24、過去に思いを馳せました FInal!
投稿がおもいっきり送れてしまい、本当に申し訳ありませんでした!
子供たちが起きてからの作業は、かなり順調に進んだ。それこそ、先ほどの研磨の時間がどれだけ長かったかを思い知らされるくらい、円滑に作業は進められた。
とはいえ、それだけ早く進められたのは他でもない姉さんの実力があってこそだろう。ほぼすべての木材の研磨・切り出し・加工を一手にこなし、【僕】らの世話もそつなくこなす。とても僕と2、3歳上だというだけでは説明がつかないくらいの手際に、思わず僕は姉さんの実年齢を疑ったくらいだ。
そんな姉さんは、木材に凹凸を作り出し、それをはめ込んで接合する手法を取ったらしく、【僕】やサクヤ、志穂でもパズル感覚でどんどん机を組んでいくことができた。
まぁ姉さんの予想していたであろう形とは少し違って、無理やり嵌めてしまったところとかもあってだいぶ不恰好になってしまったけれど……姉さんは怒るどころか『独創的で最高ね!』と嬉しそうに笑った。
変態なことを除けば、本当にいい姉だったんだな、って改めて思ったね。学校に通っていたときに、兄弟姉妹のいざこざというのは嫌というほど聞いていたから、自分が恵まれているんだなって、実感するよ。
「あぁ、志穂もサクヤちゃんも可愛いけど、やっぱり海斗は別の意味で可愛いわぁ。もう、私を萌え殺したいのかしらあの子は!もう、もう!!」
……ホント、変態でなければ完璧なのになぁ……どうしてこうなったんだろうか。
「さて、と。あとは足がぶれない様に中軸を挿して、と……よし、これで完成ね!」
姉さんが最後の仕上げで補強やらなにやらを済ませると、そっとの足の底を下にして、机を立たせようとする。すると机は、見た目の不恰好さとは裏腹に、力強くその場に立ち上がった。
「出来たの?これでもう完成なの?」
「ふわぁ……立った、立った!」
「すごい……本当に作れちゃった……」
自分たちの手で作り上げたということが本当に嬉しくてしょうがないのだろう。【僕】たちは目を輝かせ、まるで宝物でも見るかのような様子で、自作の机を眺め続ける。
木の素材を生かし、なおかつ作業がしやすいように机の傾きはほとんどない。あれだけ曲がりくねった足だというのに、本当に不思議だ。どちらかというとアートに近いような造型だ。
おそらく姉さんが仕上げの補強の際に、机の傾きのチェックと細かな修正を加えたのだろう。足を綺麗に整えることも出来たのだろうけど、それでは駄目だと判断したんだと思う。
現に、笑顔満載の【僕】らを見つめる姉さんは、いい仕事したぜとでも言いたげな、とても綺麗で優しげな笑みが浮かんでいた。
「あとはこれにニスを塗って完成なんだけど……これで終わり、っていうのはなんだか寂しいわね」
これだけ独創的にしてもなお寂しいと評する姉さんは、いったいどこを目指しているのだろうか。どうか奇抜すぎるものではなく、普通に部屋で使えるものを発明していただきたいものだ。
「そうねぇ……そうだ!」
姉さんは何かを思いついたらしく、急にスカートのポケットを高速で漁り始めた。あまりにも激しく漁るものだから姉さんのスカートがかなりしっかり捲れて中が見えてしまっているので、思わず目を逸らす。
「カ、カイト君は見ちゃダメ!」
「だめーっ!」
【僕】はというと、サクヤと志穂の二人掛かりで目隠しをされていた。状況がまったくわからない【僕】はただ首を落ち着かない様子で振るしかできず、かなり混乱していることがわかる。
しばらく金属と金属がぶつかり合う音などが聞こえてきたあと、『あったあった!』と嬉しげな声が聞こえてきて、僕はそっと振り返ってみた。
「いやぁ、あるかどうか不安だったけど……さすが私のポケット、私の望みをちゃんとわかっているわ!」
スカートのポケットにいったい何を望んでいるのやら……そんなよくわからないことを言う姉さんの手には、木の柄がついた何本かの刃物――――いわゆる彫刻刀というものが握られていた。
なんでそんなものがポケットに入っているのか、どうして今出したのか、何ゆえ少し血の跡みたいなのが刃の部分についているかなど、いろいろとツッコミたいことが盛りだくさんだけど……
姉さんは彫刻刀の刃先を少し見つめた後、呆然としている【僕】らのもとまで歩いてきて、
「はい、これ使って」
と言って、【僕】とサクヤに一本ずつ彫刻刀が渡された。
「せっかくだから、記念にこの机に『私たちが作ったんだ!』っていう証を残しておきましょ♪」
