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18、白衣の子に出会いました

自分の人生の濃厚さを改めて噛み締めた僕はその後、ギリギリ間に合ったHRを軽く済ませ、授業をするために学園中を走り回った。


僕も3ーDに固定されているわけではなく、他の先生たちと同じように中等部を始め、高等部や初等部でも授業を行っているのだ。


初等部では僕らの世界の文化や異世界語とは名ばかりの日本語、高等部ではこれに加えて中学一年生程度の数学と少々難しい技も取り入れられた武術を教えている。


初等部はいいんだけど、高等部には僕より年上の人とかももちろんいるわけであって……その、結構怖かったりします。


一応僕に対しては先生として接してくれているけど、いつどこでそれが崩れるかわからないから怖いったらないよ。


そして教室を移動するときは風紀委員の襲撃にも警戒を配らないといけないから、一日が過ぎるたびに僕のストレス値はうなぎ上りに上昇するのだ。


まったく嬉しくないよねぇ……はぁ……


で、今はというと、昼休みも終わってさぁ午後のお仕事だと意気込んだはいいものの、授業スライドを見たら午後の自分の担当がないことに気づいて、職員室でお茶をすすりながら呆けているのだ。


「あぁ……暇だなぁ……」


仕事をしている人間としてもっとも言ってはいけないことの気がするけど、事実なので致し方ない。


時間も中途半端なので、授業見学に行くのも少々億劫(おっくう)だし。


かと行って外に出て適当にブラブラするなんていうのは、先生としてちょっとまずい気がしないでもないし。


「ふぅ、やっと辿り着いた。もう、どうして街の外なんかに学校を作ったのかなぁ……」


背後で職員室の扉が開く音がして、ついで何かがぶつかる音が聞こえてきた。どうやら中に誰か入ってきたようだ。


声からして女性だろうけど、こんな時間に登校だなんて、いったいどんな人なんだろう。


挨拶がてら顔を見てみたいという気持ちになり、回転いすを少しだけ蹴って体を扉のほうへと向ける。


「……なんだろう、アレ……」


口から出た最初の感想は、目の前の出来事に対する疑問。


職員室扉前でうごめく白い何か。触覚のように伸びた先には紙袋のようなものが提げられていて、背中(だと思われる部分)に小さな体に対してどう考えても不釣合いな大きさのリュックサックを背負っていた。


白い何かが床に紙袋を置いたと思うと、今度は肌色の足・腕がニョキッと生えてきて、ついで栗色の髪を持つ頭が白いソレから出てきた。


「う~ん、この白衣、やっぱりちょっと大きい気がするなぁ。でもぴったりのやつにすると生徒のみんなからものすごいブーイングを受けるしなぁ……どうしよう……」


どうやらあの白い何かは白衣で、うごめいていたのはそれを着た少女だったようだ。


見た目は小学生程度、おそらくムラマサといい勝負だろう。顔立ちは幼いながらに整っていて、年相応の可愛さを感じる。


髪は肩のあたりで短く切り揃えていて、てっぺんにある猫耳のようになったクセ毛が特徴的だ。


「(……それでもやっぱり疑問は晴れないなぁ)」


なんでこんなところにこんな子がいるのか。その大きなリュックにはいったい何が入っているのかなど、気になることは盛りだくさんである。


特にカバンの中身が非常に気になる。無理やり詰め込んだのか、隙間から何か蛇みたいな生物の死骸とかがはみ出していて、怪しさ満点である。


「えっと、そういえばあの書類ってどこやったっけ。確か、この、上に。あったようなっ!」


リュックの中身に気を捉われているうちに、いつの間にか白衣少女は本棚の正面で背伸びをして何かをしていた。


どうやら本棚の上にある紙束を取りたいみたいだけど、残念ながら身長がギリギリ足りないみたいで、紙に手を掠めてはいるものの、取るまでは至らないみたいだ。


「んっ、ふっ!あと、すこしぃ~!!」


それでも諦めずに必死に手を伸ばし続ける白衣の少女、見ていて微笑ましい反面、危なっかしくて見てられない気持ちも湧いてきた。


なんだかこのままやらせていると、頭の中に浮かんだものと同じ結末になってしまうような気がしてならない。


かと言って、僕が手伝うことによって彼女の努力が水の泡になってしまうのではないのか、という不安もまたしかり。


さて、どうしたものか……


「ん、しょっ!やった、取れたってきゃああああああ!?」


白衣少女が一番下の紙を引っ張った。途端、ドサドサドサァ~っと大量の書類やら本やらが白衣少女に襲い掛かった。


まるでアニメか何かを見ているかのような気分になってくるよ。まさか頭の中に想像していたお決まり展開が、異世界とはいえ現実で起こりうるとは。


最後の一枚がひらひらと舞い、床に積みあがった紙の山の一角に落ちる。


少女の姿はない。どうやら完全に紙束の山に呑み込まれてしまったようだ。


……とりあえず、助けたほうがいいのかな?


