11、準備が整いました
今回は地の文が三人称モドキになっています。
何がモドキなのかは、読んでみるとわかってくると思います。
――――――深夜。動物や植物、さらには魔物までもが休息のために眠るこの時間。
しかし、何もかもが寝静まった暗闇の中、まるでロウソクのようにぼんやりと光る一室がとある屋敷にあった。
室内では、すぐにでも闇に飲まれてしまいそうなほど儚い光の中で、いくつもの影が揺れ動いていた。
「……こんな夜更けに呼び出して申し訳ないと思ってる。だけど、緊急で伝えたいことがある」
「大丈夫よ美琴ちゃん」
「ここにこうして呼び出したということは……例の件についてですね」
淡々とした表情で謝罪の言葉を述べる美琴に対して、集まった者たちは怒りや疑問を抱くことなくそれを良しとした。それは、こう見えて美琴は心の底から申し訳なく思っていることを知っているからだ。
故に、優しい口調で答える果穂、真剣な眼差しで美琴を見つめるフィーの発言は、ここにいる美琴を除いた皆の総意であると言っても過言ではなかった。
そんな皆の態度に心なしか頬を緩める美琴だが、すぐさまいつものような無表情へと戻っていた。
……否、その目にはある種、煉獄の炎のようなものが揺らめいていた。
「……ありがとうみんな。私は相変わらず感情表現が下手だけど、これでもかなり嬉しい……」
「大丈夫よ美琴。あたしも含めて、みんな美琴が本当は一番優しくで純粋な子だって知ってるから!」
少しだけ乱暴に美琴の肩を揺さぶりながら、親友の優奈は微笑みかける。
その笑顔が暗い部屋の中の陰鬱としそうな空気を一気に明るくさせた……気がした。
「えっと、今この場にいるのは……カホ、シホ、ミコト、ユナ、フィー、サーシャでボク……よし、一応メンバー全員揃ってるな」
荒々しくロロは点呼を取り、一人うなずいて再び席に座った。
「もう……もう少していねいにやってもいいのに……」
「私はロロさんらしくて良いと思うけどね」
相変わらず変わった帽子を被るサーシャは呆れた様子で頭を抱え、海斗と果穂の実の妹である志穂はその様子を微笑ましく思っていた。
そんなサーシャたちの様子などまったく気にせずロロは頬杖をついて、どこか落ち着かない様子で膨れていた。
他の者も一見普通にしているが、視線が泳いでいたり小刻みに動いたりとどこか挙動不審だ。
「……全員いることも確認できたみたいだから、本題に入る」
再び会場内に美琴の声が響き渡り、それまで各々の行動をしていた全員に緊張が走った。
それを感じ取った美琴だが、特に動じるわけでもなく、むしろ当然のこととして受け取り話を進める。
「……本題というのは……海斗救出の目処の一つが立った、ということ」
「「「!?」」」
その一言に座っていた少女たちは驚愕に目を見開き、思わずその場に立ち上がった。
果穂においては、驚きのあまり過呼吸に陥りかけ、その背中を彼女の妹が優しく撫でて落ち着かせている。
「ミ、ミコトさん……その話は…本当、ですか?」
エプロンドレスの裾を握り締めながら、フィーは震える体を必死に抑えながら聞いた。
「(こくり)……なんとかこれを完成させることができたから」
そう言って美琴は、首に掛けていた猫耳のついたカチューシャ『AOS』を頭に装着し、
「……『シャイニング・ギア』起動」
何かの名前のような言葉を呟いた。
瞬間、突如として白い謎の物体が美琴の背後に出現した。
メタリックなボディからはいくつもの砲塔や銃器・ブレードが飛び出し、全体的に人のような形をしている。真ん中には何やら複雑そうな操作盤のようなものが着いており、小柄な人一人がちょうど納まりそうなスペースがぽっかりと空いていた。
すると今度は美琴の装着しているAOSの猫耳が光だし、人の形をした白い機械も共鳴するように各所が点滅を始めた。
そして数秒の間点滅し続け、『SISTEM ALL CLEAR』という機械音声が流れると、ランプが消え点滅は止まった。
「美琴ちゃん、これが?」
「……そう」
珍しく狼狽する果穂を気にすることなく、美琴は白い機体に近づき、その細い体を機体の中心に預けた。
小さな駆動が聞こえた後、美琴の両足、右手に装甲のような物が取り付けられ、複雑怪奇な事柄が表示された半透明なモニターが空中に出現し、あまつさえその機体は低いながらもその場に浮かび上がった。
美琴が空いた左手で操作盤にとんでもない速さで何かを打ち込むと、右手の装甲に銃器のようなものが装着され、砲身が正面に口を向けた。
「……これが、私の最高傑作であり、海斗を救う力になる兵器『シャイニング・ギア』。これで破壊できない物は、ない……はず」
「最後の一言でいろいろと台無しですよミコトさん!?」
フィーのツッコミに少しだけ頬を朱に染めながらも、美琴はその場でゆっくりと旋回してみせた。
