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番外編その1、サファール王の1日

初めての番外です。時系列はカイトが来て2ヶ月経った頃だと思います。

~4:00『起床』~


王様の朝は早い。


「お父様、もう起きる時間ですよ!」


「ふがっ……もうそんな時間か……」


朝日の昇る少し前、東の空が明るくなり始めた頃に、彼の実の娘であるエリス王女の鈴を鳴らすような声に起こされる。父としてこれほどの喜びはないと言える、至福のときである。


起こされたのは金髪のイケメン……自称70越えのこの国の王であるサファール。乱れた長い髪の毛をぐしぐしと掻きながら、王族の気品など欠片も感じさせないほど品のない大きなあくびをして、


「あと50分……」


ふたたび布団の中に潜り込んだ。


体を丸め、暖かい布団に安らぎを感じながら、サファールはゆっくりと目を瞑り……


「さ、寒い!頼むエル、毛布を返しておくれ!!」


悲壮感を顔に浮かべながら、冷え始めたベッドの上でのた打ち回っていた。、


「そうやって朝からふざけたことをしてないで、早く起きてきてください……今日も公務が溜まりに溜まっているのですから」


もう慣れたと言わんばかりにエルは大きなため息をつき、そう吐き捨てるように言った。


これもエルが反抗期なわけではなく、事実であり、趣味に走って公務をサボりまくったサファールが生んだ結果なのでどうしようもない。


「仕方ないのぉ……あ、どっこいしょ」


ようやく観念したのか、サファールはノロノロと起き出し、大きな伸びを一つした。


「それでこそお父様です!着替えたらすぐに食堂に来てくださいね、温かい朝食が冷めてしまいますから」


天使も顔を真っ赤にして逃げ出しそうな笑顔を浮かべ、エルは部屋から出て行った。開けられていた、茶塗りの木に金箔をあしらった大きな扉が重い音を立てて口を閉じ、その際廊下の冷たい空気がブワッと部屋に入り込む。


無論、ちょうど扉の真正面に位置する場所で伸びていたサファールはその冷気を直接受けて寒さのあまり床に転がる事態になったが、誰もそれを救う者はいなかった。


「おぉ……冷たい……心も体も寒いのぉ……」



~4:50『朝食』~



王様の朝食は一般市民の予想とは裏腹にかなりヘルシーなメニューとなっている。


主に野菜を中心とした料理が並び、スープや漬物など消化に良いものが並ぶことが多い。さらにチーズなどの発酵食品をちりばめることで栄養価を補い、朝の活力を生み出すのに十分な物となっている。


これは公務において支障が出ないよう、胃に負担の少ないようにとコックたちの気遣いが込められているからだ。


味もカイトが来て以来大きな改善がなされ、かなり美味なものとなっていた。


しかし、サファールは感謝しつつも文句をよく言う。


「わしは朝はもう少し肉っ気があっても良いと思っているのじゃが……」


新鮮なレタスやトマトを使った彩りよいサラダの載った皿の端をフォークで軽くつつきながら、サファールは気怠そうに呟いた。


頬杖なんかもついてもはや子供のような行儀の悪さだが、まわりにいる者はその様子を微笑ましく思っていた。


下女も護衛の兵士も、もちろんエルからしても、その光景はすでに日常の一部であり、掛け替えのない、一日の始まりを伝える行事の一つとなっているのだ。


これまた日常のひとつと言わんばかりに、下女が一歩前に出て、礼儀正しく、それでいてまるで家族に話しかけるような優しさの篭った様子で口を開いた。


『王様……本日のメニューも王様のお身体を思ってコックの皆様が作られたものです。どうかそう仰らずに、召し上がってください』


「……むぅ、そうであったな。ならばわしも文句は言うまいて」


何度も繰り返されたこのやり取りも、彼らは飽きることなく毎日続けている。


甲斐甲斐しく世話を焼く下女たちと、それに対して一人ひとりに礼を言うサファール。


朝日が昇り始め、緩やかに暖まり始めた食堂……その陽だまりの中で繰り広げられる日常に、サファールの隣に座っていたエルは思わず口元を緩めたのであった。



~6:00『公務』~



『ささっ、王様……今日も一日、よろしくお願い致します』


『私たちも全力でサポート致しますので、何卒民のためにご尽力してくださいまし』


「うむ、今日もよろしく頼むぞ」


朝から正午あたりまで、王様は基本的には執務室に篭りきりになることが多い。財政などをはじめとする政治の流れを決め、施設の建設許可や家臣などからの申請の数々の確認・受理をし、時には民からの手紙などにも目を通す。


一つ一つに目を通し、不備や問題がないかを確認し、ようやく承認の判子を書類に押す。ただペタペタと判子を押すだけの簡単なお仕事などではないのだ。


またサファールは民からの手紙をすべて受け取り、一枚一枚丁寧に目を通していく。そこには生活上での不安や要望などが書かれていることもあり、それが結果的に政治の軸になるとサファールは考えているからだ。


たまに小さな子供や老夫婦などからの王様への感謝の手紙が紛れ込んでいる事もあり、それを見つけて返事を書くのが王様の密かな楽しみとなっているのはここだけの話である。


「ふむ……下水の調子が悪くて虫が湧いてきておるのか……他にも野犬が出没したり……む、これは外壁の補修工事の申請かの」


『やはり少しばかり対応が追いついていない区域があるようですね』


『いかが致しましょうか』


「ふむ、そうじゃの……虫が湧いておるということは、どこかで詰まり物でも出来た可能性がある……すぐに工員を手配せい。外壁は魔物の侵攻を食い止める大事な存在じゃ、最優先で話を進めるのじゃ」


