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7、無限ループを突破しました

お店……特にレストランなどといった食事処において、もっとも面倒な客というのは、人目もはばからず、ありもしない文句を言い散らす人だと僕は考えている。


あげく漫画のように、厨房に勝手に入って調理をし始めたりするなんてもってのほかだろう。


『お前たちの料理には熱意が篭っていない!俺が一から料理の何たるかを叩き込んでやる!!』などと言われた日には、店内で乱闘騒ぎが起きるよね。まぁそんな熱血展開は現実ではないと思うけど。


じゃあ逆の展開になったらどうだろうか。店員側の人たちがお客に調理を頼む、なんていう展開になったら、僕たちはどうしたらいいだろうか。


普段だったら絶対にあり得ない話だし、そんなバカな、と鼻で笑われるような話だ。


というかそもそも逆なんてないだろう、逆ってどんなんだよ、となるに違いない。僕も正直なところわからない。


え、なんでそんな話をいきなりしているのかって?


『カイト師匠、この調味料はどのタイミングで入れるのが一番ですか?』


『こっちのサラダ、なんだか味気がいまいちなんです……どうしたらいいですか?』


『旦那、麺がいい感じに茹ったぜ!」


『師匠?』『師匠!』『ししょー!!』


「あぁもう、少しは自分で考えなさい!!」


僕が現在進行形でそんな事態に巻き込まれているからだ。


……どうしてこうなってしまったのだろうか。






―――――話は少しだけさかのぼる。





『初めまして勇者様、ご機嫌麗しゅうございます』


牢を堂々と抜け出ると、さっそく誰かから話しかけられた。


格好はメイド、なんだけど……こんな場所にいるせいなのか、背中と頭にはいかにも悪魔チックなオプション装備が装着されていた。


いや、たぶん装備じゃなくてサクヤと同じく天然物なのだろうけど。


『……?あの、私の顔に何かついていますでしょうか?』


「え、あっと……」


一瞬、『角と羽が珍しくて……』などと言いそうになったけど、なんとかそれを喉元でギリギリ止めた。


『そうなんですか?私たちからしたら普通なのですか……』というような普通の世間話として発展する程度ならまだしも、妙に重い理由やらがあればいろいろと大変なことになる。


これ以上、無用なフラグを立てるわけにはいかない!


「えっと……実は僕、ちょっと空腹がひどくて……食堂があるって聞いていたんだけど、場所がいまいちわからないんだ。だからちょっとそこに案内してくれないかな、なんて」


咄嗟に思いついたことを言ってみる。実際空腹でかなりきついし、食堂の場所がわからないのも事実だ。


ただ慌てていたせいか、変な話し方になっちゃったのが正直なところ恥ずかしい。へ、変な風に思われてないかな?


『あ、そうでしたか。わかりました、さっそく案内させていただきますね』


にこっと微笑んで小悪魔メイドさんは、広い廊下の先を静々と歩き始めた。


……よかった、どうやら普通のやり取りができたみたい。『呪い』のほうもあまり強力には作用しなかったみたいだし、いい流れだ。


僕はお願いします、とメイドさんに改めて言って、そのあとをついていった。


「……うわぁ、すごいなぁ。どこもかしこも、ちゃんと掃除が行き届いてる……」


しばらく歩いているうちに、いつの間にか僕の口からそんな感想が一人でに出てきた。


牢屋からずっと続いているこの廊下。床には新品同様の金糸をあしらった深紅の絨毯が引かれ、先を照らす燭台しょくだいはどれも光沢を放つほど磨き上げられている。道中に生けられていた花々も瑞々しく、常に手入れが成されていることを物語っていた。


『ここに勤めている者は皆、サクヤ様直々に鍛えられた精鋭メイドばかりですから!』と誇らしげに語る小悪魔メイドさん。胸を張ってムフーとでも言わんばかりのドヤ顔は見た目より若干幼くて、なんだかホッとした。


