表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/158

36、地形把握をしました

また投稿が遅れてしまいました……申し訳ありません。

愛しの海斗を攫った憎いかたきの城には、意外とすんなり侵入することができた。


さすがの自称魔王様も、まさか私たちが城の中庭から攻めてくるだなんて予想できなかったみたいね。周囲を見渡しても、特に敵の気配はしないし、トラップの危険性もなさそうだわ。


「ここ、どこなんだろ」


「……外からだとうまく構造が掴めなかった。だけど、おそらくここは建物の中腹といったところ」


志穂は使い慣れ始めたオーラボウを背負って、少し不安そうに私の後ろで周囲の様子を伺っている。そんな志穂を守るようにしつつ、私でも視認できない広範囲の索敵をしてくれている美琴ちゃんは、現在地の大まかな予測を半透明な画面に示している。


本数無限の弓矢と強力すぎる魔法を使いこなす私の愛する妹に、狙撃銃のような現実的な火器から謎の兵器まで使いこなす海斗のストーカーちゃん。どちらもこのパーティーの後方支援担当であり、この作戦を成功させるにあたって絶対に必要なメンバーの二人だ。


「二人とも、あまり離れすぎないでね。いくら私たちでも、地形の利が完全に敵に回っている以上、迂闊な行動は全滅に繋がるわ」


私は少し厳しめに二人を一喝した。志穂が少し怯えたようにすくみ上がったのが見えて心がズキッと痛んだけれど、二人の命と作戦成功のためにも、ここは心を鬼にしていかないと、本当に危険だわ。


……でも、この作戦が終わったら、あとで海斗と志穂に思いっきり慰めてもらおう。心のライフがゼロになってしまうもの。


さて、改めて地形を把握したいところだけど、ここはどういった場所なのかしら。たぶん廊下なんでしょうけど、私たちの家が入っちゃいそうなくらい幅広で、先は見えないほど長いときたものだから、さすがの私も少しばかり信じられないわね。


壁伝いにぽつりぽつりとおっきな扉があるからかろうじて『廊下かな?』って判断できるけど、ホントこの城の持ち主は何者なのかしら。どうせ『魔王』っていうのは嘘だろうから、大方巨人か何かなんでしょうね。


いや、それはさすがに安直すぎるかしらね。じゃあ強大な魔女とか、アルと同じ神様とかかしら……


「あ、お姉ちゃん。孝さんたちの班が戻ってきたよ!」


「……後方、優奈班の帰投を確認。損傷なし。心拍数、やや上昇気味なものの、問題なし」


『サーチアイ』という光属性の魔法を使って索敵能力を高めていた志穂と、銃のスコープを覗き込んでいた志穂ちゃんがほとんど同時に声を上げた。


それから少しもしないうちに、私の視力でも視認できる範囲に二つの団体の姿が見えた。


孝君・フィーちゃん・マリネちゃんの右翼索敵班と、優奈ちゃん・サーシャちゃん・ロロちゃんの左翼索敵班だ。どちらもここから少し離れたところの索敵に回ってくれていた。


「孝班、無事帰投しました」


「同じく優奈班、同じく帰投しました」


軽く敬礼しながら帰投の挨拶を済ませる二人を見て、わたしは大きくうなずいて見せた。無事というだけあって、確かに外傷などはないみたいね。


「それじゃあ戻ってきてもらったところで、作戦会議と行きましょうか。ついてきて、場所を移すわ」


私は手で合図を出しながら、みんなをある場所に誘導する。


ある場所とは、ここに潜入してすぐに見つけた小部屋だ。物置に使われていたのか、いろんなものでごった返していたけど、トラップもないし、普段から使われているというわけではなさそうだったから、作戦会議をするのにちょうどいいと思ったのよね。


敵の気配がないことを確認し、わたしたちは静かに部屋の中に入り込む。


明かりはなさそうだったので、志穂に魔法の光球を作り出す『ブライト』を使ってもらった。志穂の指から放たれたピンポン玉くらいの大きさの光球は大きさの割に明るく、部屋の隅まで光が行き届いていた。


私たちは手頃な木箱を部屋の真ん中に置き、それを囲むようにしてみんなで立ったまま作戦会議を始めることにした。木箱には美琴ちゃんの機械からこの屋敷の未完成なマップが表示され、所々何かを表すアイコンが点滅していた。


