14、落ち着かせました
「お願い!これ以上は勘弁して!」
姉さんたちの僕に対する『罰』は、だんだんエスカレートしていった。
最初はただ脱がしてきたり、それを撮影されただけだったのに…なんか言ってて泣きたくなってきた…
それがいつの間にか、僕の身体に対して直接的な罰になってきてしまったのだ。
両腕と両足を押さえつけられ、顔から首・鎖骨・胸…と順に舐められ弄られた。さらにそれが原因で姉さんたちの興奮がMAXになってしまい、正直かなりまずい状況になっている。
僕はすでに服を脱がされ、残っているのはメイドスカートのみ。最初はゆっくり脱がされていっていたのに、我慢できなくなったフィーがビリビリに引き裂いてしまい、メイド服はすでに見る影もなくなってしまった。
孝に助けを求めようとしてあたりを見渡したが、すでに孝はイリアを連れて屋敷の中に入ってしまった。今頃あの二人は、甘い青春を謳歌しているのだろう。
くそ、薄情な奴らめ!!
そして現在、今まで生きてきた中で、僕は最も貞操の危機に陥っているのだ。
「はぁはぁ…カイト様…私…もう我慢の限界れすぅ…」
フィーの荒い鼻息が僕の顔を掠める。目は据わっており、とてもじゃないけど正気とは思えない…
他のみんなも似たような状態だ。顔を火照らせ、自分の身体を抱きしめていたり、あるいは僕のことを物欲しそうに見てきたり…
ムラマサは僕のスカートに顔を突っ込んで失神してしまっている。いったいどうしたのかは、考えないのが得策なんだろうな…
って、悠長に観察なんてしてる場合じゃなかった!
「みんな落ち着いて!こんなやり方、絶対あとで後悔するよ!」
「「「「「「後悔なんて絶対にしない!!」」」」」」
駄目だ…まったく聞く耳なんて持ってない…万事休す…かな?
力ずくで抵抗したいけど、もはや全身を抑えられた状態ではほとんど身体に力が入らない…
僕がもう抵抗できないと確信したのか、フィーが僕の恥部を隠している最後の砦、スカートに手を掛けた。その様子を目を輝かせながら見守る変態たち。
ああ…さようなら。僕の初めて…
「…ん?」
ほぼ諦めムードの僕の神経が、人の気配を感知した。門のほうから掛けてくる誰かが一人。
気配のした方向に、涙で霞んできた目を向けた。
その瞬間。
「私のカイトさんを奪わないでー!!」
見覚えのある女の子が叫びながら突っ込んできた。かなり勢いよく走ってきたのか、僕のまわりにいた姉さんたちは一人残らず吹っ飛ばされた。
「みんな大丈夫かな?」と頭の中でついつい心配してしまっている自分が、なんだかのんきだなと感じてしまった。
そんな僕に覆いかぶさり、吹っ飛んだ姉さんたちのほうを睨みつけながら、少女は吠えた。
「カイトさんは初めて私が好きになった人なの!最初はこの感情がよくわからなかったけど、さっきのカイトさんたちのを見てわかった!私はこの人に惚れてるんだって!!…そんな私の好きな人、大切にして大切にされたい人を、私から奪わないでっ!!」
急に熱弁し始めたよこの子。なんかものすごく必死なのは伝わってくるけど、何がなんだかさっぱりだ。
目を擦って涙を拭う。視界がクリアになって、ようやくその少女がサーシャだとわかった。
吹き飛ばされたときの衝撃のせいか、姉さんたちは立ち上がれないようだ。顔だけをこちらに向け、急に現れたサーシャに対して、あからさまな敵意をむき出しにしている。
というか今サーシャの言ったことって…え?
「ああカイトさん、大丈夫ですか?こんなにボロボロになって…今すぐ何か着るものを!そしてもう二度と誰かに襲われないように、どこか遠いところに二人っきりで…」
やばい…この子やばいかもしれない。
僕の脳内辞書が一つの単語に行き着いた。
『ヤンデレ』。意中の人間に対し、病的な恋愛感情を持つ人のこと。監禁・拘束はもちろん、常人には考えられないような行動を平気で行う場合がある。
最初は、自分のことで頭がいっぱいな、いわゆる『メンヘラ』というやつだろうか、と思ったりもした。
しかし―――
「ああでも、遠い所でもこの人たちは追ってくるかもしれないし…ここは私がこの命をかけてでもカイトさんの敵を排除しなくちゃ!例えここで死んでも、カイトさんさえ無事なら私は…私は…」
この自己犠牲の精神満載の発言から、『メンヘラ』という考えは消え去った。
それにしても…これがあのヤンデレか。美琴のそれとはまた違った何かを感じるよ。というかサーシャは隠れヤンデレだったのか。天然でしかも隠れヤンデレって…もはや最強なのでは?