あ、志穂はまだちょっと危ないからお姉ちゃんと一緒に使いましょうね、と姉さんは付け足した。
……この場面……そうだ、昔こういうことがあったんだったっけ。少しぼんやりとはしているし、自分視点じゃないからやっぱりよくわからないけれど……
『それで、たしかこのあと、僕とサクヤは……』
僕は和気藹々と机に自分の言葉を綴っていく子供たちに近づいてみた。
姉さんと志穂は二人仲良く、一本の彫刻刀で文字を彫っているようだ。『み…ん…な、だ…い…す…き…」と一言ずつ声に出しながら一生懸命に彫る志穂と、それを優しくサポートする姉さんはなんとも微笑ましかった。
そしてもうひとつのペア、【僕】とサクヤは隣り合って、自分の気持ちを文字として木にぶつけていた。僕のほうはオープンに、サクヤのほうはみんなから見えないようにこっそりと。
「よいしょ、よいしょ……うん、できた!」
「わ、わたしも彫れました!」
しばらく真剣な様子で彫っていた二人。どうやらイメージどおりに出来たようで、本当に嬉しそうにしている。飛び跳ねたり、クルクルと回ったり…………そういえば、こんな風にあの時ははしゃいでいたっけ。
「へぇ、どれどれ~?」
志穂のは少し前に出来たようで、姉さんは彫刻刀を回収しつつ、僕らの彫った文字を覗き込んだ。
「ごふっ……」
あ、なんか血吐いて倒れた。
「『みんなといつまでもなかよくいられますように』ですって……?もちろんよ海斗、お姉ちゃんがずうっと守ってあげるから。ずっと……ずっと……ズット……」
あ、ダメだ、完全に目から光が失われてる。どうやら【僕】が彫った文字を読んだみたいだけど、一体全体何が姉さんの琴線に触れたんだろうか?
「サクヤちゃんはなんて書いたの?」
そんな姉さんなどには全力スルーの姿勢を取る【僕】はそうサクヤに聞いてみていた。
しかしサクヤは顔を赤らめて、
「ダメ……教えない……」
と言って俯いてしまった。
そっかぁ、と残念そうにしつつもすんなりと諦める【僕】。自分ながら、そこで強引に迫らなかったことがとてもいいと思います。この手の話は強引に聞こうとすると何かと面倒だからね。
……でも、ごめんねサクヤ。実はさっきちらりと何が書いてあるのか見えちゃったんだよね。
【僕】と姉さん&志穂の書いた文字は日本語で、サクヤはこちらの世界の言語だったから、たぶん【僕】が見ても何が書かれているかはさっぱりだっただろう。
だけど、異世界文字が読めてしまう現状に置かれている僕には日本語同然であり、あっさりと内容を理解することは出来た。
『……いやでも、子供だしこういうことはよくやるよね。だから別に僕が恥ずかしがる必要はないし、第一間に受ける必要もないじゃないか』
そのせいで僕は少しだけテンパッってしまっているけれど、誰も落ち着かせてくれるひとがいない今、時間経過に委ねるしかない。
『そうだぞ僕、いくらなんでも【いつかカイト君のお嫁さんになれますように】なんていうベタなものを読んだだけで取り乱すなんてらしくないぞ!恋に飢えた中学生か!』
などと勝手に一人で悶絶していると、急に姉さんがムクリと蘇生……もとい起き上がった。顔の一部が血まみれだったりで若干ホラーだけど、それ以上に子供たちが誰一人としてそれを怖がらない現状が僕は怖い。
「うぅ~、頭がクラクラするぅ……あ、忘れるところだったわ」
今度は何かを思い出したかのように、またスカートのポケットを漁り始めた。今度は先ほどより落ち着いた様子で、スカートも捲れることなく、すんなりとポケットから何か黒っぽいものが出てきた。
形状からしてあれはポラロイドカメラだろうか。撮った写真がその場で現像されるという、一昔かなり流行った物だけど……なんで姉さんがあんなものを持っているんだろうか。
「いやぁ、この間家の物置を漁って正解だったわね。まさかこんなにも早く使う機会が出てくるなんて」
まるで僕の質問を聞いていたかのような反応に思わずドキッとしたが、どうやらこちらに気づいているわけではなさそうだ。
「というわけでみんなー、これで記念撮影といきましょ?」
そう言って子供たちの目の前でカメラを構える振りをする姉さん。それを見た【僕】と志穂ははしゃぎながら、先ほど文字を彫り終わった机の前で思い思いのポーズを取り始めた。
そんな三人の様子をサクヤは戸惑った様子でオロオロと姉さんと【僕】と姉さんを交互に見る。
「あれ、もしかしてカメラを見るのは初めて?」
