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13、止めました

帰り道に『マリーの休憩所』により、半狂乱になっていた姉さんを宥めつつ回収、そのまま屋敷へと向かった。


『マリーさんの散歩道』から離れた場所に立地している僕の家は、途中から綺麗な並木道が続いている。姉さんと並んでそこを通ると、終点にある我が家の檻のような正門が目に映った。


ん?


「ねぇ姉さん、なんか門のところに孝たちが仁王立ちして待ち構えてるんだけど…」


現在、門との距離はおよそ100m前後。その位置から、人影が七つ見える。


顔は遠すぎていまいち判別できないけど、髪や服装からしておそらく孝たちだろうと推測した。


近づいていくと、みんなの顔色がはっきりとしてくる。


…なんかものすごく怒ってる。イリアを除いた六人からそこはかとない怒りのオーラを感じるよ。


おまけにみんな笑顔だから余計に恐い…


「ねぇ姉さん、みんなはどうして怒ってるのかな?ねぇ姉さんってば」


僕は隣で歩いている姉さんにダメ元で相談してみることにした。


しかし先ほどからぜんぜん反応がない。不審に思った僕は、右に視線を移した。






「あむ、くちゃ…れろっれろっ…むちゅ~」


「…………」





うん、だめだこの人、ぜんぜん役に立たないや。


振り返ると、姉さんは僕の右手を忙しなく舐め回していた。妙な違和感があるなとは思っていたけど、まさかこんなことになっていたとは…


疲れているせいかな?なんかツッコむ気力も、姉さんを剥がす体力も残ってないや。


僕は姉さんの現状をほっとくことにし、笑顔のフィーやらニコニコしている美琴に戦慄しつつ、屋敷の門へと近づいていった。






◆◆◆◆◆◆





「「「「「「そこに正座してください」」」」」」


「お、お願いしますっ!」


「…はい」


門を潜る、と同時に孝たちに正座させられた。無論、地面にじかにですよ。


しかもここ、石畳なので結構痛い。でも、みんなの雰囲気が恐すぎて反論なんてできない。


唯一、孝の専属メイドのイリアだけはまともなようだ。立場上孝の味方だけど、関係のない僕のことを気遣ってくれているのがものすごく嬉しい。


できればその優しさで、みんなの怒りも納めてほしいです…なんて我が侭は言っちゃだめですかね?


