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31、神をも巻き込みました

遅れました!すみません!

「うわぁ、すごいことになってるわね」


創造神としての執務をほっぽり出し、アルティナは水晶玉越しに今世紀最大級の戦争を観戦していた。水晶玉に映るのは、陽動部隊として奮戦するサファール王とその娘エリス王女の中央部隊、その最前線の映像。


水晶玉からは色とりどりの光線が飛び出し、戦闘の激しさをより強調していた。


「サファールさんも一撃必殺ばかりしていてすごいけど、それ以上に王女ちゃんがとんでもないわね。今放ったのだって、超戦略級魔法よ?それをまああんなにバカスカと打って……ガス欠を起こさないのが不思議でしょうがないわ」


映像の中の光景は、まさに蹂躙という言葉がふさわしいと言えるほど、一方的な戦いであった。巨大な魔物は国王サファールの振るう魔大剣に一刀両断され、山のような魔物の軍勢は王女エリスの放つ魔法によってことごとく殲滅されていた。


こんな激しく、そして人間が魔物に対して一方的な戦い、そう簡単に見ることはできない!アルティナは一人、興奮に鼻息を荒くしていた。


しかし、そんなアルティナにはこの一方的な戦いの中に、ある疑問を抱いていた。


「う~ん、明らかに王国軍が有利なのに、どうして前進しないで、ずっと城からちょっと離れたところで陣取っているのかしら。いくら優勢とはいえ、今回の作戦は前進しないと絶対に勝てない戦いなのに……」


そう、今回の作戦の最終目的は『勇者カイトの奪還』であって、このまま立ち往生していても決して作戦が成功するわけではない。むしろ体力を無駄に消費し、可能である作戦すらまともに遂行することができなくなってしまう。


幸い、王国軍のほうにはサファールとエリスの活躍により未だに死傷者が出ていないものの、このまま続けていれば、人の身である彼らにはいずれ疲労が蓄積し、やがて態勢を崩すことになるだろう。


「私だったらこうガツーン!と、真正面から一気に敵の本陣を叩きに行くのに……」


そう言って、アルティナは剣を振るように腕を振り下ろす。へにゃりとしたアルティナの手は、綺麗な円の軌跡を辿り、そのまま執務机の角へと思いっきりぶつかった。


瞬間、電撃にも似た激痛がアルティナの手に襲い掛かった。


「いにゃああああぁぁぁ!?」


じたんじたんごろごろごろごろ……


痛みに悶えながらアルティナは雲でできた床を転げまわる。とても他人・他神には見せられない醜態だが、アルティナは神としての威厳を投げ捨てる勢いで痛みを行動に移していた。


「うぅ~、どうして!私、神様なのに!どうして机の角に手の甲をぶつけたくらいでこんなに痛いの!?」


神様が誰に向かって文句を言っているんだ、とツッコミが飛んできそうなことを言いつつ、ようやく痛みが落ち着いたアルティナは再び執務机の上にある水晶玉を覗き込んだ。


「……それにしても、やっぱり前進しようとしないわねぇ、いったいどういうことかしら……」


それほど長い時間は経過していないものの、いい加減動きがあってもおかしくないとアルティナは踏んでいた。だが水晶玉の中では同じ場所でサファールとエリスが凶悪な魔物を屠り続けているだけである。


さすがにここまで動きがないと興の醒めるというもの。若干の飽きが生じ始めたアルティナは水晶玉の映す場所を指でスクロールさせてみた。


「こっちは右翼の戦いかしらね。中央ほどじゃないけれど、こっちもなかなかやるわね。左翼のほうはあんまり戦闘が激化していないわね。川沿いだから下手に動き回れないってことかしらね」


と、適当に分析しているとき、ふとアルティナは一つの違和感に気が付いた。


「そういえば、さっきからカホちゃんやミコトちゃんたちの姿が見えないわね。作戦が作戦なだけに、てっきり前線で戦っているものだと思ったのだけど」


彼らの実力は、一人ひとりがサファール王やエリス王女たちと勝るとも劣らない実力者ばかり。そんな彼らが戦闘行為をすれば目立たないわけがないのだが……


「右翼にも左翼にも、中央にも……どこにも影も形も見当たらないわね……でも、彼女たちがカイト君の救出で戦闘に加わらないわけがないし……でも、だとしたらいったいどこにいるのかし―――――」


ら、と言いかけたところで、何気なしに振り向いた先の視界に映ったものを見て、アルティナはその言葉を飲み込んだ。


「あら、久しぶりじゃないアル」


そこに立っていたのは、得物を腰に差した海斗の実の姉、果穂であった。


そう、先ほどまでアルティナが気になってずっと探していた人物の一人だ。


「な、カホちゃん!?いったいどうしてここに―――――」


「う、うわぁ……いつ見ても、やっぱりここの雲海はすごいなぁ……」


「ととっ、あぶねあぶね。この転移装置ってやつは便利だが、ちょいとばっか乗り心地が悪いな。もう少し改良したほうがいいんじゃないのか?」


「……この技術力は賞賛に値する。けど、まだ改良の余地があるのも事実。個人的にとても興味深い」


「そういうものなのでしょうか。私はそういうところの知識は少々不得手で、よくわかりません……」


果穂に問い詰めようとするアルティナであったが、青白い光と共に次から次へと見知った顔ぶれが現れては各々の感想を述べていくせいで、その言葉はどんどんかき消されていってしまっていた。


(というかこの光といい転移の仕方といい、これってどう考えたって、私がカイト君のお屋敷に設置してあげた『天界』専用の転移装置じゃない!カイト君以外は誰も知らないはずなのに、どうして?)


