22、昇天者が続出しました
「みなさん、おまたせしました。いまから料理を運び込みますね。」
僕は先ほど作りあげた料理たちをワゴンに乗せ、大広間の扉をあけた。
『『『ワアアアアァァァァ!!』』』
瞬間、空気が割れるくらいの歓声が広間全体に響き渡った。
この国の人は大声を出す習慣があるのかな?
「おお、待っていたぞカイト。会場の準備はもう完璧じゃぞ。」
「カイト様の料理、楽しみで仕方ありません!」
「なにか手伝うことがあれば全力で協力するぞ主。」
「ありがとうみんな。それじゃあ料理を配膳していくね。」
僕は、数人のメイドとフィー、ムラマサに協力してもらいながら、まばらに配置してある丸テーブルに料理を置いていった。
配膳を終えると王様が僕の所に歩いてきた。
「さあカイト。乾杯の音頭をとっておくれ。」
「え、僕なんかがやっていいの?」
こういうのって普通、王様とかがやるものじゃないの?
「いやいや、今回の主催者はカイトじゃ。乾杯の音頭はカイト自身が取るべきじゃろう。」
「私からもお願いします。」
いつの間にか僕の傍に立っていたエルも、僕に乾杯の音頭をとってほしいと言ってきた。
ここまで言われちゃあやるっきゃないでしょ。
「えー、こほん。皆さん、今夜は貴族・平民はまったく関係ありません。僕が作った料理、どうか楽しんでいただけると幸いです。では、食材に感謝をこめて、乾杯!」
『『『乾杯!!』』』
「乾杯です~♪」
「乾杯なのじゃー!」
さぁ、宴のはじまりだ!
―――――――――――――――――――――――――――――
「カイト様~この鶏肉の揚げ物、とってもおいしいです~♪」
「このサンドイッチとやらもさっぱりしていてうまいのぅ。さすが我が主だ。」
『こ、こんなものがこの世にあったとは…』
『わたし、生きていて本当に良かった。』
『我が領地の民衆にも是非食べさせてやりたいものだ。』
料理を食べたみんなは、そのまま昇天してしまうのではないか、と思えるほど穏やかな顔をしていた。
「あはは、みんな大げさだな。それくらいなら誰でも作れるようになるよ。」
でも、僕の料理でみんなを幸せにできたのなら本当にうれしいな。
「カイト様~このピンク色のドロッとしたものはなんですか~?」
フィーがガラスの器に入った料理を僕に持って来た。
「ああ、それはババロアといってね、とっても甘いデザートなんだ。食べてみてよ。」
ちなみにこの料理は、最後のほうで追加した料理だったりする。
そして僕の得意料理でもある。
「では、一口、あーん…」
………
「あーん」
「あの、フィー?なにしてんの?」
「むぅ、察してください。わたしに『あーん』をしてください!」
…まじですか。
彼女がいない暦=年齢の僕にとってそれはとても重要なことなのですが…
というかこっちの世界にも『あーん』って存在するんだ。
ちなみに姉さんや志穂にも要求されたが、いままで頑なに拒んできた。
なので今回もいつも通りに、
「今回はパスってことで―――」
「ダメです♪」
無理でした。
というか近頃、この方法が姉さんたちにも効かなくなってきたんだよな。
なんでだろう。
「えっと、どうしてもやらなくちゃいけない?」
「どうしてもです!」
逃れられそうにないね。
あと、フィーの笑顔が怖い。特に目が怖い…
「はぁ…わかったよ。はい、あーん。」
僕はフィーの持って来たババロアをスプーンですくい、フィーの口元に運んだ。
「あーん。ん!?」
フィーがババロアを口に含んだ途端、フィーがフリーズした。
「ちょ、フィー!?大丈夫?」
すっごく不安なんですけど…なんか体が小刻みに震えてるし…
「カ、カイト、様…」
ようやく開いたフィーの口から、搾り出すような声が聞こえてきた。
「どうしたのフィー!?」
「わたしは…この料理が…食べら…れて…幸せ…です…がくっ」
そういうとフィーは意識を失った。
「…口で『がくっ』っていいながら気絶する人初めてみたよ。」
ってそんなこと言ってる場合じゃないや。
「と、とりあえず、僕の自室のベッドに寝かせよう。」
僕はフィーを肩に担ごうとするが、完全に気絶しているのか、フィーは床に倒れこもうとしてしまう。
「う~。仕方がない。」
僕はフィーの膝裏と背中を支えて持ち上げた。
いわゆるお姫様抱っこである。
「き、緊急事態だからやってるだけなんだからね!」
誰に向かって言ったわけでもないが、なぜか言い訳をしてしまう。
「は、早く部屋に運ぼう。誰かに見られたら洒落にならない。」
僕は大広間の扉から廊下に出て、そのまま自室に向かって走り出した。
出て行く瞬間、大広間から『うますぎる!』という声と、何かが次々と倒れる音がしたが、今はそれどころじゃない。
僕の料理って一体なんなんだろう。
作っといて不安になってきた。




