12、朝から騒がしかったです
目が覚めると見知らぬ天井が視界に入った。少ししてから僕ん家の自室でないことに気づく。
「ああそっか。僕、異世界に来たんだっけ。」
昨日の出来事が濃すぎて、まだ異世界ライフ2日目ということが信じられない。
まぁそれはいいとして
「なんか体がべたべたするな。うわっ、顔めっちゃヌルヌルする。」
体中に粘液が乾いて固まったようなものがこびりついている。
「なんかこのままってのは気持ち悪いし、濡れタオルで拭いておくか。」
部屋に備え付けてある水瓶の水でタオルを濡らし、体を拭いていく。
「しかしなんでこんなことになってるんだ?」
昨日はお風呂にも入ったし、そもそもこんなことになるようなことはしてないし。
「んみゅ~カイト様のからだ~おいしいです~。むにゃむにゃ」
はい、原因が判明しました。
「というかフィーは寝ている僕に対して一体何してんの!?」
寝言から推測すると、この粘液の固まったものはおそらく唾液だろう。
「まったく。ほらフィー、もう朝だぞー。」
フィーの体を軽くゆする。腕時計の短針は7を示している。
「むぅ~。あ、カイトしゃま~おはようございます~」
「おはようフィー。あと起きてそうそう僕に抱きつかないで。」
フィーの腕が僕の首に喰いこんで結構苦しい。
「ほら、眠気覚ましに顔を洗ってきなさい。」
「ふゎ~い。むにゃむにゃ。」
そういいながらさっき僕が使っていた水瓶に顔を突っ込むフィー。
「こ、この世界ではこういう風に顔を洗うのかな?」
少女が水瓶に顔を突っ込んでいるのはなんだかシュールだね。
………
長いな。
「本当に大丈夫かな。ちょっと覗いてみよう。」
フィーの様子を窺う。
ピクリとも動かない。
「!まさか…」
嫌な予感がした僕はすぐさまフィーを水瓶から引き上げる。
「やっぱり。この娘―――」
予想は的中していた。
「寝てるよ!!」
顔洗う前に力尽きてたよこの娘。大丈夫か?
「仕方ない。起きるまでもう少し待つか。」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おはようございますカイト様♪あれ、カイト様?顔色が悪いですよ。」
「ああ、おはようフィー。特に問題はないよ。」
朝からものすごく疲れた気がする。
「まぁそれはいいとして。朝食はどうする?」
時刻は午前7時半。そろそろお腹がすいてきた。
「朝は王様との会食があります。カイト様の参加は決定事項だそうです。」
会食か。ていうか決定事項って…。王様どんだけ僕と食事したいのさ…
「よし、それじゃあ案内をお願いしてもいいかな?」
まいっか、今日はこの国の料理を堪能しよう。
「はい、了解しました。」
朝からまぶしい笑顔のフィーに心が和む。
それじゃあ会食の席へ参上しますか。
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「おお、来たかカイト。ほれとっとと座らんかい。」
会食の間に着いた途端、絶対20代にしか見えない自称70代の王様に声をかけられる。
というか元気だな~。この国の人は朝になるとハイテンションになるのかな?
「お父様、カイト様が驚いていますよ。こほん、おはようございますカイト様。」
王様の斜め隣にいる王女のエルが笑顔を向けてくる。
「おはよう王様、エル。朝から元気だね。」
こっちも笑顔であいさつする。
王様以外の全員が赤面する。ちょ、なんで赤面するのさ!?
「はっはっは、みんな初心じゃの~。」
「いやいや王様、初心とかの問題じゃないと思うよ!?」
だって男まで赤面してんだよ!?初心でも男は男の顔見て顔を赤らめるなんてことしないからねっ!?
「まぁよいではないか。とっとと飯にしようじゃないか。ほれ、そこに座れカイト。」
この人ほんとに王様なの?なんか近所に住む気さくな兄さんにしか見えない…
「はぁ、もういいか。」
僕とフィーはエルの向かいになる感じで椅子に座る。
フィーは最初「王様たちとご一緒の食事なんて恐れ多くてできません。」と言っていたがなんとか説得して一緒に座らせた。
「さて、それではさっそく食べるとしようか。」
王様の一言とともに、料理がワゴンで運ばれてくる。
「一応これが今日の朝食じゃ。」
そう言って出されたのは、パンと野菜の入ったスープ、そして鶏肉の焼いたものだった。
王族の食事にしては質素な気がするな。いや、これでもこの世界では豪華なほうなのかな?量はそれなりにあるし。
それぞれの料理を一口ずつ口に入れて頬張る。
う~ん。
「ねぇフィー、この料理はこの世界ではどれくらいのものなの?」
小声で隣にいるフィーに尋ねる。
「そうですね。少なくともこの世界では最上級に位置するものかと。」
「こ、これでか…」
パンはパサパサ、スープは薄味、鶏肉はとても硬かった。
これで最上級か。どうしたものか…
「ねぇ王様。」
「ん、なんじゃカイト?」
王様は食事の手を止め僕の方を見る。
「朝食をご馳走してもらったお礼に、夕食は僕がご馳走するよ。」
僕の料理はまだまだだけど、この料理よりはおいしく作れるはず。
周りにいるメイドや兵士たちがどよめく。
そんなに驚くことかな?
「それはもしや、カイト自らが作るのかの?」
「そりゃもちろん。」
「おお、それは楽しみだ。是非期待しているぞ。」
王様が本当に嬉しそうに言ってくる。これは僕も腕によりをかけないとな。
「わ、わたくしも同席してもよろしいでしょうか?」
エルがおずおずと僕に聞いてくる。
「もちろんだよ。エル達だけじゃなくてこの城にいる全員に振舞おうと思っていたんだし。」
「え?」
あれ、なんか変なこと言ったかな?
「カ、カイト様?もしやここにいるメイドや兵士たちにも料理を振舞うと?」
「え、だからそう言ったじゃないか。ここにいる人たちだけじゃなくて城にいる人全員にって。」
………
「「『『『ええええええええぇぇぇぇーーーーー!?』』』」」
僕と王様以外全員が叫んだ。あれ、デジャブ?どっかで似たようなことがあった気が…
「はっはっは、カイトは面白いことを考えるの~。」
「僕はまじめに考えてたのに…」
「まぁよいではないか。よし、会場や食材の準備はワシにまかせておけ。」
「え、いいの?」
「もちろんじゃ。楽しみにしておるぞカイト。」
こ、これはもう全力で作るしかないみたいだ。
「さて、これにて会食はおひらきじゃ。」
パンッパンッと王様が手を鳴らし、料理が下げられる。
あ、僕ろくに食べてないや。