未完成のところには、二班が集めてきてくれた情報が合わさる予定だけど、あの短時間の調査でどの程度埋まってくれるかしら。


「ではまずは私たちのところから報告させてもらいます」


会議の口火を切ったのは、意外にもフィーちゃんからだった。私としてはてっきり孝君からだと思っていたのだけど、あの落ち着きぶりからして、孝君がフィーちゃんに頼んだみたいね。


フィーちゃんは、投影されたマップに指を添え、ゆっくりとスライドさせ始めた。フィーちゃんの白魚のようなきれいな指が通過したあとには、調査でフィーちゃんたちが見てきたマップがどんどんと追加されていく。


「この部屋から西の方角へは、しばらくの間曲がり角などはありません。ですから、迷う心配はありませんが、襲撃された場合、戦闘は免れないでしょう。障害物などもほとんどありませんでしたから、やり過ごすのはかなり厳しいです。ちなみに各部屋も規則的に並んでいるだけで、別段変わったものはありませんでした。そのため、作戦時間も考慮し、調査はしていません」


フィーちゃんの指はなかなか止まらず、ようやく止まった時には、その軌跡は相当な長さとなっていた。目視でもかなり長いとは思っていたけれど、この廊下、とんでもない長さをもっているみたいね


突き当りらしい場所には、ギザギザとしたマークと紫色に輝くポイントが出現している。ギザギザしたのは階段のマークだとしても、この紫色のポイントは何かしら。一本描きの星とそれを囲むようなサークル……魔法陣かしら。


「あ、この場所……すごいです、さっきやったばかりなのに!」


魔法陣っぽいマークの正体を聞こうと、私が思っていたことを口に出す前に、フィーちゃんの隣に立って画面を覗き込んでいたマリネちゃんが目を輝かせながら興奮気味に息を荒げた。


はっと口元を抑えたマリネちゃんは、大声を出してしまったことに罪悪感を感じてしまったのか、少しシュンとしてしまった。なんだか全体的にしおっとしてしまったみたいで、見ているこっちの心までつらいわね、これは。


でも、このしょんぼりした感じ、なんだか叱られた子猫みたいで可愛いわね。尻尾があれば完全に萎えちゃってるわね。


「大丈夫よマリネちゃん。それくらいの声なら敵に気付かれる心配もないわ」


「そ、そうですか。すみません、ちょっと興奮してしまいまして……」


ほっと胸を撫で下ろしたマリネちゃんは、今度は少し恥ずかしそうに胸の前で両手を絡ませてはにかんだりと、こちらを萌殺そうとしてきて困るわね。まさかこれを素でやっているのかしら。


「……それよりもマリネ、これはあなたがやったことなの?」


痺れを切らした、といった様子で、美琴ちゃんがぐいっと顔をマリネちゃんに近づけた。


その顔には疑念……いいえ、純粋にわからないことがあって気になる、というような感情が浮かび上がっていた。あの美琴ちゃんが予想できないことなんて、相当な奇策ってことかしら。


というかそもそも、マリネちゃんはいったい、あの紫色の光で示された地点で何をしてきたというのかしら。確かマリネちゃんは薬師だったはずだから、魔法の類はそんなに得意だとは思えないのだけど、もしかしたら薬師の一環で結界とかも張れるのかしらね。


例えば、味方が通過した途端、ダメージが全回復するとか、通貨した敵に反応して何かしらの攻撃を加えるとか。海斗と一緒にやったゲームで得た知識だけど、こんな世界だからそんなこともありえるかもしれないわね。


「あ、えっと、はい! これは、私がやったことです。現時点ですと、この周辺が私たちの最終防衛線ですから、ここ他の階と繋がっているここを押さえておくべきかと思いまして」


「……まったく身を隠せない場所にこんなものを置いても無駄にするだけだと思う」


「そのあたりもちゃんと考慮してあります。私たちの誰かが陣に入った状態で呪文を唱えると陣内にいる方全員に一定時間ですが、敵の攻撃を完全に防ぐバリアを張ります。逆に、敵が入った状態で別の呪文を唱えれば、敵をランダムに転移させたり、その場に縛り付けたりすることができます」


驚いたわね。まさか複数の魔法を一つの魔法陣で展開できちゃうなんて。予想していたものと少し効果は違うみたいだけど、敵味方両方に使えるだなんて、とんでもないわね、これは。