『……ここだけの話、サクヤ様は普段はとってもお優しいのですが……メイド修行のときはとてつもなく恐ろしいんですよ』


僕の隣に近づいてきた小悪魔メイドさんが、苦笑いしながら僕に小声で耳打ちしてきた。


さっきも言っていたけど、サクヤって見た目はかなり幼いけど、かなりすごいことしているんだ。


メイドさんの育成をしているってだけでもすごいのに、その上恐れられるほどの鬼コーチだなんて。


……どうしよう、あんまり想像できないや。


というか、


「あの、初対面の、しかもゆるいとはいえ軟禁されている者にそんなバレたらまずいような話をしちゃっていいんですか?」


『あれ?それもそうですね……あははっ!』


「いや、あははって……」


そんな緩くて大丈夫なんだろうか。


……でもこの、のほほんとした性格なら別に何かあっても乗り切れそうだから不思議だ。


『まぁでも……あの鞭と魔法弾に寄るお仕置きは勘弁してほしいのですがね……』


「鞭と魔法弾!?」


信じられない、あの虫も殺したことのないような子がそんな物騒なものを、しかも年上とはいえ自分の教え子に使うなんて……


だ、駄目だ。これ以上考えるのは危険な気がする。なんだか僕のイメージが崩壊する音が聞こえ始めてるもん。


『さて、と……カイト様、到着しました。こちらが食堂になります」


「え、あれ?」


顔を上げると、いつの間にか周りの背景ががらりと変わっており、目の前にまるで巨人でも入るんじゃないかというくらい大きな扉がたたずんでいた。


……さっきまで先も見えないほど長い廊下を歩いていたはずなのに、どういうことなんだろうか。まわりの雰囲気も先ほどよりも随分と明るいものになっているし。


『ふふっ、驚きましたか?』


あまりの出来事に呆けていると、小悪魔メイドさんがしたり顔で僕の顔を覗き込んできた。


悪戯が成功した子供、という表現がぴったりなその楽しそうな顔はまさに『小悪魔』だった。


「うん……正直かなり驚いたよ。これは、いったいどういうことなの?」


『う~ん……このお城はフロアがすべて無限ループ構造になっていまして、特定の条件をクリアしていないと別フロアに移動できないんです』


下手したらお城の中で遭難してそのまま……と少しだけトーンを落として言われた瞬間、背筋がゾクッとした。


冗談じゃないよ!こんなの、迂闊に動きまわったら二度とセーブ画面にたどり着けないタイプじゃないか!


そんな危険区域のことを、どうしてサクヤは教えてくれなかったんだろう……


「ちなみに、その特定の条件というのは?」


『はい、これになります♪』


そう言って彼女は胸元から一本の鍵を取り出してきた。


あれは、僕がもらった鍵と同じもの?でも、見た感じだと鍵の素材は金だし、違うのかなぁ。


『むっふっふ、この鍵をもっていると特定エリア内のループ解除と部屋の解錠ができるのですよ』


なるほど、だからサクヤは手紙で『牢以外の部屋も自由に行き来できる』って言っていたのか。あれはてっきり牢屋と別の部屋を行き来できるものだと思っていたけど、他のフロアにも文字通り移動可能という意味だったのか。


ここまでそれなりの距離があった食堂までの道のりを『すぐのところ』と表現していたり、距離感覚の相違はありそうだけど、やっぱりサクヤは僕のことを思ってよくしてくれているみたいだ。ありがたい話だね。


背中の羽をぴょこぴょこと動かしながら、説明を続けるメイドさん。


『さらにこの鍵にはランクがですね……銅・銀・金とありまして、金に近づくほど移動できるエリアが広くなっていくのですよ!メイド長代理であるわたしはもちろん金!栄光の金の鍵なのですよ!!』


鼻息を荒くしながら『私の苦労を見て~この鍵を手に入れるまで~』とでも題名をつけたくなるような話をし始めてしまった。


長くなりそうな予感がして、少し冷や汗が出たけど、聞いてみるとなかなかおもしろい話ばかりだった。


メイドとして働き始めてからの一年・初めてお客様のエスコートを命じられたときの緊張感・メイド長代理に任命されたときの感動……そのどれもが興味深くて、僕のほうもついつい耳を傾けてしまった。


たぶん、フィーのことが頭をよぎったからだと思う。このメイドさん、どこか似ていると思ったらフィーに似ていたんだなぁ、と。


『ふぅ……いやぁ話しました!ここまで私の話を聞いてくださったのは勇者様が初めてですよ。おかげで私はとっても楽しかったです!……勇者様は楽しかったですか?』


「うん、とっても。ここまで本当に頑張ってきたんですね」


『!ありがとうございます!!そんなことを言ってくださったのも、あなた様が初めてです!』


「あはは、そっか……それじゃ、僕はそろそろこの辺で。案内してくれてありがとう」


『いえ!私、もっと精進します!!』


勇者様どうか見ていてくださいね、と言ってメイドさんは全速力で廊下の彼方へと走り去ってしまった。


「ははっ、あの突っ走っていく感じ……本当に似ているなぁ」


そういえば……この白金の鍵はいったいランクとしてはどのあたりなんだろうか。さっきの話の中では出てこなかったから何ができるのかとかがさっぱりわからないや。


「ま、探検していればわかるかな?」


≪そんな軽い気持ちでいいのか拉致被害者!?≫


む、妖精さん、僕は君を何度も封印したと思うのだけど?