「よいしょっと……おーい、大丈夫かーい?」


積み重なった書類をまとめてどけると、床に寝そべる少女が露わとなった。


ちょっと突いてみるとピクリと反応したので、どうやら生きてはいるみたいだ。


書類の山に埋もれて死にました、なんてことになれば死んでも死に切れないだろうから、生きててよかったよ。


「うぅ……あれ、ここはどこ……わたしは……だれ?」


まるで記憶喪失者の典型みたいなことを吐きながら、少女はよろよろと起き上がった。


顔色は若干悪いけど、どこも怪我はしていなさそうだ。


まぁそれでも、念のため確認だけはしておきますか。


「大丈夫?どこか痛かったりしないかい?」


体を屈めて相手の目線になって話をする。これが小さい子と接するときの基本中の基本だ。


いきなり話しかけられてびっくりしたのか、少女は泣きそうな顔になって僕のほうへと向き直った。


そして向き直るや否や、その顔を驚きの色で滲ませ、






カ、カイト君(、 、、、、)?」







……僕は、もしかして無意識かでとんでもないことをしでかしてしまっていたのだろうか。


僕にこんな幼女の知り合いはいない。しいて言うなら僕の屋敷にいる子供たちはこの子と同い年かそれよりも下だけど、この子のことは顔も名前もまったく知らない。


いったい、どういうことだ?








◆◆◆◆◆◆







「は、始めまして!わたし、マリネって言います!一応この学校の魔法学の薬学を担当していますっ!!趣味は料理で、好きなのは―――――」


「ど、どうどう落ち着いて落ち着いて」


いきなり切羽詰ったような自己紹介を始めた少女―――マリネをなだめるようにして僕は両手を下げるしぐさをする。


さっきの『カイト君』発言は、僕にものすごく似ている人が『カイト』という人物らしく、どうやらマリネはその人と僕を勘違いして呼んだらしい。


僕に似ている人がいるというのも驚きだけど、まさか僕と同じ名前の人がこの世界の、しかもあの城下町にいるだなんて知らなかったよ。


「落ち着いた?」


「は、はい。ありがとうございます」


幾分か呼吸が安定したのを見計らって声を掛ける。なんとか緊張は解けたみたいだ。


「それじゃあ落ち着いたついでに僕のほうからも自己紹介を。僕の名前はカイト・アライ。いろいろあってつい最近この学園で教師をしているんだ」


「えぇ!?カイト・アライ!?」


どうやら知り合いと同名だったことに驚いたみたいだ。両手をあたふたさせながらマリネは顔を真っ赤にしてまたちょっと暴走気味になってしまった。


……これは、しばらく待つ必要があるみたいだね。





~3分後だよ!カップラーメンは出来たかな?~





「それじゃあ君のほうももう一度自己紹介してくれないかな?」


「え、もう一度ですか?」


「うん。その、さっきのはちょっと早口すぎちゃって、名前以外ほとんど聞き取れなかったんだ」


特に名前のあとのくだりが一番聞き取れなかった。というかまったく耳に入ってこなかったよ。


「え、す、すみませんっ!えっと…それでは改めて。わたしの名前はマリネ、マリネ・ワーロンといいます。この学園では魔法学の薬学を担当しています。趣味は料理で、猫を可愛がってくれる人が好きです」


へぇ、猫を可愛がってくれる人が好きなのかぁ。なんだか不思議な感性を持った子だなぁ。


……って、あれ、ちょっと待てよ?