などと疑問に思っている間にも、どんどんとアルの部屋に新たな人が転移してくる。


「ここは……って、私たち、雲の上に立ってます!?もしかして、私たち、死んじゃったんですか!?」


「大丈夫よサーシャちゃん。まぁ確かにこの感じは死後の世界を連想させるけど……あれ、神様がいるところだから、あながち死後の世界っていうのも間違っていないのかも」


「ユナ姉ぇ……それ、余計に怖いからな!そんなこと言うと、本当にここが死んだあとの世界みたいに思えちまうじゃねえか!」


「こ、ここが天界ですか……この環境下ならもしかしてあの薬の調合も容易にできるかも!」


見れば、元々異世界に住んでいる住人まで何人か混ざっていることにアルティナは気が付いた。本来、彼らがここにくることはありえてはいけないのだが、転移装置の誤作動か、それともアルティナの調整が適当だったのか、彼女たちまでこの場に存在してしまっていた。


(はぁ……なんだか知らないけれど、厄介な事情が絡んでいそうで嫌ね……)


あまりに急すぎる展開に、混乱も一周し、逆に冷静になったアルティナは、ゆったりとした動作で彼らの前に降り立った。


「あなたたち、ここは仮にも神の住まう領域よ。あまりにも不作法だと私もちょっと荒っぽいことしないといけなくなっちゃうんだから」


腰に手を当て、果穂の前に仁王立ちする。いつもはダランとしている姿とは違い、どこかしっかりとしたものを感じる態度に、普段のアルティナを知っているものは少しだけ違和感を感じた。


だがしかし、果穂は依然堂々とし、むしろその豊満な胸を張り上げ、真っ向からアルティナを見据えた。絶対的な自信が果穂から発せられているのは言うまでもない。


「そんなに怒らないでちょうだい。今はちょっとばかり緊急事態なのよ」


「緊急事態?」


一体何が緊急なのだろうか。彼らに焦りの色は感じられないし、彼女たちが関与しているであろう地上の戦闘は相も変わらず人間側が一方的な蹂躙を果たしている。


だが先ほどから戦場にまったくもって姿を現さないことも含め、この行動には何らかの意味がある。そう踏んだアルティナは、創造神として持ちうる知識と直感を総動員し、彼女たちの目的を推測していく。


(王国軍がまったくもって進軍をしないこと。カイト君が捕えられている場所。魔物の数。わざわざ戦場から離れた転移装置を使ってまで私のところに来たこと……)


少しずつパズルのピースをはめ込むようにして推理していくアルティナ。


そして、ひとつの仮定……否、確信にも近い閃きがアルティナの脳裏で弾けた。


「……大方、私の転移の力を使って敵の根城の中心部あたりまで飛ばしてほしい、ってところかしら」


「あら?」


意外なアルティナの発言に果穂は思わず声を上げて驚いた。しかしすぐにいつもの不敵な笑みを浮かべてアルティナの目を見た。


「そこまでわかっているのなら、話が早いわ。それじゃあさっそくお願いしてもいいかしら?」


口調はいつものような軽やかなもの、しかし纏っている雰囲気は殺気に満ちている。しかしその殺意はアルティナではなく、この場にいない他の者……おそらく海斗を攫った者に向けられているのだろう。


アルティナはしばらく果穂の目を見据える。栗色の綺麗な瞳に映っているのアルティナの顔……とは別の、強い何かが蠢いていた。嫉妬、願望、怨嗟、悲哀、狂気……混沌とした濁りを垣間見たが、それすらも凌駕するほど、果穂の瞳には強い、とてつもなく強い、姉の矜持とでも言うべき信念があった。


長い沈黙。アルティナや果穂はもちろん、他の面々も、まるでここだけ時が止まったかのような錯覚に陥りそうになるほどの重苦しい沈黙があたりを染めていた。


「はぁ……まったくあなたたちという人間はどうしてこうも神様に対して軽々しいのかしらね」


最初に沈黙を破ったのは、創造神アルティナだった。呆れからなのか、それともただ単に沈黙の息苦しさに耐えきれなかったのか、はたまた両方か……アルティナは大きなため息とともに、果穂たちのことを皮肉るような言葉を漏らした。


「その反応、やってくれると、捉えていいのかしら?」


「えぇ、他でもないカイト君の救出ですもの。神である私は、地上に直接制裁を加えられないし、どちらにせよあなたたちにやってもらうしかないもの」


それを皮切りに、果穂の後方でずっと黙っていたロロたちはわあっと歓声をあげて喜び合った。いつも無口な美琴もこっそりと胸元でガッツポーズを作っていた。


「ただし……一つだけ条件があるわ」


そんな喜びの輪に水を差すように、アルティナの言葉が響き渡る。その瞬間、場は再び静寂に包まれた。


「……条件?」


「ええ。事情がどうあれ、神は何の見返りもなしにあなたたち人間を救済することはできないの。願う物の規模に応じて、それ相応の対価をもらわないと、私たちも力を発揮することができないの」


