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34、妖精さんの正体を見破りました

前回の長編はまだ執筆中です。完成するまで、本編のほうをお楽しみくださいまし。

ズバンというけたたましい轟音とともに放たれるいくつもの風の弾丸。


僕はそれに当たらないように紙一重でかわしながら突き進み、魔法を放っていた術者を少しずつ潰していく。


もちろん殺してなんていない。ただ、顎を擦るようにして殴ったりして、軽く脳震盪を起こして立てなくしているだけだ。


晴れてあの水牢から脱出した僕だけど、部屋の外に出た途端、見張りの敵兵に見つかってしまった。


仲間に知らされるのはまずいとすぐに襲い掛かったものの、一足違いで、魔法による伝達がされてしまっていた。


そこからは、まぁお察しの通り……部屋という部屋から剣やら槍やら杖やらをもった敵がわらわらと出てきて、容赦なく僕に一斉攻撃を仕掛けてきた。


よほど訓練されているのか、その連携っぷりといったら、僕でも少し手を焼くほどであった。狭い一本道を利用した、前後からの挟み撃ちに加え、前衛に盾やら鎧やらを身に纏った重剣士を布陣、その後ろに魔術師や弓兵などの遠距離部隊を展開した、典型的ながらも厄介な陣を張られてしまったのだ。


素手での戦いはできるものの、やはり刀のない戦いは少々分が悪く、ちょうど最後の一人を昏倒させた僕の身体は無傷とは言えない状態だった。服の下から、赤黒い血が少しだけ滲み出してきていた。


「はぁ、はぁ、げほっ。さ、さすがに、フルプレートアーマー兵を素手で全滅させるのは、無理があったかな。もう手も足も痛くてしょうがないよ」


「とか言って、ほぼ全員一撃で殴り倒してたじゃんか。敵さん、自慢の剣が足技一本でバキバキ折られるもんだから、もう涙目通り越して泣いてたぞ?」


ひょこっと僕の頭の上にずっと寝っ転がっていた妖精さんが、ぴょんと僕の前に降り立って、呆れた物言いで首をやれやれという感じでふった。


戦っている間も、ずっと僕の頭の上にいたはずなのに、妖精さんの身体はまったく傷どころか、埃ひとつついていなかった。途中から僕も妖精さんを気遣う余裕がなくなっていたんだけど、あの状況で傷なしって、どういうことなんだろう……まさか自分にだけ防御魔法とか掛けてたんじゃないだろうね?


「あれま、腹が斬れてるじゃないか。しょうがないな……ほい『エンジェルブレス』」


と適当に言った妖精さんの指先から、春風のように暖かい風が吹き出し、僕の身体全体を撫でていく。


妙に心地のいいそれは、まるで僕の身体を溶かしていくかのように、甘く、優しく僕のまわりを駆け回る。


「……あ、あれ? 傷が、塞がってる」


風が止み、妙に身体が軽いと思ったら、体中にあった細かい傷がすべてきれいさっぱりなくなっていた。


服の中を覗き込んでもみたけど、お腹にあったであろう、血だまりの出来ていたあたりも、何事もなかったかのように、いつもの傷無しの肌になっていた。


「そういやカイト、今まで回復魔法なんて頼ったことなかったもんな。ほぼ無傷で敵を屠って、むしろ敵を葬ったあとの、屋敷に戻ったときのほうが生傷が絶えなかったような感じだし」


妖精さんはまるで可哀想な子供を見るような、憐れむような目を僕に向けてきた。


妖精さんの言うとおり、屋敷で優奈やフィーたちと過ごしているときのほうが何かと傷が絶えなかったけど、そんな目で見ないでよ! 悲しくなってくるじゃないか!


「んじゃ、傷も治ったことだし、さっさと先へ進もう。もたもたしてると、脱出もできなくなるかもしれないんだから」


そう言って妖精さんはぴょんと、再び僕の頭の上に飛び乗ってきた。いやまぁ軽いから別に構わないんだけどさ、動けるなら自分で動こうよ。


と、心の中で妖精さんに軽く毒づく。どうせ僕の考えていることはお見通しなんだろうし、わざわざ声に出すのも面倒だし、これでいいや。


僕はすっかり気を失った敵の間を歩き、前へと進んでいく。意識を集中して自分を中心とした円状に気配を察知しようとしてみたが、周辺にそれらしい反応はなかった。どうやらここに集まったのがこのあたり一帯の総力だったみたいだ。


素手の、何の武装もしていないただの高校生にこれだけの仕打ちって、もはや嫌がらせの領域を軽く超えているよ。


……ここ最近、こんな戦いしかしていないような気がする。ここに連れ去られる前にも、似たようなことを風紀委員の皆様にされていたし。


あのときも、前衛職と後衛職の連携がしっかりとれていて、なかなか大変だったなぁ。あのときはムラマサがいたから特に傷を負うこともなかったけど。


あれ、なんだろうこの感じ。なーんか引っ掛かるような――――


「ちょ、おいカイト! そっちは下に行く階段だ! 下じゃなくて上に行けってさっきも言っただろ!」


「いたたたたっ、ちょ、痛い! 痛いから耳を引っ張るのはやめてって!」


ぐいぃっと僕の耳が上へ思いっきり引っ張られる。妖精さんめ、僕の耳はハンドルや手綱じゃないんだからね!


