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23、過去に想いを馳せました Ⅶ

すみません、また一日遅れました!

机を新規で作るにあたり、姉さんの持っている金槌と釘以外にも材料が必要だ。ということで、【僕】たちは別々に行動して必要な材料を集めてきた。


材料といっても、子供の集められる材料などたかが知れており、広めの平たい木材と机の脚となる丸太数本などだ。城内や庭に積んであったものをかき集めてきたものだ。


道具のほうは一応手に入ったらしく、研磨するための紙やすり、木材切断用ののこぎり……ほかにも使えそうなものをひっちゃかめっちゃかに持ってきた。


いかにも子供らしくて微笑ましいのだけど……いかんせんこの計画には姉さんが関わっている。どんな結末になるのか怖くてしょうがないよ。


「それじゃあ今から作業に入ります。怪我をしないために必ず全員軍手をつけてください」


姉さんが少しかっこつけて指揮を執る。すっぽりと被った黄色いヘルメットには緑の十字架がつき、気合い十分、安全面も完璧という体だ。


そんな姉さんに子供たちも全力で敬礼。といっても姉さんの見よう見真似でやっているからいろいろとおかしな点があるけれど……とにかく制作意欲だけは高いみたいだ。


「のこぎりなどの刃物は危険だから私だけが使います。三人は釘打ちややすりがけ、ニス塗りなど大まかなところをやってもらいます」


てきぱきと指示を出す姉さんは、年齢よりも年上っぽく、大人っぽさが醸し出されている。いわゆる子供の『見栄っ張り』とは違う、本当のカリスマだ。


……これでもう少し性格がまともで、弟に本気で手を出すような変態じゃなければ最高の姉なんだけどなぁ。もちろん僕も姉さんのことは好きだけど、あれはさすがに度を越しているといいますか――――


そんなことを思いつつ、僕は続けて机制作の行く末を見守る。


どうやら姉さんの説明がうまかったおかげか、【僕】たちはのこぎりなどには手を触れず、早速木材のやすり掛けに取り掛かっていた。


姉さんが職人と見間違えるほどの腕前で形を整えた木材を、後方に待ち構えていた【僕】らが手に持った紙やすりで磨く。細かい傷や角張った箇所を丸くしていき、少しずつ触り心地をよくしていく。


僕らがひとつの木材に集中している間、姉さんは一人で別の作業に取り掛かっている。


素材をのこぎりで切断し、のみという道具で四角い凹凸を作っているようだけど……どうやら姉さんの頭の中にはすでに設計図と完成図が両方備わっているみたいだ。動きにまったくと言っていいほど無駄がない。


本来こういうものを作るときは必ず設計図を作って長さやらを正確に見定めなければいけないというのに……いい意味でも、悪い意味でもやはり姉さんは常識の枠に囚われていないみたいだ。


「……よし、我ながら上出来ね!」


カタッとのみを余った木材の上に置き一息。姉さんは額の汗をぐっと手の甲で拭うと満足そうにはにかんだ。


その姿は本当にかっこよく、思わずドキッとしてしまったのは夢の中だけの秘密だ。


「さて、と。みんなー、もうやすり掛けは終わったぁ?」


後方で作業をしていた【僕】らのほうへ姉さんが振り返る。


「うん、もう終わったよ、お姉ちゃん!」


「うわぁ、こんなにスベスベになった!」


「すべすべ!すべすべ!」


どうやら子供たちのほうも作業を終えていたらしく、磨き終わった木材を触ったり撫でたりしてご満悦のようす。よほど頑張ったようで、表面はかなり滑らかに仕上げられたようだ。


これには姉さんも驚いたらしく、おもむろにその木材をそっと撫でた。


「これだけ綺麗に磨くのってかなり大変なはずなんだけど……さすがは子供、私とは底力的な部分が違うわね……」


いや、そんなおばさんみたいな事言ってるけど、姉さんもまだ10歳前後でしょうが……精神年齢いったいいくつなんですか!?


