32、名推理しました
若干長めです。
「ぜぇ…ぜぇ…」
「はぁ…はぁ…」
結局20分もの間、醜い言い争いを繰り広げてしまった…
ちなみに僕の現状は変わらず、姉さんとフィーに束縛されている…
ちょっと、誰か助けてくれたっていいじゃないか!
「と、とにかく状況を整理しよう。」
「そうだな。この争いはあまりにも不毛すぎる…」
孝はけだるそうにその場に腰掛けた。よく見ると、なんだか疲れたような顔をしている。
そんな孝に容赦なく子供たちが群がる。腰や腕に巻きつき、肩や頭に乗りかかろうとしている。
「抵抗しなくていいの?」
「いいんだ。こいつらに悪気はないんだしさ。」
まったく、子供に対してはめっぽう甘いんだから。
…まぁそこがこいつのいいところなんだけどさ。
「そういうお前は逃げなくていいのか?それともついに受け入れたのか?」
孝が僕のほうに哀れんだような視線を送ってきた。やめて、そんなふうに見ないで!
「受け入れてないから!あとさっきから逃げようとしてるから!」
「そ、そうか…」
そう、僕はさっきからずっと抵抗しているのだ。なんとかして逃げ出そうと試行錯誤しているけど、両腕と両足を抑えられてるからうまく体を動かせない。
かといって無抵抗になれば最後。ふたりに体を陵辱されるだろう…
それだけはいやだ!僕の男としての尊厳が全部吹き飛んじゃうよ!
え、そんなものもう残ってないだろって?そんなことないもん!
「おい海斗どうした!?なんで泣いてんだよ。」
「い、いやなんでもないよ。そんなことより、はやく孝の状況整理をしないと。」
こんなことしてたら日が暮れちゃうし、何より僕のスタミナが持たない。
「お、おう。それじゃあ昨日あったことを話すぞ。」
孝が少し真面目な顔つきになった、がキッズたちが顔にへばりついているためあまりかっこよくない。
「昨日は海斗に用意してもらった部屋に入ったあと、バルコニーに出て少し風に当たってたんだ。そのあとのどが渇いたから、近くを通ったメイドさんに中庭にある井戸に案内してもらったんだ。で、そこで水を一杯飲んで――――」
「飲んで?」
「その…意識がなくなった?」
なぜに疑問系。
というか意識がなくなったって。
「一度病院に行ったほうがいいと思うんだ、僕。」
「いつでもどこでも意識飛ばしてるお前にだけは言われたくなかった…」
何だと!?失礼な、僕はそんなことしてい―――ますねはい。
「まぁとにかく。朝部屋で目が覚めるまで、俺は意識を失ってたってわけだ。」
ふむふむ、つまり孝は中庭で水を飲んだ後、その場で意識を失い、気づいたのは孝に宛がわれた部屋だったと。
「やっぱ一度精神科に行ったほうがいいね。」
「どうしてお前はそうやって俺を病院に行かせようとするんだ!?」
「だって矛盾してるじゃないか。中庭で気絶したのに、目が覚めたのは部屋だったなんて。それに、その子たちがそんな状態になってる理由にまるでなってないじゃないか。」
「うぐっ。それを言われるとつらい…」
「それに気絶している間に、体が勝手に子供たちを懐かせたとなれば辻褄も合うしね。」
ふふん、どうだ僕の名推理!これであとは孝を罰すれば、事件解決だ!
「いやいやいや、それこそ無理があるだろ!俺がいままでそんなことしたことあるか?」
「うっ…確かに…」
孝の言うとおり、そんなことはいままで一度もなかった。それどころか、一度も関わったことのない子が、しかも孝が寝ている間に集まるなんてこと、いままでなかったことだ。
つまりこの推理は間違っていたのか…
「ケアレスミス、か…」
「おい、俺に対しての侮辱をすべてそれで済ます気か?というか何に対してケアレスミスしたんだよ?」
しかし、本当になにもかもがわからないぞ。そもそもどうやって意識のない孝が部屋に戻ったんだろうか。
ふと、気持ちを切り替えるために扉から順にあたりを見渡す。こんなときは一度みんなの顔を見て、気持ちを落ち着かせないと。
子供に囲まれてやや困り顔の孝、水瓶の前でずっと何かをつぶやいている美琴、カーテンの裏からずっと孝を見つめているメイドさん、二度寝をしようとしている優奈、僕の上着を剥ぎ取って匂いを嗅いでいる姉さん、いまだにモーニングキスを強請るフィー、フィーを僕から剥がそうとする志穂が、僕の視界に入った。
うんまったく落ち着かなかったよ。それどころか余計に心を乱された気がする。
「ん?」
今、知らない人がいたような…
もう一回よく見てみよう。
顔を少女に舐められて鳥肌をたてている孝、なぜか床に転がって悶絶している美琴、カーテンに隠れながら、顔を赤くして孝を見つめるメイドさん、完全に熟睡している優奈、火照った顔つきで痙攣している姉さん、頭をなでてあげたら落ち着いてくれたフィー、フィーを羨ましそうに見る志穂が、僕の視界に入った。
うん、いろいろツッコミたいことがあるけど、今はそれどころじゃない。
やっと違和感の正体を見つけた。あまりにも自然と溶け込んでいたからなかなか気づけなかった。
「そこに隠れてるメイドさん、出てきてください。」
カーテンのほうにそう声をかけると、ビクッっとカーテンが揺れた。
いや、正確にはカーテンに隠れているメイドさんが反応したのだ。
「は、はい…」
カーテンからしずしずと出てきたのは、見た目14・5歳くらいの金髪の少女だった。
整った顔立ちだが少し幼さも残っているような、そんな感じがする。
若干低めの背丈に合わず、出るところはかなり出ている。って僕は何を言っているんだ。
そしてなにより特徴的なのは、木々の葉のように澄んだ碧の瞳。
どうやらこの娘が今回の事件に関わっているようだ。
「あ、君はあの時の!」
お約束な感じがしないでもないけど、ここは一応聞いておこう。
「知り合いなの?」
「ああ、この娘が井戸の場所に案内してくれたんだよ。あとでちゃんと礼を言わないとって思ってたんだ。」
「あうぅ…」
うん、予想通りの反応だ。
さてさて、いい感じに話がまとまりそうだよ。
美琴が悶絶していた理由は、前話で海斗が美琴に対して言った言葉をさらに派生させて、あんなことやこんなことを妄想してしまったからです。
またまた新キャラを出してしまいました。今回登場した子は、皆さんもお分かりだと思いますが、孝とペアになるキャラです。
感想・コメント受け付けています。是非よろしくお願いします!




