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55、膝枕しました

体調崩して、しばらく寝込んでいました。

投稿遅れてしまい、本当にすみませんでした!

「よっと。あ、帰りはここに出るんだ。」


どうやら帰りの穴は屋敷外の井戸付近に繋がっているようだ。


なんで屋内から屋外に移動したんだろう…


「さてと。みんなそろそろ帰ってきてるころかな?」


腕時計は12時ちょっと前のあたりを示している。もうお昼か、意外と時間かかったんだな。


とりあえず屋敷の中に入ろう。みんなが帰ってきてたらすぐに昼食の準備をしないと。


夏の暑さで温まった玄関に手をかける。日陰なのにこの暑さ…なかなか体に堪えるね…


『…さん…しっか…めを…』


ん?中に人の気配がする。なんか声も聞こえるし、誰か帰ってきたのかな?


「ただいま~」


ま、誰がいようと僕は堂々とするけどね。






「…………」





バタンと勢いよく扉を閉めその場から数歩離れる。


ごめんなさい、堂々としていられませんでした。生まれたての小鹿ばりに足がガクガクしてます、はい。


「あの状況はいったい…」


怖い…ものすごく怖い。けど、さっきのがなんだったのかしっかり確認しないと…


先ほどと違い今度は少しだけ扉を開けて中を覗き込む。


「…………」


そして目の前に広がる光景に息を呑んだ。


玄関前に倒れている人が3人、隅のほうで何かをつぶやき続けているボブカットの女の子が1人、天井を虚ろな目で眺めている幼女が1人。あとはそれらの人たちに必死に呼びかけている人が3人。


玄関は昼間なのに、なぜか薄暗くものすごく重い空気が漂っている。


「…………」


え、もしかして僕はこんなカオス空間に今から突っ込まなきゃいけないの?


確かにみんな心配だし今すぐそばに駆け寄りたいけど、なんだろう…なぜか本能がそれを拒絶しているような…


「でもほっとくわけにもいかないよね。」


よし、深呼吸だ。気持ちを落ち着かせて―――


「ヒッヒッフー、ヒッヒッフ―」


よし!この前知り合いの妊婦さんに教えてもらったこの呼吸法をすれば大丈夫だ!!


ところでこの呼吸法ってどういうときに使うんだっけ?


まぁいいや、行くぞ!


「みんな大丈夫!?」


扉を開けてとっさに出たのはなぜか心配の言葉。もっと愉快に入るつもりだったのに…おかしいな…


するとずっと声をかけ続けている人物の一人がこちらに振り返った。その顔には焦りの表情が浮かんでいた。


「カイト様…」


「フィー、この状況はいったい?」


どうしてこうなったのか確認したい。そして早くこの状況をなんとかしないと。


「カイト様…よか…った…」


だがフィーは僕の顔を見た途端、安堵の表情を浮かべてその場に倒れた。


「フィー?フィー!?どうしたの、しっかりして!!」


傍に駆け寄って声を掛けるもまったく起きる気配がない。声を掛ける度に顔はニヤけてるのに…


すると正面のほうから聞きなれた声と鳥の囀りのような声が聞こえてきた。


「大丈夫だ、たぶん緊張が解けて気を失ったんだろう。」


「脈もありますし呼吸もあります。命にはまったく別状ありません。」


「孝!イリアさん!」


呼びかけをしていた残りの二人が僕のもとに歩いてくる。


なんだかものすごく疲れた顔をしているような…


「この状況はいったい?僕がいない間にいったい何があったのさ?ギルドの登録は無事に済んだの?」


「どうどう。少し落ち着けよ海斗。そんないっぺんに答えられないっての。」


「あ、ごめん…」


どうやら僕もものすごく動揺しているようだ。やっぱり家族や友人がこんなことになっているからなのかな?


僕らしくないけど、こういうことで動揺できるのはいいことなのかな?


「んんっ、それじゃあ順番に説明していくぞ。」


軽く咳払いした孝が淡々とした口調で話し始めた。






「まずギルド登録のほうだが、問題なく済んだぞ。職業も決まったしギルドカードも手に入れた。」


「そっか。これで念話が可能になったんだね。」


念話ができるようになれば今後いろいろと便利だし、これは大きな収穫かもしれない。


「ああ、そこまでは問題なかったんだが…」


二人の表情が一気に暗くなったような気がする。本当に何があったのだろうか。


すると今度はイリアが口を開いた。


「みなさん、てっきりお屋敷にカイト様がいると思っていたらしくて、帰ってきた途端屋敷中を捜しまわりまして…」


「で、結局お前が見つからなくてここで力尽きたってわけだ。フィーはお前から事情を聞いてたらしいからまだよかったが、他のやつは見てのとおりだ。」


嘘でしょ?僕がいなかっただけでまさかここまでなるとは思わなかった…


というか僕の存在っていったいなんなの!?新種の麻薬か何かなの!?


「僕は脱法ハーブのような存在だったのか…」


「お前のその思考回路にもなんだか慣れてきたな。」


むっ、孝がまた呆れたような顔をしてる…僕のどこに呆れる要素があるっていうんだ!