アルティナとしても、本心では彼女らに無条件で協力したいところなのだが、残念ながらこれだけは神々の取り決めによって固く守られている、彼ら神にとっての「誓約」のようなものなのだ。


それは彼らの力の奥深くに埋め込まれ、条件を満たさない限り、その力を行使することができないようになっているのだ。


「そう……それなら仕方がないわね」


顎に手を当てて何かを考えていた果穂が不意に顔を上げた。先ほどまでしきりに水晶玉のことを気にしているようであったが、やがて何かを決心したかのような顔つきになった。


「対価と言っても、そこにある丸っこいやつのせいで、カイトの生写真による取引は難しそうね。どうせあなたのことだから、いろんなところを覗き込んでるでしょ?」


果穂の言葉を聞いた女性陣のジトッとした視線がアルティナに浴びせられる。そんな視線から逃れるかのように、アルティナは明後日の方向を向いて、吹けていそうで吹けていない口笛を吹いていた。


「だから……こうなったらもう、奥の手よ!」


そう言って果穂は、懐に左手を入れたと思ったら、何かを勢いよく抜き出した。


それは、大きな布……いわゆるバスタオルであった。


いったいそんなものを体のどこにしまってたのだとこの場にいる誰もが思ったが、それは適当に置いていかれた。


その布を、果穂は高々を持ち上げ、口を大きく開け、天界中に響かんばかりに叫んだ。


「これは、何を隠そう、海斗がいつも使っているバスタオル!ではなく、海斗が使っていたタオルケットよ!お風呂上りに使うようなものじゃなくて、暑い夏に汗だくの体に巻きつけて寝るためのものよ!」


「な、なんですって!?」


アルティナの体に、電撃どころか、雷が数発直撃したくらいの衝撃が走った。


アルティナは覗き見だけは誰よりもできたが、神という偉大な存在であるが故に、直接的な接触だけはどうしてもうまくできずにいた。


そんな彼女にとって、今果穂が握りしめているものは今までにないほどの超レアアイテム。喉から手が出るほどほしい代物だ。


「さらに、これはなんと今年の初夏から使い始めて、一度も洗っていない、海斗純度極高の最高級品なの。これを私は……対価として支払うわ!!」


バシンと、果穂はアルティナの顔めがけてタオルケットを投げつけた。それは空中で開き、アルティナの顔に覆い被さった。


「ふが…………っ!?この匂い……間違いなくカイト君のもの。スンスン……はぁぁぁぁ……スンスン……」


完璧な変態と化した創造神。他の神がみたらおそらく卒倒ものであろうが、変態神はそんなことは意識の彼方に追いやり、思う存分深呼吸し続ける。


「はぁ……はぁ……な、なるほど。確かにこれほどのものなら、対価としては十分だわ」


「それじゃあ……契約は成立した、ってことかしら?」


「ええ……万物の創りを司りし神、アルティナの名において、この契約は成立したことを宣言するわ」


そう言った途端、ブワァッとアルティナの体から得体の知れない波動のようなものが発せられた。


力の解放……この時初めて、果穂たちはアルティナの真の力の一部を垣間見たのである。


(なるほどね。さすがに神を名乗っているだけあるわ。こんなのの本気を相手にしたら、私たち全員で挑んでも負け確定ね)


果穂は言葉にこそしなかったものの、心の中でアルティナのことをこのとき本当の意味で認めた。それがどういう意味でなのかは、果穂本人にしかわからない話であるが……


『創造神アルティナの名において、彼の者たちに力を施さん……』


いつものアルティナの声ではなく、幾人もの声音が混ざり合った不思議な声……その声が響いた途端、果穂たちの足元に青白い光の魔法陣が出現した。複雑な文字が羅列された円状の光が縦横無尽に明滅する。


今までにない体験に目を白黒させる一同。ロロやサーシャなど、あまりの神々しさに、思わず跪きそうになるほどであった。


「……カホちゃん」


魔法陣の展開が最終段階になり、青白い光が包み始めた頃になって、いつも通りの声音になったアルティナが果穂に声を掛けた。


「お願い……カイト君を、救ってちょうだい」


その言葉を最後に、果穂たちの視界は完全に光に呑まれ、眩しさから閉じた瞼を再び開けたときには、目の前にはひどく広い庭らしき風景と、黒い城が見えていた。


どうやら転移は成功したらしく、『黒の魔城』内部のどこかに瞬間移動したようだ。


果穂は光の残滓が上る、暗雲の広がる空へと叫んだ。






任せろ!と。

少々定期テストと部活の関係で遅れてしまいました!申し訳ありません!

次回、いよいよ彼らが攻め込みます!


感想・評価、疲労と眠気に奮戦しつつ待ってます!


今週……まったくもって休めてないんです(泣)


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