ちなみに姉さんは、僕の右腕を絶賛レロレロ中なので、僕が正座することによって自然と地面に座り込んだ。


…そろそろ腕がふやけてきそうだよ。


「…海斗」


ずっとだんまりだった孝が、ものすごくドスの聞いた声で僕の名前を呼んだ。


こんな声、今までで数回しか聞いたことないよ。


そのまま孝は、それだけで熊くらい追い払えるんじゃなかろうかというような声で淡々と続ける。


「お前、あれは一体なんだ?」


孝の指差した先には、僕が今朝増設したレンガ造りの建物があった。その側面から飛び出した通路は、そのまま屋敷と繋がっている。


今朝、僕が時間を止めて建てた別館だ。


「あれは…僕が建てた新築です…」


最初『アルが勝手に!』と嘘をつきそうになったけど、あとがいろいろと恐そうなのでやめておいた。主にアルからいろいろと請求されたりしそうで…


それにこれは隠すようなことではない、と思ったので正直に話すことにしたのだ。


「それじゃあ、あっちのほうにあるのも?」


今度は優奈が、庭の端にある道を指差した。


確かあっちには、結構な数の遊具を設置してあったはず。あれも今回の作戦の一環で作ったものだ。


僕は「あれも僕が作った」告げた。優奈はその答えを知っていたかのように、「はぁ…」と深くため息をついた。


「それではこのお屋敷のまわりに新しくできたものも、すべてカイト様が作った、ということですか?」


最後にフィーが全体の意見のまとめたようなことを言ってきた。


他に増築されたものと言ったら、噴水とか倉庫細かいもののことだろう。


「うん、そのあたりも全部、僕が新しく設置したものだよ」


そうみんなに言った途端、孝から怒りのオーラが消え去った。


「ったく、お前はこんなことして一体何がしたいんだよ?まぁ大体想像はついてるけどな…」


「あはは…黙ってやったのは、その、悪かったよ。ごめん」


「いや、まぁお前がやったってんなら問題ないだろ。でも今度から何かするときはちゃんと俺らに一言言ってからやってくれよ?」


「あ、うん。わかったよ」


ふぅ、なんとかこの場を切り抜けることができたみたいだ。


それじゃあ僕は最後の準備に取り掛からないといけないから、屋敷のほうに――――


「待ってよお兄ちゃん、話はまだ終わってないよ?」


「わしを置いて果穂と出かけていったことについて、いろいろと聞きたいのじゃが?」


「あはは…まいったな…」


立ち上がろうとしたら、5人の女の子に押し倒されちゃったよ。


さっきの会話で切り抜けられたのは孝だけだったようだ。まだ他のみんなの表情は、鬼のような気迫を纏った素敵な笑顔のままだ。


どうしよう、ものすごく恐い…


あと、志穂が押さえてる僕の肩が、正直ものすごく痛いです。あとここまだ石畳ですはい…


「…海斗のメイド服姿…レア…」


「これは誘っているとしか思えませんね。おっと、ヨダレが…」


しかし怒っていても本能には抗えないみたいだ。美琴は機敏な動きで僕のことをいろんな角度から撮影し、フィーは手馴れた手つきで僕の着ているメイド服を半脱ぎ状態にしていく。フィーの唾液が顔に掛かってくるんだけど、言わないほうがいいのかな?


って、撮影!?半脱ぎ!?


「ま、待って!写真なんて撮らないで!服を脱がさないでっ!!」


「ダメよ。これはあなたへの罰なの。そう、私と勝手にお買い物デートをしたという、重い罪に対する私たちへのごほうび…もとい海斗への罰なのよ!」


いつの間にか正気を取り戻していた姉さんが、みんなの指揮を執っていた。


り、理不尽すぎる…


「意味わからないから!あとなんで姉さんが僕の罰を執行しようとしているさ!!あっ、ちょ、それ以上は脱がさないでー!!」


こんなの…あんまりだっ!!








◆◆◆◆◆◆






「なぁ、一体どういうことなのかいい加減説明してくれよサーシャ」


ロロ(ボク)と他のみんなは、カイトに何かを指示されたサーシャによって、目的地も知らされぬまま歩きまわされている。


サーシャからは「私についてきて」としか言われてねぇから、何がなんだかさっぱりだ。


「さすがにこのまま歩き続けるのは正直しんどい…せめて目的地ぐらい教えてくれないか?」


さすがのダドリーも痺れを切らしたのか、サーシャに弱音を吐いている。


まぁダドリーの場合、背中にバカでかい袋を背負ってるから弱音のひとつくらい吐いても仕方ない。むしろついさっきまで無言でついてきていたあたり、かなり我慢強いほうだ。


「もう少し、もう少しで着くから、もう少し頑張ってっ!」


先頭を歩いているサーシャがボクらのほうに向き直り、声援を送ってくる。胸の前で両腕を組み、いかにも応援しているぞ感がある。


…胸大きいな…


「ん?どうしたんだロロ、恨めしそうもサーシャの胸なんか見て」


「うっさいダドリー!べ、別に恨めしそうになんか見てねぇっつーの!!」


「あらあらうふふ」


子犬でも見るかのようなサーシャの視線が今は痛い…


やめてくれ…ボクをそんな目で見るなよ…


「あ、見えてきたわよ!ほらほらあそこ!!」


「ふぇ…あれって…」


「え?…ああ、そういうことか」


サーシャの声に反応して、顔をあげると、並木道の先に大きな屋敷が見えてきた。


見覚えがある。入ったときの記憶がまだ頭ん中にはっきりと残ってる。


あいつの…カイトの住んでる屋敷だ。


でも、なんでこのタイミングで?


確かにあいつには助けてもらった。借りも返したい。けど、あいつはボクたちの『お礼』を受け取らずにどっかに行っちまいやがった。


ダドリーはどこか納得したような顔をしてるけど、聞いても説明はしてくれなそうだ。


「カイトさ~ん♪」


「あ、ちょ、サーシャ!?」


鉄檻みたいな門が見えてくるや否や、サーシャがボクたちを置いて駆け出した。


…すげーキラキラした目だった。あんなサーシャ、いままで見た事ねぇよ。


「…俺たちもさっさと行こうか」


「そうだな。チビたちも限界みてぇだし」


ボクたちの後方からついてきているチビたちは、だいぶ前から根を上げていて、もうすでに大半の奴らがふらふらと危なっかしい足取りをしている。


サーシャが何考えてんのかさっぱりわからねぇけど、たぶん大丈夫だ。仮に何かあってもボクやダドリーがなんとかすればいいし。


『きゃああああああああああああああ!!!』


「「!?」」


歩いている方向から、ダッシュしていったサーシャの悲鳴が聞こえてきた。


ちっ、何がなんだかわからねぇ。というか言ってるそばから何かに巻き込まれたサーシャが不安でしょうがないんだが…


けどまぁ―――


「行くぞダドリー!」


「ああ!」


今はサーシャを助ける!