…ああ、どこで『愛され体質』が発動しちゃったのかな?いい加減この能力、なんとかならないかな…
ああもう、そんなこと考えてる場合じゃなかった!
僕は自問自答を続けるサーシャの肩を揺すった。びくんと反応して、サーシャはこちらに向き直った。
「カイト…さん?」
「僕はもう大丈夫だよサーシャ。それに、みんなだって別に悪気があったわけじゃないからさ」
「で、でもカイトさん、つらそうだった!」
「まぁ確かに大変だったけどさ。みんなはほら、僕の家族だしさ。これぐらいは慣れてるよ」
「で、でも!」
う~ん、なかなか落ち着いてくれないな…
ならこれでどうだ!
「ふぇ!?な、何を…」
僕はサーシャの両手を右手と左手で包み込むようにして握り、目線を合わせた。
顔を赤らめて戸惑うサーシャがなんだか可愛くて、ついつい頭を撫でたくなる。
…気のせいかな?なんかサーシャの帽子の中、ぴくぴく動いてるような…
僕はサーシャの目を見据えたまま、さっきよりゆっくりとした口調で話した。
「僕はもう大丈夫だし、あそこにいるみんなだって決して悪い人たちなんかじゃない。サーシャが僕のためにしてくれるのはものすごく嬉しい。だけど、時には冷静になって、ね?」
するとサーシャは無言のまま、僕の胸に頭を預けてきた。服を着ていないので、サーシャの吐息が直に伝わってきてくすぐったい。
…もう少しだけこうしているとしよう。
◆◆◆◆◆◆
~2分後~
「まともな状況判断ができていなかったとはいえ、本当にすみませんでした!」
ようやく正気を取り戻したサーシャは、僕に一言礼を告げて、すぐさま倒れている姉さんたちのところに行き平謝りし始めた。
「まぁ私たちもちょっと興奮しすぎだったわね」
「…私、同じ状況下に立たされていたら、完全に狂ってたと思う」
美琴の言葉に、志穂やフィーたちが頷く。
みんなが狂ったりなんかしたら世界が半壊するんじゃないかな、という不穏な考えが頭を過ぎった。そんな状況にならないように努力しないと…
「あともうちょっとってところで邪魔されたのは癪ですけど…私たちもかなり強引でしたし、お相子ってことでどうですか?」
お、さすがフィー。いい感じにまとめてくれたよ。『あともうちょっと』の内容に関してはまったく感心できそうにないけどね。
サーシャは自分が許されることに戸惑っているようだけど、他のみんなが説得し、結局了承した。
よかった、丸く収まって。
一息ついた僕はふと、おもむろに門のほうに視線を向ける。
さすがにもう夕方だから誰かいるとは思えないけど…こんな姿(装備:スカート一枚のみ)を誰かに見られたら、もう外を歩けな―――
『わぁ~おっきなおうち~♪』
『おうちじゃなくてお屋敷だと思うけど…』
『あれ、あそこにいるのって、カイトかな?』
『カイトさん、どうして裸なのかな?』
『なんかえっちぃね!』
…………かはっ
「ど、どうしたんですかカイトさん!?なんで地面を転げまわっているのですか!?」
「殺して!だれか僕を殺して!!」
◆◆◆◆◆◆
「で、この状況はいったいどういうことなのかしら?」
「…見覚えがない子たち」
羞恥にしばらく悶えた僕は、インデックスから適当な布を出してトーガのように体に巻きつけ、門の前に集まった総勢48名…サーシャを含めて49名の子供たちを、門の中に入れた。ロロ救出時に集まってきた人数の倍以上はいる。
その中にはロロやダドリーたちも入っている。
「お兄ちゃん?知ってること全部言ってね?」
「ア、ハイ」
この状況を理解できるのは、この中ではサーシャと僕だけ。他のみんなはどうしてこんなことになっているのかさっぱりわかっていない。
そろそろ頃合かな?
