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14、隠し部屋を見つけました

「な、なんだろう……ここ」


草木のトンネルを抜けた先で、たぶん僕はその場に呆然とした様子で佇んでいたと思う。


だけど、それはきっと必然であり、仕方のないことなんだと思う。


僕は目を瞑り、ここまでに見てきた情景を思い浮かべる。


まるで中世の城のような豪華絢爛ごうかけんらんな内装の屋内。鬼の咆哮ほうこうのような雷鳴を轟かせる、魔物の蔓延はびこる屋外。そしてそれら両方を覆う鉛色の空。


「……だったはずなんだけどなぁ」


大きく息を吸い込んで空を見上げれば、そこに広がるのは鉛色などとはかけ離れた、抜けるような蒼が広がっていた。太陽に掛かる巻層雲がその蒼をより引き立たせ、尋常ではない開放感をかもし出していた。


あたりには色とりどりの花々が咲き乱れ、蝶があたりを飛び回り、小鳥がやすらぎの歌を奏でている。


まさに平和そのものという感じで、魔物や雷鳴などは跡形もなく消え去っていた。


「どうなってるの?さっきの様子からしていきなり晴れたってわけじゃないはずだよね」


少なくてもトンネルを抜ける前まで、空は晴れそうにないほどの雷雲で覆われていたし、魔物が急にいなくなったっていうのもさすがに考えにくいよね……


そもそもこの空間はいったいなんなんだろうか。四方を迷路と同じ植物の壁で囲われていて、さながら小さな箱庭というところなんだろうけど、いささか不自然すぎる気がするよ。


空は見える……けどさっきの迷路同様、アーチ状につるが屋根を形成しちゃってるから、ここから外に脱出……なんてことはできそうにないね。


ぱっと見ものすごくのどかな雰囲気だけど、庭っていうより、どちらかと言うとひとつの部屋として捉えたほうが自然な感じがする。屋根があって壁があって、家一件分弱の空間がある……広めの部屋だと考えれば、意外とすんなり納得できそうな気が……


……うん、さすがに無理があったよ。こんなに緑豊かな部屋、僕は今まで見た事ないし住みたいとも思えない。


「たぶん魔法かなにかでこの空間だけ天候……いや、気候や風土が変化させられているんだろうな。そうでもないかぎりこんなおかしなことにはならないはずだし」


何でもかんでも魔法という言葉で片付けるのもまずいのかもしれないけど、それが案外当てはまっていたりするのだから致し方ないよね。


さすが創造神の一部である『エリル』を使っているだけあるね。ハチャメチャなことでも『アルティナのせいなのね~♪』ってことにしておけば大体解決できるんだから。


すごいぞ魔法!やるじゃないか魔法!


ふぅ……一人でこういうことやってても虚しいだけだよねって、どうして僕は覚えていなかったのだろうか。


「そ、そんなことより探索だ!もしかしたら脱出の手がかりがあるかもしれない」


こういう脱出系のミッションで大事なことは、細かいところをチェックしていくこと。些細なところに重要な鍵が眠っている可能性があるし!


というわけで……さて、と。


「う~ん、この空間で探索できそうな場所は……」


僕は箱庭内を歩き回り、目を皿のようにしてあたりを見渡す。


黄色い花の植えられた植木鉢は裏側までしっかりと見て、物置のような小さな戸棚は奥の奥まで覗き込む。


果てには、怪しい場所は土を掘ってまでして手がかりを探っていく。


しかし目ぼしい結果は得られず、さらにここまでの疲れが祟ったのか、僕は壁を背にしてその場に座り込んだ。


「はぁ……ここまで探して何も得られないだなんて……探索者の心理を完全に読み取った上での嫌がらせとしか思えないよ……」


これで中庭周辺の主要ポイントはすべて回ったはず。それでも見つからないとなると、ここには何もないか、それともまだ探索していない場所があるか……


脱力し始めている我が身を何とか奮い起こし、僕は体ごと顔を上げる。少しだけ水分不足なのか、唇が乾き始めていることを舌を這わせたときに感じた。


「……でも、これだけ広い空間にただ無造作に草花が生えているっていうのも少し違和感を感じるなぁ……中心部にあまり植物が密集してないのも気になる……となると、まだ見落としていることがあるはずなんだけど……ああダメだ、まったく見当がつかないよ!」


