表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/158

8、増築しました

~二階~


「う~ん、なんだか久しぶりに入ったな」


ここは、階段を上がった先にある談話室…の中央にある無骨な扉の先の部屋。通称『創造の部屋』。


僕は朝食もそこそこに、この『創造の部屋』に入った。


初めて入ったのは『主の証』をアルからもらった数日後のとある昼下がり。そのときはただの好奇心で部屋に入室した。今回はこれで二回目の入室だ。


入る際は、指輪を嵌めながら扉に触れ、扉を突き抜けて入室する。指輪の力のせいか、装備者は扉をすり抜けられる仕組みになっている。そのため、指輪を装備していない人は、この部屋に入ることができない。


「避難場所としては最適なんだけど…」


姉さんたちに追いかけられたときにここを使えば簡単に逃げられるだろうと、最初のうちは思っていた。


だけどこの部屋、どうやら神様側で監視されているらしく、あまり頻繁に出入りしたくはないのだ。監視の類は美琴だけで手一杯だし。


…今度また自室とお風呂場に仕掛けられた監視カメラの撤去作業をしないとダメかも。


あと安全のために、誰かが部屋に入った途端、世界中の時が一時的に止まるらしい。だから一時(しの)ぎに逃げ込むことはできても、部屋から出てしまえば結局何も変わらない状況からのスタートなのである。


まぁスタミナ回復くらいには使えるかもしれないけど。


「さて、それじゃあとっとと始めますか」


僕は壁付近においてある鉄の宝箱を部屋の中央にある金の台座近くまで運んで、床にゆっくりと下ろした。宝箱の中には様々な建物の模型などがぎっしりと詰まっている。


台座は1m四方の正方形で、その上にはこのお屋敷とその付近の土地のジオラマが広がっている。


正確にはこれはジオラマなどではないらしい。アルが言うには空間自体を縮小したもの。つまりこのお屋敷そのものということらしい。ここをいじると、現実でも同じことが起きるという。


例えば、この模型の地面を軽く抉れば、現実ではとんでもない大穴が開いてしまうということ…らしい。にわかには信じ難いけど、恐いので試すのはやめておこう。


また、空間内にいる人間や動物にも影響を及ぼすので、取り扱う際は細心の注意をしなくてはならないという。人くらいならある程度の危険はアルの謎パワーでどうにかなるらしいけど、直接何かをしたりするのはやめたほうがいいらしい。


「…どうやらみんなはお屋敷の中にいるようだね」


ジオラマの庭に人影はない。やるなら今しかないようだ。


つい先ほど持ってきた宝箱を開け、中からレンガ造りの細長い形をした建物やら小さめの小屋などを取り出す。この模型も特殊で、ジオラマ内に配置するだけでその模型と同じ建物を出現させることができる。


これがあれば人が増えても住む場所に困ることはない。土地だけは尋常でないほどあるので、これぐらいの建造物なら余裕で配置することが可能なのである。


「えっとこれをこの辺において、あとこれも欲しいね。あとは――――」





~少年建造中 Now Building~





「よし、こんなところかな?」


配置したりするだけなので、作業はあっという間に終わった。


目の前のジオラマには先ほどまでとは違い、いくつか増築された建物が庭に並んでいた。レンガ造りの建物や倉庫に適した頑丈な建物、ついでに水飲み場や噴水、簡単な遊具なども設置してみた。


先ほど設置したレンガ造りの建物は3階建てで、かなりの部屋数がある。広い大部屋や個室、一応トイレも設置されている。一階の玄関付近には細長い通路があり、お屋敷のダイニングに繋がっている。


このジオラマ、どうやら僕の考えたものに近い形に自動変換してくれるようで、通路もそのとき勝手に出来た。ついでに、ダイニングも一回り大きくなったみたいで、お屋敷の正面右側は少しだけ飛び出すような形となった。


急な変化だったにも関わらず、お屋敷の形は不恰好にはならず、寧ろ威厳すら感じる風格を醸し出している。


ちなみにレンガの建物はお屋敷正門を正面にすると、お屋敷の右端に。倉庫はお屋敷の裏手に。噴水は庭中央に設置し、遊具はレンガ造りの建物の裏手に作ってみた。


我ながらなかなかよくできた設計かも?


