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23、『涙』を手に入れました

結論から言うと、姉妹スペシャルは見事なまでに壁を溶かしつくしていた。


そりゃもう跡形もなく溶け去ってしまいましたとも。岩陰からちらりと見たけど、あの危険物質は壁を溶かし尽くしたら、今度は重力の赴くままに地下へと溶かし進んでいったみたいだよ。


……ようやくあの危ないモノと離れられてホッとした反面、アレがこの世界に悪影響を及ぼすのではないのかという不安が募り始めたよ。


大丈夫だよね?岩盤とかまで溶かしたりしないよね?


「よし美琴、道も拓けたことだし、先に進むとしようか」


僕の脇で同様に岩陰に隠れていた美琴がコクリと首を縦に振る。どうやらトラウマとかによる行動不能とかはなさそうだ。


美琴の同意も得られたので、岩陰から出て、溶けた岩壁へと慎重に近づく。


もしかしたら破片とかが残ってるかもしれないので、まだ油断はできない……僕は石橋を叩いたうえでほふく(、、、)前進をするくらいの気持ちで前へと進んでいく。


「これは、想像以上の威力だね…」


「……とても人の手で……しかも、身内が作ったものとは思えない…」


壁だけでなく、一部、鍾乳洞のような部分やら地面まで溶かされてしまっていたらしい。直接ぶつけた壁と比べればマシとはいえ、その脅威は十分に伝わるレベルの損壊だった。


―――――これ以上この件に関わるのは危険かもしれない。


なぜかそんな気持ちがどこからともなく湧いてきたのはなんでだろうか。


僕はこれ以上ここにいたくない気分になり、さっきまでとはうって変わって、早足で緑光のカーテンに包まれた隠し通路へと向かった。


美琴も何か察したのか、何も言わずに僕の後ろをついてきた。


その顔はどこか、諦観ていかんに満ちているようにも見えたのは、たぶん気のせいではないだろう……






◆◆◆◆◆◆








「ふわぁ、これはすごいなぁ」


みどりのカーテンで覆われた隠し通路を抜けた先。そこには現実のものとは思えない、幻想的な空間が広がっていた。


洞窟の中とは思えないほど高い天井から穏やかな光が降り注ぎ、翡翠ひすいの壁がその光を受けて発光している。


さっきまでの緑豊かなダンジョンとは違い、神聖さをかもし出しているここは、自然の建造物ばかりなのに、どこか神殿しんでんのような雰囲気があるのが不思議だ。


そしてお決まりのように四方に置かれた台座の上には、いかにも重要そうなアイテムが鎮座していて、少しだけ苦笑いしてしまった。


こういうゲームみたいなところも、アルの遊び心があってこそ、なんだろうか。


「……これは……!」


感慨にふけっているところに、美琴の声が介入してきて意識を現実に戻す。


いったいどうしたのかと思いあたりを見渡す。もしかして、あの台座に乗っているやつが今回探してたアイテムだったのかな。なんか竜の頭みたいなやつとかもあるし。


しかし台座のところを見渡しても美琴の姿は見当たらず、僕は首を傾げた。


すこし不安になった僕は、まわりに注意を向けながらあたりを歩き回り始めた。上から降ってくる光の雨が僕の姿を明るく照らす。


首を左右に回しながら歩いていると、枯れ木のような形をした不思議な石柱、その影に美琴の姿を見つけた。


いったい何をしているんだろうか。気になった僕は駆け足でその傍へと走り寄った。


「……あ、海斗。見てこれ」


足音で気づいたらしい美琴が僕のほうに振り返るや否や、何かを僕に向かって突き出してきた。


反射的に仰け反った体勢のまま、僕はその突き出された何かを見る。


「何、コレ?」


目を細めながら、僕はそんな感想しか言えなかった。


いや本当にわからないんだよ。僕の脳内にあるなにとも結びつかないんだから仕方ないじゃないか。


突き出されたモノは正六角形をした宝石のような形状なんだけど、ものすごく変なのだ。


六角形だったのが、少し色が変わったと思ったときには星のような形になってたり、美琴が何かを唱えたと思ったら、今度は何か少し動き始めたんだよ……


いったいどんなものなのか、冷静に考えてもさっぱりだよ。


