48、大事なものを守りきりました
いつもより長めになってしまいました。
「さて、と。姉さんたちは二階だって言ってたな…さっさと呼んでくるとしよう。」
僕は玄関にある広い階段を上り、談話室につながるドアを開ける。天井に吊るされている球体(シャイニング)が室内を明るく照らしている。
ふと、部屋の中央にある扉の前で足を止める。
「そういえばこの部屋はまだ確認してなかったっけ。」
あのときは馬車が来たせいで結局中を見ていなかった。一体どんな構造になっているのだろうか?
「ま、明日確認すればいいか。」
とりあえず未確認の部屋をスルーし、姉さんたちのいる左翼のドアを開ける。廊下の壁の蜀台の上でろうそくの炎が妖しく揺らめいている。
「まずは一番近い姉さんを起こすとしますか。」
姉さんのいるであろ一号室のドアの前に立ち、ドアノブに手を掛ける。
ドアノブを回そうと力を入れ、空振った。ドアが自然と開き、真っ暗な部屋から白い手が八本飛び出し、僕の体に巻きついた。
そしてすぐさま部屋に引き込まれ、僕の視界はそこで途絶えた。
うん、なんとなく予想はしてたけど、回避できなかったよ…
◆◆◆◆◆◆
「これでよし。みなさ~ん、準備が整いましたよ~♪」
私は『カレー』を器に盛り終わると、ダイニングにいるタカシ様とイリアに声を掛けた。ダイニングで談笑していた二人は、私の声に反応して席を立った。
ムラマサちゃんは相変わらず気持ち良さそうに寝ている。まるで小動物みたいで、なんだか癒されますね。
「そんじゃさっさと皿を並べるとするか。」
「あ、私もお手伝いします!」
「ありがとうございます。それではこのトレイに乗っているものを向こうのテーブルに運んでいただけませんか?」
「了解。」
軽々しく持ち上げ、そのままテーブルへと運ぶタカシ様。あの動き、相当慣れていますね!
「あの先輩、私はどうしたら…」
私の隣でイリアがおろおろとしている。
イリアは私の直接の後輩なので、いつも私のことを『先輩』と呼んでくる。私としては『フィー』って呼んでほしいのだけど…
「そうね、それじゃあこのスープを向こうに運んでくれる?少し重いけど…」
「わかりました!少しくらい重くても大丈夫です!!」
イリアは胸のあたりでグッと握りこぶしをつくり自信満々にそう言った。身長のせいか、その仕草が妙に可愛くてつい抱きしめてしまいたくなる…
あとでカイト様に抱きつくことにしますか…ふふ、楽しみです♪
「それじゃあ、はい。」
「はい、ってあわわっ」
スープの入った器の乗ったトレイを渡すと、イリアはその場でいきなりふらつきはじめた。
「ちょっと!?本当に大丈夫?」
「大丈夫です!こう見えてもバランス感覚はいいんですから!!」
ふらついてるその姿からはまったく想像できない…
イリアは「よっ、ほぅ」と掛け声をしながら、ダイニングテーブルへと向かっていった。その姿はまるで道化師の綱渡りのようだった。
本当に大丈夫なのでしょうか?
「まぁたぶん大丈夫でしょう。あの娘はあれでも優秀な娘だから…」
そう自分に言い聞かせ、心の不安を払拭する。後ろから「あぶなっ!?」とか「あわわ、すみませ~ん!!」なんて声は聞こえてこない…
「そういえば、カイト様はまだお戻りになっていないのでしょうか?」
ダイニングを見る、が愛しのご主人様の姿はない。
いるのはテーブルに料理を並べるタカシ様とイリア、眠そうに目を擦っているムラマサちゃんだけだ。どうやらムラマサちゃんはつい先ほど起きたようですね。
「ん?どうしたんだフィー、まるで飼い主を見失ったワンコみたいな顔して。」
「なんですかその表現は!?まぁ確かに私はカイト様のワンコ、いえ雌犬ですけど!」
「そんなこと断言するなよ…」
まったく、タカシ様にはデリカシーというものがないのでしょうか。私を犬と言っていいのはこの世にたった一人、私のご主人様だけなのに…
「そ、それより先輩、いったいどうしたのですか?」
私たちの会話に反応したイリアが、配膳の手を止めてこちらに振り返る。振り返るとき、フワッと髪が柔らかく舞った。その姿がメイド服と相まって妙にさまになっている気がした。
…ウラヤマシイ。
じゃなくって!
「えっと、カイト様がまだ戻ってこないな~って思って、ね。」
「そういやあいつ、桜葉たちを呼びに行ってからずいぶん経つな。」
「いったいどうしたのでしょうか。」
◆◆◆◆◆◆
~それから10分後~
「た、ただいま…」
「あ、やっと戻ってきました♪って、どうしたのですかカイト様!?そんなに服を乱したりして…」
ダイニングへつながる扉を重々しく開けると、耳にフィーの声が響く。疲れているせいか、フィーの声がやけに頭に響いて痛い…
「そんなに肌を露出して…」
フィーが心配そうな顔で見てくる。
フィー、そんなに僕のことを心配して―――
「もしかして…誘っているのですか!?そうなのですね!?」
消えろ、僕の残念な思考!そんなことがあるわけがないだろ!!
