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3、集まってきました

「あれ、そういえば海斗はどこ行ったんだ?ここにはいないみたいだが…」


「えっと…そろそろ戻って―――あ、カイト様!」


リビングの扉を開けると、みんなが一斉に僕のほうへ視線を向けてきた。その視線の中には先ほどの腹ペコ少年のものもあった。


少年の視線には、興味と威嚇いかくの意思が篭っていたが、僕はあえて気づかないフリをする。


「ん?ねぇ海斗、それは何?なんだかいい匂いがするんだけど」


優奈が僕を指差してきた。否、正確には僕の持っている大きな鍋のほうを指差してきたのだ。


僕はリビングの奥まで進み、その鍋をテーブルの上に置いた。中に入っているものが衝撃で揺れている感覚が持ち手越しに伝わってくる。


「ふふん、これはね―――」


「あ、ベーコンスープだ!!」


僕が意気揚々とフタを開けようとする前に、優奈がすばやく鍋のフタを取って正解を言ってしまった。


「優奈…少しは空気読んでよ…」


「あ、ごめん…なんか気になっちゃってさ☆」


「『気になっちゃってさ☆』じゃないよ!というか口で『☆』ってつけた人初めて見たよ!?」


どうやって表現したんだろう…永遠の謎になりそうだよ…


「ふぅ、まあいいけどね。えっと―――はい♪」


僕は近くに置いておいたお皿にスープを注ぎ、少年の前にそれを置いた。


少年は「はぇ?」と不思議な声を出して驚いた。


あれ?この感じ、どこかで聞いているような…


なんか、身近な『女の子』たちが似たような声を出していたような…


ま、気のせいか。


「どどど、どういうつもりだよ!?何か企んでいるのか!?」


少年は歯を剥き出しにして僕を睨み付けてくる、まるで野生の獣のようだ。


でもこの子は獣じゃない。どこからどうみたって人間だ。


「いや、特に意味なんてないよ?ただお腹が空いているんじゃないのかな、って思ったからさ?」


「な!?」


ボンッて音がしたんじゃないかってくらいの勢いで、少年の顔が真っ赤になった。


表情からして怒りではなく、羞恥心から来ているものだと思う。


「な、何言ってんだお前!そんなわけ『くぅ~』ふぐぅ…」


あ、やばい!涙目になっちゃったよ!!


「どどどどうしようタカえも~ん!」


「だれがタカえもんだアホ!!どっから出したそんな丸メガネ!?」


孝に助けを求めるも、スッパリと斬り捨てられてしまった。


さすが孝、ノリノリでツッコんでくれたよ。


って漫才してる場合じゃなかった!はやく泣き止ませないと!!


どうしたら?そう思いながら少年のほうへ向き直る。


「あ、これ美味しい!ほら、君も食べてみなって♪」


「え、あ、うん…」


……………


おかしいな…幻覚でも見えているのだろうか…


なんか優奈が少年とものすごく打ち解けているように見えるんだけど…


そういえば優奈って子供をあやすの得意だったっけ。


…孝の次くらいに。


そんなことを考えているうちに、少年の口にスプーンが運ばれていき…


「うぅ…」


口にベーコンスープを流した途端、目から大粒の涙を流し始めた。


ってええ!?


「ごめん!まさか泣くほどまずかったなんて…」


この国に住む人の口に、僕らのいた世界の食べ物がすべて合うわけじゃないし…


ああ~そこまで考えてなかったよ。


「うっく…違う…まずくなんか…ヒック…ねぇよ…」


「え、そうなの?じゃあどうして…」


わからない。この子が泣いている理由が僕にはわからない。


少年は涙をボロボロの服で拭い小さな、本当に小さな声で、


「だって…こんな温かいもの…いままで食ったことなかったから…」


「!?」


ああ、僕はなんてバカなんだろうか。こんなにもヒントがあったのに、どうしていままで僕は気づくことができなかったのだろうか。


ボロボロの服、乱れた髪、ガリガリに痩せた体、痛々しい生傷の数々…そして少年のこの生きるために必死なこの瞳。


これだけ情報があれば誰だって気づけるはずなのに…


「カイト様、どこか具合が悪いのですか?お顔の色がすぐれませんが…」


どうやら僕は相当ひどい顔をしていたらしい。心配そうにしているフィーの顔をみてようやく気づいた。


そうだ、これは今考えるべきことじゃない。自分を責めることはあとでも十分にできる。


(今はこの子のことについてだけ考えよう)


そう思い少年のほうを見ると、少年はスプーンを置き何か申し訳なさそうな顔をして俯いていた。


「どうしたの?もう食べなくてもいいの?」


すると少年は席を立ち、僕のほうを見て辛そうな表情を見せた。


「ボクだけこんな美味い物を食うわけにはいかないから、さ…」


「ボクだけ(、、)?」


どういうことだろうか…


もしかして、同じ境遇の子はこの子だけではないってことなのか?


