10、僕の家庭事情その2
~それから5年後~
僕は家のリビングでぐったりしていた。
学校に行くと男女問わず僕に迫ってくるからだ。―――そのうち9割の女子に下心あり―――
しかも毎日だよ!?当時の僕はよく耐えていたと思うよ。
まぁそんなこともあって意識が朦朧としていた7月20日。
この日、僕ら家族の平穏が壊れた。
「…だるいな~。もうあの子たちはなんなの?毎日僕に迫ってくるし怖いよ…」
そんなことをぼやいていると玄関から物音がした気がした。
だれか帰ってきたのかな?たぶん姉さんか志穂だろう。
床に突っ伏しながらそんなことを考えていると、リビングの入り口から声を掛けられたので振り返る。
「た、ただいま…海斗…」
そこにはボロボロになった父さんが壁に寄りかかるようにして立っていた。
「と、父さんっ!?仕事は?それよりどうしたのその格好!?」
今の父さんの仕事は、体がボロボロになるような事はしない。
かと言って暴力団に目を付けられているわけでもない。
それじゃあ一体?
「海斗、よく聞くんだ。お前に話しておかなければならない事があるんだ。」
「そんなこと言ってる場合じゃ―――」
「いいから聞いてくれ。まず海斗自身についてなんだが―――」
そこで初めて僕は愛され体質のこと、家系のこと、そして父さんが僕のためにしようとしたことを知った。
「以上でお前についての話は終わりだ。いままで黙っていてすまなかった。」
「いや、謝る必要はないよ。おかげで僕の日常について少し理解できたからね。話してくれてありがとう、父さん。」
「海斗…」
父さんは目に涙を浮かばせながら「ありがとう。」と言った。
まったく、昔から涙脆いんだから。
「ぐすっ、そ、それともうひとつ話しておかなければならないことがある。」
「ま、まだあるの?一体なに?」
父さんは少し俯いていたが、やがて決心したような顔をした。
「俺、しばらく家に帰ってこれなくなった。」
………
「は?」
「はああぁぁぁぁぁ!?」
「ど、どうしてさ。一体なんで!?」
急に何を言ってるんだこの人は。
「それについては今から話す。」
そういうと父さんはソファーに腰掛けて少し早口で話し始めた。
「うちの家系には代々『呪い』があるということはさっき話したな。」
『呪い』とは、愛され体質のことだ。
「俺にもそれが色濃く受け継がれていてな。俺が学生のときにもこの『呪い』のせいでいろいろと面倒事が起きたものさ。変の奴にストーカーされたり、下駄箱に女子の髪の毛の束が入っていたり。」
父さんも苦労していたんだ。
ていうか下駄箱に髪の毛の束って何!?怖いよ!
「そんななか、俺は高校のときに3人の女子から告白されたんだ。だが俺はその3人全員を振ったんだ。」
「どうして振ったの?嫌いだったとか?」
「いや、そんときには既に真美―――母さんと付き合ってたからな。きっぱりと断ったんだ。」
「ふ~ん。で、それがどうしたの?」
なにげなくそう聞くと、父さんは遠くを見るようにして
「…断った次の日から3人とも狂い始めたんだ。」
「…え?」
まったく予想していなかった言葉に絶句した。
いやだってさ、こういう場合その3人がすごい落ち込んで大変だったとかそういう感じじゃん。
「その3人はその日から、俺を殺して自分自身も死のうとする狂った行動をし始めたんだ。」
「その日からは…完全に地獄だった…。」
その後に父さんが話したことははっきり言ってホラーだった。
帰り道にいきなり背後からナイフで襲い掛かられたり、家に隠しカメラを仕掛けられたり、挙句の果てには父さんのすべての行動を先読みして待ち伏せしていたという。
時には給食に痺れ薬が入っていたこともあったとか。
当時11歳だった僕はその話を聞いて、完全に青ざめていた。
いや、あまりの事に理解が追いついていなかったのかもしれない。
ていうか父さん、そんな状況でよく生きてたな。無理でしょ、普通。
しかし、話には続きがあった。
「俺は毎日を生きるために必死だった。飛んでくるナイフを避け、隠しカメラを瞬時に見つけては破壊し、薬は匂いだけで判別できるようになった。」
父さん、あんた一体何者だよ。もうそれ人じゃなくね!?
「そんな俺に3人は痺れを切らし、俺を殺そうとしなくなった。」
「よかったじゃないか。」
「いや、その3人は自分に振り向かないのは当時俺の彼女だった母さんだと考え、その矛先を母さんに向けたんだ。」
「そしてある日、母さんはその3人に斬りかかられたんだ。その現場にたまたま居合わせていた俺は母さんを庇って斬られたんだ。」
これがその証拠だ、と言いながら父さんは、服を脱いで肩から腹部あたりを僕に見せた。
そこには右肩から左わき腹にかけて縫い跡が痛々しくその存在を主張していた。
「っ!」
それを見た僕は少し怯んだ。いままで父さんは家族の前で裸体を見せたことがなかったがその理由がようやくわかった気がした。
「その3人は母さんがすぐに通報してくれたおかげで警察に連行された。俺は救急車で病院に運ばれてなんとか助かったんだ。」
「でも、そのあとまた殺しにきたんじゃないの?」
実際、殺人未遂は悪くても高校生だったら3年が限界だ。
釈放されたらまた殺しにかかってくる可能性は十分にある。
「いや、他にも犯罪を犯していたらしくてかなり長い期間になったんだ。」
「じゃあどうしていまそんな話をしたのさ?」
話の流れがわからなくなってきた僕は疑問符を浮かべながらそう言った。
「まぁもう少し聞いてほしい。…実はその三人、つい最近釈放されたんだ。」
ん?
「しかも釈放されてすぐに、俺の居場所をつきとめたんだ」
んん?
「そして僕はさきほどその3人に襲われて、家に逃げてきた今に至るってわけだ。」
んんん?
「…つまり今現在ピンチってこと?」
「まぁそういうこと」
………
「なにしてんの父さんっ!?」
なんでこの人は悠長に僕と話なんてしてるのさ。何?バカなの?死にたいの?
というか急展開すぎんだろ。なんで平日に家族の一人が命の危機にさらされているのさ!?
「とりあえず事情は話した。すまないが家族を頼む。」
そういいながら父さんは頭を下げる。
玄関からはガンッガンッと嫌な音が響いてきている。
「チッ、もう追いついてきたのか。」
父さんの反応から例の3人だと予想できた。
「ああもうわかったから。家のことはとりあえず僕がやるから父さんは早く逃げてっ!」
「…すまない海斗」
「謝るんだったらひとつ、僕と約束して。」
僕は窓から外に逃げようとする父さんにひと言だけ言う。
「いつか絶対、無事に帰ってきてよ!」
「! ああ、もちろんだ。」
とてもいい笑顔をして父さんは外へと駆けていった。
やっとこ過去話が終わりました。
書いていて思ったのが
「急展開すぎるだろ。」
ということでした。話についていけなかった方、本当にすいません。
もっとうまく書けたらよかったのですが…
次回からはまた異世界での話となります。今後ともよろしくお願いします。
※都合により3週間ほど、投稿が不定期になりそうです。(2月19日まで)
用事が終わり次第すぐに投稿再開しますので、また読んでもらえるとうれしいです。