『はっ、了解であります!』


補佐官の一人が敬礼し、執務室を飛び出して走り去っていく。おそらく王様の命令を実行しに、城内を駆け回りに向かったのだろう。


もう一人の補佐官は王様に通すべき書類とそうでない書類を分別する手を止め、王様に向き直って申し出た。


『あの……王様?野犬の件については、いかがなさるおつもりなのでしょうか?』


普通ならわざわざ申し出るような話でもない。が、この場合はベテランの補佐官からしたら緊急事態レベルの危険性を孕んでいることを体で知っている。


補佐官は顔は一見真顔だが、その実、頬をひくひくと痙攣させ、拳を固く握り震わせていた。


サファールはふっと鼻で軽く笑い、優雅に椅子から立ち上がると両手を勢いよく広げて言い放った。


「この件は……わしがじきじきに行こうぞ!」


そして補佐官が何かを言う前にサファールは開け放たれていた窓から颯爽と飛び出して行ってしまった。


遠くから『ふぁはははは、わしは自由じゃ!!』という声が響き、補佐官は肩を怒らせて思いっきり叫んだ。


『会議が嫌だからといってまた脱走して……働いてくださいよ王様ぁ!!』


これからこの補佐官には、王様の休んだ分の仕事をこなすという重労働が待っている。先ほど走り去って行った片方の補佐官はこれを危惧して逃走したと言っても過言ではない。


しかしこの補佐官も本気で怒っているわけではない。国を運営する上での重要な仕事はすでにこなされており、残っているのはロクでもない愚痴などが書かれたくだらない書類ばかりだったのだ。


サボり癖があるのに、仕事はきっちりとこなす姿勢に、補佐官だけでなくこの国の者は皆なんだかんだ言っても尊敬しているのだが、それはまた別のお話。




~11:00『仕事放kげふんげふん……実務』~




「ほ~れほれ~ここがええのじゃろぉ?」


『クゥ~ン』


王様だからといって城に引きこもってばかりでは気が滅入るもの。ときにはこうして外に出て、街の様子を見たり、仕事の一部を肉体労働で解決することも大切である。


しかしそれ以上にこの行為にはある大きな役割が存在していた。


『ははっ、さすが王様でさぁ』


『この犬っころさ、店は荒らすわ子供には噛み付くわでもう手がつけられんかったんよ』


『ありがとおうさまぁ!』


「はっはっは。なに、こうして市民の助けとなるのも、この国の王としての役目、これくらいは当然じゃ」


それは市民との直接的な交流である。


ガルド王国はその名のとおり王政だが、市民の意見を広く受け止めた政治をするため国民からひどく愛されている政治体系をしている。


それを実現している一因が、この交流である。


『王様、今日は本当にありがとうごぜぇましただ』


『こんなものしかうちにはありませんが、どうか受け取ってはくれませんかね』


二人の初老の夫婦が王様に手渡したのは籠いっぱいの野菜。まだ土が付いているのは、その野菜が新鮮な証だ。太陽の光に照らされたそれらはなんとも瑞々しく、思わずよだれが出そうな代物だった。


「ほほぅ、これはまたなんとも立派な……ありがたく頂戴するとするかの」


『そう言っていただけるとわしらも作った甲斐があるというものでさぁ』


王様は夫婦から野菜の入った籠を受け取り、足元にいた子供の頭を軽く撫でる。


「それではの、また近いうちに会おうぞ」


『うん!今度は一緒に遊んでね!』


「もちろんじゃとも、ではの!」


王様は今日も賑やかな自分の国を駆ける。


両脇に野菜の籠と懐いた野犬を抱えながら……



~00:15『就寝』~



王様の就寝は皆が寝静まった夜、仕事をすべて片したあとのことである。


「お父様、本日もお仕事お疲れ様でした」


「うむ、今日も国民のために父は奮闘したぞ!」


元気に振舞ってはいるが、疲労はかなり溜まってた。


しかしそれでも心配だけは決してかけまいと、娘の前では常に元気に振舞うサファール。


それにエルが気づいていないわけがないが、指摘してものらりくらりと流されるだけと知っているからか、エルはその元気に労いの言葉は掛けるだけで、妙な言葉は掛けないでいた。


かわりに娘はその労いを言葉ではなく、行動で示す。


「お父様、本当にお疲れ様でした」


「……うむ。エルよ、いつもすまぬな」


「ふふっ、これくらい娘として当然のことですよ」


椅子に腰掛けるサファールの肩をエルはその白魚のような指を駆使して優しく揉みほぐしていく。


ぐっぐっ、と力を込めて凝り固まった筋肉の繊維をほぐしていく。


あまりにも気持ちが良かったのか、やがてサファールは椅子に座ったまま船を漕ぎ始め、しばらくすると完全に寝息を立てて眠ってしまった。


「ああ、またこんなところで寝て……この様子だともう起きそうにはありませんね」


エルはベッドから畳まれた毛布を一枚手に取り、そっとサファールの体に掛けてあげる。


柔らかな暖かさに安心したのか、王様はより落ち着いた寝息を立て、体を脱力させた。


「ふふっ、おやすみなさい……お父様」


音を立てないように慎重に部屋を出て、エルはその場を後にした。


『あ、すみませんがお父様……サファール王をベッドの上に移してはくれませんか。あの方、また椅子に座ったまま眠ってしまいまして……』


廊下から密かに聞こえてくる楽しげな話し声など、すでに夢の中のサファールに聞く術などなかった。


すみません、実は書いている時間があまりなく、手抜き感のハンパない今話を本編の代わりに出させていただきました。


出さないよりかはマシかと思ったのですが……続きをお出しすることが出来ず申し訳ありませんでした!



感想・評価、眠気と格闘しつつ待ってます!


くそ、眠気が昇〇拳なんて使ってきやがったぞ!こっちだってヨ〇ファイアがあるんだからな!

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