24、月光に照らされました
すみません!風邪引いていて投稿が遅れてしまいました!
まだ蒸発はしませんよ!!
『涙』の回収が無事に終わり、僕らはさっさと屋敷に帰って各々のしたいことに移った。
ムラマサは孝とイリアの料理の手伝いを頼まれたとかで台所に。
美琴は『ニード』と『涙』の適合テストやら組み込みなどいろいろとやることがあるとかで、探索時とは違う荷物を持って、工房のある魔法ギルドへ。
ムラマサのほうは孝やイリアがいるから安心だけど、美琴に関してはちょっとだけ心配だ。
もう冬が近いということもあってか、まだ時間はそこまでではないのに、外は先が見えないくらい真っ暗だ。
美琴は軍人顔負けの強さだし、夜目も利くから大丈夫だろうけど。やっぱり相手が女の子だからか、どうしたって心配が付きまとう。
「(……心配していても、現状でどうにかできることなんてたかが知れているし、僕は僕で、好きなように過ごすとしますか)」
そう自分の中で判断し、僕もしばらく前に行動を再開した。
とりあえず『散歩道』で買ってきたライトノベル(おそらくアルが落としたものを販売しているのだろう)を読もうかと自室に向かう最中、何かを抱えて走る子供たちを目撃。
子供たちのほうも僕に気づいたのか、満面の笑みで僕のほうへと走り寄ってきた。見るとその腕の中には、風呂桶とタオル、それからいくつかの玩具が抱えられていた。
どうやらこれからお風呂だったらしい。ここに来たばかりのころは湯に浸かるということ自体に抵抗を示していた子供たちも、今じゃすっかり風呂好きになってくれたようだ。
僕らが街で買ってきた玩具で遊びたくて、毎日この調子なのである。
で、僕もまだお風呂に入ってなかったことを思い出し、せっかくだからと僕も便乗して一緒に入ることにしたのだけど……
「まさかここまで大所帯になるとは……」
僕は湯船に浸かりながら、あたりをぼぅ~っと眺める。
走り回る子、シャワーで頭や体を洗う子、目に泡が入ったと叫ぶ子。
湯船では、のんびりと浸かる子、数人でおしゃべりしている子、泳いでる子……
まるで修学旅行のようなその光景に、僕は思わず苦笑いしてしまう。
僕が一緒にお風呂に入ると言った途端、お風呂に行こうとしていたグループの一人が大急ぎで屋敷の二階やら別館やらに走り、大勢の子を連れて戻ってきたのだ。
どうやらみんな僕と一緒に入りたかったらしく、この機を逃さんとばかりに集まってきたらしい。
ここ最近は忙しくてそんな暇がなかったから、一緒に入ることはほとんどなくなってしまっていた。
いつもは男の子のほうは孝が、女の子のほうはうちの女性陣が担当してくれているから寂しい思いはさせていないはずなんだけど、いつも入れない分、僕と一緒に入るのは特別らしい。
なんだかちょっとこそばゆい感じがしないでもないけど、そう思ってくれていることに、僕はどこか嬉しさを感じた。
それで、とりあえずどこから湧いたのかわからない姉さんたちは軽く追い払い、僕らは水着を着用してお風呂場へと向かった。
なぜ水着着用なのかというと、今日は男湯に女の子も一緒に入っているからだ。
家族同然で過ごしてきたとはいえ、中には年頃の男の子や女の子もいるわけであって、さすがに全員素っ裸というのは、道徳的にまずい気がしたからである。
……体を洗うのが非常に面倒になってしまうけど、この際仕方ないだろう。
ちなみに年頃の男女というのは、12歳くらいの子たちだ。自主参加だというのに、女性陣の保護対象外―――つまり親子関係を結んでいない11歳以上の子が計9人も参加しているのだ。
さすがに中学生相当の13歳以上の子たちと5歳以下の幼児たちはいないみたいだけど、これはなかなかの盛況である。
普段このだだっ広い浴場にただ一人ぽつねんと入っている僕にとって、この状況はなかなかに新鮮なものだった。
はぁ、とため息を吐いてさらに深く湯に浸かる。幸せと極楽感から出るため息は最高だね……
『あの、カイトさん……』
「ん?どうしたの?」
天井を見上げていた顔を上げると、湯船の中におずおずとした様子で立った一人の少女が目に入った。
もちろん水着は着ているのでまっすぐ見据えてもまったく問題ない。さすが水着は万能だね!
