40、探検しました そのサンッ!
「いったいどういうことだ?どうして壁から美琴が!?」
孝のそんな叫びは浴場に空しく響いた。美琴は素知らぬ顔で何かの作業をしている。
「落ち着いて孝、ここは本人に聞いてみよう。美琴、ちょっといいか―――」
「…婚姻届ならここ。」
「―――な、って早っ!?」
僕が言い終わる前に、いつの間にか目の前に美琴が現れた。そういえば美琴にはそんな特技があったっけ。
「あとなんで婚姻届がここにあるのさ!?」
「…女の嗜み。」
いや、それ絶対違うと思う。婚姻届をコンマ0・1秒で押し付けるのは決して女の子の嗜みなんかじゃない。
そうだよね!?僕間違ってるかな!?
「そんなことより、聞かなくちゃいけないことがあるだろ。」
「孝、これはそんなことで片付けちゃいけない気がするんだけど…」
まあこの際しょうがないか。美琴のことはあとにしておこう。
「…海斗が私のことを考えてくれている気がする。」
「なんでわかるのかはいいとして。美琴はどうやってこっちに入ってきたの?」
最近美琴が何者なのか疑うようになっちゃったよ…
「…私への見返りは?」
う、やっぱりタダでは教えてくれないか…。昔は素直に教えてくれたのに…
「今日の夜、僕が美琴に耳かきをしてあげる、でどうかな?」
「…もう一声。」
「…膝枕もするよ。」
すると美琴は脱衣所の扉に近づいていって、
「…ついてきて。」
どうやら交渉成立のようだ。まぁ耳かきくらいならいいかな。
…耳かきだけで済めばいいけど。
「がんばれよ海斗。」
「にやにやしながら言うセリフじゃないよねそれ…」
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「ここは、女湯?」
美琴についてきてたどり着いたのは、隣の女湯だった。
「…ここ。」
美琴が指差した壁は、先ほど美琴が入ってきた壁のちょうど反対側に位置する場所だった。
「ここがどうしたの?」
「…見てて。」
美琴が壁に手を置いて少し押す。すると壁の一部が、まるで扉のように開いた。
「これって…」
「…隠し扉、さっき見つけた。」
隠し扉って…え?
「なんでそんなものがお風呂場にあるのさ!?」
「…大丈夫。男湯側からは開けられない仕組みになってるから。」
「それこそわけがわからないよ。」
それじゃあ男湯と女湯をわける意味が半減しているじゃないか。
というか僕ら男の防犯が皆無じゃないか!
「…さらにこのボタンを押すと―――」
美琴が浴場の隅にあるボタンらしきものを押す。
するとどうだろう。
なんと壁が消えて男湯が丸見えじゃないか。
「…マジックミラーの要領で男湯が見れる…無論男湯からはただの木の壁にしか見えない。」
「うわぁ。」
なにその羞恥プレイ。ただお風呂に入るだけで僕らの裸体がさらされるとか…
「俺、この風呂に入るのやめようかな…」
「うん、僕もそう思えてきたよ。」
でもそんなこと、みんな許してくれるわけないよね…
大丈夫、泣かないもん!
『これで混浴ができるのカイト!』
ムラマサはさっきから有頂天になっています。そんなにうれしいものなのかな?
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「それじゃあそろそろ別の部屋にいこうか。」
「そうだな。もうここにいる意味はないしな。」
むしょうに疲れた気がするけど気のせいだと信じよう。
「…私はもう少しやることがあるから。」
「ほどほどにしてよね…」
美琴の手には謎の工具が握られている。いったいそれで何をするつもりなんだろうか?
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~玄関 階段前~
「もう一階は全部まわったかな?」
「いや、まだひとつだけ残っているぞ。」
「へ?」
孝が指差したのは階段左下。倉庫の隣に位置する部屋だった。
「くそっ!開かねえぞ!!
「そういえばあの部屋はまだ確認していなかったね、って早いよ!?」
いつの間にか孝は扉を開けようとしていた。しかしどうやら開きそうな雰囲気ではなさそうだ。
「鍵穴もないし、どうなってんだこれ?」
「まぁ今は放っておくしかないかな?」
でも倉庫も含めこの二部屋は、早いうちにどうにかする必要がありそうだ。
『…う~む。』
「ん?どうしたのムラマサ?」
珍しくムラマサが考え事をしているようだ。
考え事しながら「う~む」って言う人初めて見た。いや、刀だから違うか。
『いや、なんでもないのじゃ。』
「そう?ならいいんだけど。」
『………』
「そんじゃあ次はいよいよ二階だ!ほら海斗、はやくいこうぜ!」
いつも無関心な孝がこんなに夢中になってるなんて…
「…今夜はUFOが降ってくるかも。」
「ん?なんか言ったか?」
「いや?なんでもないよ。」
この返し方はもうお決まりだよね。
「そうか。ならはやくいこうぜ。」
「わかったよ、今行く。」
さて、二階には何があるのかな?
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~フィキペディア~
『女の嗜み』
すべての女性に必ずある信念。その内容は人それぞれなので、くいちがいが生じることもよくある。
昔、『嗜み』の内容を統一する動きがあり、賛成派と反対派で戦争が起きた。参加者は全員女性だった。
現代でも『第一次世界大戦』の一部として語り継がれている。
『耳かきと膝枕』
癒し効果のあるこの二つの行為。その道のプロが行えば、どんな鬱病患者も瞬時にポジティブ思考になれるという。また、膝枕に母性を感じる人も多く、人道をはずした者でも膝枕により母の温もりを思い出し、善人に戻ることができるとか。
海斗の膝枕と耳かきは絶品で、最低週一は誰かの予約が入っている。ある一説だと不治の病も治したとか。本人は乗り気ではないが、お人好しのため無償で行っている。その姿は聖母を想起させる。
『マジックミラーの要領』
表は鏡でも、裏から覗けば向こう側が見れるという代物で、刑事ドラマなどでもよく見かけるアレ。お風呂場に設置されているものは表は木の壁、裏は透けているという構造をしている。どのような意図で設置されたのかは、作者である創造神しか知らない。この壁の設置により、女子の士気はグンと上がったが、男子の気力と羞恥心がガリガリ削られた。
『謎の工具』
通称『万能ツール』。これ一本で橋の工事から、心臓移植までラクラクこなすことができる。販売ルートは悪用者を出さないため極秘。
解説を入れたのは政界だったでしょうか?僕は書き終わりにすっきりするようになったので入れてよかったと思っています。
孝が若干壊れていますがそのうち元に戻ると思います。
ちなみに最近登場していないイリアに関してはもう少しお待ちください。