「おい海斗、ちょっとこっちに来てくれ」


スープをさっさと飲み干し、窓辺でずっと外を眺めていた孝が、不意にこちらに向き直って僕を呼んできた。


なんだろう、声が少し上擦っていたような気が…


「どうしたの孝、また外に猫が集まってきたの?」


この家に住み始めてから、週3回は猫数十匹、庭に集まってくる。目的はたぶん餌と孝だろう。


その度猫にもみくちゃにされる孝はここ最近では最早日常風景と化している。


ちなみに猫の群れに孝を投げ込むのが僕の日課でもある。


「まぁ集まってきてるといえばまぁそうなんだが…」


妙に歯切れが悪いな。いつも躊躇なく発言する孝にしては珍しい。


「何?ついにライオンまで集まってきた?」


「ちげーよ!猫科なら何でも集まるわけじゃねーよ!!」


ふむ、なら猫科以外の動物も集まってくるわけか。


さすが孝、子供と動物のスペシャリストだ。(被害者とも言う)


「で、結局何が集まってきたのさ」


「…外の門、見てみろよ」


「門?」


言われたとおり、孝のいた位置から外にある鉄檻のような無骨な門を見る。









群がるように集まっているのは、大小さまざまな子供。その数およそ30人ほどが、門の外からこちらを見ているのがわかる。







「っ!?あいつら…」


いつの間にか僕の脇にいた少年が外を見るや、風のごとき速さで外へと駆け出した。


…なぜか窓から。


「な、なんだ!?」


孝が珍しくうろたえているが、今はそれどころじゃない!


はやく追いかけねば!


「カ、カイト様!?いったい何を!?」


「ごめん、ちょっとあの子を追いかけてくる!」


慌てふためくフィーに一言だけそう告げ、少年が飛び出した窓から僕も身を乗り出す。


小柄な体型が役に立ち、すんなりと通り抜けることができた。


…良いことのはずなのに、なんだろうこの敗北感…


そんな不思議な感覚を気にしつつ、ものすごい速さで門に近づく少年の背中を、僕は必死に追いかけた。


…修行で鍛えた僕でも追いつけないって、いったいどんな生活をしてきたのだろうか…






◆◆◆◆◆◆





「お前ら、いったいどうしてここに来たんだよ!?危ないってわかってるだろうが!!」


「いやだって君、ぜんぜん帰ってこなかったじゃないか」


「わたしたち、あなたが心配でここまで来たんです」


「だからって…チビ共まで連れてくることないじゃないか…」


「すまない…どうしても行くと言って聞かなくてな…」


門に近づくと少年たちの会話が聞こえてきた。会話からしてどうやら知り合いとかってレベルの仲ではなさそうだけど…


門の外側から少年と話しているのは、中肉中背の少年と帽子を被った長身の少女、その背後には12歳ほどの子から2歳児くらいの子がズラァーっと列を成している。そしてどの子も皆ボロボロの服を着て、ガリガリに痩せ細っていた。


「お、おいロロ!後ろから追いついてきているぞ!早くこちら側に!!」


「え、あ、ああ…」


どうやら僕のことを『敵』と見なしているらしい。門の外の子供たちは、目に恐怖の念をともらせている。


ロロと呼ばれた先ほどの盗賊少年は、軽い身のこなしで慎重の3倍以上はあるであろう門を楽々超えて、向こう側に着地した。


「さ、早くここから逃げましょう!」


女の子のほうがロロの手を握り、引きずるようにもと来た道を走っていった。


それに続くように子供たちもついて行き、最後に先ほど盗賊少年を『ロロ』と呼んだ少年がそれについて行こうと走る体勢になる。


「待って!」


咄嗟とっさに少年を呼び止める。少年はその場で立ち止まり、こちらに向き直った。


その目には出会ったばかりのロロとは違い、殺意は込められていなかった。恐怖の感情は感じられるが、気のせいか敵意は伝わってこない。


何も言わない少年に向かって、僕は『インデックス』から取り出した大型リュックサックを弧を描くようにして投げた。


リュックサックは門を越え、少年の前にドスンと音を立てて落ちた。


少年はものすごく驚いたようだが、そんなことは気にしていられない。


「その中に大量の水と食べ物が詰まっているから、持って行ってほしいんだ」


簡単に中身の説明を一方的にする。少年は「え?」という表情のままその場で固まってしまっている。


『被害者』である僕がどうして食べ物を渡してくるのかわからないのだろう。


『何をしているのですかー!はやくあなたも逃げてください!!』


遠くから先ほどの少女の声が聞こえてきた。


「え?えっと…えっと…」


少年はリュックと逃げ道を交互に見てあたふたとしている。


ああもうじれったい!


「ほら、早く友達のところに行かないと!食料は安全なものだから心配しなくていいから!!」


「っ!…ありがとうございます」


ペコリと頭を下げてお礼を言った少年は、僕の投げたリュックを軽々と担ぎ、ものすごい速さで走り去っていった。


…あの荷物、大量の食料が詰まってるから、かなり重いはずなんだけどな…


そんなことを考えながら少年の走り去った道を眺めていると、後ろからフィーが近づいてきた。


「カイト様…」


「…フィー、やっぱりあの子たちって…」


僕はずっと頭の中をよぎっていた疑問をフィーに尋ねた。


はずれてほしいという気持ちもあったが、僕のなかでは答えをほぼ確信していた。


「…はい、あの子たちは―――」









「スラム。…この国、いえ…この世界の暗部で住む子です」


はずれてほしかった予想は、見事ど真ん中に的中してしまった。




ようやく泥棒少年(?)の名前が明らかになりました。この子との関係がどのようなものになるのか、それは今後のお楽しみということで。


感想・評価、受け付けています!海斗たち共々、今後もよろしくお願いします♪





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