ちなみにみんな、姉さんたちが買ってきたいわゆるスクール水着というのを着ている。そのため、プールの授業を受けているような気分にならなくもない。
その少女は少し顔を赤らめながら、
『その……髪を洗ってくれませんか?』
そう呟いて『うぅ……恥ずかしい…』とか言いながら湯船にしゃがみこんでブクブクと息を吐いた。
僕のことを『パパ』などではなく『カイト』と名前で呼ぶのは、11歳以上の自立している子供たちの特徴だ。
この子はたしか12歳グループの女の子だったかな。いつもお風呂は姉さんたちや他の女の子たちと入っていたと思う。
「僕は別に構わないんだけど……どうして僕に?」
『そ、その……カイトさんって髪が長くて、おまけにすごく綺麗じゃないですか。だから……髪を洗うのも上手なんじゃないのかなって……』
わたし……髪を洗うのが苦手で、と最後に付け足してふたたび湯船に沈む少女。
確かに少女の髪はかなり長いブロンドの髪を持っていた。湯に広がっちゃってよくわからないけど、たぶん立ったら腰あたりまであるんだろうなぁ。
下手というわりに、髪にこれといったダメージが見受けられないのは、きっと姉さんか優奈、もしくはイリアあたりが洗ってあげているのだろう。
……イリアは別として、姉さんや優奈はこの子に洗い方を教えてなかったのだろうか。
まぁあの二人はモノを教えることに関してはものすごく下手だからね。もう擬音とかしか言わないくらいの勢いだもん。
「わかった。それじゃあ洗いながら、簡単な髪の手入れの仕方とかも教えるよ」
『あ、ありがとうございます!』
大きく振りかぶっておじぎをして、勢い有り余って湯に突っ込む少女に苦笑いしつつ、立ち上がって僕は洗い場へと向かうのだった。
◆◆◆◆◆◆
「カイト様ぁ……」
お風呂から上がり、洗面台で子供たち(主に女の子たち。男の子のほうは嫌がって走って逃げてしまったのだ)の髪を乾かしていると、曇りガラスの扉から悲痛そうな声を上げながら、僕の専属メイドであるフィーが入ってきた。
その顔色は真っ青で、髪と同じ銀色の瞳には大粒の涙が浮かんでいた。
どうしてしまったのかと戸惑っていると、ふらふらとした足取りでフィーが僕の元に近づいてきて……
「え、あの、ちょっと?」
首根っこを掴まれて、そのままずるずると引きずられる形でお風呂場から強制退出させられた。
髪を乾かしてあげていた子には申し訳ないけど、あとは自分でやってもらうしかないだろう。
………………
………
…
ど、どこまでいくのだろうか?
ずるずると少女に引きずられていく少年の図。傍から見なくても不審にしか思われないだろう。
良くて痴話喧嘩、悪くて拉致現場である。
しばらく引きずられていると、不意にぴたりとフィーの動きが止まった。無論、僕の体もそこで静止した。
ここは……屋敷のはずれの物置?
そう思った途端、腹部に鈍い衝撃。ついで胸、背中と何かが這う感触。
いきなりの出来事に慌てそうになるのを必死に堪え、首を軽くもたげる。
「あぅ……うぅ……カイトしゃまぁ…」
……なぜかさっきまで僕を引きずっていたフィーが僕のお腹に跨り、背中に腕を回しながら胸に顔をうずめて泣いているのだ。
なんだ?僕が何かしたのだろうか?
