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5、水溜りが出来ていました

海斗以外の地の文が、第三者視点になっているところがあります。ミスではありませんのでご了承ください。

~脱衣所~


「僕もうお婿にいけない…」


今回のはいくらなんでもひどすぎるよ。あれから一時間近くも僕の体をもてあそぶなんて…


はぁ、また体中ベトベトだよ。


「まぁでも、貞操だけは守れたと思うからいっか」


途中から意識が飛んだし、妙に下腹部がぬるぬるしているからものすごく不安だけど、そういうことにしておこう。


…本当に大丈夫だよね?


「…はやく湯船に浸かろう」


鋭利な刃か何かで引き裂かれてしまったらしいボロボロの和服を脱ぎ捨て、髪を解く。もともと長かった黒髪は、すでに腰あたりまで伸びてしまっている。


正直早く切りたいのだけど、切ると姉さんたちが『海斗の髪の毛争奪戦』などというよくわからない騒ぎを起こすから、なかなか切る機会がないのだ。


「でも、男でこの長さは異常だよね…」


髪の長い男性は僕の世界にもいたけど、ここまで地で伸ばしている人ってやっぱりいないよね…


頭を振って自虐的な思考を振り払い、浴室の扉を開ける。湿っぽい空気が顔を撫で、少し汗が滲む。


僕はそのまま浴室に入り、桶で掬った水で体をサッと流し湯船に浸かった。


髪が水面に広がり、まるで別の生命体のように僕の後ろで漂い始めた。


「そういえば姉さんが『髪をお湯につけちゃだめよ!』って言ってたっけ」


なんでも髪が痛んでしまってよくないんだとか。志穂にも「束ねて入ったほうがいいよ?」って言われたっけ。


ま、男の僕には関係のない話だろうけど。


腕をぐっと伸ばし、お湯に体を預ける。全身がお湯の温かさに包み込まれ、疲労がどんどん癒されていく。


ああ感覚、お風呂の醍醐味だと思うんだ。


前にアルに風呂の壁を替えて貰ったから、もう覗かれる心配もないのだ。風呂への乱入は、姉さんたちにきつく釘を刺しておいたので、その心配もない。


え、監視カメラ?そんなものはとっくに回収済みだよ。


今じゃお風呂(ここ)が僕の唯一の避難場所と化しているのだ。




「ふぁ~極楽極楽~♪」





◆◆◆◆◆◆




~女湯~


「ふふふ、あんなに油断しちゃって、可愛いんだから♪」


「うわぁ…お兄ちゃん、完全に無防備だね。ぜんぜん隠す気ないみたい」


男湯と女湯を隔てる壁。その女湯側の壁に、6人の少女たちが密集している。


目的は、男湯に入っている想い人、海斗の入浴シーンの鑑賞である。


「マジックミラーが撤去されたのは痛かったけど、どうやらあの神様、あたしたちと同類みたいね」


「…わたしたちにしか見えない覗き穴を作ってくれた。感謝」


少女たちの覗き込んでいるのは直径20cmほどの円形の穴。普通なら即刻ばれる穴の大きさだが、特殊な加工が施されており、男性は視認することができないという。


実際、海斗は覗かれていることにまったく気づかず、無防備にその裸体を少女たちの前で晒している。


「フヘヘ、ああカイト様~いいですよ~♪もっとこっちにその柔らかそうな肌を見せてください~♪」


「じゃが、見ることは出来ても、襲うことができないというのは、生殺しでしかないぞ…わしのはもう大洪水状態なのじゃ…」


ちなみに一応お風呂にも入るつもりなので、服はちゃんと脱いできている。


彼女らの足元には、粘性のある不自然な水溜りができている。それらは糸を引いて、彼女らの足の間に繋がっている。


ほとんどの者が恍惚とした表情で穴を覗き、ある者は鼻から大量出血しながらビデオカメラを握り締め、またある者は自分の体を抱きしめて悶絶している。


傍から見れば、かなり不気味な情景である。


「ああ、海斗…私のLove!My!!Brother!!!」


「お姉ちゃん大丈夫?かなり変だよ?」


「志穂ちゃん、あなたもかなり変よ?」


「…あなたの水溜りが、私たちの足元まで来てる…」


「わしのもかなり広がってきているのじゃ…あとビコトもその鼻血をなんとかしたほうがよいぞ?」


海斗はこのやりとりが壁の向こう側で行われていることを微塵も感じ取っていない。


知らないというのは、ある意味幸せなのかもしれない。


「あ、カイト様が体を洗うようですよ!!」


「「「「「何っ!?」」」」」





◆◆◆◆◆◆






「ふぅ、そろそろ体洗おう」


しばらくお湯の温かさを堪能した僕は、湯船から上がり、壁に掛けてあるシャワーに近寄る。


初めて使ったときは、マジックミラーのせいでかなり恥ずかしかったけど、今はそれももうない。


「はぁ~、やっぱりお風呂はリラックスできなくちゃね~♪」


蛇口を捻り、シャワーノズルから水を出す。


夏が終わるまで、まだ一ヶ月ほどある。もうしばらくはシャワーも冷水になるだろう。


ちなみにこの世界にはまだ水道という概念が存在していないらしい。しかしアルのおかげでこのお屋敷にはなぜか水道が通っている。


どんな原理なのかはまったくもってわからないけど…


「冷たっ!?…でもやっぱり気持ちいい~♪」


夏はやっぱり水浴びに限るよね~♪






◆◆◆◆◆◆






~キッチン~


「あぁ~さっぱりした!!」


あれから10分も水浴びを楽しんでしまった。腕時計の時刻はもう6時を過ぎている。


…この腕時計の時間って本当に合ってるのかな?今度暇なときに日時計と比べてみよう。


「さて、今日の晩御飯はどうしようかな~?ってあれ、フィー?もう作ってるの?」


