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2、縛られていました

若干長い上にほとんど話が進みません。申し訳ありません…

~クラストの森 草原地帯~


「よし、ここまでくればもう大丈夫だ!」


「よし、そんじゃあ反撃といきますか!!」


なんとか目的地の草原まで逃げ切ることができた僕ら三人。でも敵の数はまったく減っていない…どころかさっきよりもっと増えている。


モンスターの種類も逃げている最中に変わったみたいで、ハエ型のモンスターやゴリラ型のモンスターがいなくなり、かわりに人型の魔物が大半を占めている。


…しかもなぜかすべて雌。手には巨大な爪がついているし下半身は植物だから魔物だってわかるけど、ぱっと見ただけなら完全に人間にしか見えない。


「…人型モンスターって、正直あまり戦いたくないんだよね…」


「まぁ、それは言えるわね。」


人間に近いせいか、斬るとものすごく痛そうにするんだよね…


まるで虐殺でもしているような気分になるから、できるだけ人型との戦闘は避けている。


それについては優奈たちも同感らしい。


だけど今回はばかりはそうも言っていられないみたいだ。


「ざっと50ってところか…さすがに逃げるのは無理そうだな…」


しかも現在僕らはその群れのど真ん中にいたりする。さすがにこれは逃げられそうにない。


そんなのんきなことを言っている間にも、魔物はじりじりとその距離を縮めてくる。


口からは涎を垂らし、目には先ほどのモンスター同様ハートが見える。


「孝…僕、今すぐこの場から逃げたいんだけど…」


「ああ、俺もだ―――って海斗!足元、気をつけろ!!」


「え?」


シュルシュルという音がしたと思ったら足が何かに引っ張られた。体を支えていたものが急になくなり、体のバランスを大きく崩れる。


体勢を崩した僕は頭を地面で強打したらしく、目がチカチカする。


遠くなっていく意識の中で見たのは、馬乗りになってくるモンスターの姿だけだった。頬を朱に染め、舌なめずりするその姿はどこかで見覚えがあるような…


というかまた気絶ですかそうですか…





◆◆◆◆◆◆





「…と…い…っば…」


んん、誰だろう…誰かの声が響く…


とても聞きなれた、昔からずっと聞いてきた声のような…


「起きてよ!ねぇ海斗ってば!!」


「ふなっ!?」


急に意識が戻ったと思ったら、目の前に優奈の顔があった。びっくりしすぎていままで出したことのないような声が出ちゃったよ。


って、それどころじゃないや!!


「魔物は!?あの群れはいったいどうなったの!?」


僕は体を寝かせたまま、優奈を問い詰める。


すると、優奈がいままで見た事もないような、恐ろしい顔で、


「コロシタヨ?」


そう言ってきた。


ただそれだけのことなのに、僕はいままで感じたことのない恐怖を覚えた。


まわりを見渡すが、あるのは血まみれの肉の山と何かの植物の残骸。もしあれが先ほどのモンスターだったとしても、今は見る影もない。


「あいつら、よくもあたしの海斗を汚したわね…もう死んでるだろうけど、まだ許せない…許すもんですか…」


「えっと…」


どうしよう、ものすごく怖い…なんか優奈の体からどす黒いオーラが見えるんだけど…


ちなみに現在の僕は優奈に膝枕をされている。正直ものすごく恥ずかしいけど、優奈がとんでもない力で僕の頭を押さえつけているせいで首すらまともに動かせない。


「やれやれ、やっと起きたか」


木陰のほうから男の声が聞こえてきた。たぶん孝だろう。


振り向けないから誰なのか声で判断するしかないけど。


「孝!いままでどこに行ってたのさ!?」


「あ?ああ、依頼の報告とそれからほれ、お前の着替えを持ってきたんだ。」


「着替え?」


そう言う孝の手には、僕が前に買った紺色の和服が掴まれていた。


何のことだろうと思い、視線だけを自分の体に向ける。


「………え?」


なんということでしょう。服はドロドロのぬるぬる、おまけにところどころ破けているではありませんか。あと顔も気のせいかヌメヌメしているような。


…なんで僕はヒロインでもないのにこんなにヌルヌルになって服がボロボロになるのだろう…


誰が得するんだろうか…


「ぬるぬるでベタベタの海斗…エロい…エロすぎるわ!!」


いたよ。現在進行形で僕に膝枕している人がそうだったよ。


待って、お願いだから鼻血を垂らさないで!目に入りそうで恐い!!