しかもこの配置、一見無駄に見えるけど、これだけ汎用性が高いと話が違ってくるわ。この魔法陣の隣接している階段は、おそらく海斗救出作戦の要。きっと何度もここに戻ってきたり、突撃を繰り返すことになるし、ここを潰されると、攻略できるルートが優奈ちゃんたちの調査したほうだけになってしまうから、一点に絞られる分、危険が増すことになる。


だけどこの魔法陣があれば、突入するときはバリアを掛けてからの移動によるタイムロスを減らし、敵に追われて防衛に徹するときは、走り様にバリアを掛けつつ、追ってきた敵を魔法陣で足止めなり消し飛ばしたりいくらでもやりようがあるわ。


美琴ちゃんも頭の中でこれからの戦いを予想して、この魔法陣の有効性に気付いたみたい。ずっと無言を貫いていたけど(基本的に無口な子だけど)、納得したみたいに小さくうなずいてから、そっとマリネちゃんの頭を撫でてあげていた。


本当に不器用な子ね。だけど、そこが可愛かったりもするのよね。マリネちゃんも本能のところで感じたのか、とっても幸せそうな顔してるし。


うーん、わたしも無口キャラやってみようかしら。無言で海斗に迫って、感情表現が苦手だからという名目であんなことやこんなことをしてみてもいいかもしれないわね。


「えーと、じゃあ次はあたしたちの班ね」


フィーちゃんたちの報告が終わったと判断したらしく、おとなしく報告を聞いていた優奈ちゃんが一歩前に進み出てきた。


こっちの班はリーダー自身が報告するみたいね。まぁ、ロロちゃんはさっきから美琴の移している電子マップに興味津々だし、サーシャちゃんもロロちゃんほどじゃないけど、チラチラとさっきから忙しなくマップや美琴ちゃんの装備を見ているし、こればっかりは仕方なさそうね。


「あたしたちの班のほうも、大体はフィーの報告と一致するわね。おかしいくらい長い廊下と、バカデカい扉が並んでいて……同じ感じで階段もあったわ」


優奈ちゃんの指が止まり、未完成だったマップがある程度埋まる。それを確認した私たちは再び画面の中を覗き込んで、この辺りの地形の把握に専念した。


確かにフィーちゃんの報告と全くって言っていいほど同じね。あの中庭の入り口を中心に左右対称になっている感じね。


違いがあるとするなら、マリネちゃんの張った魔法陣のマークがないことと……廊下の階段付近にバツ印がいくつかある、ってところね。


「……何人規模の部隊だった?」


美琴ちゃんは『戦闘があった』という事実を言う前に、いきなり戦闘内容の話に入り込んだ。『何人』だったかなんてことまでちゃっかり聞いちゃってるし、美琴ちゃんにはこのアイコンだけで魔物じゃなくて、対人戦闘があったということまでお見通しなのね。


優奈ちゃんも美琴ちゃんの反応に驚いたように目を見開いたけれど、すぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべて美琴ちゃんを見つめた。見た目はちっちゃいけど、やっぱり中身は達人のそれね。


「ちょっと溜めてから言おうかなって思ってたんだけど、まあいいわ。私たちがこの階段付近に近づいたとき、ちょっとした小競り合いが起きたのよ。柱の陰から天井まで、いろんなところから妙な奴らが出てきたのよ」


「みょ、妙な奴ら、ですか?」


志穂はお化けの類が苦手だからか、怯えた声色を出しながらぎゅっと両手を胸の前で握り締めた。可愛いので即座に抱きしめつつ、私も優奈ちゃんの目を覗き込んだ。


優奈ちゃんはコクンとうなずき、今度はうーんと首を傾げた。


「なんか、ホントに変な奴らだったよ。昔いた教信者みたいな覆面して、全身ローブみたいので覆ってるくせに、妙にすばしっこくてね。魔法とか短剣だけかと思いきや、槍に長剣、中にはハルバードみたいな重装備で襲ってきたやつもいたわね」


「ま、ボクたちの敵じゃなかったけどね!」


電子マップに夢中かと思いきや、話だけはしっかりと聞いていたみたいで、ロロちゃんは自慢げに鼻を鳴らして、また電子マップをキラキラした目で見始めた。いくら珍しいからって、そんなに見ていたらさすがに飽きると思うのだけど、それはきっと地雷でしょうから、踏むのは避けるとしましょうか。


