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35、アルティナと魔王の関係を知りました。

ティナとともに階段を上がりきると、先ほどの廊下とは違う、少し広い場所に出た。


これまた真っ赤な絨毯が引かれ、シャンデリアが天井から吊るされている。壁には燭台ではなく、観賞用と思われる、煌びやかな装飾の施された剣や盾、槍などが趣味良く飾られている。


これからの戦いのために、装飾用でもいいから一本拝借していこうかと思ったけど、すんでの所でその手を止めた。素手よりも慣れない武器、しかもなまくらの剣で戦うほうがむしろ危険だから、というのも理由に含まれていたが、それ以上に、ムラマサの代用品としているみたいで、他の武器を使うことに無性に抵抗感を感じたのだ。


それに、あの夢での出来事が、サリーさんが最後に残していったメモのことが頭をよぎり、結局僕は装飾品の剣には手を出さず、結局腕に適当に拾った布を巻きつけるだけに終わったのだった。


階段のすぐ近くにあった柱の影に身を伏せ、周囲に敵がいないかを確認する。甲冑兵の物音も、暗殺者の足音もしない。魔法の詠唱の声も聞こえないし、たぶんこのあたりに敵はいないだろう。


嫌な静けさだ。物音ひとつしない空間は、敵の気配がする空間以上に緊張が高まるよ。


「ずいぶんと静かね、ここは。昔より見た目はだいぶ派手になったけど、ここが『大広間』で間違いないわね」


相変わらず僕の頭の上に乗っかっているサボリ常習犯のティナさんは、きょろきょろと首だけを動かしながら、周囲を見ているらしく、僕の髪の毛が擦れあう。


その背中に生えている翼は飾りじゃないでしょうが。 重くはないけど、なんか微妙に動きにくいから、できれば降りて一人で行動してほしいよ。


だけどそこはさすが、元の人格者があのアルというだけあって、僕の頭の上だというのに、とんでもなくダラけていらっしゃる。摘まみあげてそこの窓から雷雲めがけて投げてやろうかこの駄女神め!


「いくらなんでもそれはひどいわよ! ここら一帯を覆っている雷雲は、ただの雷雲じゃないの。『獄雷』っていう煉獄のいかずちが周囲の生命体を無差別に駆逐していく、それはもう恐ろしい雷雲なんだからね! 超すごい私でも、さすがにあの中に突っ込んだら髪の毛がチリチリになっちゃうのよ!」


そんなとんでもない雷でもこの駄女神に対しては、キューティクルに甚大な被害を出すだけでお終いなのか。『獄雷』が大したことないのか、創造神の耐久力がとんでもないことになっているのか。


まことに遺憾ながら、きっと後者なんだろうなぁ。本当にアルティナは残念な神様だ。


「そうやって私のことを頭の中で罵倒するのはやめて!?」


「本当にアルティナは残念な神様だ」


「直接言うのはもっとやめてぇ! もっと私に優しくしーてーよー!」


ぺちぺちと僕の頭を叩くティナの声は、少し嗚咽が混じっていた。身体は神耐久なのに、メンタルは紙耐久って、そんなんで大丈夫なんだろうか。なんだかいろいろと心配だ。


だけど、僕も少し言い過ぎていたかもしれない。疲労からか、少し気が滅入っていたのかもしれない。


ちょっとだけ、本当にちょっとだけティナに申し訳なさが湧いた僕は、頭の上に手を伸ばして、怒り泣きするティナの頬をそっと撫でた。別に泣いているティナが可哀想とか、そういうわけじゃないぞ!


涙で濡れたそれは、妖精の姿だからなのか、驚くほどもちもちしていて触り心地がよかった。


ふにふに、ふにふに。


柔らかい。ものすごく柔らかい。なにこれすごいぞ!?


