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6、魔法を覚えました

ちょっと長いです。

~翌日~


「んっ、もう朝か…」


窓から入ってきた朝日を浴びて、意識が覚醒する。


日本と違い、あまりジメジメとしていないので、寝起きでもカラッとしていて気持ちいい。


結局あの後、フィーと顔を合わすことはなかった。


それどころか、お風呂から上がった後に姉さんたちの姿をまったく見ていない。


夕飯の時間になっても全く姿を見せてくれなかった。


「屋敷内にはいるはずなんだけどな…」


二階に上がったとき、微かにみんなの部屋から物音がしたので、いるとは思うのだけれど。扉を叩いても、声を掛けても、全くの無反応なのである。


意図的に無視…というより、全く聞こえていない様子だった。


「ま、夜中に起きて台所に行ったら料理が結構減っていたから、たぶん大丈夫でしょ」


大方、夜中に下りてきて遅めの夕飯を取ったのだろう。


さて、そろそろ起きて『あの計画』の準備でもしますか。


そう思い、朝日の差し込む窓を開けて―――


「うわっ!?」


ぶわっと強風が入り込んできて、顔をしかめた。


夏にはちょっと涼しいくらいの風だったけど、今のは…


「って、なんだこれー!?」


妙に体がスースーすると思って見ると、なんと僕のパジャマがビリビリに引き裂かれていたのだ!


ていうかまたなの!?僕の服、もうあと少ししか残ってないのに…


どうして僕ばっかり服がボロボロになるんだよ…いい加減泣くぞ!


「あれ?この切り口…どこかで見た事あるような――-」


『ウィンドスラッシュ!』


「へ?ぬわぁー!?」


どこか聞き覚えのある声がしたと思った刹那、また窓からあの強風が吹き込み、僕に直撃した。


さっきよりも強い勢いで、僕の部屋の中をどんどん荒らしていく。


そしてついに、僕の服は跡形もなく細切れになってしまった。


「もうなんなの一体!どこまで僕を辱めれば気が済むんだ!!」


見渡すと、部屋はぐちゃぐちゃ、ベッドはボロボロ…唯一残っているのはクローゼットくらいだろうか。


ああもうどういうこと?新手の嫌がらせ?


というかさっきの声が聞こえてきた後にあの強風が巻き起こったような…


「…お屋敷の外だね」


僕は八つ当たりと好奇心のために、このお屋敷自慢の庭に赴くことにした。


あとあの声…やっぱり聞き覚えがある。ものすごく身近で、毎日のように聞いてきた声のような…


僕は着替えもそこそこに、一階の玄関から、外に繰り出した。





◆◆◆◆◆◆





~自慢の庭園~


「うわあああああ目がああああ!!」


外に出ると、朝の涼しい風と寝起きには眩しい朝日が、僕の眼球に襲い掛かってきた。


まさか朝日にやられる日が来るとは…不覚だったよ…


っと、そんなことより。


「さっきの声の主はいったい誰だったんだろうか…」


とりあえず、さっきの声が聞こえてきたと思われるほうへ視線を送る。


すると、ちょっと離れたところに誰かが的のようなものに向かって何かをしているのが見えた。


「…あれって、志穂…だよね」


声の主はどうやら僕の妹、志穂のものだったらしい。道理で聞き慣れた声だと思ったよ。


それにしても、こんな早朝から何をしているんだろう。


確かに弓道はやってたけど、こんな朝から練習するほど熱心だったとは思えない。現在も、志穂の手に弓は握られていない。


でも志穂の視線の20mくらい先にあるのは、三本の赤い線が描かれた的だ。そのまわりには、粉々になったと思われるそれがいくつも転がっている。


いったいどういうことだろうか…


「おーい、何やってるの志穂?」


「え?お兄ちゃん!?嘘、どうして!?」


歩み寄りながら、声を掛けたら予想以上に驚かれた。さすがの僕も傷つくレベルで…


そこまで拒絶しなくてもいいじゃないか!!


