12、困惑しました
ものすごく長くなってしまいました…
さて、どうしたものか…
ロロを殴ってた貴族は追い払ったし、ロロの傷も完治寸前まで治せた。
はずなんだけど…新たな問題が発生しちゃったよ…
「えっと…あの…ロロ?」
「…………」
…気まずい。
そう、助けたロロがさっきから睨み付けてきて、ものすごく気まずいのだ。おまけにずっと黙っているから、何を考えているのかさっぱりわからない…
顔は赤いし、目には涙を溜めている。怒っているだけならまだいいんだけど、その双眸には怒りだけじゃなくてもっと別の…何かの感情が揺らめいている感じがするんだよね…
ちなみにここはまだ路上だったりする。野次馬の方たちには解散してもらったけど、早めに移動したい。ロロも疲労のせいか起き上がれず、寝転がったまま顔だけをこちらに向けている状態だし。
どうしたものか…
「…なんで…」
「え?」
どうやってこの気まずい空気を変えられるか考えていると、ロロがようやく口を開けてくれた。
よし、今の声色でわかった。
怒ってらっしゃる…ものすごく怒ってらっしゃる…
あんまりロロとは面識がないけど、長年姉さんたちと過ごしてきた経験でわかる。これは…人間が怒ったときにだす声質だ。
そうこうするうちに、ロロの体の震え強くなっていく。拳を強く握り締めて怒りをあらわにしている。
「なんで…なんでボクを助けたんだよ!」
………え?
「あんたら貴族はボクたちみたいな奴をゴミみたいに扱うのが普通なんだろ!なのにどうしてあんたは…カイトはボクを助けるんだよ!?」
…助けて何が悪いんだろうか。
「どうせボクたちみたいな奴に生きる価値なんてねぇんだよ!盗みは平気でするし服や肌だって薄汚れてる…そんな奴らを助けるなんて…あんたはバカだ!!」
…だめだ。僕には助けちゃいけない理由がなにひとつわからない…わからないよ!
「ロロ!」
「ふぁ!?」
僕は寝ているロロの肩を掴み、ロロの瞳を真っ直ぐに見据えた。ロロの肩は想像以上に小さく、すぐにでも壊れてしまいそうだ。
震えるロロの瞳が、不安げに僕を見つめる。
こんな…こんなにも弱々しいのに、どうして助けちゃだめなんだ!
「僕はバカだからロロを助けちゃいけない理由なんてわからない!だけど、お願いだから『自分には生きる価値がない』だなんて悲しいこと、絶対に言わないでよ!!」
「…あ」
「ロロが盗みをしてきたのは、そこにいる子供たちや自分が生きるためでしょ!服や肌が薄汚れているのも、過酷な状況で懸命に生きている証じゃないか!…それなのに…自分に生きる価値がないだなんて言うのは、それこそ大バカだよ!!」
「っ!?」
確かに僕は、とても頭がいいとは言えない。テストの点がいいのは単に瞬間的な記憶力がいいだけだ。、孝や姉さんたちにはいっつもイタズラされてるのに、対策がぜんぜん出来ていないし。
でもそんな僕でも、今ロロの言った言葉は間違っているってことだけはわかる。
ロロはわかってくれたのか、それ以上何も言わなく――――
「う、うるさい!あんたにだけはバカ呼ばわりされたくねーよ!大体なんであんたは男のくせにそんな服着てるんだよ、趣味か!女装があんたの趣味なのか!あとどうしてボクの名前知ってんだよ!?」
あれ~おっかしいな…さっきより音量も口数も倍になっちゃったんだけど。
話の流れも急激に変わっちゃったし、もう何がなんだか…
って、発言の撤回を今すぐしなくては!!