ボクとダドリーは、地面を思いっきり蹴り上げ、悲鳴のしたほうへ駆けた。


一瞬で門の前にたどり着き、あたりを見渡す。


「!サーシャ!おい、大丈夫か!?」


「あ…あ…」


門のすぐ近くに、サーシャが座り込んでいた。ボクとダドリーはすぐに駆け寄り、サーシャの無事を確認した。


サーシャは信じられないものでも見たかのように、口をパクパクとして震えている。目も見開いてるし、呼吸もかなり荒い…


「おいサーシャ!どうしたってんだよ!!」


「一体何があったんだ?」


すると、サーシャは震える右手を前に突き出し、門の先を指差した。


ボクとダドリーもそれにつられて、サーシャの指差したほうを見た。










「ああ、カイト様の素肌~♪」


「…すべすべしていて、それでいて柔らかい。素晴らしい」


「やめて!首筋舐めないで!」


「それじゃあ私は…ちゅー!!」


「あ、志穂ちゃんずるい!あたしもあたしも~♪」


「私はお姉ちゃんだから指で我慢するわね」


「わしは…ごそごそ…」


「うわぁー!胸吸わないで!!ムラマサはスカートの中に入ってこないで!!」







「…………」


「…これは…」


「あぁ…カイトさんが…私のカイトさんが汚されていく…」


…正直、ここから今すぐ走り去りたい。


こんなの見せ付けられたって、何も感じないはずなのに…


なんだ、なんだなんだなんなんだ!!どうしてこんなに胸が苦しいんだ!


はぁ…はぁ…落ち着けボク。まずは状況を整理しろ。


「ダドリーはすぐに戻ってチビどもをこっちに来ないよう誘導して」


「わ、わかった!サーシャは君に任せるぞ!」


すぐにもと来た道を走り去っていったダドリー。相変わらずの脚力だな…


「…さすがにこんなの見せたら、チビたちの成長に悪影響だろうからな…」


そんなことを口にしている間にも、カイトはどんどんあられもない姿になっていく。


っ!?まただ…どうしてこんなにつらいんだ?胸が張り裂けて死にそうだ…


別に殴られたわけでも、嫌味を言われたわけでもねぇのに…


「って、さささサーシャ!?何やってんだよ!!」


はっとなって気がつくと、いつの間にかサーシャが門をよじ登っているのが見えた。


サーシャはそんなに活発に行動するほうじゃねぇから、その行動が正直意外だった。


サーシャはボクの声なんて聞こえてないのか、身長3つ分くらいはあるだろう鉄門をどんどん登ってゆき、ついに頂点まで達してしまった。


そしてそこから跳び上がって、門の内側に入ってしまった。


「サーシャ!だめだ!!カイト以外まともかどうかなんてわかんねぇんだぞ!!!」


「…………」


「サーシャ!」


なんでだ?どうしてボクはこんなに必死になってサーシャを止めようとしてるんだ?


サーシャが危ないから?それもある。けど…なんだ、それ以外にも何か理由がある気がしてならない。


わかんねぇ…自分の考えてることがぜんぜんわかんねぇよ!


「サーシャ!頼むから行かないでくれ!!」


ボクは鉄格子の隙間から腕を伸ばし、サーシャの腕を掴もうとした。


しかし、ボクはその手を掴むことができなかった。


掴む寸前に、サーシャが振り向いたんだ。そのとき、初めてサーシャが泣いてるのに気がついた。


「サー…シャ…?」


「…ごめんね。でも私、もう我慢できないの…」


そう言って、サーシャはカイトのいる中に突っ込んでいった。


そのとき、ボクはなぜか『羨ましい』って感じた。


ごめんなさい!「次回でカイトのマル秘作戦の内容が明らかに!」なんてあとがきで書いたのに、結局そこまで書ききれませんでした。本当に申し訳ありません!!


もうちょっとだけ掛かっちゃいそうですが、どうかもうしばらくお待ちください。


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