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4、名案が浮かびました

~海斗邸 リビング~


「フィー、この世界で言うスラムの人々っていうのはどういう人たちなの?」


時間はすでに四時過ぎ。まだ夏なので日はまだまだ高い。


ロロたちと別れた僕とフィーは一度リビングに戻り、孝たちと状況を整理することにした。


フィーはお茶を一口すすり、ぽつりぽつりと語り始めた。


「まずスラムとはなんなのか、というところからご説明します。この国でいうスラムとは、放浪者やならず者、そのほかいろいろな事情を抱えた人たちの行き着く場所です。あそこではどんな人でも弱肉強食の世界で生きていかなければなりません。少ない食料と水を求めて、日々大小さまざまな争いが絶えないそうです」


「…かなり過酷な世界のようね」


「争いが絶えないとな…どの世界でもやはり人間は争いをするのじゃな…」


優奈やムラマサも真剣な表情でフィーの話に聞き入っている。今回の話はあまり冗談を言っていられるようなものではないと感じたのだろう。


「はい、おまけに衛生面もかなり悪いので、病気にむしばまれるひとも少なくないそうです」


「あのお気楽な王様は何か処置を施したりとかしていないのか?」


孝が怪訝そうな表情でフィーに問い詰める。なんだかんだで子供好きな孝からすれば、あの子たちの状況をそのままにしておくことが許せないようだ。


無論、僕や優奈、ムラマサも同意見だけどね。


「いいえ、何度もスラムの解体と人々の解放を試みていますが…何度解体しても、またすぐにスラムが再生してしまうんです…」


そうか、スラムを形作っているのは、ならず者や放浪者。そういう人たちは減らすことは出来ても、根絶やしにすることはできない。


これがこの世界の暗部ってわけか…


「それじゃああの子たちについては何か知っている?」


ロロやあの少年少女はどうしてスラムにいるのだろうか。


「…これは私の予想でしかないのですが。多分、あの子たちは孤児なんだと思います」


「孤児?」


「…病気や怪我、モンスターに襲われるなどして両親が他界してしまった子供たちのことです。おそらく、先ほど集まってきた子供たちも全員…」


…あんな小さな子たちに、親がいないだって…?


ロロやあの少年たちもいままでずっと、親の温もりを感じずに生きてきたというのか。


「海斗…」


「………」


「…どうして…どうしてそんな…!」


膝の上で握り締めた手が熱い。爪が食い込んで、指の隙間から血が流れた。


冗談じゃない。そんなものが許されてたまるものか!


赤子は親の優しさがないと育たない。小さな子は、父と母の温もりがあって初めて成長するんだ。


僕も10歳のときに両親の手から離れてしまったけど、僕の場合はまだ二人が生きていて、電話越しに声を聞く事が出来たからまだいい。


けど、あの子たちは違う。まわりにはたくさんの仲間がいるかもしれない。でもそれは、決して両親の温もりのそれとは違うのだ。


考えろ、考えるんだ新井海斗!何か、何かあの子たちに家族の温もりを与えられる方法があるはずだ!!


「何か、何か方法はないのか…」


自己満足かもしれない。否、これは完全に自己満足だ!


けど、それでも!僕はあの子たちを…ロロを救いたいんだ!


「こらっ」


「ふぇ?」


無理矢理に顔を上げられ、優奈に頭を抱かれた。


いつもの僕なら抵抗するはずなのに、不思議と落ち着いた。


耳元から優奈の優しい声が聞こえてくる。聞き慣れた、小さい頃から一緒に過ごしてきた幼馴染の声だ。


「あんまり一人で抱え込まないの。海斗の悪い癖だよ?」


「優奈…」


「…あのスラムの子たち、助けたいんでしょ?」


「え!?なんで、どうしてわかったの!?」


やっぱり優奈たちはエスパーなんだろうか…最近その正確さもましてきたような…


「何年幼馴染やってると思ってるのよ。それくらいわかるわよ」


まったく、と言いながらさらに優しく抱きしめられた。


昔は骨が折れるくらい強く抱きついてきたのに。今はこんなに優しく抱きつけるようになったのか。


「…あなたは一人じゃないのよ?もっとわたしたちを、家族(、、)を頼りなさいよ、バカ…」


「家族…」


「そうだぞ海斗。もっと俺たちを頼れって、な?」


「うむ、わしらは皆『家族』なんじゃ。主喜びはわしらの喜び、主のピンチはわしらのピンチじゃ」


「私はみなさんとはまだ短い付き合いですが、『家族』でありたいと願っています。もちろんカイト様が望むのなら今すぐ家族の契りをウヘヘ…」


うん、最後のはまったく聞こえなかった。うんそうだ、そうに違いない。


そっか、そうだよ。僕にはこんなに素敵な家族たちがいるじゃないか。ここにいるみんなだけじゃない。姉さんや志穂、美琴やイリアだって…


姉さんや志穂以外のみんなとは、血の繋がりはまったくないけど。それでも、共に暮らして支えあってきた家族なんだ。


家族に血の繋がりなんて必要ないんだ。


…………


……ん?血の繋がりのない家族?


「…そうか…その手があったか!!」


「きゃあ!?」


勢いよく立ち上がったせいで、優奈が後ろにひっくり返ってしまった。


優奈を立ち上がらせた僕は、思わず優奈のことをぎゅっと抱きしめてしまった。


「ありがとう優奈!優奈のおかげでどうしたらいいのかわかったよ!!」


「あ、あうあう…」


「あーっ!!」


「なぬっ!?」


「ほう」


これならあの子たちをなんとかすることができるかもしれない!