そんな様子を見逃すことなく瞬時に気づいた姉さんは、構えを解いてサクヤのほうに向き直る。
そんな姉さんにサクヤは好奇心半分、戸惑い半分という様子でコクッと静かにうなづいた。
「これは『カメラ』って言って、う~ん、なんと言えばいいかなぁ……風景の一部を切り取って、紙に映し出す機械、とでも言えばいいのかな……ま、思い出作りのためのステキ道具のひとつね!」
今のが精一杯の説明だったのだろう。姉さんは少し頬をひくつかせながら、無理に笑って見せた。本当はもう少しうまく説明したかったのだろうか、申し訳なさそうでもある。
しかしそんな拙い説明でも、他の子供より賢いサクヤはすぐにイメージが沸いたみたいで、『ふぉぉ』と目をキラキラとさせてカメラを見つめたり、ソッと撫でたりしてみていた。
「……うん、まぁなんとなくわかってもらえたみたいだし、いっか。それじゃあ三人とも、机の前に立ってね~」
姉さんがふたたび構えると、【僕】を挟む形でサクヤと志穂が立つ。志穂はにんまりと可愛い笑顔で、サクヤは少し緊張しているのか笑顔が少し引きつってしまっている。
初めてカメラの前に立つときというのは、何かと緊張するのが定番というか、サクヤもその例を抜け出なかったみたいだ。
姉さんはしばらくカメラを縦にしたり腕を伸ばして距離をつけたりしていたが、やがてカメラを下ろしてサクヤに呼びかけた。
「サクヤちゃーん、もしかしなくても緊張してる?」
「え?あ、は、はい……ちょっとだけ……」
恥ずかしそうに小さな手を胸の前で絡めながら、角の生えた少女は尻すぼみにそう返事をした。
それを聞いた姉さんは少しだけ唸ったあと、
「じゃあ一回、練習してみよっか。一人でもよし、志穂や私と一緒に撮るもよし。一度撮られる経験をしてみよっか」
と提案してきた。
よっぽど完璧な写真が撮りたいのか、相変わらず姉さんは小さい頃から妙なところでプロ意識が高い。
それを聞いたサクヤは『じゃあ……』と言って、一人の手を取った。
「ふぇ?」
その一人とは、一人だけずっとカメラのほうにボーッと間抜け面をさらしていた【僕】だった。
恥ずかしさ極まって、という様子で顔を真っ赤にして、目もぎゅっと瞑りながら【僕】の手を取るサクヤ。
その可愛くて必死な様子に、いつもは嫉妬の神になる姉さんが、はぁっと大きくため息を吐くだけでその行為を見なかったことにした。
すごい……サクヤの赤面すごい……あの姉さんに何も手出しをさせなかったよ。
「……一枚だけ、一枚だけ海斗とのツーショットを許すわ。でも勘違いしないでよね!海斗は絶対に渡さないんだから!ツーショットの写真だって、わたしのほうが何十倍も何百倍も持ってるんだから!」
こういうときだけ子供っぽい姉さんに、サクヤは思わずふふっと笑い、【僕】は何が起きているのかさっぱりという様子でニヘラと笑って見せた。
「くうぅ~!……志穂はわたしの足に引っ付いてなさい。それじゃあ撮るわよー!ハイ、チーズ!」
サクヤが【僕】と手を繋いで写真を撮ることがよっぽど悔しいのだろう、姉さんはもうヤケクソだという様子で少し乱暴にシャッターを切った。
「これはとても特別なものよ、大切にしなさい」
そして現像された写真をサッと引き抜くと、サクヤに手渡した。
『っ!?』
その瞬間、鈍痛が僕の頭に襲い掛かり、視界もぐにゃりと歪み始めた。色彩もぐちゃぐちゃになり、まるで反転させた世界のように見える。
『まさか……夢から醒めるってことなのか……?』
あの写真がサクヤの手に渡った途端に……ということはやっぱりあの写真が例の……
もはや姉さんや志穂の顔は意識の奔流に流されて認識することができない。【僕】においてはもはやどこにいるのかすらわからない状態だ。
それでも、渦の中心にいるサクヤだけはなぜか怖いほどはっきりと僕の視界に入り込んでくる。
サクヤはもらった写真をしばらくの間眺めていたあと、自分の胸に押し付けるようにし、搾り出すように何かを囁いた。
その囁きは、意識を手放す寸前の僕に、まるで矢の如く轟いた。
「大切にします……永遠に……死ぬまで一緒です……」
そのとき、僕は生まれて初めて、自分の心臓が飛び跳ねる感覚というものを味わった。
ようやく過去編終了しました!ここからはいよいよラストバトル……意地でも書き切って見せます!
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投稿遅れて、本当に申し訳ありませんでした!