「むむ、これは……ほうほう……そういうことかの」


いつの間にか復活していたムラマサが美琴の持っていた宝石をまじまじと見ながらそんな感想を口にした。


いつから擬人化状態になっていたのか、どこで正常な思考に戻っていたのか、とかを聞くのは野暮というものだろうか。


……というかムラマサはこれが何かわかるんだ。


「……さすがは妖刀・村正なだけある。いい子いい子」


「むふー、もっと褒めてもよいのじゃぞ?」


そしてこの仲直りの早さである。


まぁそのうん、仲がいいのは僕としても嬉しいよ。悩みの種がなくなるし……


ただ、あの洞窟の入り口や道中での醜い争いを見ているとどうも違和感が拭い切れないというか。


ま、いっか。


「それで、それは結局いったい何なの?」


仲直り云々についてはとりあえず自己完結させた僕は、盛り上がり始めている二人のところに気になっていることを質問した。


早めに言わないと会話に入る隙がなくなってしまいそうで恐かった。ていうのもなかったわけじゃないんだけど、何より美琴に手に握られている宝石のようなものがものすごく気になっていた。


知的好奇心っていうのはこういうことを言うんだな、と僕は思いつつ美琴の目を見た。


美琴はムラマサとの会話を中断して宝石を地面に置いて座った。ムラマサも、美琴とは違う面に座って僕を見つめてきた。


これはあれかな?僕もそこに座れってことかな。


現状のいまいち掴めない僕は、宝石を挟んで美琴とムラマサが見える位置に腰を下ろした。


円を作るようにして座った僕ら。その中央で、謎の宝石は変形を止めて六角形の形のまま、おとなしく置かれている。


「……海斗、この宝石を見て、何かを思い浮かべたりとか、しない?」


「いや……だめだ。まったく想像もできない」


「……それじゃあ、『形状記憶合金』っていう物は知ってる?」


「形状記憶合金……」


その単語は、僕の白くなり掛けている脳の片隅にこっそりと収納されていた。


『形状記憶合金』というのは、確か温度によってその形を変化させる合金で、常温・高温・低温でそれぞれあらかじめ設定しておいた形状に変化する……ていうやつだった気がする。


前に、潜入系のゲームでその合金でできたキーを使う羽目になって大変だったっけ。高温のキーを作り出すために溶鉱炉まで行って、足を滑らせて落ちたときは切なかったよ……


あるじはそれについての知識はあるみたいじゃの」


さすがわしの主じゃ、とか胸を張りながらムラマサがドヤ顔で天を仰いだ。


ムラマサのドヤ顔って、何かアホの子っぽくてなぜかあんまりイラッとこないんだよね。


むしろ子犬的な可愛さがあるような……


そんなムラマサに美琴も同意するかのように、正面の宝石を手に取った。


「……このアイテムも、その形状記憶合金に近い……ううん、それよりも遥かに高度な変形能力を持っている」


「高度な変形能力?」


「……少しそこで見ていて」


そう言って美琴は目を閉じて、瞑想めいそうをするような姿勢になった。呼吸を最小限に留め、お椀のような形にした両手に宝石らしきそれを乗せた姿は、さながら修行をする僧侶のようだ。


いつもは賑やかなムラマサも、珍しく真剣な眼差しでその様子を見守っている。


しばらくすると、美琴の手の中にあった宝石が輝きだし、次の瞬間、輝きが弾けるようにしてあたりに拡散した。


そして、光の中から出てきたのは、質量保存の法則を完全に無視した大きさのスナイパーライフル。確か『SIG SG550 Sniper』ていう名前の美琴の愛銃のひとつだったと思う。


「もともとがアサルトライフルだったから、接近戦でも十分戦える」とか美琴が言っていたような。


そんなものがなんでこんなところに?


「……このアイテムは『創造神の涙』と呼ばれる果物……その力は、念じたものに姿形を変えるというもの……」


え?


「つまりじゃなあるじ、この実を使えば、自分の思うがままの物を作り出すことができるというわけじゃ」


「……さすがに生物とかは作り出せないけど」


それって、かなりのチートアイテムじゃないの!?


それじゃあ伝説の武器とかも、自分の想像だけで作り出せるってことじゃないか!


