51、洗い流しました そのイチッ!
「まったく…なんて強引なんだ…」
犯罪集団(姉さん達)に連行された僕は現在、男湯の脱衣所でドロドロに汚れた服を脱いでいる。脱ぐ度ヌチャっと音を立てて皮膚と服の間で糸をひいている。
顔や髪にもべったりと付いてしまっていて、正直ものすごく気持ち悪い。
ちなみに姉さんたちには「絶対に覗かないでね!!」と釘を刺しておいたが、まったくの無意味だろう。
…もう僕お婿にいけないよ。
「水着の持ち合わせはなし、か。とりあえずタオルで厳重に隠して、浴場で絶対にはずさないようにしないと…」
腰にタオルを巻きつけていると、後ろの扉がガラッと開く音がした。まさか姉さんたちが急襲!?
ならば先制してやる!!僕だってやられっぱなしじゃないんだぞ!?
「覗きがダメなら直接入ってくるとか、何考えてるのさ!?」
「は?何言ってんだお前?」
後ろを振り返ると、そこには姉さんではなく、なぜか例のドロドロにまみれた孝が立っていた。
その顔には「こいつついに狂ったか?」と書いてあるようだった。
くぅ~バカにするような目で僕を見るな!
「はぁ、まあいい。とりあえず風呂に入るぞ…」
疲れた顔をしながら、孝も上着を脱ぎ始めた。ふむ、こいつの体格…絶対パティシエ志望の人の体格じゃないよ。どっちかっていうと、傭兵の部隊長とか言ったほうが納得できる。
…じゃなくって!
「どうして孝までドロドロになってるのさ!」
姉さんたちの仕業ではないだろうし…孝が自分から被るとは思えないし…
そうか、はっきりとわかったぞ!
「ついにドロドロまで手懐けたんだね!?この天然ジゴロ!!」
「お前の頭はどうしてそんな幸せ思考なんだ!?」
「ふふん、もっと褒めるがいい!」
「褒めてねえよ…」
え、違うの?幸せ思考って最高の褒め言葉じゃないの?
「それに、天然ジゴロはお前のことだろうが!」
「そんなわけないじゃないか!僕がみんなからチヤホヤされるのは『愛され体質』のせいなんだからね!」
僕が女の子を口説けるわけないでしょうが!ええそうですよ、どうせ僕はチキン野郎ですよーだ!!
「こいつ、マジで自覚なかったのかよ…」
「ん、何言ってるか聞こえないよ?」
額に手をあててあからさまに呆れてる孝。僕、何も変なことなんて言ってないよ。
…言ってないよね?
「もういいや。話を戻すとだな、このドロドロはイリアにやられたものなんだ…」
え?
「あのイリアさんが?」
「ああ、お前らが部屋からいなくなった直後にだな―――――」
◆◆◆◆◆◆
~ちょっと前~
「…行っちゃいましたね。」
「ああ、相変わらずあいつも大変だな。」
ま、いつもあんな感じだし、たぶん大丈夫だろ。
「それにしてもこの『ろーしょん』?というものは一体なんなのでしょう?」
果穂さんが置いていったボトルの中身をまじまじと見つめるイリア。その姿には惹かれるところがあるが、見ているものがあれなだけに、どう反応したものか…
「う~ん?わわっ、何か出てきましたよ!?」
イリアの持つボトルの先端部分から半透明な液体が出ているのが見える。天井の光を反射して妙に輝いているのは俺の見間違いではなさそうだ。
そして半透明な液体はみるみるボトルを伝っていき、イリアの胸元に垂れた。
「ひゃう!?」
どうやら冷たかったらしく、イリアわたわたし始めた。その姿が可愛らしくてついつい見惚れてしまう。
というか俺は何をまじまじと見ているんだ!
「みょへ~手にも付きました…うわっ、なんかヌルヌルして…ふわっ!?」
手の付いたローションのせいで、ボトルがイリアの手をすり抜けようとしている。それをイリアは必死に抑えようとしていたが、なかなかうまく掴めない。
そして、
「うみゃっ!?」
いつの間にか足元に垂れていたローションに足を取られ、イリアは盛大にすっ転んだ。まるでアニメのような転び方につい気を取られてしまった。
ローションボトルは空中に放られ、弧を描きながら俺の頭上に飛んできた。そして―――
「うおっ!?」
バシャっと頭からローションを被ってしまった。
「ふみゅっ」
と同時にイリアが絨毯にダイブした。
◆◆◆◆◆◆
「―――というわけだ。まぁイリアのせいって言うより事故みたいなものだったけどな。」
「なるほど。つまり孝とイリアさんでイチャついていた、と。」
「お前は俺の何の話を聞いていたんだ!?」
え、ローションで遊んでたっていう話じゃないのか?僕には惚気にしか聞こえなかったんだけどな~?