「僕がメイド服を着ているのは趣味なんかじゃない!ちょっとそこで災害にあっただけなんだ!!あとロロの名前を知っているのは、他の子たちがそう呼んでいたから知っているだけだし…」
姉さんはある意味『災害』レベルの危険性があると思うんだよね。頑張れば家くらい簡単に吹き飛ばしそうな勢いだし…
ロロの名前は、前にリュックを渡したあの少年が言っていたのを覚えていただけだしね。
「災害ってなんだよ!?それからあんた、ボクを助けるときにどうして素手で来たんだよ!?素手で剣を折るなんておかしいだろ!?」
ん~?どうしてこんな質問責めにあってるのだろうか僕は…
まぁロロが心なしか楽しそうだからいいけどね。
ただね、うん…まわりの子供たちが僕らの会話についていけなくて、ものすごく戸惑ってるんだよね…
ああ、なんか一人おろおろし始めちゃったよ…見てて不安になってくるんだけど…
「今日はムラマサを連れて来てなかったからしょうがなかったんだよ!」
「あとえっと…ど、どうやってボクを治したんだよ!」
「それはこの『グラム』っていう――――」
~♪ただいまクレーマーの対処中です。しばらくお待ちください♪~
「はぁ…はぁ…もうそろそろいいんじゃないかな…」
「ぜぇ…ぜぇ…いや…まだまだ!」
そうは言うけど、いい加減質問も尽きてきたと思うんだよね。質問の内容が『好きな食べ物はなんだ!』ってなったあたりからだんだん怪しくなってきたし…
でもロロを見る限り、もう少し続きそうだよ…
『おーい、ロロー!無事かー!!』
ん?この声、どこかで聞いたことがあるような…、
声のした路地裏の方を見ると、見覚えのあるリュックを背負った少年が駆けてくるのが見えた。
遠目でもわかるくらい焦っているようだ。その後ろから、やはり見覚えのある帽子を被った長身の少女や、似たような服装をした子供たちが走ってきているのが少年の肩越しに見えた。
「ダ、ダドリー!?それにサーシャとチビどもまで!?」
ロロが僕の隣から驚きの声を上げた。どうやらロロからしたら信じられない状況のようだ。
それとも、僕と一緒にいるのを見られたくなかったのだろうか。
…なんとなく後者の気がするけど、もしそうだったら少しショックかも…
ロロが戸惑っている間に、リュック少年率いる子供軍団が僕たちを取り囲んだ。
敵意はないみたいだけど、警戒はされてるみたいだ。
「な、なんでお前らこんなところに来てんだよ!?どういうことだよ、ダドリー!」
ロロは首だけを起こし、先頭にいる少年に叫んだ。
妙に必死な感じが、僕には少し不思議だった。
「『なんで?』じゃないだろ!君が危ない目にあってるって聞いたから駆けつけてきたに決まってるだろ!!」
リュック少年―――もといダドリーは、ロロの態度に激怒した。相当必死に走ってきたみたいで、足の所々に擦り傷やら切り傷やらが見受けられる。
他の子供たちにも似たような傷が見られる。ロロってば、相当心配されていたみたいだね。
そんな間にも、ダドリーの説教がロロを襲っているが、僕はあえて空気になろう。
「大体君はいつも無茶をしすぎなんだ。もっとみんなを頼れって言っただろう。それなのに君ったら―――」
「うぅ、サーシャ~助けてくれよ~」
「ごめんなさいね。今回はダドリーの言ってることが正しいから」
「そ、そんな…」
サーシャと呼ばれた長身の少女はうふふと楽しそうに笑った。なんか雰囲気が僕の母さんに似ているような気がするな…こう、おっとりとした感じがなんとも…
あとロロが意外に弱音も吐けるってわかって、内心ほっとした。ずっと溜め込んでいるんじゃないかって内心不安だったんだけど、そうでもないみたいだ。
「あ…あの…」
ロロとダドリーの攻防を見つめていると、不意にサーシャから話しかけられた。
気のせい…ではなさそうだ。明らかに怯えている。