「なんでこうなったのかは、気にしたら負け…なのかな?」


「ああ、お前はなにも知らなくていい。知らなくていいんだ」


そっか、そんなにひどいことが僕の身に起きたのか…


ねぇ孝、お願いだから遠い目をしないでよ。何されたかわからないから余計不安になるじゃないか…


「ま、目が覚めたんならとっとと帰ろうぜ。殲滅したとはいえ、ここはまだ魔物がいるしな。」


「それもそうだね。そろそろ帰ろうか。ほら優奈、もう帰るよ」


「エロいエロいエロい――――――っは!?そそそそそうね!!そろそろ帰ろっか!!」


「…孝、早く着替えちょうだい」


「あ、ああ…」


大丈夫、優奈は少し疲れているだけなんだ。帰ってゆっくり休めばきっと元の僕の幼馴染に戻るはずなんだ。


そうだ、そうに違いない…


「…元々こんなんだった気がするんだけどな…海斗も疲労で壊れたか」


「何をブツブツ言っているのさ。ほら、早く帰ろうよ」


「…はぁ、了解」






◆◆◆◆◆◆



~海斗邸~



「ふぅ、やっと着いたね」


「ああ、意外と遠かったな」


「疲れているせいかも…いつもだったらこれの2倍は早く帰って来れたもの」


「わしもいささか疲れたのじゃ。魔物を斬ると刀のほうもそれなりに負担がかかるのじゃ…あーよいしょっと」


腰に付けていた村正が少し光り、人間のムラマサに戻った。疲れた顔をして、首や背中をコキコキと鳴らしている。


現在の時刻はもうすでに三時に差掛かろうとしている。魔物との戦闘のせいか、かなりお腹が空いた。


みんなも相当疲弊しているらしく、だいぶ限界が近いみたいだ。


一刻も早くお昼ごはんにありつきたい。


「ただいま~」


玄関の扉を開けるとエアコン(空気調節結晶に僕らがつけた呼び名)によって涼しくなった部屋の空気が一気に押し寄せてきた。


ああ、この感覚が夏の醍醐味だよね。この汗が一気に冷える感じがなんとも…


「あ、おかえりなさいませカイト様♪今日は随分と遅かったですね」


部屋の涼しさに浸っていると、キッチンのほうからフィーが出迎えてくれた。


その手には、なぜか荒縄が…


「ごめんなさいフィーさん!まさかそこまで怒っていらっしゃったとは!!」


瞬間、光の速さで床に伏せ、お得意の土下座を披露した。


だって荒縄だよ!?使い道なんてそうそうないじゃないか!!


僕の中だと荒縄=拘束&拷問っていう解釈だからね!!


「カ、カイト様!?あわわ、頭を上げてください!!別に遅くなったことは怒っていませんし、何もしませんから!!」


「ホントに?よかった~。また縛られるのかと思ったから…」


ちなみにこの世界に来てから、フィーに拘束されたのはすでに10回以上。お風呂に乱入されたのが15回。


警戒レベルはすでにマックスぎりぎりだったりして。


「はぁ~安心したらお腹空いてたの思い出しちゃった」


もうかなりお腹空いちゃったから…簡単なものでいっか。


そんなことを考えながらキッチンの扉を開ける。


「あ、カイト様!?な、中にはいっちゃらめぇー!!」


「何変なこと言って――――」









「むがー!!!ふぁふぁへ(はなせ)ー!!」







僕の足元に、明らかに子供だとわかる子が簀巻(すま)き&猿轡(さるぐつわ)の状態で床に転がされている。


子供は抗議の目で僕を睨み付けてきた。


「…あの、フィー?」


「カイト様?カイト様はきっと誤解しています!」


「うん、そうだね。フィーにいたいけな子供を縛る趣味があるなんてこれっぽっちも思ってないから」


「なら私と目を合わせてくださいよ!誤解なんですー!!」


ああ、友人に特殊な性癖があったときってきっとこんな気持ちなんだろうな…


ふふぃむるは(むしするな)ー!!