僕らにとってこの役目は大きすぎるけど、やるしかない!!


「イケる!これならイケるよ優奈!!」


「あ、あたしも逝けるかも…」


「カイト様ー!私もぎゅっとしてくださいよー!!」


「優奈ばかりずるいのじゃ!わしにもあつーい抱擁をするのじゃ!!」


「いやぁ…海斗も大胆になったな…」





◆◆◆◆◆◆




「本当にごめんなさい!!」


しばらく騒いで頭の中がすっきりしたよ。


すっきりしたのはいいけど、僕はその間にとんでもないことをしていたようだ。


なんと優奈に抱きついていたんだ。


誰が?僕自身が。


抱きつかれることはよくあったけど、まさか僕のほうから優奈を抱きしめるとは…


僕の脳内でいったいどんな思考が働いたんだろうか…


で、現在はそのことについて土下座で優奈に謝っています。


「あふぅ…もっと…もっと強く抱きしめてー!!」


肝心の優奈は僕の目の前の床に転がって痙攣しているけど…


僕に抱きつかれたのが相当ショックだったのだろう。そりゃそうだよね、急に男に抱きつかれたら誰だってショックだよね。


べ、別に傷ついてなんかいないからね!!


「あーるーじー!!わしのことも早く抱きしめてほしいのじゃ!!」


「そうですよ!はやく私のことも抱いてください!!」


「だーもー離れなさーい!あとフィー、その言い方は別の意味が含まれているからもう言わないようにね」


土下座しているところを抱きしめられると本当に苦しい。もうね、肺が圧迫されて窒息しそうなんですよ。


あとフィーの柔らかい胸が腕のあたりに当たってものすごくまずい。みんな忘れがちかも知れないけど、僕だってれっきとした男であってね…


こんなところ姉さんたちに見られたら…


あ、しまった!これフラグ――――







「たっだいまー!さぁ海斗、私とちゅっちゅしまちょーねー!!」


「お、お姉ちゃんずるいよー!」


「…海斗といちゃいちゃ…いい…」


「フィーせんぱーい、ただいま戻りました~」






「「「あ、」」」


「…頑張れよ」


…大丈夫だ。まだ言い訳のチャンスはあるはずだ。


まずは現状の確認。


僕、痙攣している優奈の前で土下座。その僕にフィーとムラマサが合体中。


孝は危険を感じてつい先ほど部屋から脱出。あとで絶対絞める!


…うん、こりゃ無理だね。


「さて海斗、言い訳はあるかしら?」


「私ね、お兄ちゃんともっと仲良くしたいなって思ってたんだー」


「…カイトペロペロ、カイトクンカクンカ、カイト(自主規制)。どれか選んで」


「アハハ、三人とも顔が近いよ?ねぇ、なんで僕の服を脱がしてるの?ねぇ、ねぇ!?」


わきわきと不自然すぎる手の動かし方で、僕の和服が見る見る脱がされていく。


ちなみに今日の和服は黒っぽいやつだったりする。って、そんなこと言っている場合じゃなかった!


まずい、まずいまずいまずい!!


「とりあえずここから脱出を…!?」


「カイト様、私ももう我慢できません」


「はぁ、はぁ、主よ、わしも体が疼いて疼いてしょうがないのじゃ」


だめだー!!ここにはもう変態しかいない!!


あ、っちょ、姉さん!それ以上は、


「それ以上は脱がしちゃらめぇーーーーーー!!!!」







◆◆◆◆◆◆



~海斗邸 玄関外~



『いやあああああああああ!!!』


「おーおー、盛り上がってんなー♪」


「あの、タカシ様?中でいったい何が起きているのですか?」


純粋な目で、孝を見つめるイリア。その言葉にはなんの含みもない、純粋な好奇心の気しか込められていない。


「あーその、だな…そ、そうだ!イリアは何してきたんだ?」


必死に話題を切り替えた孝だが、それに違和感を感じないままイリアは自分の持っている茶色の紙袋を少し持ち上げた。


袋の中には食材やら雑貨やらが見え隠れしている。


「先輩に頼まれて、ちょっとおつかいに行っていたんです」


「そ、そっか。ごくろうさま」


孝はついついイリアの頭を撫でた。高身長の孝からすると、イリアの頭は非常に撫でやすいのだ。


イリアはビクッと反応し驚いたが、慣れてくると目を細めて気持ちよさそうにし始めた。


「っは、す、すまん!また無意識に撫でてしまった」


孝は毎日のようにイリアの頭を撫でる。無意識らしいが、両者とも認め合っているので、大丈夫らしい。


手を退けると、イリアは名残惜しそうに「あ…」と声を漏らした。


「…もうちょっとだけ…お願いします…」


そっと孝の手を自分の頭に乗せ、孝の胸に体を預ける金髪の少女。そして小声でそう甘えてみた。


体を預けられた孝は、顔を真っ赤にしつつ、手を乗せた頭をやさしく撫でた。


そんな二人の仲睦まじい姿を、日暮れの太陽がやさしく包み込む。


『やめて美琴!そんなところ舐めまわさないで!!あ、ちょ、まっふわあああああああああ!?』


海斗の叫びをBGMにしながら。


ようやく投稿再開できました。

長らく投稿延期にしていて、本当に申し訳ありませんでした!!


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