…別に取って食べたりはしないんだけどな…
やっぱりまだ僕が貴族だって勘違いしているみたいだ。本当はちょっと大きな家に住んでるだけの高校2年生なんだけどね。
っと、返事しないと。
「ん?どうしたの?」
「あの…あなたは…あのときの黒髪さん…ですよね?」
「黒髪さん…ああ、僕のことか。この世界だと黒髪は珍しいの?」
「はい。この街でずっと生きてきましたが、いままで一度も―――ってすみません!変なあだ名で呼んでしまって!」
慌てて頭を下げるサーシャに、正直かなりびっくりした。なんでそんな程度のことでこんなに大げさに謝るのかってことと、サーシャの頭が僕のお腹にクリティカルヒットしたことに対してだ。
出会ったばかりのフィーにもやられたけど、この世界の人は頭突きが最強クラスなんだろうか。内臓のいくつかがダメになった気がするくらい痛い…
あと、胸にぶら下げたメロン×2がゆさりと揺れたことに対してもびっくりした。頭突きもそうだけど、この世界の人って胸が大きいんだね。フィーといいイリアといい…って僕はこんなときに何を考えているのだろうか…いや、これはこれで僕が男子だってことを伝えられるチャンス―――なわけないよね…
とりあえず頭を上げさせ、そんな程度のことで謝らないでほしいということを伝えた。
あと、ついでに僕の名前も教えた。黒髪さんでもいいけど、やっぱり名前で呼んでほしいし。
「カイト…さん、ですか。ふふっ素敵な名前です♪」
「僕の世界では結構一般的な名前なんだけどね。で、いったいどうしたの?」
カイトカイトとうわ言のようにつぶやき続けるサーシャが正直怖くて、先ほどの話に戻す事にした。
さすがにこの短時間で『愛され体質』は発動してないだろうけど、あまり長く話しすぎないほうがいいかもしれない。なんだか嫌な予感がする…
「へ?あ、すみません!お礼を言いにきたのですが、すっかり忘れてしまっていました!」
ふむ、サーシャは天然っと。
それにしても…
「お礼?僕何かしたっけ?」
「とぼけないでくださいよ。ついさっき、野蛮な貴族からロロを助けてくださったんですよね?」
あ、ああ。そういうことね。
といってもただ追い返しただけだし、お礼を言われるようなことはしてないと思うんだけどな…
というかサーシャも貴族のことは嫌いなようだ。野蛮だとか言ってるし。まぁあいつは確かに野蛮だったけど。
「ダドリーの背負ってる食べ物も、カイトさんが恵んでくださったものなんですよね?」
「え、まぁね。でもどっちもお礼を言われるようなことでは…まぁいっか。どういたしまして♪」
というかダドリーはアレをずっと背負い続けているのか。すごい体力だ…
すると、なぜかサーシャはクスクスと笑い出した。
え、なんで?どうして僕笑われてるの?まさか僕はまた知らないうちに道化を演じてたっていうのか!?
「くふふ、ごめんなさい。変わった人だなって思って」
「…そんな変わった人間ではないと思うんだけど…」
ちょっとみんなに弄られやすい性格ってだけだもん!これといって変わってはいない、はず…
僕は凡人…そう!僕は凡人のはずだ!!
…姉さんや志穂を見ていると、なんだか自分も違うんじゃとか思うけど、それはきっと気のせいのはず!
やばい、言ってて自信なくなってきた…
「いえ、人を助けたり食べ物を分け与えたりしているのに、『お礼を言われることじゃない』だなんて言う人、初めてだったもので…」
「う~ん、そうなのかな?」
まぁそれはいいとして、とサーシャが話を区切った。
胸の下に手を入れて強調してくるのはわざとだろうか。いや、ただ天然でやっているだけなんだろうな…
「で、お礼の話なんですけど…私たちにできることであれば何でもさせてください!」
「え?」
急に何を言っているんだろうかこの娘は?
