46、共同作業しました
カレーを作る事になった僕ら三人は、さっそく調理に取り掛かることにした。
キッチンは家で使っていたものと、増築された分のスペースがあるので三人でもかなり余裕があった。
とりあえず分担を決めよう。
「それじゃあ僕は食材を切るから、フィーは余った食材で簡単なスープを、ムラマサは僕の手伝いをお願い。」
「わかりました!」
「了解なのじゃ!」
そう言って二人は、なぜか僕の両サイドに陣取った。それも肩と肩がぶつかり合う位の距離で…
「…あの、近すぎない?」
「へ、何がですか?」
「おかしなことを言う主じゃのう。」
あれ、おかしいのって僕だっけ?料理ってこれ位の距離感でやるものだっけ?
そんな僕の疑問を完全に無視して二人は黙々と作業に入った。フィーは水の入った鍋を火に掛け、ムラマサは野菜の皮をむき始めた。
ちなみにムラマサは左手で野菜をもち、刃になった右腕で器用に皮を剥いている。
ん、あれ?
「ムラマサ…その腕って?」
「ぬ?ああ、これのことかの。包丁が見当たらなかったから試しに腕だけ刀に戻してみたのじゃ。案外できるものじゃのう。」
カッカッカッと愉快そうに笑うムラマサ。というかそんな簡単そうに言うレベルのことじゃないよねそれ…
「でも初めてなのにすごいね。皮もこんなに薄く剥けてるし。」
ムラマサの剥いた皮は透けて先が見えるくらい薄い。ここまでできるようになるには相当練習が必要なはずなんだけど…
「むふふ、もっと褒めてもよいのじゃぞ♪」
「よしよし♪」
僕はムラマサのサラサラな黒髪を撫でてあげる。気持ち良さそうにムラマサが目を細めている。
「にゅふふ、あ~るじ~♪」
「こらムラマサ、抱きつかないの!料理できなくなっちゃうじゃないか。」
よほど気持ちよかったのか、ムラマサは猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしている。
と、急に背後から殺気を感じ振り返る。
「ムラマサちゃん?何をしているのですか?」
フィーの両手には、得物である投擲用ダガーナイフと接近戦用ファイティングナイフが握られている。
目の焦点が合っておらず、正直かなり恐い。
「フィー、落ち着いて!後でフィーにも同じことしてあげるから!!」
ええい、こうなったらヤケだ!頭を撫でるだけで収まるならいくらでも撫でようじゃないか!!
フィーからみるみる殺気が薄れていき、やがて太陽のような笑みを浮かべた。
「本当ですか!?それなら私もっともっと頑張りますよー!」
やる気になったフィーがものすごい速さで食材を刻んで鍋に放り込んでいく。そしてあっという間に美味しそうなスープが出来上がった。
「って、なんでたった3秒でスープが出来上がるのさ!?」
というか三秒って…キュー〇ーすら裸足で狂喜乱舞する速さだよ…。
あ、アレはもとから裸足だったっけ。
「それじゃあ僕も食材を切ろうかな~ってあれ?包丁がどこにもない…」
食器棚やシンクの下、上にある戸棚まで探したが包丁が見つからない。
そういえばさっきムラマサも「包丁が見当たらない」とか言ってたっけ。
どうしたものか。
ちなみにフィーはさっきのダガーナイフで食材を刻んでいたようだ。相当やりにくかっただろうに…
「あ、そうだ!こんなときこそあのスキルの出番じゃないか!」
僕はすぐさまステータス画面を呼び出し、スキル一覧から『錬金術』を選択。そしてインデックスからクラスターレックス討伐報酬の『オリハルコン』を取り出し、テーブルに置く。
「あとは―――作りたいものを念じながら素材に手をかざす、か。」
ステータス画面に書かれている説明に従いながら錬金の手順を踏んでいく。
僕は頭の中で包丁をイメージしてオリハルコンに手をかざす。するとオリハルコンが淡い青色に発光し始め、そして目の前でみるみる形を変えていく。
そして、
「うわぁ、綺麗な包丁だな~」
暗い蒼の刀身が照明の光を反射させて鈍く光っている。形からして洋包丁のようだけど、峰の部分が竜の背中みたいに尖っている。腹の部分には謎の模様が切っ先まで彫られている。
「想像してたのとかなり違う形になっちゃったけど、これなら―――っ!」
―――殺気。身の危険を感じた僕はすぐさまその場から飛びのいた。ついでに包丁も回収。ふむ、なかなかの握り心地。
そして僕のいた場所で斬撃が衝撃と共に着弾した。テーブルが粉々だ…
僕は斬撃の飛んできた方向を見やる。
そこには憎しみと哀しみの感情の入り混じった目をしたムラマサが立っていた。右腕の刃は振りぬいたままの体制で静止している。
「主よ、わし以外の刀を使うのか?わしのことを嫌いになってしまったのか?」
喋る度にムラマサの目尻から涙が溢れて頬を伝う。右腕の刃も心なしか小さく見えた。
僕はまっすぐにムラマサの目を見る。目が合うとムラマサの身体がビクッと震えた。
