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9、連れ回されました

ちょっと短めです。

~『マリーさんの散歩道』~


「あ、これいいかも。ねぇねぇ海斗、ちょっと試着してみない?」


「姉さん?それはいわゆるワンピースというやつだよね?僕は男だからそのチョイスはちょっと間違ってると思うんだけど?」


「う~ん。じゃあ…これとか?」


「見えない!僕には姉さんの掲げているゴスロリ服なんて見えない!!」


ここは『マリーさんの散歩道』のやや目立つ場所に立地している軽装備専門店『マチルダ』。その店内のやや目立つ場所に置かれた女性物コーナーの一角である。


軽装備専門店と言っても武器や鎧だけでなく、おしゃれな洋服なんかもかなりの品数が置かれている。そのほとんどが僕のいた世界のもののそれと同じか、かなり近い形状をしている。


たぶんあのお気楽創造神の落し物を、誰かが拾って量産したのだろう。


で、そんな場所に僕は姉さんに引きずられる形で連れてこられ、アブナイ服を持った姉さんに迫られる今に至るのだ。


「さぁ海斗、これを着てお姉ちゃんに『優しく、してね?』って言いなさい!!あ、もちろん上目遣いでね♪」


「嫌だよ!?どうして僕がそんなことをしなくちゃいけないのさ!?」


「もちろんお姉ちゃんの眼福…もとい海斗のためよ!」


…おかしい。どう考えても僕がソレを着る理由が見当たらない。


例えソレを着ると身体能力が大幅にアップするとしても、僕は絶対着ないだろう。


というか100%姉さんのためだよね!?身長168cmの男がゴスロリ服を着るのは、着る人も見る人も拷問だからね!?


「大丈夫よ。海斗は女装するとちっちゃく見えるようになるし。あ、もちろんそのままでも海斗は十分可愛いわよ?うん、これでよし♪」


「ちっちゃく見えるって何!?どうして僕にそんな不思議現象が起きているのさ!というかいつの間にか着せられてるっ!?」


いつの間にか僕の服は剥がされ、代わりにメイド服と言われている白と紺のエプロンドレスを着せられていた。ゴスロリ衣装よりはマシだけど、これはこれでかなりつらい!


というか僕に女装をした記憶はないんだけど…まさか、寝ている間とかに無理矢理…


これ以上の想像は止しておこう…


「は~っ、さいっこう!!やっぱ海斗にメイド服はぴったりだわ♪」


『『『激しく同意します!!』』』


「メイド服がぴったりなんて、言われても全然嬉しくないよ!!あとお願いだから他の人たちは自分の買い物に戻ってください!!」


いつの間に集まってきていたのか、僕らのまわりに結構な人数のギャラリーが集まっていた。女性物のコーナーなのに、なぜか男性客までわざわざ集まってきている。


お願いだから姉さんを見に来たって言ってよ。どうしてみんなの視線が僕に集中しているのさ!?


『あの、これも着てくれませんか?』


『私たちからはこれを…』


『是非これを!!』


『俺たちの宝だ!!』


差し出されたのは、チャイナドレス(超深めのスリット入り)、巫女服(生地小&極薄ver)、ナース服(スカート極小サイズ)、スク水(なぜか僕の名前入り、紺)。


…どうしよう…今着てるエプロンドレスがものすごくまともに見えてきた。


各々が自分の選んだ服を手に、じりじりと僕に近づいてくる。まるで獲物を逃がさんとする集団のハイエナのように、ゆっくりと確実に…


なんでこの人たちは、僕の女装なんかに全力になってるんだよ!そういう能力ちからをもっと別のことに有効活用しなよ!!


「さぁ海斗、何を着るか選びなさい」


『チャイナ?』


『巫女さんですか?』


『ナースを!私たちの純白の天使になってください!!』


『スク水美少女は我らの夢!!』


「え…えっと…全部拒否―――」


「『『『却下(です)!』』』」


まさか拒絶することを拒絶された!?


女装させられる恐怖に震える僕とは対照的に、変態たちの目は先ほど以上にキラキラしている。その純心さを僕の女装なんかに費やさないでよ!!


「ふぅ、仕方ないわね。わかったわ」


「え、姉さん?」


ついに、ついに姉さんが僕の気持ちを理解して――――






「そんなに選ぶのに困っているのなら、全部着ればいいのよ♪」






その日『マチルダ』に、変態の歓声と、とある少年の悲痛な叫びが響き渡ったという。







◆◆◆◆◆◆






「あぁ~私は今日という日を一生忘れないわ!」


「うぅ、ひどいよ…ひどすぎるよ…」


あのあとありとあらゆる辱めを受けた僕は、心身共に疲弊していた。


結局すべての服を着るハメになり、さらに他の女装までさせられた。さすがビキニアーマーを着せられそうになったときは、恐怖のあまりショック死しそうだったよ。


で、変態たちは僕の羞恥プレイに満足したのか、それぞれの買い物に戻っていった。僕と姉さんも用が済んだ(一応最初の目的だった数十着の服を購入)ので、『マチルダ』をあとにした。


そして現在は、僕のもうひとつの目的である食料調達のために、出店の立ち並ぶ通りをブラブラとしている。


…………あれ?


