7、魔法知識を得ました
「落ち着いた?」
「うん…」
しばらく泣き叫び続け、ようやく志穂は落ち着いた。涙とかは僕の服で拭ったらしく、少し顔が赤い以外これといって変わったところはなさそうだ。
あまり時間は経過していないみたいだけど、なんだかものすごく長く感じた。やっぱり泣かれるっていうのがつらいって思ったからかな?
「とりあえず、中に入ろっか」
「あ…」
志穂を抱きしめていた腕をどけて立ち上がると、志穂が少し寂しそうに声を漏らした。
でもさすがにそろそろ中に入らないとダメだ。やりたいこともあるし。
「今度またやってあげるから、ね?」
そう言うと、渋々だが了承してくれた。
…しばらくは志穂をナデナデするのが日課になりそうだな。
◆◆◆◆◆◆
~屋敷内~
「あ、カイト様おはようございます♪」
中に入ると、ちょうど起きてきたらしいフィーと鉢合わせした。
昨日のことがあるから若干心配だったけど、見る限りは問題なさそうだね。顔色もいいみたいだし。
「おはようフィー、調子はどう?」
「はい、昨日のことはよく覚えていませんが、体のほうは問題ありません。ご迷惑をおかけ致しました」
ペコリと頭を下げるフィー。その姿を見て、どこか安堵する自分がいるのがわかった。
フィーの存在が僕の中で日に日におおきくなっているような気がする。特に昨日あたりからさらに大きくなっていったような気がする。
やっぱり家族だって改めて認識したのが大きいのかな?
一応、体調の良し悪しを再度確認してみることにした。ついでに昨日何があったのかも知りたいし。
フィー曰く、どうやら昨日のことはぼんやりとしか覚えておらず、話からして僕が風呂に入っていたあたりから記憶が曖昧らしい。頭痛や吐き気などもないらしいのでひとまずは安心できそうだけど…記憶が曖昧っていうのが気になる。
ひとつひとつの質問に対して、フィーは笑顔を絶やすことなく答えてくれた。その笑顔がなんだか晴れやかで、見ているこっちも自然と笑顔にな―――らない?あれ、おっかしいな…
「…ところで…どうしてカイト様は外にいたのですか?」
「え?」
「どうやらシホさんと一緒にいたようですが…一体ナニをなさっていたのですか?」
「あの、フィーさん?」
ごめん、訂正…笑顔は笑顔だけど、目が全然笑ってなかったよ。
なんか目は据わってるし、さりげなく右手にショートブレードなんて握ってるし…
…どうやらフィーの得物は幅広いようです。
そりゃ笑いたくても笑えないよね…
ってそんな解析している場合じゃないや。何か、何かうまい言い訳を考えなくては!
「さぁ、カイト様?シホさんとナニをしていたのか、はっきりと答えてください♪」
「えっと、それは…」
志穂を一瞥すると、「はぅ」とか言いながら顔を真っ赤にして俯いてしまった。
その光景を目にしたフィーが憤慨した。
「むぅ~、なんなんですかあの反応は!カイト様、やはりシホさんと逢引きしていましたね!?」
「逢引きって何さ!?別に何もなかったって、ねぇ志穂?」
志穂に助け舟を出す。お願い!この状況を打開できるのは志穂だけだ!
すると、少し間を空けてから、小さな声が後ろから聞こえてきた。
「…お兄ちゃんのアレ…優しくて、でも力強くて…ものすごく気持ちよかったな…」
志穂、その言い方だと絶対に勘違いするからね!?どうして普通の表現をしてくれないんだ!!あとなんでこのタイミングでそれを言うの!?
「カイト様、何か言い訳はございますか?」
「誤解なんだフィー!ちょっとさっきいろいろあったんだよ!!」
「イロイロってなんですかっ!?どうしてシホさんにだけそんなことを!羨ま…羨ましい!!」
言い切っちゃったよこの娘!今羨ましいって言い切っちゃったよ!!
「さぁカイト様!私にも同じことを…いいえ、それよりもっとすごいことで私をめちゃくちゃにしてください!!」
「だから誤解なんだよーーーーー!!!」
ショートブレードは収めてくれたけど、代わりになぜか両手に荒縄を握りしめてにじり寄ってきた。口からは涎を垂らし、何かをぼそぼそとつぶやき続けている。顔は恍惚とし、なにか如何わしいことを想像しているのが見てとれる。
いつも通りのフィーで少し安心したけど…こんなのはあんまりだ!!
◆◆◆◆◆◆
~ダイニング~
「え、シホさんが魔法を?」
「そうなんだよ。で、それについて朝から少しあってね…」
なんとかフィーを説得し、言い訳をさせてもらった。あのままだったら、暴走したフィーに何をされていたことだろうか…
例えばショートブレードの試し切りとか、投げナイフの的とか…それとも、女装とか精神的苦痛を与えられたり…
うぅ、あんまり想像したくないかも…
「あ、そうだ。フィーは魔法について何か知ってる?僕、何も知らないからさ、知っておきたいんだ」
この世界に来てから早一ヶ月とちょっと。その間、魔法というものは何度も見かけてきたけど、詳しいことは何一つわからないのだ。せっかくだし、この機会にいろいろと知っておきたいのだ。
あと、使えるのなら自分も習得してみたいし。実は魔法使いって憧れてたんだよね。
「そうですね…常識的なことしか知りませんが、それでもよろしいでしょうか」
「うん、お願いするよ」
それでは、と軽く咳払いをして、フィーの魔法講座が始まった。
◆◆◆◆◆◆
「そもそも魔法とは、『エリル』というものを、任意の形にすることの総称です。『エリル』とは大気中に含まれているもので、『神の残滓』とも言われ、膨大な力を秘めています。しかし、『エリル』単体では力を発揮できません。そこで魔法と呼ばれる物質の変形を行い、秘められた力を使用できるよ形にするのです」
神の残滓…アルの体の一部とかってことかな?