別にひどいことなんて言っていないし、もちろんやってもいない。
むしろフィーとあまり話していないというか……
……あ。
「……その、ごめんフィー……最近忙しかった、っていうのはさすがに言い訳にならないよね……」
「もちろんです!あんなにカホさんやミコトさんとは話していたのに、どうして私とはほとんどお話してくれなかったのですか!それも、一ヶ月近く!」
僕が弱々しく告げると、フィーの感情が爆発したらしい。がばっと顔を上げたと思ったら、マシンガンの如く怒号の数々を飛ばされた。
「確かにカイト様が忙しかったのは存じておりました!学園のほうでもいろいろとトラブルに巻き込まれたり、ミコトさんのお手伝いもしているとかで休みの日も外で走り回っているとかも!でも……それでも!私と少しだけでもお話する機会はいくらでも作れたはずです!!」
怒りと悲しみの入り混じった涙声でフィーは思いの丈を告げる。
……確かにフィーと会話した記憶は少々過去になりかけてしまっている。
フィーはフィーで常に屋敷内を忙しそうに動いているというのも一つの要因かもしれないけど、それでもやっぱり話す機会はあったはずだ。
……でも、あれ?
「夕飯のときは普通に話してると思うんだけど……」
「それはみんなも含めての団欒です!わたしとカイト様の二人だけのにゃんにゃんには含まれていません!」
そう言いきって、フィーはふたたび僕の胸に顔をうずめた。
さいですか。
というかにゃんにゃんって何!?僕とフィーの会話ってそんな甘い雰囲気のものだったっけ!?
……それでも、こうしてフィーを悲しませちゃったことにかわりはないか。
「ごめんフィー、さすがに今回は全面的に僕が悪かった」
仰向けに倒れたまま、僕は上に乗っかっているフィーの背中を優しく撫でる。
僕の胸のあたりが少しばかり湿り気を帯び始める。
撫でる背中は震え、背中に回された腕にもさらに力が込められた。
電気も付いていない、月明かりのみが照らす暗い物置部屋。そこに響き渡るのは、布の擦れ合う音と、とある寂しがり屋の少女の嗚咽だけだった。
◆◆◆◆◆◆
「それでですね、庭に植えた種から真っ赤なお花が咲いてですね!」
「へぇ、あの花って、フィーが植えたものだったんだ」
「はい!たまたま森で拾って、夏頃に植えたんです」
ようやく泣き止んだフィーは、まるで憑き物が落ちたように元気になり、自分の身の回りであったことや、そのときの感想などをとても楽しそうに語り始めた。
僕のほうも、それを本当に楽しいと感じながら聞き入り、僕も負けじといろいろとあったことを話したりした。
学園で掃除機型の兵器が開発されて大変だったこと、創造神のところに久々に顔を出したこと、美琴と洞窟に行ったときに悪魔姉妹の料理が役に立ったこと……とにかくいろいろな話を話した。
フィーの反応は本当に楽しそうで、ときに驚き、ときに嫉妬し、ときに恐怖して、その端整な顔をコロコロといろんな感情に変化させていた。
その姿が微笑ましくて、可愛くて……いつしか僕らは時間の流れを忘れて話し込んでしまっていた。
「あははは……ふぅ。わたし、久しぶりにこんなに笑いましたよ」
「そうなの?」
「はい……本当に幸せです……」
座っていた僕の肩に、フィーの頭がコツンとあたり、そのまま体の重心まで僕に預けてきた。
いつもだったら戸惑うなり呆れるなりする僕も、今日ばかりはそれを受け入れて、小さな窓に映る月を見上げた。
フィーも、いつものように変態まっしぐらではなく、静かに月明かりに照らされている。
その顔には小さな笑みが浮かんでいて、月明かりに浮かび上がったそれが僕にはひどく綺麗に見えた。
「月が――――」
フィーの口元が動いて、自分がいつの間にか月ではなくフィーを見ていることに気がつき、慌てて窓辺に視線を移す。
その様子を知ってかしらずか、フィーは楽しそうに小さく笑って……
「月が綺麗ですね」
と、息を吐くように零した。
「月が……綺麗だね……」
意識せず、僕の口からそんな一言が出てきたのは、はたして偶然なのか、それとも……
――――銀色の明かりで彩られたフィーの姿は、まさに『月』のように綺麗だった。
今回はふざけずにいい雰囲気のまま終わらせました。そのせいでいつもより原稿用紙一枚分ほど短くなってしまっていますが……
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jdkバンドさん本当に最高です!