「えー…この状況を説明するには、ちょっと前に遡るんだけど――――」
◆◆◆◆◆◆
~ちょっと前~
「私たち全員をカイトさんの家に招く…ですか?」
急な説明に、サーシャは困惑した。目をパチクリさせ、何を言われたのかよくわからない、というような表情だ。
「ごめん、さすがに説明が足らなすぎた。えっと、つまり、サーシャたちを含むスラムの子たちを全員、僕の家の一員にしようと思ってさ」
言ってて自分の頭の悪さを痛感した。『助けたお礼に家族になれ』だなんて、アホな思想にもほどがある。
実際サーシャもぜんぜんわけがわからないみたいだ。こんなこと言われて殴りかかってこないのが不思議なくらいだよ。
するとサーシャは怯えるような口調で僕に質問してきた。
まぁ大体指摘は予想できるけど。
「あの、どうしてそれがカイトさんへのお礼になるのでしょうか?それでは私たちにしか良いことはないじゃないですか」
…あれ、おっかしいな。なんか後半の意見が予想外なんだけど。
「いや、言った本人が言うのもあれなんだけど…このお願い、相当無理があると思うんだけど…」
「はい、そのとおりです。これではむしろカイトさんには負担にしかなりません。私たちが夢のような思いをするだけで…こんなのが助けられたお礼になるとは…」
うん、やっぱりおかしい。どこか考えの相違があるみたいだ。
って、こんなんじゃ話も進まないや。
ちょっと簡単にまとめようかな。
「んんっ、今回のことに関する僕の要求は、スラムで暮らす子供たちを全員僕の家族の一員にすること。労働を強いるわけでも、何かつらいことをさせるわけでもないから、そのあたりは安心してほしい。ただ、無理矢理に他人の家族になってしまうというデメリットはあるんだけど…」
やっぱり最後のやつが大きい。無理矢理誰かの家族の一員になるだなんて、普通だったら全力で拒否するような内容だ。
でも、なんとかこれには納得してほしい。自己満足のためだけど、これだけは通したい!!
「こんな自分勝手な内容だけど、どうか聞き入れてほしいんだ」
すると、サーシャはやはり困惑した表情のままだったのが、やがて和らぎ、笑顔になった。
「…わかりました。その内容に私たちは従います!」
このとき、僕は心の中でホッと安堵した。
◆◆◆◆◆◆
「―――というわけで、この子たちを新井家に招くために、ここに集めたんです…」
ようやく説明し終わり、一息ついた。
…なぜか冷や汗が止まらない。フィーたちの視線がものすごく怖い…
怖すぎて、途中から僕の説明もですます口調になっちゃったし…
「カイト様、なぜそのようなことを?」
ずっと僕の話を黙って聞いてくれていたフィーが口を開いた。どうやら純粋な気持ちからきているようで、ちょっと安心した。目は相変わらず怖いけど…
他のみんなもそれが知りたいらしく、こちらに視線を向けてきている。
…理由、か。僕の考えた本当の理由を言ってしまったら、なんだかダメな気がして、なかなか言い出せない。
でも言わないとこの場にいるみんなは、絶対に納得してくれない。
!そうだ。こんな時こそ、脳内妖精さんの出番だ!
前回は調子が悪かったみたいだからうまくいかなかったけど、今回は大丈夫だって僕は信じる!
(呼んだかい、カイト)
ああ呼んださ。この場を切り抜ける最高の理由を今すぐ導き出して!!
(よし、これでどうだ?)
早い!さすがだよ!!
よし、あとはこれを叫べば大丈夫だ!
僕は息を深く吸い込み、肺に空気を溜めた。
そして脳内に浮かぶ、妖精さん直伝のテキストを声高らかに読み上げた。
「僕は、子供が、大好きなんだー!!!」
……………
………
(どうよ、この出来栄え!)
うるさいよ!ドヤ顔で言うような内容じゃないよこれ!!
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~フィキペディア~
『脳内妖精さん』
海斗が勝手にそう呼んでいるもの。俗に言う『脳内天使・脳内悪魔』というような自分の思想などではなく、実は創造神アルティナの分身的存在である。海斗はこれを自分の思想だと勘違いしているが、あの創造神の断片なので、まともな回答など期待できない。
ちなみに海斗の『脳内天使・脳内悪魔』は創造神に捕縛されている。ご愁傷様である。
ようやく作戦の内容は書くことができました。先延ばしになってしまいすみませんでした。
海斗の『本当の理由』は、ちゃんと出てくるのでご安心ください。
評価してくださった方、ありがとうございます。今後も精進していきます!
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