疲労と喉の渇きでいつもよりイライラしていることに、地面を殴ったことによって自覚する。このままじゃ見つけられるものも見つけられないや。


何か……何か飲めるものがあればいいんだけど……


「あ、そういえば」


ふと探索中のことを思い出す。片っ端から探索しているとき……確かここに来る間に、湧き水が出ている場所があったはずだ。


あたりには背の低い植物しかないから、見渡せばこの空間全体を視野に入れることができるため、僕の探していたものはすぐに見つかった。


正方形状のこの庭園のちょうど角のところ……そこに、明らかに人の手が入ったとしか思えない装飾の施された湧き水のオブジェがひっそりと佇んでいた。


僕の身長の半分ほどしかないそれは、まるで水がめのような形をした植物の束の口元から清水をコンコンと流し出しては、周辺の植物に潤いを与えている。水の流れ落ちた場所は水溜りになり、小さな池のようになっていた。


僕は庭園の真ん中を突っ切るような形でオブジェに近づき、水に濡れないように気をつけながらしゃがみこむ。そして両手をお椀のような形にして、そっと手で掬って湧水を喉に流し込んだ。


自然のフィルターによって磨かれたのであろう、不純物ゼロの聖水が僕の喉を一気に流れていく。そして渇ききった体を芯から潤していくかのように、じわっと染みるような感覚が僕の体を襲う。


僕はそのまま何度も何度も手で湧き水を掬っては、口へ流し込んでいった。口元から水が流れ落ちてあたりに飛び散ることも気にせず、まるでサバンナの獣のように一心不乱に水を飲み下していく。


だからだろうか、僕は背後で起こっている出来事にまったくと言っていいほど気づくことができなかった。


「……あれ、ちょっと手元が暗くなったような……雲でも出てきたのか……な…」


立ち上がり、空を見上げようとしたとき、視界の半分以上を埋め尽くす何かが僕の背後に出現していた。


「なっ!?」


思わず声をあげて仰け反ってしまう。情けないかもしれないけど、体が勝手に反応してしまったのだから仕方ない。


だ、だって、さっきまでこんなものは影ひとつとして存在してなかったのに……


「いや待つんだ僕、慌てるのはまだ早いぞ、うん」


ゆっくりと息を整えて頭の中を整理していく。いつもどおり、頭の中を涼やかにして考えるんだ。


今目の前にあるのは、ちょうど小部屋一個分くらいの箱で、おあつらえ向きに僕の目の前に木製のドアがついている。さっきまでなかったということは、おそらく隠し部屋の中の隠し部屋……まさかの二重構造だったみたいだ。


やがて冷静さが頭の中を満たしていき、隠し部屋の細部までもが鮮明に脳内に入り込んでくる。白い外壁で覆われ、ドアの両側には小窓が一つずつ付いており、屋根には土と草花がそのままの状態で乗っていた。それ以外にはこれといった特徴はなく、これじゃあまるで豆腐だ。


屋根の状態からして、たぶん地中にあったものがせり上がってきた、ってところだろう。


そしてその原因は……


「もしかして、これかな……?」


それは、オブジェから流れ出た水が僕の手杓から流れ落ちた場所。先ほどまで透明だった湧水は、今や屋内にあった扉同様、青白い光を出し、出現した部屋へと怪しげな光の筋を伸ばしていた。


どうやらこの仕掛け、この湧き水がオブジェからの一定の範囲から水が出ると反応するように作られているらしい。よく見るとわざわざ柄杓ひしゃくらしきものまで用意してあったことから、この部屋を利用する頻度はかなり高いと見た。


さらに、光の筋の感じからして、おそらくこの『白金の鍵』がないと、水をいくら掛けても反応しないようにできているんだと思う。


「偶然に偶然が重なったような結果だけど……結果がよければそれでいいってものなのかな?」


まるで誰かが意図的に引き起こしたようにも感じるほどの偶然さだけど、この場合は気にせず、今起こっていることに意識を集中させたほうがよさそうだね。


僕はその場で軽く服装を整え、指を一本一本動かしていく。関節がポキポキと小気味よい音を上げて関節間の気泡を潰していく。


中に何があるかわからない……最悪の場合、戦闘になる可能性もある。


そうなったら素手で戦うことになるからなぁ……あれ、結構痛いからあんまり好きじゃないんだよね。


「さて、と。中はいったいどうなっているのやら……おじゃましまーす」


銀色の光沢を放つドアノブに手を掛け、ゆっくりと回す。思った以上にすんなりと回ったそれは、この部屋の利用頻度の高さをさらに裏付けるものだった。


ブービートラップを警戒しつつ慎重にドアを引く。利用頻度が高いのならわざわざそんなトラップを仕掛けるようなことはしないはずだけど、念には念をということで、僕は今までの経験(姉さんたちの急襲)などから培ってきた対罠スキルを使ってトラップの確認をしていった。