「ま、ロロの言うとおり、あたしたちくらいなら無傷であしらえるくらいの実力しかなかったんだけど……う~ん、モヤモヤするなぁ」


「優奈ちゃん?」


優奈ちゃんは腕組みをしたまま首を右へ左へと傾けながらうんうんと唸り始めてしまった。何か気になってしょうがないことがあるときに優奈ちゃんの癖だけど、ここ最近は可愛くないとか言って頑張って抑えていたのに。それほどまでに不可解なことがあったと見ていいのかしら。


「あの人たち、優奈さんたちに攻撃されて完全に昏倒していたはずなんですけど、戦いが終わって、あたりを見渡したら、誰もいなくなってしまっていて……」


お気に入りの耳付き帽子をぎゅっと掴みながら、サーシャちゃんは震えた声でそんなことを言った。その顔はなんだか青ざめていて、気分も悪そうだ。


「大丈夫サーシャちゃん? だけど、そんなことってありえるのかしら。何か、幻覚魔法か何かを掛けられて、いるはずのない敵と戦わされた、とか」


私はサーシャちゃんの背中を擦ってあげながら、これまた海斗の持っているゲームから得た仮説を言ってみたりした。


だけど左翼班の三人は揃って首を振って、私の仮説を否定した。


「あたしたちもそのあたりを疑ったんだけど、近くに幻術を使うような敵も、罠も見つけられなかったわ」


「それにあの感触……あの人を斬りつけた感覚は間違いなく本物だった。致命傷じゃなかったけど、ボクのナイフは確かに奴らの身体を斬りつけたし、刺しもした。血も流れたし、あれは間違いなく本物だよ。だけど、戦ったあとのあの場所には、血の一滴すら残ってなかった」


腰に差したナイフを抜いて、刃先をじっと見ながらロロちゃんはそう呟いて、ふたたびナイフを鞘に戻した。


だとしたら、倒された敵はどうやって、どこに消えてしまったのかしら。ロロちゃん曰く、致命傷は与えていないみたいだけど、そんなに素早く動けるほど浅かったわけでもないはず。出来てもせいぜい這いずったり、ものを投擲とうてきするくらいのことしかできないはずだ。じゃなければ、戦場で床に突っ伏すなんていう自殺行為はしないはずだ。


転移魔法かしら。でもいくら転移魔法でも、なんの痕跡も残さずになんてことができたかしら。しかも転移したことが優奈ちゃんたちにバレないようになんて、そんなことが可能なの?


確かにこれは、少し厄介そうね。あとで化けて出てきて呪いを掛けてく、なんて面倒な代物じゃなきゃいいのだけど。


「現時点だと敵の正体は不明だけど、こんなことで立ち止まっているわけにはいかないわ。このまま作戦を練って、部隊編成したのち、すぐに作戦を開始するわ」


「……ん、それしか方法はない。今は敵の正体を知るよりも、本作戦の完遂を早急に達成するべき」


私と美琴ちゃんは不安げにするみんなを一喝する。敵の正体は確かに謎だらけだし、そんな敵地に突っ込んでいくのは危険なことかもしれない。


だけど、今はそんなことを言っていられるほど余裕があるわけじゃないということも、みんなにわかってもらわないと。


いまこうしている間にも、海斗はその謎だらけの敵に囚われている。それを思えば、こんなの、大した障害じゃないわ。


私たちの言葉に、最初は不安げだったみんなの目にまたいつもの自信と活力が戻った。全員、もう覚悟は決めてここにきているんだ。今更なにかがあっても、それでいちいち動揺していたら埒があかないとわかっているんだ。


私はみんなに、そして自分に納得するように大きく首を縦に振り、垂れてきた前髪をかっこつけてばさっと手で流した。


「それじゃあ今から臨時の作戦会議を開くわ。まず、私たちを二つの班に編成し直すのだけど、まずマリネちゃんの魔法陣のある右翼殲滅部隊からで―――――」



また投稿に間が開いてしまいました。読者の皆様、本当に申し訳ありません。


少々スランプに陥っていたのですが、ようやく脱出することができ、再び執筆の手が進むようになりました。


今回は久しぶりに果穂視点で書いてみました。海斗と地の文が被らないように気を付けつつ、なんとかまとめることができました。次回も、果穂視点で書いていくつもりです。


感想・評価、デジ絵描きつつ待ってます!


え、ソフトですか? もちろんfire alpacaです。フリーですが、使いやすくて重宝させてもらっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