でも、確かに綺麗に仕上げられてる。今の僕では触れることは叶わないけれど、近くでジッと見れば、表面はかなり磨き上げられていることがわかる。


それはいい、それはいいんだけど―――


「……ところで、そっちのほうは磨いてあるの?」


子供たちの手前に積んである姉さんの切り出した部品の数々、それらは姉さんが積んだときそのままでそこに寂しげに鎮座していた。


子供たちのほうもそこにあったことに今気づいたらしく、「えぇ!?」と声を揃えて驚いた。


「もう!丁寧にやるのはいいけど、もっと他のほうにも目を向けないと!」


そう言って姉さんは慌てて部品の山からいくつか引き抜いて、すぐに紙やすりで磨き始めた。まるで機械でやってるんじゃないのかというくらい木クズが出ているのは、きっと僕の目がおかしいことになっているからなんだろうな……


子供たちのほうも現状がどんなものなのか直感で理解したようで、すぐに次の部品の研磨に取り掛かった。


さて、これだけでいつまで続くんだろうか……?





~少年&少女研磨中 しばらくお待ちください~





しばらくの間、木の上でザラザラの紙を滑らせるという作業を延々とこなし続けたせいで、一同はもう疲労困憊になってしまったようだ。地面だということも気にせず、その場に大の字で寝転がってしまった。


しかしこの空間、不思議な事に時間の流れがものすごくゆっくりちなっているようで、感覚的には二時間ほど掛かっていた作業も、太陽や空の感じからして三十分も経っていないようだ。


もしかしたら何か結界的な何かがこの空間には張られているのかもしれない。


『すぅ……すぅ』


ついでに睡魔の結界でも張ってあったのだろうか。健全なる少年少女と小さな職人はそのまま小さな寝息を立て始めた。よほど疲れてしまったのだろうか、だいぶ深い眠りに入ってしまったようだ。


「気持ち良さそうに寝てまぁ……この世は平和の塊だと信じて疑わないという感じがして、なんだかいいなぁ」


そんな風にこちらまで和ませられたせいだろうか……背後から近づいてくる存在に僕はまったくと言っていいほど気づくことができなかった。


「ふふっ、みんなお昼寝の時間なのですね」


いきなり聞こえてきた第三者の声。それは僕の心臓を鷲づかみにして放さなかった。


とっさにその場から跳び、すぐさま距離を取ろうとする……が幽体である今はそんなことはできず、足は虚しく空を切った。


「あ、そんなに驚かないでください。いきなり近づいたことは本当に申し訳なく思いますが、さすがにそこまで拒絶されてしまうと傷ついてしまいます」


そんな僕の様子に少し悲しげな表情で女性……サリーさんは、僕の肩をそっと掴んだ。


「……やはりあなたには僕が見えているんですね」


「はい、大変不思議に思いましたが…………あなたは、カイト君の未来の姿、といったところでしょうか?」


なんとなく察しはついていたけど、この人、どうやら幽体である僕の姿を見ることができるみたいだ。それだけでなく、僕の体にまで触れることができるっていうんだから驚きだ。


しかも、僕の正体まで見破ってしまうだなんて……この人、いったい何者なんだ?


「……失礼を承知でお聞きします。あなたは……サリーさんは一体、何者なんですか?」


頭の中で考えても出ないことは人に聞く。そう思った僕は、迷わず思考の中心人物にその人物自身のことを聞くことにした。


サリーさんは少しだけ驚いた表情を見せたあと、ふふっと上品に笑って見せた。


「そういう迷いのないところ、昔のマコト様にそっくりですね。それにその綺麗な瞳、マミ様の子である証ですわね」


「やっぱり、昔の父さんたちとは面識があったんですね。それもかなりしっかりと」


ええ、と言ったサリーさんは、少しだけ考えていますとでも言いたげな声を上げて、ふぅっと息を吐いた。


「……話すと長くなってしまいますので簡単にお話しますが、マコト様、マミ様、そして旦那様……あの御三方は異世界からの転移者でした」


そこからのサリーさんの話は、僕にはなかなか許容しがたい内容だった。


当時の父さんは、僕のときと同じように女性に追われていたらしく、それを助けようとした母さん、そして雅雪さんは一緒に逃げて、そして案の定、異世界への入り口に誤って入り込んでしまい、この『モスカル』の地に迷い込んでしまったらしい。