「ワイヤーや爆弾の類は……うん、大丈夫みたいだね」


ようやく安全が確保されたところで、ようやく僕は未知なる部屋の中へと足を踏み込んだ。


入った途端に香る、どこか懐かしいような、独特の匂いが僕の鼻をくすぐる。


どうやら部屋は誰かの私室のようで、机や小さなテーブル、戸棚から簡易的なキッチンまで置かれた中々居心地の良さそうな部屋だった。


外壁とは違い、中はヒノキに近い木材が使用されており、窓からの緑豊かな景色とも相まって、心地よさをさらに倍増させている。


「はぁ……この部屋のあるじさんはかなりいい趣味してるなぁ。無断で入っちゃったのが正直申し訳なくて仕方がないよ」


基本的に部屋は自由に出入りしていいことになっているけど、私室……しかもここまで安らぎ感に力を入れている部屋ともなると、部屋の主がいるときに堂々と訪ねたかったと思わざるをえないね。


はっ……いけないいけない。僕は脱出の手がかりを探しているんだった。部屋の主がいない今が最大のチャンスだということをすっかり失念していたよ。


……ものすごく小悪党になった気分になるけど、この際それも気にしちゃいけないんだろうね。


「僕と部屋のためにも、あんまり長居するのはよくなさそうだ。誰かここに来る前に、すばやく事を済ませちゃおう」


足跡をつけるわけにはいかないのでとりあえず靴を部屋の入り口に置き、早速僕は隠し部屋Ⅱの探索を開始した。


まず重要なのは、片っ端から探すのではなく、部屋の様子をじっくりと観察すること。ベタなところでいくと、絵画や立てかけてある道具とかにヒントが隠されている、とか。


「おっ、噂をすればなんとやら……これはこの部屋の人の自画像かな?」


さっそく見つけた大きめの油絵には、髑髏どくろのついた禍々しい杖を持ち、妖艶ようえんな笑みを浮かべて玉座に座る女性が威風堂々とした様子で描かれていた。


見目麗しく、僕でさえ少しドキッとしてしまうほどの美貌を持つ絵の中の女性……


だけどこの人、どこかで見たことがあるような気がする……それも、かなり最近のことのような…?


とりあえず絵の裏側も確認したけど、鍵穴もスイッチも闇の扉もなく、何も仕掛けなどは施されていなかった。


「絵はハズレ……こっちの杖は…この絵に描かれているやつかな」


絵のすぐ近くに飾られていた髑髏どくろの先端部が特徴的な黒い杖。金で柄の部分に綺麗な模様が描かれ、恐ろしさと美しさを両立させた、まさにこの絵の人物のために作られたというような杖だ。


だけど、こちらも持った瞬間に何かが作動したような様子もないし、髑髏どくろを押したりしてみても何も反応は返ってこなかった。


この様子だと、もしかしたらここに飾られているものには脱出的な意味での価値はあまりないかもしれない。


となると少しだけ探索の範囲を変える必要性がありそうだね。


壁に掛けてあるものはもうしばらく探索してからにするとして……次はずっと気になっていた机の上でも少し見てみますか。


……なんだか個人の自由を侵害しているみたいでかなり気が引けるけど……これも僕の自由を獲得するための、致し方ない犠牲なんだ!


意を決し、僕は窓際で太陽の光に照らされる木製の机に近づいた。


羽ペンや書類の束、大小さまざまな書物が山積みにされた机は、長年愛用してきたのであろう……補修の痕がいくつも目立っていた。


どこか不恰好で、釘も剥き出し……洗練されている家具の揃っているこの部屋にはあまりにも不釣合いな机だけど……なんでだろうか。なぜか僕はこの机から今までにない感情のぬくもりを感じた。


「……なんだかよくわからないけど、ひとつひとつ念入りにチェックしていくとしよう」


妙にひっかかる感情をよく理解できないまま、僕は脱出の糸口を見つけるべく、机の上のものに手を伸ばした。


なんだか久しぶりにカイト視点で書いた気がするのですが……気のせいでしょうか?


今回は正直あんまりうまく書けませんでした、すみません……


感想・評価、高校生活に少し戸惑いつつ待ってます!

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