まぁいいや。


「こんな朝早くから何してるの?」


「え、ななな何のこと?」


ふむ、あくまでとぼけるつもりか。ならばもう少し強めに。


「しらばっくれてもダメだよ?」


少し目元に影を作る。これは姉さんや美琴たちを怒るために、僕が編み出した特技の一つだ。


これだけでも意外と効果がある。


「お、お兄ちゃん…顔が怖いよ~」


あ、ちょっとやりすぎちゃったかも。


志穂の顔は真っ青になり、小刻みに震えてしまっている。夏だというのに歯もカチカチと鳴らしてしまってる。


っく、だけどここで退いてしまってはダメだ!ここは心を鬼にして…


「大丈夫、ちゃんと言ってくれれば怒ったりしないから」


裏を返せば「言わなかったら本気で怒るよ?」という意味だけど…


「うぅ、わかったよ…言うよ。ちゃんと言うから、怒らないで…」


心がものすごく痛い!こんなに怯えさせるなんて…あとで志穂にボコボコに殴ってもらわないとダメかな?


「お兄ちゃん、あのね、私―――」








「魔法…使えるように、なっちゃったの」







…………


……え、魔法?マホウ?


だめだ、まったく理解できない。どうしてこのタイミングで魔法などという非科学的なものが出てくるのだろうか。


「志穂、つらい事があったらすぐにお兄ちゃんに言うんだよ?」


「まさかの哀れみの目!?あんまりだよお兄ちゃん!!」


さすが志穂、ツッコミもお手のものだね。さすが僕の妹だ。


「お兄ちゃんが信じないのなら…ここで証明してあげる!!」


珍しく志穂が声を張り上げたと思ったら、的に向かって腕を突き出し、何かを高速でつぶやき始めた。


すると、志穂の足元に幾何学的きかがくてきな魔方陣が光とともに浮き上がり、小さな光の玉を体に纏い始めた。


「~~~~!ファイアボルト!!」


志穂が何かを叫ぶ。と同時に志穂の突き出した手の先端からバレーボールサイズの火球が飛び出した。火球は弧を描くようにして飛び、先にある的に命中。一瞬で灰にしてしまった。


「…………」


今しがた目の前で起きたことがまったく理解できない。これが夢の中の出来事なのでは、と錯覚するくらいだ。


だけど先ほどの火球からほとばしった熱はまだ感じるし、木の焦げた匂いもする。


これは間違いなく現実で、今のは僕の妹、志穂が引き起こしたことである。


「わかった?お兄ちゃん。嘘じゃなかったでしょ?」


本当はもう少し上達してから見せたかったんだけど、と小声で志穂がそう言ってきて、ようやくわかった。


ああ、だからあんなに隠そうとしていたのか、ってね。


「あとね、私まだあと3種類の魔法が使えるんだよ?見ててね♪」


そう言って志穂は得意げに『サンダーアロー』や『アイススピア』など摩訶不思議な魔法を次々と的に命中させていった。どれも的の状態からして、かなりの高威力のようだ。生身で受けたら一溜まりもないだろう。


そして最後の魔法の詠唱に志穂が突入した。その顔に疲れなどはなく、ものすごく活き活きとしている。


こんなに楽しそうな志穂、今までに数回しか見た記憶がない。


「~~~~~!ウィンドスラッシュ!!」


詠唱が完了し、志穂の手から強風が巻き起こった。風はまわりの草を根こそぎ刈り取り、的も粉々に切り刻んでしまった。


いままでの魔法の中で一番凶悪かもしれない…


ん?強風?それに切り刻む?


「!やったぁ!!ついに命中させられたよお兄ちゃん!!この魔法、命中精度が低いから、何度も失敗しちゃってたんだけど…お兄ちゃんに見られてるって思ったらうまく出来たよ!!」