僕は無意識に階段を降りようとしていた足を止め、その対面の扉の先にある階段から上の階へと昇って行く。燭台の明かりしかなく、少々薄暗く、廊下と比べるとかなり古めかしい感じがする石造りだ。


「そういえば、部屋から出てすぐ戦闘になっちゃったからうやむやになっちゃったけどさ……実のところ君って結局何者なのさ」


石畳の階段の感触を草履越しに確かめつつ、僕は頭の上で眠そうにだらだらしている妖精さんに問いただしてみることにした。


しばらくは敵も出てこないみたいだし、今のうちに気になることは聞いておいたほうがよさそうだ。


「うーん、まぁ別に難しい話じゃないんだけどな……僕は君がいつも言っている、脳内で作られたもう一つの人格、なんかじゃないってところは、なんとなく察してもらえているかな」


声で答えるかわりに、僕は右手を軽く上げてひらひらと揺らす。妖精さんはまだしも、僕のほうはあまり声を出すと、敵に気付かれる危険性がある。できるだけ僕は声を出さないようにしていよう。


妖精さんは僕の行動を肯定と見なしてくれたようで、くいくいと僕の髪の毛を引っ張って遊びながら、すぅっと息を吸い込んで、ふぅっと面倒そうに吐いた。


「僕の正体は、確かに人格の生み出したもう一つの人格だ。だけど僕は、カイト。君の人格から生まれたものじゃないんだ」


「僕じゃない、別の誰かのもう一つの人格……」


ということは、僕の頭の中には、今まで僕じゃない誰かの作り出した人格が勝手に棲みついていたってこと?


寄生虫とかそういう類のものは確かにいるけど、寄生する人格なんてものがあったとは……妖精さんは別にいても害はなさそうだ(質問するとロクな答えは返ってこない)けど、今まで自分の意識の中に他人の別人格がいたっていうのは、なんとも気持ちのいい話ではないね。


「ま、気持ち悪いのは確かだ。けど、これも、彼女が君のためを思ってやったことなんだ。そこのところは信頼してあげてほしいな」


どうやらこの妖精さん、誰かが意図して僕の意識下に潜り込ませたみたいだ。


わざとこんなことをするなんて、なかなか正気を疑いたいところだよ。


だけど、それが妖精さん曰く、僕のため、だという。確かに妖精さんのおかげで監禁から脱出はできたけど、普段は相談してもまともな回答が返ってこない、面倒なだけの存在なだけだしなぁ。


いったい、何が僕のためなんだろうか。


回りくどくて、質問にはまともに答えなくて、おまけにだらしない。だけど、いざってときに頼りになる、か。さっき出くわした敵とはまた違う取っ掛かりみたいなのがあるんだけど、なんだろう、この感じ。


考えてみればみるほど、どこかで同じような人と出会っていたような気がする。


「あともう少しってところか。さっさと思い当ってほしいものだけど、僕が直接教えるわけにはいかないし……そうだ、ひとつヒントを上げようじゃないか」


「ヒント?」


何やら僕の頭の上でぶつぶつ言っていた妖精さんが、いきなりヒントをやろうなどと言ってきた。また僕の心の中を読んだみたいだけど、今はそのことを責めている場合じゃない。


ヒントっていうのは、たぶん妖精さんの元となった人格の持ち主のことだろう。それがわかったところで、どうにかなるわけじゃないけど、気になるものが解決するのは僕としても望ましいことだ。


妖精さんは僕の頭から降り、僕の肩にちょこんと座ると、耳元に顔を近づけてきた、ような気がした。


耳のあたりに小さな吐息のようなものがかかることからそう判断したけど、たぶん間違っていないと思う。


「ではヒントです。僕の元となった『彼女』は、誰よりも長く、この世界の君を見ていた方です」


いきなり敬語になった妖精さん。クイズ番組の司会者にでもなりきっているつもりなんだろうか。それにしてはなんか違和感を感じたけど……


いや、それよりもヒントのほうが大事か。僕のことをずっと見ていた、か。そうすると、姉さんや志穂かな。いや、それとも幼馴染の優奈? 自他ともに認める荒ぶるストーカー少女こと美琴かもしれない。