ただ回っているだけだというのに、そこからほとばしる圧倒的な存在感は、その場にいた何人かは思わず息をするのを忘れてしまうほどだった。
「……敵を一撃で木っ端微塵にできるレールガン一機、対象を容赦なく切り刻むスライサー集十枚、山も吹き飛ばせるキャノン砲数台、近接最強の使い勝手を誇る高周波ブレード二丁に、連射に強いガトリングガン二丁……他に魔導障壁とかもあるけど、あまり時間がないからそのあたりは省く」
「それだけあってまだあるんですか……?」
「いろいろ詰め込みすぎな気もするけど……さすがと言うか、恐ろしい子というか」
呆然とする志穂と呆れて肩をすくめる優奈の反応は対照的で、それでいて言っていることは同じという何とも不思議な現象に、思わずあたりから朗らかな笑いが誰と無しに沸きあがった。
その笑顔は絶望の中から生まれた希望の笑顔とでも言うべきだろうか、とても綺麗で素直な温かさを携えていた。
「はぁ……はぁ……久々に大笑いした気がします。それにしても、本当に私たちだけでやるのですか?タカシ様やイリア、ダドリー君も、カイト様救出の大きな力となってくれると思うのですが……」
乱れた呼吸をいち早く整えたその様子はさすがメイドというだけということだろうか。フィーは再び落ち着いた口調で、現状に抱いている疑問を皆にぶつけた。
言っていることは本来正しいし、それが当たり前のこと……だが、ここではそんな常識は通用しない。
「何度も言っているけれど、それはダメよ」
「……やっぱりそうですか」
フィーと同じくらい早く復帰した果穂はきっぱりと否定の言葉を放つ。
しかしフィーもそうくるだろうとわかっていたかのような態度でそれを受け入れた。
否、『わかっていた』のだった。
すでにぬるくなってしまった紅茶を一口だけ含んで喉を潤すと、果穂は真剣な目つきでフィーを……そしてこの場に集まった一同を一瞥した。
「確かにあの三人も、私の可愛くてしょうがない弟を大切にしてくれているし、今は海斗を救おうと全力を尽くしてくれている」
だけど、と言葉を区切って果穂はその場に立ち上がり、天を穿つかの如く拳を高々と掲げて叫んだ。
「彼らは……海斗を恋愛対象として見ていない!故にこの『海斗を愛して病みそうになる乙女の団』、略して『KYK団』には参加できないのよ!!」
あと男子はそもそもこの団には入れないわ!と締めくくって、果穂は優雅にソファーに座りなおした。
そう……実は、この会議は屋敷内に住む海斗LOVEな女子が立ち上げた組織『KYK団』による緊急会議
だったりする。
もしこの場に海斗、もしくはそれと同レベルのツッコミ役がいればこの場は平和に収まっていたのだろうが……
「やっぱりそうですよね!」
「……『KYK団』は一枚岩でいるのが一番」
残念ながらこの場には海斗に依存してしまっている狂信者しかいないので、暴走は加速するのみだ。
「ボクの場合は強制参加させられただけだし……てか、べ、別にアイツのことなんてすすす、好きじゃないっての!!」
唯一反論しているロロも、顔を熟れたリンゴのように真っ赤にして噛みまくっているので、論外だ。
あちらこちらから『ツンデレ乙』という言葉を浴びせられ、ついにロロはソファーに顔をうずめて動かなくなってしまった。おそらく羞恥心が最大までイってしまったのだろう。
そんなロロを生暖かい目で見たのち、残った者で海斗救出会議が再会された。
「それで、海斗の居場所に関しては何とかなりそうなの?」
おそらくこの作戦で一番重要であろう議題、『海斗の囚われている場所』の確定についてが果穂の口から始められた。
海斗を捕らえている存在も明らかになっていない今、それはかなりの困難を極める話だ。
「大丈夫だよお姉ちゃん。そっちに関しては私と優奈さんで解決策を見つけたから」
「……え?」
……が、そんな会場の予想を覆す発言が、議題提供者の妹から出された。
ざわつく会場の中、発言者である志穂と、『シャイニング・ギア』を観察していた優奈だけは落ち着いた様子であたりを見渡していた。
騒ぎが収まるのに時間が掛かると判断したのか、今度は優奈が前に歩み出てパンパンと手を叩いて静粛を呼びかける。不思議なもので、たったそれだけの行為であたりは一気に静けさを取り戻した。
それを確認した優奈は立ったまま、結果報告を開始する。
「今回は誘拐犯が誰なのかまったく手がかりが掴めなかったから、ちょっと裏技を使うことにしたの。これを使ってね」
そう言って優奈がズボンのポケットから取り出したのは、何の変哲もない翠の指輪だった。
「これは『主の証』っていう指輪で、この屋敷に二階にある黒い扉を抜けるために必要なアイテムなの。海斗の部屋を漁る……もとい、手掛かりを探していたら見つけたわ!」