まぁそれも最近無駄な気がしてきたから、とりあえずこのままにしておいてもいいかな。


さて、と。


僕はひとつ深呼吸をする。扉の隙間から流れてきたのであろう食欲をそそる香りが鼻腔を突いてきた。


そしてゆっくりと扉に手を掛ける。すると不思議なことに、手元が軽く光ったと思うと、一人でに巨人クラスの扉が口を開け、僕を中に誘い込もうとするではないか。


これが、さっき言っていた鍵の解錠ってやつなのかな?な、なんか魔法チックなシステムで結構楽しいぞ?


これは探検のしがいがありそうだね!


「でも、ま。その前に腹ごしらえ~♪」


腹が減ってはなんとやら、と言うしね。まずはめいいっぱい食欲を満たすとしよう!


そう思いつき、ルンルン気分で木製の扉を抜け、


『何やってんだお前たち!作った料理を片っ端から食うたぁ、それでもコックか!?』


とりあえずもう一回閉めた。


……大丈夫、僕は何も見ていないはずだ。


食い散らかされた料理やら、床に幸せそうに寝転がる少女たちやら、やたら気の強そうなかっこいい女性なんて僕は見ていない。


まったく、僕も幻覚に襲われたみたいだね。どこでそんなものを掛けられたんだろうか。


もう一回深呼吸だ。今度は念入りに体全体を使って、肺の奥まで新鮮な空気を満たす。


大丈夫、今度こそ素晴らしき食の文化が詰め込まれた、麗しの食堂の光景が広がっているに違いない。


余裕の笑みを携えながら再び扉に手を掛ける。再び手元に青白い光が灯り、ゆっくりと扉が開く。


今度も同じように軽い足取りで扉を抜けようとする、けど体はなぜか少しだけ重く感じた。


そして扉を抜けて食堂の光に包まれる。


『だぁもう、いいからお前ら立て、動け、働け!今日はお客様が来ているんだぞ!』


『だいじょうぶだよ~』


『まだこっちに来て数日でしょ~』


『そんなに焦って来るわけないよぉ』


『数日の間ロクに食ってなかったら俺たちだって死に物狂いで食べ物を探し回るぞ!?』


……どうしよう、どの角度から見ても食堂で軽い乱闘が起きているようにしか見えない。


いや、暴れているのはあのリーダーっぽい女性だけで、あとはそこらじゅうでゴロゴロしているだけか。


大変そうだなぁ、頑張ってほしいなぁ。


逃げたほうがよさそうだなぁ……


空腹もかなりきついけど、探索途中で何かしら食べ物があるかもしれないし。ここで何かトラブルに巻き込まれるよりはマシだろう。


ここは今までの技術で培ってきたスニーキング技術を発揮するとき!誰にも気づかれることなく脱出することが―――


―――――ぐぅ~~~


…………


≪……フラグを立てたいのか折りたいのかはっきりしなよね≫


このタイミングで……このタイミングでまさかのフラグ・スタンダッ!?


冗談じゃないよ!絶対にまずいよねこの状況!


だって、僕の腹の虫の軽快なリズムを聞いた全食堂住民が血走った目でこっちを見ているんだもん!


ねぇ、君はさっきまで床でゴロゴロしてたよね。そっちの子も普通に机に突っ伏して寝てたよね!なんでそんな臨戦態勢なのさ!?


そしてそこのかっこいいお方、お願いですからそんな見開いた目で僕を見ないでください。体に穴が開きそうになるほどプレッシャーを感じるんですけど!?


じりじりと迫りくる食堂の獣に戦慄する。なぜか背後の扉は閉まって以来、手をかざしても口を閉じたまま。


……なんで僕っていつもこんな展開になるんだろうか。


そんなことを思う今日この頃、拉致の身である僕はさらに厨房に拉致されることになるのは、この数十分後のことである。


……そもそも、なんで食堂の皆さんはいきなり僕に襲い掛かってくるんだ!?


もう、わけがわからないよ。


今回は正直なところ、うまくまとめることができませんでした。もうちょっと綺麗にまとめられればよかったのですが……ごめんなさい!


感想・評価、コマンドーをみつつ待ってます!


ジョン強すぎです……あとベネットは充電しないでください。

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