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37、無双しました

私の提案した編成にみんなの意見を反映させ、新たに海斗奪還作戦の最終編成が決まった。


編成の内容は……


右翼班…果穂 優奈 フィー マリネ サーシャ


左翼班…孝 志穂 ロロ 美琴


最初の提案だと、私は魔法陣のない左翼のほうへ行って敵を駆逐していく予定だったのだけど、むしろ魔法陣の守りを強固にしたほうがいいということで、私は右翼に移動することになった。


それと、優奈ちゃんも私と同じ右翼班に編成された。魔法陣があって有利なこちらにばかり戦力を充てていいのかと反論もしてみたのだけど、むしろそれぐらいがちょうどいいと美琴ちゃんに諭されてしまった。


曰く、「敵が左翼に集中していたからと、向こうにばかりこちらの切り札を投入することは浅はかである」ということらしい。何でも、初戦で敵戦力を誤認するということはよくあることらしく、本命の部隊は実は敵のまったく出てこなかった方面だった、なんてことはザラにあることなんだとか。


仮に戦力分散が初戦で予想した通りだったとしても、手薄のほうを強硬できて有利ということまで言われてしまい、結局私と優奈ちゃんは右翼に、元々右翼班だった孝君は戦力分配で左翼班に移動させられた。


今思えば、さっきの言葉は進行方向が三ヵ所以上のときの作戦であって、二ヵ所じゃ変わらないんじゃ、とも思ったけど、美琴ちゃんの様子からして別の思惑があるようだったから黙っておくことにした。きっと私の知らない作戦があるのだろう。


それに、左翼だって、人数こそこちらより少ないけれど、どの子も力のある子ばかりだから、班全体の力量はさほど変わらないし、この編成で問題ないでしょう。




「それじゃ、無理はしないでね。こんなところで死んだりしちゃったら、元も子もないんだからね。あたしも、あんたも、ちゃんと生きて帰りましょ」


「……お互い様。」




「サーシャ、絶対に、無茶だけはしないでくれよ? いくら魔法が使えるって言っても、敵に近づかれたら一巻の終わりなんだからな!」


「わかってるわよロロ。そういうロロこそ、あまり張り切りすぎて突っ走ったりしたらダメなんだからね?」


「わーってるって。ボクだって昔程無鉄砲じゃないっての!」




「孝様、どうかお気をつけて。ここで傷ついてしまいますと、イリアが泣いてしまいますよ?」


「あ、あぁ、わかった。フィーも、海斗が大事なのはわかるが、だからって捨て身ばっかするなよ? 命がなきゃ、海斗をどうこうすることもできなくなるんだからな。マリネさんも、みんなの身体の心配ばかりせず、自分の身体にも気を付けてくださいね」


「そうですね。肝に銘じておきます。孝様も、どうかお気をつけて」


「薬師として、できることをするつもりですが……そうですね。自分の身も守れないようじゃ、他の人を助けることも出来ませんしね」1




「……お姉ちゃん」


「大丈夫よ志穂。あなたのところには前衛トップクラスの孝君がいるし、後衛にはあの美琴ちゃんがいるのよ? そうそうあなたを傷つくようなことはないわよ」


「そうじゃないよ! 私はただ……お姉ちゃん、お願いだから無茶はしないでね。お兄ちゃんのことも心配だけど、私は! お姉ちゃんも同じくらい心配なんだからっ!!」


「……ありがとね、志穂。私もあなたのことが大好きよ。大丈夫、必ず無事に、海斗と一緒に帰ってくるからね」


「えへへ。それはこっちのセリフだよ、お姉ちゃん。私が、お兄ちゃんと一緒に帰ってくるんだから!」


「言うようになったわね、志穂。ふふっ、それだけ言えればもう大丈夫ね」






私たちは武器を構え、魔法陣の展開されている右翼へと進む。背後からは左翼へと向かうここにいない仲間たちの足音が聞こえてくる。


振り返ったりなんてしない。どうせ、あとで必ず再開するもの。


海斗を連れて、私たちは10人揃って帰るんだ。


この異世界で、私たちが手に入れた、新しい家庭へ。新しい家族の拠点へ。






「『アルディール』!!」


階段前の魔法陣に入った途端、マリネちゃんが魔法の名前を叫ぶ。その途端、私たちの身体に透明な、光の膜のようなものが張られた。どうやらこれがマリネちゃんの言っていたバリアのようね。