いや、ダメだ。下手に感情を浮かべたらティナに足もとを掬われる。ここは、心を無にして慰めるんだ。


「ん、わかればよろしい!」


撫でられて満足したのか、まだ少し涙声だけど、元気そうに僕の頭の上で踏ん反り返った、ような気がした。


ここでちょろいとか思ってしまったらまた泣いてしまうかもしれないので、もうしばらくの間心のうちを空っぽにしておくとしよう。


「ところで、ティナはずいぶんとこの建物の事に詳しそうだけど、いったいどこからそんな情報を得たの?」


ここしばらくの間は休んでしまっていたけど、僕も一応ギルドメンバーとして毎日いろんなクエストに赴いた経験がある。それは必然的に情報を集まってくるものなんだけど、こんな雷雲に常に囲まれている場所なんて聞いたことがない。まして、その中にある建物の構造なんて知る術すらない。


まぁアルティナのことだから、この建物の中を透視することくらいたやすいのかもしれないけど……そういう客観的な視点から集めた情報とはちょっと違うような気がする。


ティナはしばらくの間黙っていたけど、しばらく周囲の探索をしていると、はぁっと少し大きめのため息を吐いた。


「……昔ね、ちょっと馴染みでここに通っていたことがあったのよ」


「通っていた?」


ここは確か、父さんの友人、雅雪さんとマリーさんがサクヤと一緒に暮らしていた場所だ。そこに昔から通っていたとなると……


あ、いや、それも考えられるけど、それ以上前から……そうだ、マリーさんがまだ雅雪さんや父さんたちと出会う前ってこともありえる。


どちらにしても、アルは以前からこの館の主と何かしらの因縁があるみたいだ。


「そういえば、カイト君は昔の記憶を思い出していたのよね。結構強力に封印を掛けたからそう簡単には解けるはずがなかったんだけど、やっぱり抑え込むのには限界があったようね」


また心を読んだこととか、僕の記憶の封印がどうのこうのとか、いろいろと気になる事もまた増えたけど、それはもう後回しだ。いちいち気になる事に構ってばかりじゃ、進む話も進まないや。


もちろん後回しにするだけだから、アルティナがこの屋敷の主とどういう関係だったのかを聞いたらそのまま問いただしてやる。


僕はティナの身体を掴み、自分の足もとに降ろすと、僕もその隣に座り込む。ちょうどここは大きな振り子時計の影になっている場所だから、少しくらい警戒を怠ってもなんとか対応できる。聴く体勢になるにはちょうどいい場所だ。


「なんだかじっくり聞く気満々みたいね。言っとくけど、そんな大した話じゃないのよ?」


「それでもいいよ。今はとにかく、なんでもいいから情報が欲しいんだ」


好奇心からというのも、もちろん否定できないけど、僕の記憶に関わる事、脱出に関わる事なら何でも聞いておいて損はないだろうという思いが今の僕を動かしている。


ティナはそんな僕の心まで読んだのか、やれやれというように首を振り、肩をすくめたが、やがて観念したようで、僕に寄りかかるようにして座りながら天井を見上げた。その眼には、ここではないどこかを映しているような、遠くを見ているような気がした。


「まだマコトさん……カイト君のお父さんたちが来る前から、私とマリーは友人同士だったの。神様と魔王が友達なんて、おかしいって思うかもしれないけど、それでも私にとって、マリーは心の底から信頼できる、親友だったわ。


出会いは……大したことでもないから忘れてしまったわ。だけどそこから何度も交流があって、いつの間にか私は、下界に降りてくる度に、彼女のもとを訪れるようになっていた。最初こそ、いつも一人ぼっちな彼女が可哀想っていう同情があったけど、いつからか、彼女ともっと話がしたいと思うようになって、気づけば彼女に会うためだけに下界に行くなんてこともザラにあったわ」


この大広間も彼女の部屋に行くときによく通ったのよ、とティナは見渡すように、広間全体を眺めた。


さっき『昔より派手になった』だのと言っていたのは、こういうことだったのか。


「そして、サリーと親友と呼べるくらい長い付き合いになったあたりで、この世界に流れ込んできたのが―――」


「父さんと母さん、それから雅雪さん……」


話の腰を折ってしまった感じで申し訳なく感じたものの、僕はそのことをついつい口に出してしまった。自分の知っている知識と少しでも合致させたいという、下賤な早とちりをしてしまったみたいだ。


だけどティナはそれを特に咎めることもなく、むしろ笑顔で僕の言葉を肯定してくれた。


「彼らは海斗君と違って、私が呼び寄せたわけじゃなかったから、『モスカル』の地の名もない草原に三人仲良く倒れていたわ。だけど、事故とはいえ、私が創り出した扉を通って来てしまった異世界の住人を、放置するわけにもいかず、私は彼らのもとに舞い降りた。それからしばらくの間協力してあげて、紆余曲折あって、彼らはとある人物に出会う必要が出てきた。