まったく、失礼しちゃうな!


「それはおいといて。その後は俺とイリア、フィーの三人でみんなを介抱していたってわけだ。」


「そっか。なんだか迷惑をかけたみたいだね。」


「まったくだぜ!お前こそいままでどこ行ってたんだよ?」


「あ、うん、それなんだけどね―――」




~♪かくかくしかじか少年説明中♪~




「なるほどな…海斗、グッジョブだ!」


「うん、これで僕らの安浴は守られたぞ!!」


今後はゆっくりと湯船に浸かれるぞ!、と孝がハイテンション気味に叫ぶ。


相当あの風呂にストレスを感じていたようだ。


無論僕も同じ気持ちだけどね。


「えっと、私には何がなんだか…」


ゆらゆらと長い髪を揺らしながら小首を傾げるイリアが、僕らには妙に眩しかった。


こんな純粋な娘があんな事実を知ってしまったらきっと壊れてしまうだろう。


「イリアは知らなくていいことだから、な?」


「ええっ!?」


少し傷ついたような顔をしてしまったが、僕らは心を鬼にして事実を隠さなくてはならない。


この純粋無垢な心を守るためにも!!


「って、そんなこと言ってる場合じゃなかった!早く優奈たちをなんとかしないと!!」


見る限りだとみんなかなり衰弱しているみたいだ。呼吸もなんだか弱々しい。


特に隅で呪詛を吐いている美琴や、天井を無表情で眺めているムラマサは早くなんとかしないとかなりまずい気がする。


どうすればいいんだろうか。


「孝はこういうときの対処法とか分かる?」


知識に関しては孝のほうが上だ。こいつなら何か知ってるかもしれない。


すると孝は急に真顔になり、僕の目を見据える。


自然と空気に緊張がはしる。なんだ、いったいなんだっていうんだ。


そして孝の口が重く開き、






「膝枕をしろ。」





ただそう一言、僕に向かって言った。


イリアや倒れているフィーになどではなく、なぜか僕に。


「は?」


意味がまったくわからない。は?膝枕?Hizamakura?


「だから、こいつらにお前が膝枕をしてやれって言ってんだ!」


だめだ、どうやら孝まで頭がおかしくなったようだ。そりゃそうだ、こんな空気の中ずっとみんなの介抱をしていだんだ。いままで狂っていなかったのが奇跡なくらいだ。


そろそろ孝も休んだほうがいい。


「孝、もう休んでいいよ。ここまでよく頑張ったよ。」


「馬鹿野郎!そんな哀れみの目で俺を見るな!別に俺は世迷言を吐いているわけじゃないっての!!」


え?あれが世迷言じゃないだって?それじゃあ孝はあんなことを本気で言っていたというのか?


僕にはもう何がなんだかわからなくなってきたよ…


「あの、タカシ様…その…そのような作戦で本当に成功するのでしょうか?」


「そうだよ孝!みんなこんなに衰弱しているんだよ?膝枕程度でどうにかなる問題じゃないでしょ!?」


逆にそれで治ったら、医療業界に革命が起きるよ。『衰弱死を膝枕で回避!!』か『鬱病を膝枕で解消!!』っていうような題名で新聞に載る騒ぎになるよ?


「いいから騙されたと思ってやってみろ。たぶんそれでこの問題は解決できる。」


っく、こんな真顔で言って…本当に騙される気しかしないんだけど…


「ああもうわかったよ!!やるよ!やればいいんでしょ!!」


こうなったらもうヤケだ!膝枕でも耳かきでも何でもやってやる!


とりあえず床に正座し、一番近くに倒れている志穂の頭を太ももに乗せる。体制のせいで、志穂の顔が僕のお腹あたりに埋まってしまう。


とりあえず頭をやさしく撫でる。猫耳っぽい癖っ毛がビクッと反応する。


なんで髪の毛が反応しているのだろうか…


あれ?なんか腹部が生温かい。志穂の体もなんだかビクビクと痙攣しているような…


お腹に埋まっている志穂の顔を覗き込む。その顔はなんだか赤くなっているような気がする。


呼吸もさっきとは打って変わって荒くなっている。


「…志穂、もしかして起きてる?」


その一言に志穂の体がビクッと反応するも、返事はない。


だが頭や腕をもぞもぞと動かしているところを見る限りだと、やはり起きているようだ。


「な、言っただろ?お前が膝枕すれば問題解決だってな!」


ものすごくいい笑顔で親指を立ててくる孝。


ああ、なんだろうこの気持ち。これでみんなが助かるんだから嬉しいはずなのに、なんだろうこの敗北感。


「こんなの…こんなの…」







「僕は認めないんだからねーーーーーーーーーー!!」






暗い天井に向かって叫ぶ。肺の中の空気をありったけ使って叫ぶ。


「ん…お兄ちゃんの匂い…」


そんな叫びの下、志穂は幸せそうな表情で顔を擦り付けてきていた。




海斗の膝枕は不治の病さえも治す可能性が…いえ、何でもありません。


そろそろ僕の中での第一章が完結しそうです。第二章は現在骨組みが完成したところです。


毎度読んでいただき、本当にありがとうございます!!


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