そしてやはり僕と同じような経験を通じて、なんとか元の世界へと帰る手段を見つけようともがいていたという。


そんなときに、やはり協力者とも言えるような人と父さんたちはめぐり合い、その中の一人がサリーさんだったという。


サリーさんは魔王でありながら、人間と友好的な関係を築いており、いくつかの偶然が重なって出会ったらしい。


その後も、やれ伝説のアイテム集めだの、やれ反魔王派の魔物の殲滅など、いかにもファンタジーというような展開をいくつも経験したのち、ようやく父さんたちは異世界に帰る方法を確立できたらしい。


それで父さんと母さんは元の世界へ。サリーさんと恋仲に堕ちていた雅雪さんはそのまま異世界に残り、今日に至るという。


「……なんとなく、ここまでの話の流れで予想はしていましたが、まさか父さんたちまで異世界生活を経験していただなんて」


「……無理もないでしょう。あなた方一族がこの世界に来てしまうのは、ある種、運命のようなものでもありますからね」


「え、それってどういうことですか?」


僕と父さんだけでなく、一族って、どういうことだ?それに運命って……


それにそう言うサリーさんの顔は、どこか曇っているかのような。いったい、何を知っているというんだ?


「教えてくださいサリーさん。僕は……僕の一族は一体、なんなんですか?」


ゆっくりとした口調で話すよう心がける……けど、僕の体はどうしようもなく震えてしまい、明らかに鼓動も早い。落ち着け、何をそんなに恐れているんだ僕は――――!


「それは、あなたたち一族に――――」


そう言いかけたところで、サリーさんは少し残念そうに顔を沈ませた後、サッともと来た方向へきびすを返してしまった。


「え、あの――――」


「これ以上先は、どうやら私の口から言うことはできそうにありません。ですがきっと、近いうちに知ることができるでしょうから、どうかそれまではご勘弁を……」


そう言って、サリーさんは僕と目を合わせることもなく、スーッとその場から歩き去ってしまった。


……いったい、どういうことなんだろうか。サリーさんはいったい僕に何を言おうとしてくれていたんだろうか。近いうちに知ることができるって……わからないことがいっぱいで、頭が少し痛いよ。


「……ん?紙切れ?」


視線を下ろすと足元には一枚の真新しい紙片。ためしに触れてみると確かな紙の感触がし、驚きつつも僕はそれを拾い上げた。




『得物にはどうかご注意くださいまし。

主を守る刃を主が信じなくなったとき

刃は主人に刃を向ける事でしょう。

なにがあろうと

それだけはお忘れのないよう……                   

                   サリー』



「なんだろうこれ……サリーさんはいったい、何を僕に伝えたかったんだろうか……」


余計わからないことになってきた。得物……っていうのは、僕でいったらムラマサのことだよね。もし僕が彼女を信じなくなったらってことだよね……


まずいなぁ、余計に頭の中がぐちゃぐちゃになってきた。父さんたちのこと、一族のこと、僕自身のこと、そしてムラマサのこと……考えることが多すぎて、結局なにも考えられない。


……よし、いったん落ち着くんだ僕。こういうときはすぐに考えるんじゃなくて、あとで冷静に考えるんだ。そうすればきっといい案も思い浮かぶはずだ。


そう、だからこれは今考えるべきではないんだ。いわゆる『明日から本気だす』の精神でいけばいいんだな!


【こいつ、だめ野朗の典型じゃねえか!】


久々に湧いてきた脳内妖精さんはすぐさまハリケーンシュートでゴミ箱送りにしたし、これで万事解決だ、うん。


「……うみゅ?ふぁ~あ、寝ちゃってたみたいだよぉ」


おや、どうやら子供たちのほうも疲れが回復してきたみたいだ。そろそろ作業に戻るみたいだし、僕もそれを見届けるとしますかね。


あとのことは、あとで考えればいいんだから、ネ?

おそらく次回でこの回は終わると思います。そろそろ本題進めないといろいろとまずいので、はやく進めちゃいたいです。


感想・評価、獲得したすばらしき写真を眺めつつ、待ってます!


嗚呼、素晴らしきかな、絵師さんの本気絵馬……

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