「これで下準備は整ったね。あと足りないのは―――食料とあと衣服かな?」


思い立ったが吉日。そんな日本のことわざが頭を過ぎった僕は片付けもそこそこに、『創造の部屋』の扉に手を翳した。


左手に嵌めている翡翠の指輪と目の前の扉が共鳴し、体が扉へと吸い込まれていく。実際はただ扉を通り抜けているだけなんだけどね。


扉を抜けると同時に、世界の時が流れ始めた。






「海斗っーーお姉たんとチューしましょー!!」





…………


…しまった、姉さんに襲われかけてたのすっかり忘れてた。


姉さんはすでに跳躍し、今にも僕に覆い被さらんとしている。


後ろは無骨な黒い扉、前にはキス顔で迫る姉さん。


…僕に逃げ道は、ない…


「ひゃっほ~う!!私の海斗~!!」


「ちょ、姉さん、やめむぐぅ!?」





~ただいま濃厚な作業が行われています。しばらくお待ちください~





「むちゅる、あむっ、ぷはぁ♪ああ、久しぶりの海斗の味、堪能しちゃった♪」


「はぁ…はぁ…ひどいよ姉さん…無理矢理だなんて…」


「むふふそんなこと言って。途中から海斗の身体、悦んでたわよ?」


「なわけないでしょうが!!」


どこのセクハラ親父だよ!?そういうのは男に向かって言う台詞じゃないからね絶対!


はぁ、いつものことではあるけど、せめて同意の上でやってほしいよ。


べ、別に姉さんとキスしたいわけじゃないよ!?そこは勘違いしないでよね!?


って、僕は誰に弁解しているのだろう…


しかし、今日の姉さんはやけに元気だな…昨日は部屋から出てこなかったのに…


「姉さん、昨日はいったいどうしたのさ。ご飯のときも部屋から出てこなかったし…」


僕は姉さんの唾液でベトベトになった顔を拭きつつ、姉さんに昨日のことは聞いてみた。


すると姉さんは僕からサッと目を逸らし、吹けもしない口笛を必死に吹き始めた。もちろん吹けるわけもなく、口元からは空気が抜ける音しかしてこない。


感情の揺らぎには疎い僕でもわかる。明らかに動揺してる。


「姉さん、まさか隠さなくちゃいけないようなことしてたの?」


「そ、そんなんじゃないんだけど…」


あはは…と力無く笑う姉さん。う~ん、ますます怪しい。


「本当に?」


「も、もう海斗ったら、心配症なんだから♪(言えるわけないじゃない!海斗のお風呂覗いて、それを思い出しながらずっと自分を慰めてただなんて!!)」


「…本当に何も無いんだね?」


「う、うん。たぶん…」


むぅ、これ以上は聞き出しても無駄かな?


姉さんの顔色を見る限りだと、別段体調が悪いとかそういうわけではなさそうだけど…


「はぁ…わかったよ。僕は姉さんを信じるよ。でも、何かあったらちゃんと僕や志穂たちに相談してよね?」


「もちろん。そのときは頼らせてもらうわ♪(ああ、やっぱり海斗って本当に可愛いわ!今すぐ襲いたい!!押し倒したい!!!そして、あんなことやこんなことをグヘヘ…)」


!?いまなんだか寒気がしたような…


あと姉さんの顔、ものすごく穏やかな笑顔を浮かべてるのに、口元から涎がダバダバ出ててものすごく不自然なんだけど…というか怖い…


…身の危険を感じるからあえてツッコまないでおこう。


「それじゃあ僕は『マリーさんの散歩道』で少し買い物に行ってくるから」


僕は姉さんの視線を背中で受けつつ、階段部屋に続く扉を開けた。


…あ、そういえば。


「姉さん、そういえば優奈や美琴たちも昨日の夜あたりから見かけてなくてね。どうしてたか知らない?」


「え?い、いやぁ~私は知らない、かな?(たぶん私と同じ理由なんだろうけど、言わないほうがいいわよね?)」


「?よくわからないけど、知らないならしょうがないか」


ま、この部屋に来る前にみんなとは顔を合わせたし、問題ないだろうからいっか。


「それじゃ、行ってきまーす」


「うん、行ってらっしゃい」


……………


………?