「今、魔法学の薬学がどうとか聞こえてきた気がするんだけど……?」


「え……ああ!私、小さいのでよく誤解されるんですけど、これでももう23なんですよ?」


「僕より年上!?」


信じられない……合法ロリって現実にいるものなんだ。


見た感じどう見たって小学生なのになぁ。ああいや、ムラマサも似たような年くらいに見えるけど、年齢は数百を軽く超えてるはずだし。


いや、それでも年が現実的な分、こっちのほうが正直びっくりだ。


「すみません、まさか年上の方だとは知らずとんだ無礼な態度を……」


「あ、謝らないでください!むしろあれくらい気楽な態度のほうが私としれは距離感を感じなくて好きですし。それにそのほうがわたしも敬語を使わなくて済みますし、えへへ」


「そ、そうですか……じゃなくて、そっか」


まぁ僕としてもそちらのほうが正直助かる。


こう言ったら失礼なんだろうけど、マリネさんはどう見ても小学生程度なわけであって、敬語を使うのに少々、どころではない抵抗を感じちゃうんだよね。


大人になったらそんなのも気にならなくなるのかな?


はぁ……僕もまだまだ子供ってことかな?


「って、わわっ!もうこんな時間!早く研究室に行かないと!」


「研究室?」


この学園で生活してきた中で一度も聞いた事のない部屋の名前だ。


そんなものがこの学園にあっただなんて。


「うん、わたしが学園長先生から借りてる部屋なんだけど、開放してもらえる時間が学園が開いているだけだから、早めに行かないといろいろと大変なんだよ!」


大学の教授が持っているようなものだろうか。そんなものを持っているだなんて、仮に23歳だったとしてもすごいことの気がするんだけど。


「あれ、じゃあ授業とかはどうしてるの?」


「う~ん、わたしの場合はクラス単位じゃなくて学年単位で授業をするから、あまり授業回数は多くないんだよね。まぁ、薬学なんていう小難しい授業だから、クラス単位なんかでやると参っちゃうんだよねぇ……わたしのほうが……」


こけそうになるのを必死に我慢する。


『先生のほうがついていけなくてどうするんですか!』とツッコみたくなったけど、僕には薬学なんていうものはさっぱりなので、不用意にその話題に触れるのはまずい気がしたので耐えた。


……薬学、かぁ。


「マリネ先生、もしよければ僕にその研究室とやらを見学させてくれない?」


「え?わたしの研究室を見学?」


想像もしてなかった、とでも言いたげな顔でマリネは僕の言葉を繰り返した。


その言葉に僕はうなずきながら続ける。


「実は僕、魔法学とかにはめっぽう疎くて、薬学なんてもはやどんなものなのか想像もつかないんだ。それで、せっかくの機会だから魔法学や薬学がいったいどういったものなのか知りたいなぁ、なんて思ったりして……」


実際のところ、魔法学に関してはかなり興味があった。未知の力であらゆる現象を起こす魔法。その原理などを学ぶのは正直かなり楽しいし、僕の知識欲を存分に満たしてくれる。


それに、ちょうどさっきから暇を持て余していたところだし。


「う~ん……まぁカイト君なら学園長の許可がなくてもニャン……じゃなくて、なんとかなるかな?」


僕に背を向けながらマリネは何かをぶつぶつ言っている。


たまに頭の猫耳風クセ毛がピコピコと動いているけど、どこかから風でも入ってきているのかな?


しばらくしてこちらに向き直ったマリネは楽しそうに笑いながら両手を合わせた。


「うん、たぶん大丈夫だと思う!」


「え、ホントに!?」


「あ、でも結構危険な薬品とか実験動物とかもいるからいくらか注意が必要だけど……」


「それくらい問題にもならないよ!」


僕なんて毎日が死と隣り合わせみたいな生活をエンジョイしてるからね。危険な薬品くらい、モンスターのアシッドブレスに比べればまったく問題ないね。


「わかった。それじゃあ案内するからついてきて」


「了解!」


カバンと紙袋を持って立ち上がったマリネは見た目相応の笑顔で僕を手招きしながら職員室を出て行った。


僕もそれに従い、その後ろについていくようにして後を追った。


いったい異世界の研究室にはどんなものがあるんだろうか……想像するだけでわくわくしてくるよ!











「ところでそのカバンって何が入ってるの?」


「え?えーと……蛇のミイラとか竜の牙、雷獣の角とか……とにかくいろんなものだよ」


なんかどっかのハンティングゲームに出てきそうなものがあったような……?





なかなかいいノリが出てきました!


この調子でどんどん書いていこうと思います1


感想・評価、ボカロ版『ドラゴンナイト』を聞きつつ待ってます!


……すばらしいアレンジ曲です。

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