……いや、ヒントの中には『この世界』という言葉が入っていた。ということは、『モスカル』なんていうこの世界に飛ばされてからの話か。


フィーは、確かにいつもそばにいてくれたけど、こういった力は持っていなかったと思う。ムラマサはずっと一緒にいるけど、ムラマサはこんな回りくどいことなんてしないで身体ひとつで突っ込んでくるようなタイプだ。


エルも候補にあげられそうだけど、そもそもフィーとかと違ってそこまで接点もないし、除外してもいいだろう。


そもそも、この多重人格を他人の意識に植え付けるっていう時点で人間離れしているんだ。魔法とも違う、何かもっと違う超越した力によって創り出された――――


造り……出された……


「アル……ティナ……」


そう口に出したとき、僕の頭の中に浮遊していたパズルのピースがぴたりと当て嵌まっていく感じがした。


創造(、、)を司りし女神アルティナ。いちいち回りくどい言い回しをしたり、質問をはぐらかしたり、雲の上で仕事もしないでゴロゴロとしている。けど、本当はものすごい力を持った神様で、ありえないようなこともさも簡単そうにこなしてしまう正真正銘の神様。


そして、僕が初めて『異世界で出会った人物』でもある。


「あぁ、ようやくこのときがきたのね。もしかしたらこのまま気づかれないまんまなんじゃないかと、冷や冷やしたわ」


いつの間にか僕の目の前に滞空していた妖精さんの口調は、さっきまでのものとは全く違うものになっていた。この飄々とした喋り方、やっぱり僕の予想は間違いじゃなかったみたいだ。


妖精さん……いや、アルティナのもう一つの人格――――


あぁもうややこしい! 雲の上で寝そべっているほうがアルっていう略称だから、こっちは後半の『ティナ』って呼ぶことにしよう。


ティナはふぅ~、と息を吐きながら瞑想のような体勢を空中で取り始める。するとちょうどつむじのあたりから髪の毛の色が僕と同じ黒から淡い水色へと変化していき、さらさらのロングヘアーへと変貌していく。


顔や体つきも、僕をデフォルメしたような姿から、アルをデフォルメしたような姿へとじょじょに変わっていく。


そして仕上げとばかりに、服も僕の着ているような和服から、アルティナがいつも着こなしている、白いローブのような服装へと着替えていた。


「これが本当の私の姿よ、カイト君。びっくりしたかしら?」


小さいが、手を頬にあててわざとらしく微笑むその姿は、間違いなく、あのお騒がせ創造神アルティナのものだった。背中に生えている翼はあの青白い妖精のようなものではなくなり、天使がつけているような真っ白い羽毛に変わっている。


僕の口は……動かない。手も、足も、全身が驚きの余りすっかり動きを封じられてしまったようだ。


「あらあら、こんなに驚いてくれるなんて、お姉さん嬉しいわ。あ、さっきまでの口調は、私が『らいとのべる』って言われている本から独学で学んだ男の子の口調よ。なかなか様になってたでしょ」


いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、ティナが僕のまわりをぐるぐると楽しそうに回る。姿形はどこからどう見てもアルティナだけど、仕草とかはむしろさっき以上に妖精という感じだ。この自由奔放というか無邪気なところというか。


僕は驚愕の事実を知って発動してしまったこのフリーズ魔法が解除されるまで、楽しそうに喋りながら飛び続けるアルティナの姿を、唯一動く眼でずっと追った。


創造神が作り出した、もう一つの小さな創造神。性格やら、僕の脳に潜伏していた件はひとまず置いておくとして……どうやら僕は心強い仲間を得ることに成功したようだ。


がつん。


「いったーい! 何よこの燭台! 私の飛行軌道上にあるなんて、どういうつもりよ! むきぃー!!」


……心強いんだか、頼りないんだか、よくわからないけど。

というわけで、長かった妖精さんの正体がようやく判明しました。


もっとたくさん伏線とかを忍ばせておければもっとおもしろくできたんですが……過去でそれを張らなかった自分をちょっとOSHIOKIしておきたい気持ちです。力不足で申し訳ありません。


……それともうひとつ。何度も投稿が遅れてしまい、申し訳ありません! 

特にこの1月はテストが何度もあって――――と、言い訳は無しでした。

なかなか小説を書くことはできませんでしたが、サイトのほうをたまにちらりと見ると、感想が何通か届いている日がありました。『おもしろい』と言ってもらえる感想も多々あり、本当に嬉しかったです!


これからもがんばって書き続けますので、どうか読者の皆様、これからもよろしくお願いします!!


感想・評価、チェインクロニクルを再びスマホでプレイしつつ待ってます!


……1週間でランク107って。しかも、4凸がこうも簡単にできてしまうだなんて。


SSRの排出率が1%を切っていたあの頃が懐かしいです。

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