「あの、姉さん?」


「ん?何かな?」


「どうして僕の腕に巻きついているのかな?」


ぎゅっと僕の腕を抱きしめる姉さん。僕の腕が姉さんの二つの水風船に包み込まれてものすごく暑くなっていく。なんか甘い香りもしてくるし…


って、なんで僕はドキドキしてるんだ!?相手は姉さん、実の姉だぞ!?


落ち着け僕、ここで動揺したらダメだ。ここは冷静に、落ち着いて姉さんの考えを読み取るんだ。


すると、姉さんは胸元を強調するかのように屈み、僕の顔を見上げてきた。


「たまには姉弟水入らずで買い物でもどうかな?って思ってさ」


「買い物…」


どうしよう…普通の単語のはずなのに、姉さんが言うとものすごく嫌な予感しかしない。


お、落ち着け、落ち着くんだ僕。たかが買い物だぞ?いくら姉さんでもそこまで変な事にはならないはず。


…どうしよう、言ってて自信なくなってきちゃったよ。


「ち、ちなみに何を買うつもりなの?」


「え?えっと~靴とかアクセサリーとか砥石とか――――」


うんうん、どうやらまともな買い物のようだ。砥石はたぶん前に王様から渡された細剣『ライトニングスラスト』の手入れのためだろう。


姉さんって商人ギルドのくせに、結構魔物とも戦ってるからな~


「―――あと巫女服とナース服と媚薬くらいかな?」


「ちょっと待ったー!?」


最後の三つのせいで一気にアウト&チェンジ判定になっちゃったじゃないか!トリプルプレイはこんなところでするものじゃないよ!!


というか巫女服とかナース服ってこっちの世界に売ってるの!?


…ああ、アルの仕業か。


「大丈夫よ海斗。巫女服とナース服は海斗が着るものよ?媚薬も海斗じゃなくて私が飲むものだし」


「そっちのほうが余計問題あるよ!?」


どうして僕が巫女服やナース服を着せられそうになっているんだ!?もう僕の思考回路じゃ理解できない領域だよ…


あと姉さんは媚薬を飲んでどうするつもりなんだろうか。なんか姉さんとソレの相性が良すぎて、パワーアップとかしそうで恐いんだけど…


「さぁそうと決まれば早く行きましょ?時間は無限にあるわけじゃないんだから♪」


「その有限の時間をもっとまともなことに使おうよ!あ、待って!引っ張らないで!!」


こうして僕と姉さんの楽しくも波乱に満ちていそうなお買い物が始まった。


…なんだかものすごく嫌な予感しかしないよ。





――――――――――――――――――――――――――――――




~フィキペディア~



『監視カメラの撤去作業』


はずしても一週間後にはまた設置され、しかも別の位置になっているので、定期的の行わないといけない。海斗はいつもすべて見つけ出している、と思っているが必ず一個だけ見つけられていない。美琴の設置スキルはプロ並み。



『レンガ造りの建物』


細長で一般住宅2軒分位の大きさで三階建て。玄関とリビングが一体で、形としては旅館やホテルのそれに近い。部屋の数は居住者に応じて増える。初期部屋数は14、一部屋の大きさは12畳ほど。一部屋あたり1~3人ほどが目安。増える際は建物の大きさはそのままに、異空間的な場所に延々と増築されていく。

また、リビングとお屋敷のダイニングが繋がっており、食事の際や入浴などはお屋敷のほうで済ます。



次回かその次あたりで進展する予定です。海斗がどんなことを企てているのか、もうわかっちゃっている人もいるかもしれませんが、もう少しお待ちいただければと思います。


感想・評価受け付けています。嬉しい感想もらえると作者は嬉しくなって、執筆の手が速くなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