「もう、そこまでされちゃあ私も見過ごせませんよ?ちゃあんと食べてあげます!!それこそ舐めるように身体のあらゆるところを…」
「違うから!そんな理由で半裸になんかなるわけないじゃないか!」
もしそんなことをすれば、僕はただの変態だ…もれなく露出狂の仲間入りだよ…
「しっかし、今回はまた派手にやられたな海斗。」
さすが孝、長い付き合いなだけある。瞬時に僕のされたことを察せるあたり、「仲間がいる」って感じるよ。
孝をこっちに呼んでおいて本当によかったよ。姉さんたちは…ノーコメントでお願いします…
「うん、今回はなんとか抜け出せたけど、今後も守りきれるだろうか…」
「もう、守らなくてもいいのに…」
「お兄ちゃんはガードが固すぎるよ。」
「もっと気楽にいこ♪」
「…すぐ終わる、早くやらせて。」
「ほぅわ!?」
急に後ろから話しかけられ変な声を出してしまった。デジャブ感がものすごい。
あと全員気配を消しているのでものすごく怖い…絶対人間の域超えてるよ。
「あの、皆様、いったい何をしていたのですか?」
フィーをが後ろにいる四人にそう質問する。その顔は笑顔だが、目からは光が失われている。
神様、僕の専属メイドはこんなに怖かったでしょうか?
「別に何もしてないわよ?」
「はい、これっぽっちもやましいことなんてしてませんよ?」
「フィーったらおかしなことを聞くわね。」
「…ふふふ」
四人は笑っているが、やはり目からは光が失われている。
あれ~おっかしいな~、僕のまわりってこんなに殺意で満ちてたっけ?
そんな疑問を頭の中で抱えていると、不意に肩を突かれた。どうやら孝がアイコンタクトを図ってきたようだ。
「(お前、今回は一体何されたんだよ)」
「(いや、ただベッドに荒縄で縛り付けられて下半身を執拗に求められただけだよ)」
「(そうか、今回はそれだけで済んだのか)」
そう、それくらいなら何とか抜けることができるのだ。いつもなら足枷と手錠、スタンガン&睡眠薬のまさかのコラボレーションに媚薬のお香だ。荒縄くらいどうってことない。
孝はそんな話にもう慣れているらしいが、僕はまったく慣れない。「お前貞操観念強いよな」、と孝が視線で言ってくるが返答しない。
「(しっかし、それだけにしては妙にボロボロじゃねえか)」
孝が僕のボロボロの服に視線を送る。ちなみに今の僕は上半身ほぼ裸の状態である。和服の一部は千切られてしまい、なくなっている。
「(今回は相手が4人だったから結構きつかったんだよ…)」
いつもは1人だけだからいいけど、集団がこれほどきついとは思わなかったよ。逃げるとき、まるで野獣にでも襲われているのかと錯覚したくらいだもの…
「さて、と。ほらほら睨み合ってないで、そろそろごはんにしよう?」
アイコンタクトをやめ、僕は隣で静かに争っている5人に声をかける。
僕の声に反応し、何事もなかったかのように「はーい♪」と返事する5人。その顔からは、先ほどの狂気に似たものは感じない。なんて変わり身の早さだ。
「みなさーん、晩御飯の準備ができました~♪」
タイミングを計ったかのように、ダイニングからイリアの声が聞こえてくる。本当にナイスタイミング!
「それじゃあ行くとしますか。」
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~フィキペディア~
『デリカシー』
感情や心配りの繊細さ、微妙さを表す言葉。「デリカシーがないわね。」など、あらゆるところで使われる。しかし、意味をよく理解せずに使っている人は驚くほど多いという。
『ガード』
防御などのこと。この場合は肉体的な防御力ではなく、貞操観念の固さのことを示している。海斗のガードは半端ではなく、これまで数多の誘惑と罠を掻い潜ってきた。そのためいまだ童tゲフンゲフン。
どうしてそこまで頑ななのかは秘密。
『アイコンタクト』
視線やまばたきの回数や感覚だけで、意思疎通する方法。通常は簡単な指示などを伝えるためのものだが、海斗と孝はアイコンタクトだけで会話が可能。
海斗にとって、監禁はもはや日常の一角にすぎません。本人はいまだに慣れていないらしいですが、あれだけのトラップから無傷(童tガフッ)で生還するなんて尋常じゃないですよね…
孝と海斗のアイコンタクト技術は、そこらの軍人さんよりはるかに上です。最大20mまで可能だとか?
評価していただきありがとうございます!まだまだ新米ですが、今後ともよろしくお願いします!
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