「それより、イリアさんはどうしたのさ?まさかそのまま放置してきたの?」
「いや、その後ものすごい勢いで謝られてな。最初っから怒ってなんかいなかったんだけどな…」
ボリボリと頭を掻きながら恥ずかしそうに言ってきた。ああ、なんだかその光景が目に浮かぶようだよ。
「で、『私がすべて洗い流します!』って言ってきたから丁重に断ってきた。」
「そこに邪な考えは?」
「なかったな。純粋に責任を感じていたみたいだったぞ。」
そうか、イリアは純粋っ子みたいだな。姉さんたちにも見習ってほしいものだよ…
僕のまわりには変態しかいないのか?
「…その、ドンマイ?」
ポンポンと孝が僕の肩をやさしく叩いた。
うっ、涙出そう…
◆◆◆◆◆◆
「やばっ、ローションが乾いてきた。とっとと洗い流しちまおう。」
「そうだね。あ、お風呂の構造、忘れてないよね。」
「は?なに言って―――そうだった、すっかり忘れてた…」
孝の顔に絶望の色が窺える。その目からは生気が感じられない…
「…先に入ってるよ?」
そっとしておいたほうが良いと判断した僕は一人、浴場の入り口をくぐった。
後ろから『いっそのこと服着たまま入るか?』とか聞こえたが無視した。
◆◆◆◆◆◆
「ふわぁ~気持ち良い~♪」
サッと体を流した僕は早速湯船に浸かった。さすがに湯船の中までは見れないだろうというえ考えもあったが、なにより早く体の疲れを癒したかったからだ。
『ちょ、押さないで!ここがベストポジションなんだから!!』
『私にも見せてくださいよ~』
『お兄ちゃんの体って引き締まってるけど、なんだか女の子みたいで可愛い♪』
『…ぷしゅ~』
『ふむ、これはなかなかよいものじゃの。』
『美琴しっかり!?ムラマサちゃん鼻血鼻血!!』
…………
…隣が騒がしくて全然疲れがとれない…
「…体、どうやって洗えばいいのかな?」
体を洗う場所は例の壁に隣接してるから、間近で姉さんたちに裸体をさらすことになる…
「はぁ、いまさらどうこう言ったってしょうがないか…」
湯船の中でタオルをもう一度巻きなおして、湯船から上がる。
「さっさとドロドロを洗い流して出よう…」
壁の向こうから『来たー!!』とか『撮影の準備を!早く!!』とか聞こえてくるけど、もう何も気にしない、気にしない…
あれ、おかしいな。顔を洗ったわけでもないのに目の前が霞んでよく見えないや…
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~フィキペディア~
『例のドロドロ』
前回果穂が海斗に使用したローションのこと。粘性が高く、媚薬効果などもあるとか。
『天然ジゴロ』
無意識に女性を口説く人のこと。自覚がない分かなり性質が悪い。優しさに溢れた人間がこれになることが稀にある。
相手が今欲しい言葉を無意識に掛けられるのはある意味いいことなのかもしれないが、妙なトラブルに巻き込まれないように注意が必要。
ちなみに天然ジゴロの人がよく言われるのが「いつか背中を刺されるよ」だとか。
『アニメのような転び方』
通常、転んでから床にダイブするまで1秒とかからないが、この転び方の場合、滞空時間がかなり延長される。その時間なんと2~5秒!ふわっとしている人や、のほほんとしている人がなりやすい。
転ぶときは『ふわぁ~!?』床にダイブするときは『ふみゃ。』などの声を上げる。
なぜか話が延びてしまいました。「いい加減にしろ!」って言われそうで、今も震えています…本当に申し訳ありません。
「ついにイリアまで変態に?」と思った方、ご安心ください。ただのドジッ娘さんです。決して変態になんぞにしませんよ!
フィキペディアに書かれているものの一部は現実のことを書いています。もし間違っているようなことがあればご報告ください。
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