………なるほど、そういうことですか。


さっきの一言でようやく確信したよ。


「志穂、そこに正座」


「え?どうして?それにここ外―――」


「いいから正座しなさい」


「…はい」


しゅんとしながら、静かに地面に正座する志穂。その真正面に僕も正座。


ちなみに下は芝生なので痛くはない。


「志穂…さっきの風の魔法はいつ覚えたの?」


「えっと、3日前…です」


「昨日僕の服を切ったのもその魔法だね?」


「はい…」


そう言いながら志穂は、自分の指先に極小サイズのウィンドスラッシュを顕現させた。透明な、まるでメスのような形状をしている。


「…今朝、お兄ちゃんは窓から入ってきた強風に服を切り刻まれました」


「え?」


嘘…と志穂が力なく発したけど、僕はあえてそれを無視する。


「おまけに二度目のウィンドスラッシュによって…僕の部屋は壊滅」


「あぅ」


もはや志穂から元気というものは消え去ってしまっている。下を向き、目に涙を溜めてうりゅっとしている。


見ていてものすごくつらいし、こんなことにしてしまっている自分がものすごく憎い。


だけど、父さんたちがいない今、妹をちゃんと叱ってあげるのが兄である僕の、最低限の義務だ。


何が駄目なのか、それをキチンと教えてあげないといけないんだ。


「だから僕は、志穂に罰を与えなくちゃならない」


「罰!」


ちょっと志穂さん、そこは喜ぶところではないですよ?どうして目を輝かせてるのさ!


…どこで間違えたのかな?


僕は、見た目はわくわく、けど目には涙を溜めている志穂に手をかざした。


叩かれると思ったのか、志穂は目を瞑り両頬から涙が伝う。


ああ、本当につらい。けど、あと少しの辛抱だ。


僕は指先に力を込め、


「ていっ!」


「ひゃう!?」


志穂の額にちょっと強めのデコピン(、、、、)を放った。


そしてすぐに志穂を抱き寄せた。


「お、お兄ちゃん?」


「もう、勝手に危険なことをしないように。僕との約束だ」


困惑する志穂を、僕はさらに力強く抱きしめる。「はふぅ」と志穂が変な声を出してるけど気にしない。


「それから、ごめん。志穂は頑張って魔法の練習をしていたのに、それを怒ったりなんかして。本当にすごいよ志穂、まだこの世界に来てあまり経ってないのに魔法なんか使えるようになっちゃってさ…」


「お…おにい…ちゃん…」


「頑張ったね、志穂。本当によく頑張ったね」


「お…にい…ちゃ…う、あ、あぅ…うわああああああああああぁぁぁぁぁんおにいちゃぁぁぁぁぁぁぁんごめんなざいいいいいぃぃぃぃ!!!」


背中をぎゅっと抱きしめ、我が妹の叫びを胸で受け止める。それに返事をするかのように、志穂も僕の背中を力強く抱きしめ返してきた。


ああ…妹を本気で泣かせるなんて…僕はなんて駄目な兄貴なんだろうか…


褒める順番と怒る順番…間違ってなかったかな?


「よしよし、本当にごめんね志穂。僕が不甲斐ないばっかりに」


ま、今はこの可愛くて真面目で努力家な自慢の妹をあやすとしますか。







「…やっぱり僕ってシスコンなのかな?」


そんな僕の疑問は、朝の鳥のさえずりと、志穂の嗚咽でかき消された。






――――――――――――――――――――――――――――――――




~フィキペディア~


『ファイアボルト』


直径15cm前後の火の球を放つ初級火魔法。狙った獲物に向かって弧を描くようにして飛んでいく。また、獲物が動くと少しくらいならホーミング(追尾)してくれる。

威力は敵一体を丸焦げにする程度。



『サンダーアロー』


矢のような形状の光の光線を放つ初級雷魔法。スピードと詠唱速度が速いので、動きの素早い敵や体力の少ない敵などに有効。雷を帯びているので、当たった敵だけでなく、その周囲の敵も巻き添えにする。

威力は敵を感電死させる程度。



『アイススピア』


槍状に尖った三本の氷柱を敵に投げつける初級氷魔法。威力がそこそこ高く手数も多いので、少し体力の多い敵に使いたい魔法。また、当たった部分を凍らせるので、足止めや足場を作るのに有効である。

威力は敵を氷漬けにする程度。



『ウィンドスラッシュ』


風の刃を広範囲に放つ初級風魔法。命中精度が悪いが、初級魔法の中では威力がもっとも高く広範囲の敵を一網打尽にできる。これが使いこなせるようになれば『魔法使い』と胸を張って名乗れるというのが、この世界での裏常識。

威力は敵を切り刻む程度。







海斗がお兄ちゃんパワーを発揮しましたが。シスコンかどうかは…読者のみなさん次第ということで。


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