「あの、姉さん?」


「ん?どうしたの海斗?」


「いや、その、僕の見間違いかもしれないんだけどさ…」


僕は左手の人差し指で姉さんを指差し、右手で自分の服を掴みながら姉さんに疑問をぶつける。


「なんで姉さんが僕の服を着ているのさ?」


「ほぇ?」


よくわからない、とでも思っているかのように首を傾げる姉さんに少しイラッとする。


とぼける姉さんの現在着ている服は、朝から『マチルダ』に入るまで僕が着ていた(、、、、、、)深緑の和服だ。


男物のはずなのに、なぜか妙に似合っているのが不思議でならない。まぁ、和服だからこそ男女関係なく着こなせるのかもしれないけど。


だけどどんなに似合っていても、あれは僕の服であって断じて姉さんの服ではない。


え、それじゃあ僕は今一体何を着ているのかって?


僕は自分の服に視線を落とした。


見えたのは、純白のエプロン、白いフリルのついた紺のスカート、黒いブーツ。どうやら頭にはホワイトブリムと言われるものを装備しているみたいだ。


どう見たってメイド服…というか完全にさっき着ていたものだ。


「なんで…なんで僕は今メイド服を着ているんだろうか?」


「そんなの、私が買って海斗に着せたからに決まってるじゃない♪」


さらっと姉さんがそんなことを言ったもんだから、僕の思考回路は一気にショートしてしまった。


ぼやけていく思考の中、唯一残った疑問が頭をよぎった。


「僕は一体いつからメイド服だったんだろう…」


そう、どんなに女装ファッションの中でまともな服でもメイド服はメイド服。女装にかわりはないのだ。


そんな醜態を僕はいつから晒していたのだろうか。


ついさっき?市場に入ったとき?それとも―――





「いつからって、『マチルダ』を出る前からずっとよ?」


…現実って、どうしてこんなに厳しいんでしょうね?


僕は自分でも顔が真っ赤になったのがわかった。頬のあたりがものすごく熱い。


僕は姉さんに掴み掛かり、必死に叫んだ。


「姉さん、早く!早く僕に今姉さんの着ている服を返して!!」


「やぁん海斗ったら♪こんな昼間っから大・胆♪そんなにお姉ちゃんの服をクンカクンカペロペロしたいの?」


「絶対にそんなことしないから!あとそれは姉さんの服じゃなくて僕の服だから!!って、僕の服の匂いを嗅がないで舐めないでー!!!」


どうしてこの世界に変態の女性を取り締まる法律がないんだろうか。もしあれば姉さんは即刻捕まるのに。


…なんかもうメイド服でいい気がしてきたよ。


べ、別に女装に目覚めたわけじゃないよ!?ただ、その、うん。なんか、姉さんの唾液やら何やらでベトベトのヌルヌルになったあの服を着る気にならないんだよね…


遠くに視線を送ると、良く晴れた空がどこまでも続いているのが見えた。あれ、おかしいな…雨が降ってるわけじゃないのに、目の前が霞んでよく見えないや。


その空の下で、姉さんはそれはもう幸せそうな顔で、僕の服をはむはむしていた


『マリーさんの散歩道』の中央で、遠い目をしたメイド服姿の僕と、自分の着ている服を食べている姉さんは、他の人からどんな目で見られているのだろう。


…気にしたら負け、かな?





――――――――――――――――――――――――――――――――



~フィキペディア~


『マチルダ』


強化ベストや胸当て、ナイフや暗器など様々な軽装備を専門に売っているガルド王国きっての武具店。どの装備も強力、かつ比較的安価で手に入るので、冒険者や戦士ギルドに大人気のお店である。

また、天から降ってくる遺物(アルの落し物)を積極的に収集しており、服のラインナップも非常に充実している。店長自ら作成した服や、落ちてきたものを仕立て直して販売している。若干値は張るものの、ちょっとした贅沢や勝負服として女性客を中心に大人気である。

ちなみに現在のおすすめ商品は『水玉ワンピース』だったりする。

店長:マチルダ

海斗は髪が長いので、カツラ無しでも完璧に女の子になれます。でも女装なのに変わりはないので海斗涙目です。


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