではなくて、もっと別のことを言っているんだろうな…
僕らが普通だって思っていることも、この子たちからしたら特別なことなんだろう。
やっぱり今回の僕の行動は、個人的には後悔しないで済んだかも。
ちょっと嬉しくなって、肉串にかぶりつく。
「さっきカイトさんが言っていた『理由』。あれって嘘ですよね?」
「ぶふぅ!?」
吹いた。唾液と一緒に盛大に肉を吹いた。あぁ、もったいない…
というかばれた!?結構ばれない自信あったのに。
「…いつから気づいてたの?」
「えっと…カイトさんが『僕は子供が大好きなんだ!!』って言ったあたりからでしょうか」
最初っからじゃん!
うわぁ、これじゃあ姉さんに嘘が下手だなんて言えないじゃないか…
「まぁ私以外は気づいていないみたいですけどね」
「そ、そうなんだ…」
そんな中気づいたサーシャって、一体何者?
「それで、本当の理由ってなんなのですか?」
サーシャがずいっと顔を寄せてきた。気のせいか、サーシャの息が荒い気がする。
って、近い近い近い!!
「ちょ、離れてサーシャ!さすがに近すぎだよ!!」
「え、あ、すすすみませんっ!その、つい…」
飛びのくようにサーシャが僕から離れ、また元の位置に戻った。
正確に言うと、さっきよりちょっと近い。僕の肩にサーシャの頭が乗っかっているくらいだ。
たぶんこれ以上は言っても無駄なので、諦めることにした。
さて、本当の理由、か。
「ねぇサーシャ、正直言ってこれを話すのはものすごく恥ずかしいんだけど、話さないと駄目?」
「えっと…できれば話していただけると…嬉しい…です…」
ぎゅっと服の袖を掴んでくるサーシャ。顔をちょっと朱に染めながら目を泳がせている姿は、姉さんたちと違って新鮮に見えた。
仕方ない、僕も覚悟を決めますか。
「ふぅ…さっきみんなに言った理由も嘘じゃないよ。実際僕も子供は好きだし。でも、本当の理由は『助けたい』っていうのが大きいかな?」
「助けたい?」
「うん。子供ってさ、どんなに背伸びしてもやっぱり子供なんだよ。初めてスラムのことを知ったとき、内心けっこうきつかったんだ。ものすごく過酷な環境で生きている子供たちがいるって知ってさ」
「それは…」
「で、そんな状況を知って、放っておくのは無責任な気がしたんだ。僕には食べ物もたくさんあるし、大きな家だって、綺麗な服だってある。なのにそんな事実を見て見ぬふりをするなんて、耐え切れなかった…」
「………」
「そこで僕は、『家族』って形でみんなと共有したいって思ったんだ。家族なら、みんなで幸せに過ごすこともできるし、小さな子は安心して育つことができるんじゃないかって思って…」
「あ…」
「あはは…やっぱりこれって自己満足だよね。勝手に思い込んで勝手に家族にして…僕自身は納得できたけど、はたしてこれが正しかったのかなんてわからないや…」
「何をバカなことを言っているのですか!!」
「えっ!?」
急に怒鳴られてしまった。
サーシャは座ったまま、僕の胸倉を掴んで僕の瞳を睨み付けてきた。サーシャの目には、今日一番の真剣さが込められていた。
「『自己満足だ』『正しくなかったかも』。そんなわけありません!カイトさんが私たちにしてくれたことが間違っているわけがありません!!」
それは、とても力強く、誰よりも真っ直ぐな言葉だった。
サーシャは僕の服を力いっぱい握り締め、目に涙を溜めながら叫び続ける。
「いままで出会ってきた貴族の方たちは、自分の資産を誰かのために使おうだなんて考えていませんでした。私たちスラムの子たちにだなんてもってのほかです。でもカイトさんは違います!自分を犠牲にしてまで私たちに施しを与えようとするなんて、はっきり言ってバカです!大バカです!!」
「バカ…」
そんなに悪く言わなくても…
でもみんな結構僕のことバカバカ言うし、これが当たり前なのかな?
考えるんじゃない僕…悲しくなってくるじゃないか。
「カイトさん。あなたのしたことは、まるで聖母のような行いなんですよ?困っている、泣き叫んでいる、お腹を空かせている…そんな人たちを助けるカイトさんは、聖母と言っても過言ではありません!」
聖母って…この世界にもそういう人がいたのか。
あと男でも聖母っていうのかな?
…まじめに話してくれているのに無粋なことにか考えられない自分が恨めしいよ。
でもこうでもしないと、サーシャの話にのめり込んでしまいそうなんだもん。少しくらいいいよね?
サーシャは荒くなった息を整え、さっきとは打って変わって落ち着いた声色で語りかけてきた。
「カイトさんの行ったことは、私たちに生きる希望を与えてくれたんです。どうか、もっと自分の意思や行動を尊重してください」
そう言って、サーシャは僕の服を離して、僕の胸に身を寄せた。サーシャの体温が布越しに伝わってくる。
僕がしたことは、正しかったのかな?
サーシャに説得されても、正直まだわからない。けど―――
「今はこれでいっか」
僕は頭上に輝く満天の星を眺めながら、そう呟いていた。
サーシャが寝息を立て始めたのは、ちょうどそんなときだった。
イリアは常にヤンデレというわけではなく、カイトが誰かと絡みすぎると暴走します。それ以外はいたって普通ですのでご了承ください。
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