「ふぇ?あ、カ、カイト様っ!?ど、どうしよう…まだ体の疼きが収まってないのに…」


キッチンのほうへ視線を向けると、隅で何かをしているフィーの姿が目に入った。


…気のせいか、顔が赤い気がするけど。


「大丈夫フィー?なんだか顔が赤いけど?」


近づいてみると、やはり顔が赤い。風邪か何かだろうか…


とりあえず熱があるか確認するために、フィーの額に手を当ててみた。


「むふぃ!?~~っ~~~!?」


その刹那、フィーの顔が茹蛸ゆでだこのようになり、バタンと床に倒れてしまった。


見ると、肩や腰が小刻みに震え、痙攣している。見た目はかなりまずい状態だ。


けれど顔に苦痛の色はなく、ものすごく幸せそうな表情で涎を垂らして喘いでいる。


つらそうではないけれど、どう見たってこれは異常だ。


「大丈夫フィー!?どこか具合が悪いの!?」


しっかりと声が届くように顔を近づける。目の前にはフィーの瞳。フィーの髪の色と同じ銀色の綺麗な瞳だ。


目は潤み、口からは唾液が絶え間なくあふれ出てきている。


「ねぇ、大丈夫?聞こえてる?」


もう一度声を掛けてみる。するとさっきより痙攣の勢いが増した。


フィーは僕の存在に気づいたのか、トロンとしていた目を急に見開き、口をパクパクし始めた。


呼吸も荒く、僕の髪の毛をフィーの吐息が乱している。


「あ、あわ、あわわわわわ…」


口からは言葉にならない何かを発し、その度に体をビクビクと反応させている。


そして―――






「ぴゃあああああああああああああああああああああカイトしゃまああぁぁあぁぁぁ!!はぅ…」





奇声を上げ、気絶してしまった。


「え、何?何なの?」


いったいどうしたっていうんだよ!?


気絶したと言っても、顔色からして苦しんでそうなったわけではないらしい。


むしろその顔には天国へ昇天してしまうのではないだろうか、というほど幸せそうな表情を浮かべている。


足元には何かぬるぬるする水溜りが出来ていた。あとなんか生温かい…


「状況がまったくわからない…」


とりあえずこのままじゃまずいから、誰か助けを呼びにいこう。






◆◆◆◆◆◆





「それじゃあイリア、あとはよろしくね」


「はい、おまかせください!」


結局、フィーのことはたまたま通ったイリアにまかせることにした。


イリア曰く、どうやらただ意識を失っただけらしく、命に別状はないらしい。


ただ、万が一のためにフィーが起きるまでイリアが看病してくれるという。


イリアに頼んで正解だったよ。姉さんたちでもたぶん大丈夫だっただろうけど…


なんだろう、今みんなに会うのは非常に危険な気がする。気絶しているフィーを見ているとそんな気がして堪らない…


なんで?


疑問を抱きつつイリアを見送り、僕はキッチンに戻った。


「それにしても、いったいなんなんだろう、この水溜りは?」


ぬるぬるして、それでいて生温かい。色や匂いは無いみたいだけど、どう考えたって水ではないし…


姉さんが前に僕に使ったローション…ではなさそうだし…


「確かフィーが叫んだあたりから出来ていたような…」


う~ん、いったいなんなんだろうか。謎は深まるばかりだよ。


よくわからないので、とりあえず雑巾で拭い、床を綺麗にした。絨毯を敷いていない場所だったので、あっさりと拭い去ることが出来たのは不幸中の幸いだろうか。


「これでよし。さて、それじゃあ今日の夕飯を作るとしますか!」





◆◆◆◆◆◆





~フィーの部屋~



「よいしょっと。よし、これでもう大丈夫かな?」


イリアは、海斗から預かったフィーをベッドに寝かせ、タオルケットを掛けてあげた。


さらに、お湯で濡らしたおしぼりでフィーのベトベトになっている体を拭いていく。


「それにしても…フィー先輩、一体どうしちゃったんでしょうか…」


顔から始め、首、胸、お腹、と順々に体を拭いていく。擦るたび「ひゃあ」とか「あんっ」とか奇声を上げているが、イリアは気にせず続ける。


腰あたりまで拭い終わり、次は下半身だとスカートを捲りあげる。


そこでふとイリアは気づいたことを口にした。


「…どうしてここだけぬるぬるが拭いきれないんだろう…」


スカートの中にあたる部分を擦り続けるが、一向にぬるぬるは取れない。


拭えたと思っても、次の瞬間にフィーの体がビクッとなり、またぬるぬるが出てくるのだ。


ビクッとなる度「カイトしゃまー!」と叫ぶのだが、イリアにはわけがわからなかった。


「…とりあえずここは後回しにしよう…」


諦めたイリアは、足やその他細かいところ拭き始めた。


…ふと看護の手を止めたイリア、まわりを見渡した。


「それにしても…今日はずいぶんと静かですね…」


いつもは、果穂の狂乱の声や、優奈の歓喜の声など、さまざまな声が聞こえてくるのに、なぜか今日はまったく聞こえてこない。


物音はするので、いないわけではなさそうだが…


「みなさんどうしたのでしょうか…」


このとき、イリアや海斗は知らない。


覗き犯たちが各々の部屋で、海斗の裸体を思い浮かべて悶絶していることを…


「私もまだまだ半人前ってことなのでしょうか…」



水溜りの正体がなんだったのかは読者のみなさんのご想像におまかせします。

…世の中、知らないほうが幸せなことって意外なほど多いんですね…


次回は、ロロたちに関することで進展がある予定です。


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