「僕はムラマサのことを嫌いになんか絶対にならないよ。」
僕はたった一言そう言い放った。その一言に僕の気持ちすべて乗せて。
ムラマサはしばらくぼうっとしていたが、やがて顔を綻ばせて、
「わかったのじゃ。わしは主のことを信じるのじゃ。」
笑顔で、とてもいい笑顔でそう応えてくれた。
「それじゃ、カレー作りを再開しますか!」
◆◆◆◆◆◆
「あとは、この調合したカレー粉を入れて一煮立ちさせて、完成だ!」
「おお、ようやく完成なのじゃな。フィーはどうじゃ?」
「私はデザートのリンゴを少し可愛くしてみました♪」
見るとフィーの持つお皿には、ものすごくリアルな犬や猫、ウサギなどの動物の形をしたリンゴが並べられていた。なんか少しもぞもぞ動いている気がするけど目の錯覚だろう。
「すごいねフィー!こんな細工見た事ないよ!!」
「えへへ、頑張りました!あの、それで、カイト様~♪」
フィーが僕の胸に頬ずりしながら上目遣いをしてくる。ああ、あれか。
「よしよし、頑張ったね~♪」
キッチンミットをはずしてフィーのふわふわの髪をモフモフする。「エヘへ~」と幼い表情でにやけるフィーが妙に可愛いと感じてしまう。
「おいおい、そんなに見せ付けるなよ海斗。」
不意にキッチンの入り口から男の声がして慌てて振り返る。
そこには城から帰ってきたのであろう孝が呆れた顔をしてこっちを見ていた。
「あ、いや、これにはわけが…」
「まぁいいさ。そ、それより海斗、少し相談があるんだが…」
「ん?なにさ改まって。」
孝の顔が若干赤い気がする。夕陽のせい、ではなさそうだ。
「いや、大した話ではないんだが…まぁ実際に見てもらったほうが早いか。」
そういうと孝は、玄関に通じる扉から誰かを手招きした。なんだ?どうやら姉さんたちではないみたいだけど…
入ってきたのは金髪のメイドさん。ってあれ、あの人どうみたって…
「イリアさん!?どうしてこんなところに?」
え?なんで孝と一緒にいるんだ?
イリアはもじもじと胸のあたりで交差させた指を動かして、僕の質問には答えてくれなかった。
諦めた僕は孝のほうを見る。孝は孝でガラにもなくまごまごとしている。いつも堂々としている孝からは想像もできない姿だった。
僕は笑いを必死に堪えながら孝に聞く。
「孝、どういうこと?」
「あー、その、なんだ…。イリアは―――」
「―――俺の専属メイドになった、みたいな?」
その途端、イリアが「はうぅ」とか言いながら顔を手で覆った。孝も自分の発言で顔を真っ赤にして床を見ている。
ああ、王様のプレゼントってこういうことか…
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~フィキペディア~
『ダガーナイフ』
古代ローマ帝国の時代からある、刺す又は投げるのに適した短剣。刃渡りは10~30cmほど。使用者の前腕の長さと同じくらいが適していると言われている。
フィーの得物のひとつで、太ももに刃渡り18cmのものを左右合計8本携帯している。また、インデックスには予備で数十本収納されている。攻撃方法は投擲。
『ファイティングナイフ』
主に戦闘を重視した短剣のことを指す。短刀やバタフライナイフなどもこれに含まれる。故にさまざまな種類がある。
フィーの使用しているものは刃渡り50cmほどの剣に近い大きさ。黒い刀身で切れ味は相当なもの。腰に二本携帯しており、接近戦の際は状況に応じて一刀流、二刀流に切り替える。
『錬金術』
本来は科学の力を用いて卑金属や貴金属を生み出す試みのこと。その歴史は古く、起源は古代エジプトの治金術にあるとされている。古代の人々は『金』を生成しようとし、数々の科学物質を生み出してきた。その中には硫酸や塩酸なども含まれている。ちなみに『金』は原子物質のため、結局生成することは不可能だった。
海斗の使用した『錬金術』はあらゆる過程をすっ飛ばして結果だけが出るものとなっている。また、異世界のはたらきにより、本来生成不可能なものも必要分の質量さえあれば生成することが可能。
『オリハルコン』
空想上のもので、最強の金属として有名。色などは使用される作品や物語によって異なる。
クラスターレックスを討伐した証としてギルドより配布される。入手方法は不明。謎の金属である。
『峰・腹』
包丁用語のひとつ。峰は刃のついていない側のこと。腹は峰と刃の間の部分のこと。
今回はムラマサとフィーのふたりにヤキモチを焼いてもらいました。ムラマサにとって海斗が他の刃物を使うのは浮気と同義語のようです。
ナイフについては調べたことを中心に書きましたが、何か間違っていれば教えていただけると幸いです。本気で直しにかかります!
イリアが正式にメンバーの一員となりました。孝にもいよいよ春が…
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