「黒い扉……たしかカイト様が『創造の部屋』と言っていた場所ですね。鍵どころか取っ手すらなくて中のお掃除ができていないのですが……大丈夫でしょうか」
「相変わらずフィーはマイペースだよなぁ……というか、今漁るとか聞こえてきた気がすんだけど!?」
メイドの性が出てしまっているフィーと、ちゃっかりしている優奈に、いつの間にか復活したロロは心底呆れてたが、同時にいつもどおりで安心もしていた。
他の者も指輪に関しては知らなかったが、『創造の部屋』の存在だけは海斗の説明から知っていた。その部屋がどんな用途を持っているのか、ということも含めてだ。
それ故に、疑問を抱く。なぜその部屋が海斗救出の手口になるのか、と。
「みんな知ってのとおり、『創造の部屋』ではこの屋敷内の建物などを増設・改装することができるの。そんなすごい技術があるなら、応用も利くんじゃないかと思って、ちょっとアルティナを脅し……じゃなくて説得して、とあるモノを設置できるようにしてもらったの」
それがこれよ、と言ってさらに優奈が取り出してテーブルに置いたのは――――
「……人工衛星?」
「さすが美琴、正解よ!と言っても、形が同じなだけであって、高度はせいぜい数千メートルなんだけどね」
――――両翼に太陽光パネルを持つ、人工衛星の模型だった。
普通、人工衛星というものは宇宙に向かって飛ばされたのち、地球の軌道に乗ってそのまわりを一定のスピードで公転するものだが、これは宇宙まで行かずに空を浮遊する、まさに形だけ似せたものだった。
「ジンコーエーセイというものがどんなものか知りませんが……これで一体どうやってカイトさんを見つけるのですか?」
ずっと黙って話を聞いていたサーシャがおそるおそるという様子で優奈に疑問を投げかけた。
その質問を待ってましたと言わんばかりに、優奈は無い胸を張って得意げそうなポーズをしてみせた。
「サーシャやロロ、フィーは知らないだろうけど……私たちのいた世界には何かと便利な道具があって、その中に『盗聴器・隠しカメラ』という素晴らしいアイテムが存在するの」
なんだかとんでもない話をし始めた気がするわね……んんっ、じゃなかった。
サーシャを含めた異世界人3人は何のことだという感じだが、果穂と美琴は優奈のその一言で、明らかに挙動が不審になった。
特に美琴の反応が一番大きく、ショックのあまり軽く失神しかけていた。
「まあそのアイテムの詳細についてはとりあえず置いといて……それが海斗の体にいくつか埋め込まれているの。埋め込むといってもシールみたいに貼り付けているだけなんだけどね……」
この子たちそんなところまでしてたの!?私もそこまではしたことないわよ!?
……落ち着きなさい私、こんなんじゃ神なんて名乗れないわよ。ちゃんとやるべきことを全うしてこそ神なのよ?
……おそらく『アイテム』を一番使用しているのであろう少女二人は、すでに冷や汗で脱水症状になりかけている。美琴においては、すでに気を失って『シャイニング・ギア』を装着したままぐったりしている。
そんな軽く地獄絵図な状況など気にするものかとばかりに、優奈の演説はさらに熱を帯びていく。
「それでそこからは微量だけど電波が出ていて、それを見つけることで必然的に海斗の居場所を見つけることができるっていう寸法なの!」
「「「ほ、本当(か)ですか!?」」」」
異世界少女たちは声を揃えて驚きの声を上げ、地球少女たちは優奈と志穂を除いてすでに全員事切れていた。
……知らないということは、本当に幸せことだということを、異世界の住人である彼女らはまだ知らない。
「そしてその電波を見つけることができるのがこの『人工衛星』ってわけ!速度も耐久力もかなりあるから、一度打ち上げればあっという間に海斗の居場所がわかるわよ!!」
おぉー!という歓声が会場内に響き渡り、盛り上がりはピークを迎えた。
倒れ伏した2人を除いて、5人は今から手を取り合って踊りださんというほど体全体で喜びを表現している。その顔は希望に満ち、これからのことを考えて想いを膨らませる子供のようなあどけなさがそこにはあった。
「海斗を救出するための『力』は美琴が。海斗の『居場所』は人工衛星が見つけてくれる。これで……これでついに……」
『助けられる……とお思いでして?』
突如として会場内に響く女性の声。
誰とも知れぬ声に、喜びに破顔していた少女たちの間に鋭い緊張が走った。
ちょっと字数が多めになった挙句、次回に続くというこの結果に実力不足を感じています。
地の文の違和感にお気づきでしょうか?もう答えはわかっているかもしれませんが、おそらく次回でその正体が明らかになるかと思います。
(やっぱり三人称で書くのは難しいですね。単調になりやすいです……)
感想・評価、次回作の構想を練りつつ待ってます!
……もっと修行を積まねば!!