そんなものが大気中に漂っていたのか…アルの体は一体どうなっているのだろうか…
「魔法使いになるには、ある種の素質が備わっていないとなれません。素質がある人は、ある日突然魔法が使えるようになったり、学術書などを見て使えるようになったりするらしいです」
ちなみに素質がある人の大半はエルフの血が混ざっているそうです、と補足してくれた。
その考えだと、僕が魔法を使えるようになるのは絶望的か?いや、志穂が使えたんだからもしかしたら僕もいつか使えるようになるかもだし…
「ここまでは魔法の事前知識です。それではこれから魔法自体の大まかな説明をさせていただきます。魔法には火・雷・水・風・土の基本属性と光・闇・時・空の特殊属性の計9つで構成されています」
特殊属性?基本属性と何か違うのだろうか。
質問をしようとしたが、僕の視線で察してくれたのか、僕の考えを先読みして答えてくれた。
「特殊属性とは、基本属性と違い、属性単体の魔法が存在しません。特殊属性は基本属性の魔法に付加することによって、初めて力を発揮するのです。そして特殊属性を付加された魔法は、様々な特殊効果が付加されます。中には付加前の魔法とはかけ離れた効果を及ぼす場合があります。例えば、『アイススピア』に闇属性を付加すると毒効果が追加されるだけですが、『ウィンドスラッシュ』に光属性を付加すると、全体回復魔法になります」
あの驚異的な威力の風魔法が光属性を混ぜるだけで、強力な回復魔法になるのか。これはいままでなかったことだから興味深いかも。
ん?でも待てよ。
「それって、何通りも組み合わせがあるってことなの?」
「はい。中には3種類以上の属性をかけ合わせた魔法も存在しているらしいですよ」
じゃあその中にはまだ未知の魔法も存在してるってことか。
これはワクワクが止まらないね!
「ただし、基本的に魔法は一人あたり1属性しか身につかないので、合成魔法が使用できる人は稀ですが…」
「え、そうなの?」
「現在確認されているのでも3属性が最大ですからね。その人は土・風・光の属性を持っていたらしいですが」
最大で三種類…だと…?
僕は隣で眠っている妹を一瞥する。僕の太ももを枕にしてすやすやと眠る志穂にほんの少しだけ恐怖した。
(確か志穂は四種類の魔法を使っていたような…)
志穂が使っていたのは火・雷・水・風だった。もしかしたらまだ使ってないだけで、土属性や特殊属性なんかも持っているのかも…
なんか僕のまわりってチート級の人が多いような気がするよ。そのわりに僕はそこまで変わっている感じがしないし…
僕って本当に勇者なのかな?ここ最近、みんなのことを見ていると似たようなことをよく考えるようになったよ。
「最後に、属性の関係と魔法使用の注意点です。属性の関係は水<土<火<風<雷<水という感じで、それぞれ得意不得意の属性が存在しています。ただし特殊属性が付加された魔法は独立しているので、属性に関係なくダメージを与えられます。対人戦闘ではあまり関係ありませんが、魔物の中には存在そのものに属性がある場合があるので、注意が必要です。」
そのあたりはどうやらゲームとかと同じようだ。
特殊属性は無属性魔法みたいなものなのかな?それとももっと特殊な、奥の深い魔法なのだろうか。
これはいろいろと研究してみる価値がありそうだね。
「それから、魔法使用の注意点です。魔法は事実上無限に使用することが可能です。しかし魔法を使用するには、エネルギー…つまり使用者の肉体を媒介にする必要があります。そのため、魔法を使いすぎると―――」
使いすぎると、どうなるの?
まさか身体が消滅したり、魔物に豹変したりとか…
「…お腹が、空いてしまいます」
…どうやらこの世界では、危険という概念が少ないようだ。魔法の代償が空腹のみだなんて…なんて安全設計なんだろうか。
さすがあのアルが創造した世界なだけあるよ。平和な感じがアルの思考と似ているというかなんというか…
ふと、隣で眠る志穂からクゥと空腹を訴える音が聞こえてきたような気がした。
「こんなゆるい設定…ありですか?」
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~フィキペディア~
『ショートブレード』
ごく一般的な近接武器。刃渡り40cmほどの剣で安価のため、初心者から玄人まで広い範囲で愛用されている。また、非常に軽い物質で作られているため、自分で加工して強力な武器にしたり、軽さを生かした戦法をするなど、用途もさまざま。
フィーの得物のひとつで、比較的大型の魔物に対して使用することが多い。
魔法の説明がわかりにくかったという方、すみませんでした。わからないことがあればメッセージや感想などで指摘してください。その度説明文を送らせてもらいます。(無茶な質問は答えられないかもしれません)
フィーが『何』を『ナニ』と言っていましたが、仕様です。どんな意味が含まれているかはわかりません…
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