「この魔法は敵からの攻撃をある程度防ぐことができます。しかし、時間制限があるうえ、防げるダメージも限られているので、あまり過信しすぎないように注意してください」


てっきり自身のまわりにボール状のバリアでも張られるのかと思っていたけど、これなら戦いに支障は出なそうね。


ただマリネちゃんの説明から思うに、このバリアは保険に近い扱いね。ちょっとしたミスをカバーする程度のもの、くらいに考えておいたほうがよさそう。


「ま、あたしたちくらいになれば、敵の攻撃を紙一重で躱すくらい、朝飯前だけどね」


「ダメですよ優奈様。たしかに、優奈様ほどの実力があれば、そのようなことも軽くこなせるかもしれませんが、人間、油断していると思っても見ないミスをするものです。しかもここは敵の総本山の中心部とも言える場所。少しの油断が命取りになります」


「そうよ優奈ちゃん。海斗だって、実力がある人ほど常に神経を研ぎ澄ませるべきだ、ってよく言っていたわよ」


特にこの世界に来てからというもの、海斗は本当に油断することが減ったと思う。私たちといるときは幾分マシだけど、ギルドのクエストを遂行中とかは本当に隙がなかったわ。たぶん、私が全力で挑んでも、早々隙を突くことはできなかったと思うわ。


だからこそ、今回の事件は謎が多い。何でも、小さい子を庇って攻撃を受けた、ということらしいけど、その程度のことであの子がそんなヘマをするかしら。


……深読みのしすぎかな。でも、少しだけ気に留めておいたほうがいいかもしれないわ。


「もう、わかってるわよそんなこと――――みんな、来たみたいよ」


階段を降りてしばらく歩いたところで、急に優奈ちゃんの雰囲気が一変し、武器を構え臨戦態勢に入った。


もちろん私やフィーちゃんも目の前から来る殺意を感知し、私は『ライトニングスラスト』を、フィーちゃんはここに来る前に新調したという銀色に輝く両刃の剣を構えた。


「マリネちゃんとサーシャちゃんは後方へ! フィーちゃんは私たちの援護と後方の守りを!」


「は、はい!」


「魔法による援護は任せてください!」


「かしこまりました、カホ様」


私は剣を上段に構え、腰を落とす。敵は……異形の魔物! 報告のときに優奈ちゃんの言っていた謎の敵とは違うみたいね。


一番後ろから来ている大きなカマキリみたいなのが、あの魔物部隊の大将かしら。あの鋭い前足は当たったら洒落にならないわね、きっと。


「優奈ちゃん、私は正面から攻めるわ! そっちは上から攻めてちょうだい!」


「了解! 最初っから飛ばしちゃうんだからねっ!」


私は足に意識を集中させ、赤い絨毯を全力で蹴った。


その途端、私の身体は音速を超えるような速度で敵の真正面へ突っ込んでいった。私はその速度を緩めることなく、むしろさらに地面を蹴って加速していき、そして口を開けて攻撃を加えてこようとした敵の口めがけて剣を突き立てた。


その瞬間、剣先から激しい電撃がほとばしり、魔物は電撃の衝撃により内部から爆裂した。


私の動きは止まらず、そのまま魔物のむれの中を縦横無尽に駆け回り、何体も、何十体も串刺し、爆殺していく。その度、魔物は断末魔を上げて倒れ伏していくけど、私はそれすらも踏み台にして、敵戦力をどんどん削っていった。


「ちょっとちょっと優奈さん! 油断云々とか言ってたのはどこの誰さ!」


空中から私の真横に強烈な斬撃が降りかかった。それは私に対してではなく、私に屈強そうな爪を振り下ろそうとしていた狼型の魔物に対して振り下ろされたものだった。


強烈な斬撃を喰らった二足歩行の狼は、そのまま身体を二つに分けながら血の絨毯の中へと倒れ伏した。


「いくら早く動けるからって、敵が攻撃を加えられないわけじゃないんですよ。もう少し敵の動きをきっちり読んでください」


「あら、ちゃんと読んでたわよ。あのまま突っ込んでいたら、優奈ちゃんがこうして助けてくれる、ってね」


「そういうことを言ってるんじゃないんですってば! まったく、それを使うのが楽しいのはわかりますが、もう少し自重してくださいよ」


優奈ちゃんは跳躍し、私の背後に着地すると、私の履いている『ラビッツステップ』を指差しながら、ジト目を向けてきた。その背中からは炎のように揺らめく立派な翼が生えていた。