「まぁものすご~~~~~く希少な上に、作り出す物のありとあらゆることを知り尽くしてないと作り出せぬから、使い勝手が良いのかどうかは別じゃがの」


ふむ、さすがにそのあたりは制限とかがかかっているのか。


でもそれもそっか。そんなものがこの世の中に出回ってれば、それこそ悪用するやつが出てきてもおかしくないし。


そのあたりは名前の由来でもある創造神様は理解しているみたいだね。


「でも希少ってことは、あまり手に入らないってことなんでしょ?そんな僕に見せるだけに作り出しちゃって良かったの?」


「……その点は問題ない」


もはや本物と見分けがつかないくらいの完成度の狙撃銃を撫でながら、美琴は淡々と告げた。


銃を地面に置いて、指で弾く。すると銃はポンッという音とともにふたたび元の宝石の形に戻った。


「……この宝石は一度形を覚えさせてしまえば自由に変形させることができる。しかも複数の形を覚えさせることができるから便利……」


……こんなの、やっぱりチートでしょ。


なにその万能アイテム、それさえあればもうなんだって出来ちゃうんじゃないの?


そんな最強アイテムを、美琴はいったい何に使うつもりなんだろうか……


「……知りたいの?」


「へぁ!?あ、いや別にそういうわけじゃ…………知りたいです、はい」


見透かされているような視線に耐え切れなくなった僕は正直になった。


くすっ、と美琴が笑い、僕の顔がかぁっと熱くなった。


くぅ……美琴にこんな眼力があっただなんて……いつもは美琴のほうが顔を真っ赤にするのに。


美琴は宝石の状態に戻った『創造神の涙』を手の中で転がしながら、満足げに顔を綻ばしている。


「……これを使うのは『ニード』の心臓部、コントロールパネルに使う」


「コントロールパネルに?」


声は淡々と、顔には微笑を浮かべながら美琴はうなずき、話を続ける。


「……『ニード』には大量の兵器が取り付けられることになっている。けど、それらに指示を出すには『AOS』と繋げる回路が必要になってくる。兵器の数は多い。しかも個々で細かい操作をしなくちゃいけないからひとつの兵器に使う回路の数はかなりのものになる」


カバンの中から紙束を出してきて、美琴は僕らの座る中央にそれらを広げた。


「……だからわたしは、これですべての回路を補おうと考えた」


紙には図面が描かれ、それらすべてに妙な形状の立体図が描かれていた。まるで未発見の生命体みたいだ。


「……この『創造神の涙』にこれらすべての回路を記憶させて、『ニード』の『AOS』接続部に装着。あとはわたしが指定したワードを『AOS』に流し込めば、それに対応した形状になって繋がった兵器を動かせるようになる、はず」


な、なんだかややこしくなってきた……


美琴もそんな僕の感情を読み取ったのか、少し悩むような顔をしたあと、


「……電車の分岐点の切り替えスイッチを思い浮かべてくれるといいかも」


と言った。


……ああなるほど、そういうことか。


要約すると、操作という電車の流れを、『創造神の涙』という分岐点&スイッチによって、あらゆる兵器へと繋がる線路へと分ける、ってことかな。


僕はたぶんものすごくすっきりした顔をしていたのだろう。美琴もホッとしたようにため息を吐いた。


回路なんかに、なんて思わなかったわけじゃないけど、確かに『ニード』の回路となれば、ソレが必要なのかもしれない。


「……これで残す素材もあと僅か。これでようやく……ふふっ♪」


宝石を撫でながらとても楽しそうに美琴はつぶやいた。


素を出したときの美琴とは違う、オトナっぽさっていうのか、そんな妖艶ようえんさをその微笑から僕は感じた。


こういうことがあるから、どっちが美琴の素なのかわからなくなるんだよね……


そんなことを考えながら、僕は頭のてっぺんから落ちてくる光のカーテンを掴むようにして仰いだ。


あぁ、なんて優しい光なんだろうか……












「ちなみにわしにもこの実が使われているのじゃぞ!」


えぇ!?な、なんだって!?


「……それじゃあムラマサが人の姿になっているのも……?」


「いやいや。この姿は『くらすたーれっくす』の血と主への愛ゆえじゃ。まぁわしの場合、形状記憶の力はすべて刀身の自動補修などに使われておるからの、他への変化能力はないのじゃ」


し、知らなかった。ムラマサにそんな秘密があっただなんて。


というかそんなおまけ程度で言うものじゃないよね!


どうしてムラマサにそんなものが使われているのかとか、いろいろと気になることがあるんだけど!?


そんなカラカラと笑いながらどっかに行かないでよ!





ようやくまともに話が書けました。

正直、21・22話は寝る寸前に書いたというのもあって、かなり無理のある話に仕上がってしまっていて……少し調子が取り戻せてよかったです。


感想・評価、ナマコたんシリーズの装備を集めつつ待ってます!


ナマコたん、可愛いですよ?

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