◆◆◆◆◆◆







「だからこの子は盗賊!泥棒だったんです!!」


「わかった、わかったから落ち着いてフィー!近い!近いから!!」


フィーの必死の弁解の末、なんとか状況を理解することができた。


どうやら僕らが留守にしている間に、この子が屋敷内に侵入して食料を盗もうとしていたらしい。


物音に気づいたフィーがそれを未然に防ぎ、こうして拘束していたらしい。


「それにしてもこんなに小さな子が…」


ちょっと長めの髪(土か何かで汚れていて色が判断できない)に、ボロボロの服。所々に生傷があり、腕や足を見る限りかなり痩せているようだ。


見た目からしてまだ小学校高学年ってところかな…あとたぶん男子。


「小さい言うな!これでももう14歳なんだからな!」


嘘!?この見た目で14歳だと!?志穂と同い年じゃないか!!


世の中見た目で判断しちゃいけないって本当だったんだ…


「君、名前は?」


「ふん、あんたら貴族に名乗るような名なんてねえよ!」


「カ、カイト様になんて無礼な!」


今にも殴りかかりそうになっているフィーを手で制す。渋々だったが、フィーはおとなしく引いてくれた。


ちなみに少年の拘束はすべて解いてある。別に逃げたってまったく問題ないが、逃げ出そうとする素振りすら見せない。何か裏があると思われているのだろうか…


「なんだよ。貴族ならボクみたいな小汚いガキ、さっさと殺せよ!」


「!?」


どうしてこの子はこんなに悲しいこと、さも簡単そうに言うのだろうか。目にも怒りの感情以外、特に恐怖の感情がまったく見られない。


本気で言っているんだ。


部屋一帯が黒く緊張した空気で張り詰める。







『くぅ~』






「「「「「………」」」」」


全員が少年のほうに視線を向ける。視線の先の少年は顔を真っ赤にして抗議してきた。


「な、なんだよ!?ボクじゃないぞ!ボクなわけ『くぅ~』あうぅ…」


一緊張した空気は破られ、代わりに穏やかな空気が部屋を満たしていった。


さすが空腹の音!緊張した空気も一瞬で崩したよ!


「なかなか可愛い音じゃないか」


「あらあら」


「くぅ~って、くぅ~ってなったのじゃ!あははははははは!!」


「わ、笑うな!し、仕方ねぇだろ!腹減ってしょうがねぇんだからよ!!」


ああ、やっぱりこういう空気のほうが居心地がいいや。


しかし、お腹が空いているのか…


「よし、みんなちょっと待っててね。すぐやってくるから。」


「あら?カイト様、どちらへ?」


団欒から抜け、フィーが僕のほうを向いて聞いてきた。


「えっと、まぁちょっと、ね。」


そういいながら自分のお腹のあたりを指差す。


フィーは何のことなのか悟ったのか、驚いた顔をしていたが、「カイト様らしいですね」と微笑んでくれた。


さて、それじゃあとっととやっちゃうとしますか!






――――――――――――――――――――――――





~フィキペディア~



『人型モンスター』


広い範囲に生息するモンスター。様々な種類がおり、中には人間そっくりのモンスターもいる。人型モンスターの範囲は広く、サキュバスなども人型に分類される。

海斗たちの言う人型とは、姿形が限りなく人間に近いものなどを指している。

人型モンスターは繁殖力が高く、雄より雌のほうが圧倒的に多い。とある科学者の話によると人型と言われる魔物の9割9分は雌だという。それゆえに雄が足りないため、人間の男が襲われる話は珍しくない。一度襲われれば最後、集団に根こそぎ持っていかれるという。

ちなみに今回海斗たちが戦ったのは『ドリアード』という半人半植物の魔物である。



『ドリアード』


上半身は人間、下半身は植物のモンスター。集団戦法を得意とし、熟練の戦士でも数が多ければかなりの脅威となる。美しい女性の容姿をしており、人を森に誘いこみ襲う。

下半身の植物には長い触手がいくつもあり、それを自在に操って敵を翻弄する。

半分は植物だが、胎生である。





















盗賊の正体はなんと子供!おまけにボロボロの服にガリガリに痩せた体…

ここまで書いちゃったらもうわかっちゃうじゃなかろうか、と思いつつ書きました。


海斗がモンスターにナニされたのかは伏せておきます。ご想像におまかせします。


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