すると、ずっと隣でロロを説教地獄に貶めていたダドリーもこちらに向き直り、頭を下げてきた。
「仲間を助けていただき、本当にありがろうございました!俺、何でもします!いえ、させてください!!」
『わたしも!』『おいらもやるぞ!』『あ、あたいも!』『ふがー!』
ダドリーにつられて、他の子供たちまで頭を下げたり『何でもやります』宣言したりし始めた。
「ま、待てお前ら!何もそこまでしなくてもいいだろうが!!」
「ロ、ロロ…」
ゆっくりと体を起こしたロロが、騒ぎまくってるみんなに一喝した。
もう起き上がって大丈夫なんだろうか、と思ったけど平気みたいだ。ロロが大丈夫だということを確認し、僕は心の中でロロに感謝の祈りを捧げた。
ありがとうロロ。君がまともな思考を保っていてくれて助かったよ…
「で、でも!カイトさんはロロのことを助けてくれたんでしょ!?」
「そうだ!だったら僕らも精一杯のお礼をするべきだ!!」
そんなロロの考えを全力で否定する二人。どんだけ僕にお礼をしたいんだろうか…
別にそんなのしなくても僕は気にしないのに…
「私、カイトさんにこの身を捧げます!本当はお金のほうがよろしいのかもしれませんが…粗末な身体ですが、どうかこれでお許しを!」
「女の子がそんな簡単に身体を捧げるんじゃない!ここは俺が力仕事でカイトさんに一生仕える!」
「だーかーらーそういうことをするんじゃねぇって言ってんだよ!!」
頑張って、ロロ!最後の砦は君だけなんだ!!
「そんなに言うんだったら、ボクが『お礼』になってやる!」
最後の砦はもうすでに粉々になっていました…
というか丸め込まれるの早すぎだよロロ!もう少し粘ってくれてもバチは当たらないよ!!
「さぁカイトさん!誰を選ぶんですか!!」
「俺が!」
「いいやボクが!!」
『わたしが!』『あたいが!!』『むぅちゃんがやる~!』
「ちょっと落ち着いて!待って!今良い案を―――はっ!」
そうだ、いいこと思いついちゃった!
これならあの作戦もすんなりいくし、バッチリだ!
「こほん…えーっと、お礼に関してはみんなにやってもらうことにするよ」
「みんなに…ですか?」
サーシャが困惑する。他の子たちも同様で(ちびっ子たちは除く)隣同士でぼそぼそと話し合っている。
まぁ普通そうなるよね。だけどここはあえて無視して。
「内容に関しては、パニックにならないようにサーシャにだけ伝えるから。サーシャ、ちょっとこっちにきて」
「あ、はい」
一旦、輪の中から抜け出した僕とサーシャは、みんなに聞こえない場所まで移動した。
そして僕は戸惑うサーシャに向けて、僕の望む『お礼』の内容を説明した。
~少年説得中~
「…わかりました。その内容に私たちは従います!」
最初はやはり驚いていたけど、最終的には納得してくれたみたいで、笑顔になってくれた。
「うふふ、やはりカイトさんは変わった方です。でも、それって本当にお礼になるのですか?むしろ私たちのほうにばかり良いことがあるような気が…」
「いいのいいの。それじゃあ僕はもうお屋敷に帰るから。さっきのこと、全部がわかっちゃわないようにみんなに説明しといてね」
「はい、任してください♪」
返事をしてくれたサーシャの顔は、なんだか活き活きとしていて、僕まで嬉しくなってきた。
ロロたちのいるほうへ走っていくサーシャを見送った僕は、逆の方向に歩き出した。
「あ、姉さんのことすっかり忘れてた」
脳裏に発狂寸前の姉さんが浮かんだけど、考えたくなかったので頭をふってかき消した。
次回で『海斗のマル秘大作戦』の内容が明らかになります。と言ってもたぶんバレバレなのであれですけど…
一段落はしますが、第二章はまだまだつづきます。
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