「そちらこそ、もうすっかりそれを使いこなせるようになったのね」


「おかげさまで。まさか、薙刀振り回しながら空中戦を繰り広げることになるとは思いませんでしたけど、ねっ!」


優奈ちゃんは、彼女向けて超大型の剣を振り下ろそうとしてきた牛型の魔物へ向けて、自慢の銀色の薙刀を一閃。その瞬間、優奈ちゃんの腕に装着された腕輪が緋色に輝き、そのまま光は美琴ちゃんの腕から薙刀へと流れるように伝わっていく。


そして薙刀の刃が敵の肉を削ごうと振られた瞬間、白く輝く、敵の剣がおもちゃに見えるくらい大きな光の刃が薙刀から放たれ、そのまま目の前の魔物を一刀両断した。光刃の勢いは止まらず、そのまま前方にいた魔物を無差別に切り裂いていき、最後には建物の壁に当たって壁を破壊してしまった。


「あちゃあ、ちょっとやりすぎちゃった」


「力の調節に関してはまだまだ修行が必要そうね」


たはは、と笑う優奈ちゃん。その腕輪の光は弱くなってはいるものの、いまだに淡く光り輝いている。


あの腕輪は竜の力を宿しているとかで、使用者の力を増幅し、使いこなせば背中から翼を生やして飛ぶこともできる、というゲームで言えば伝説級の武具らしい。王様からもらったばかりの頃は力を増幅させるだけのただの腕輪だったのに、いまじゃかなり使いこなしているみたいで、飛翔による空中戦闘ももう慣れたものね。


ただ、腕輪の増幅能力に底がないみたいで、上手く調節しないとあんなことになっちゃうみたい。あまりやりすぎてこの城ごと壊さないかが、今私が一番心配しているところね。


でも、あの魔物を一層できる攻撃、いいわね!


「それじゃあ私は、こうよっ!」


優奈ちゃんの攻撃を見て、少しスイッチが入ってしまったみたい。なんだかワクワクしてきたわ!


細剣を片手で前に突き出すようにして構え、ふぅっと呼吸を整える。剣先に自分の力を注ぎこむようなイメージを送りながら、一気に柄を握りしめ、


「バーストォ……ブレイドォォォオ!!!」


適当に考えた技名を思いっきり叫んだ! ちょっと恥ずかしいけど、これけっこうかっこいいかもしれないわね!


その刹那、刃全体が眩く光輝き、極太のレーザーとなって目の前にいた敵を焼き払った。


光に当たった敵はバズンという電撃らしからぬ音を轟かせながら、弾け、倒れ伏していった。的の小さな敵はその痕跡を余すところなく消し去られていた。


そしてレーザーはそのまま標的を貫通し続け、対面にあった壁を破壊した。


「……あちゃー」


「優奈さぁん?」


自分も同じ過ちをしたため直接は言ってこないものの、名前を呼ぶ声と目線から、私の今の行動を非難していることだけは十二分に伝わった。


「てへ♪」


舌を出して左拳で軽く頭を小突くフリをしてみても、優奈ちゃんはただ胡乱気な視線を向けたまま敵を殲滅していくだけだった。


ヒュンッ


そんな微妙な空気を醸し出す私たちの間を、数本のナイフが通り過ぎ、そのまま近くにいた小型の魔物の急所を的確に斬りつけていった。中には魔物の口の中に入って爆発したものまであり、魔物はことごとく絶命していった。


「お二方、大型の魔物もいいですが、小型のものにも気を付けてください! 攻撃自体は大したことありませんが、かなり厄介な毒をもっています!」


あのナイフはやっぱりフィーちゃんだったのね。見ればフィーちゃん、私たちがいつの間にか逃した敵を流れるような動きで切り裂き、翻弄しているわ。


蟲型の魔物は動きが早いみたいで、私たちのところを抜けて行ったみたいだけど、フィーちゃんがそれを全部捌き切ってたのね。私としたことが、本当に油断してしまっていたみたいね。


「ご、ごめんフィー! あたしったら、つい!」


「こちらは大丈夫です! それよりも、今は目の前の強敵に注意してください!」


「強敵?」


フィーちゃんから視線をはずした私たちは言われるままに進行方向の方を見る。


そこにはさっき私が部隊のリーダー格と予想していた巨大なカマキリみたいな魔物が自慢の前足の刃を研ぐように擦り合わせていた。その黒い相貌は、完全に私たちを視界に入れており、鏡のように私の顔がカマキリの左目に映っていた。


久々の戦闘シーンです。立体感のある戦いをイメージできればいいのですが、やはりこのあたりはなかなか難しいですね。ですが、戦闘シーンを書くのが、私は大好きです!


感想・評価、雨乞いしながら待ってます!


なぜ雨乞いをしているのか、ですか? そうですね……心と身体の平穏のため、でしょうか。



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