そう、魔物を統括する、この世界の王の一人、魔王サリーにね。


どうして会う必要があったのかは、さすがに長くなるから省略するけれども、彼らがこの世界から脱出するために必要な行為であったことには間違いないわ。だから私は彼らとサリーの間に立って、彼らをサリーに引き合わせたの。


人間と友好的な関係を築きたがっていた引きこもりのサリーにとっても、いい経験になるんじゃないかな、なんていう余計なお節介もあったりしたんだけどね。


……まさか雅雪さんとサリーがくっつくとまでは、夢にも思わなかったけど」


顔に影を落として、見えない誰かをにらみつけるティナ。その目に映っているのは、親友とくっついた雅雪さんか、それとも親友置いてけぼりで異世界結婚果たしたサリーさんなのか。


「まさか私をおいて一人だけ結婚すましちゃうなんて……」


あ、後者のほうだった。


というか魔王とか神様にも結婚願望ってあるものなんだ、と今更ながらに思ったりもした。


「あれ、そういえばティナ」


「ふえ!? な、何かしらカイトきゅん? 私は別に私を追い抜いてさっさとゴールインした親友のことなんてこれっぽっちも恨んでなんかいないんだからね!!」


「いやなんかおかしくなってるよティナ? そうじゃなくて、どうして父さんたちにそんな面倒なことをさせたのかなって。ほら、アルティナの力を使えば、異世界に迷い込んだ父さんたちを元の世界に戻してあげるくらい造作もないと思ってさ」


現に、僕はアルティナに強制的にここに呼び出されてここにいる。つまり、逆のことができてもおかしくないはずだ。


「確かに、今の私ならそれも可能だし、実際、マコトさんたちを元の世界に送り返したのも、私の力なの。だけど、残念ながら、彼らに出会ったばかりの私に、そこまでの力はなくてね。ここまで力を得られたもの、時の流れと、彼らの助力があってのものだから」


そうか。つまり父さんたちは、アルティナの力を覚醒させるために、この世界で活躍していたのか。異世界に還る力を得るために。


その過程でサリーさんが絡んだとなると、なんとなく話の流れもつかめる。サリーさんが何かしらのヒントやらアイテムやらを持っていて、とかそういったところだろう。


「と、まぁそのあとの流れはなんとなくわかってもらえるでしょうし、私からはこれくらいね。さ、そろそろ先に進みましょ。いくら敵がいないとはいえ、こんなところに長いする必要性はどこにもないわ」


そう矢継ぎ早に言って、さっきはあんなにめんどくさがっていたのに、ひとりでフワフワと飛んで先へ進んで行ってしまった。


あ、と声を出した僕も、その小さな背中を追いかける。


まだいろいろと聞きたいことがあったのに、ティナは無理やりといった感じでいきなり話を終わらせてしまった。ここからさっきの話に戻すのは少しばかり難しくなってしまった。


僕の記憶の封印のこととか、もう心を読まないでほしいとか、いろいろあるけど、それ以上に、僕にはさっきから不安でしょうがないことが頭から離れない。







(どうして、この館の主が雅雪さんとサリーさんじゃなくて、サクヤ(、、)ってことになっているんだろう)






引退したとかそういうことなんだろうけど、それにしては、妙にざわざわとした気持ちが僕の胸の内を支配していた。


この屋敷全体が僕の記憶とはかけ離れた暗雲に閉ざされていること。サクヤの豹変ぶり。


(そして、ティナはサリーのことを親友『だった』と言っていた)


深読みしているだけかもしれない。ただ疑心暗鬼に陥っているだけなのかもしれない。


かもしれないばかりで、確定要素のなにもない仮定ばかりだけど、僕の胸はざわつくばかりで、さっきから落ち着こうとしない。


僕はそんな不安を抱いたまま、ただ黙ったまま先に進むティナの背中を追いかけ続けた。




本当に久しぶりに本編を書いたので、だいぶ感覚を取り戻すのに苦労しました。


合間に過去の話を振り返ったりして、話の内容を確認しながら、どうにか書き上げることができました。


……いい加減完結しないとまずいですね。前に考えていた新作は、新たに思い浮かんだ新作にもみ消されてしまいましたし、本当に、もっと素早く丁寧に仕上げなくては!


感想・評価、ワールドFFをプレイしつつ待ってます!


なんとなくで買ってみたのですが……ほっこりしていて、個人的に好きです♪

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