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14、魔道具生成に付き合いました

『いいですよ先生……その調子です…』


『あ、もう少し力を抜いて……』


『……落ち着いて……慎重に…』


「よ、よし……今度こそ…えいっ!」


ゆっくりと、手に力を加えていくと、自分のまわりに光が灯り始めた。


最初はほんのりと、そしてだんだんと光は輝きをましていき……


「『『『あ……』』』」


急に光の輝きに乱れにが生じ、次の瞬間、光の塊が爆散し、僕の体も吹っ飛ばされて教室の壁に激突した。


うぅ、目眩がする……だるくて体にも力が入らないや。


『ちょ、センセー大丈夫か?』


「怪我は……うん、大丈夫みたいね。カイト先生って、見た目の割に丈夫なのね」


『はぁ~よかった~』


マースさんと生徒たちが心配して僕のまわりに集まってくる。


マースさん曰く、今の爆風で怪我をしたとかそういうことはなかったみたいだ。


「それにしても……やっぱりカイト先生は魔法をまったく使えないみたいですね」


「はい……どうやらそうみたいです……」


武術の授業が終わり、今は僕の専門外である魔法学の授業が3-Dで行われている。


魔法学とは、魔法の原理・原則に始まり、あらゆる超常現象の起こし方や魔道具生成、その他幾何学的(きかがくてき)なことを専門的に学ぶ科目のこと……らしい。


で、その原理・原則の中に、『人は誰であれ、必ず魔力を秘めている。故に方法と知識、経験や技術があれば誰でも魔法を会得えとくすることができる』というのがある。


それを知った僕は、「せっかく異世界に来たんだから、魔法の一つ二つ使えるようになりたい!」と言って、時間が空いたときにこうして授業に混ぜてもらうことにした……のだけど……


「まさか、魔法の使えない人がいるなんて……魔法はまだまだ未知のことで溢れているようですね」


『魔法詠唱も魔方陣も、練成の手順だって完璧なのにできないなんて……魔力がないか、魔法の使えない『呪い』か何かが常に掛かってるのかもですね』


「あはは……はぁ……」


そう、僕はこの一ヶ月間で、一度も魔法の発現に成功していないのだ。


どんな素人でも、専門家の指導下で手取り足取り教えてもらえば、一つくらいは成功するはずらしいんだけど。僕の場合はどんなに手厚いサポートを受けても、途中で必ず失敗してしまうのだ。


魔法が使えるようになる!って期待していた分、ショックも結構大きいよ。


「ま、使えないものはどうしようもないんだし、しかたないッスよ」


「そ、それに先生には武術や算術とか他のことでズバ抜けてますから、あまり気にしないほうがいいですって!」


『マイちゃん……それ、あまりフォローになってないよ?』


みんながみんな、あらゆる方向からフォローっぽい言葉を投げかけてくれている。


嬉しい。嬉しいんだけど、なんでだろう……この妙な虚しさは……


……まぁ、そんな簡単にできるわけもないか。基礎だってまともに勉強したわけじゃないし。


そうだよ、時間はあるんだからちゃんと一から頑張れば、もしかしたら使えるようになるかもしれないし!


あまり自信ないけど。


「あ痛つつ……今日のところはこれくらいでいいや。あとの時間はみんなの様子を見学させてもらうよ」


痛む腰に顔をしかめつつ、なんとか立ち上がってそう告げる。


ただでさえ僕が授業に出ているせいで時間を浪費しているのに、僕の勝手な自爆のせいで、みんなの授業時間まで削ってしまうのはさすがに忍びない。


「あ、だったら先生、わたしたちのところに来てくださいよ!」


「いま新しい魔道具を生成していて、今のところ順調なんだよ~」


そう言って僕の手を取った二人は、確かマイとマヤっていう一卵性の双子だったっけか。


快活そうな感じのほうがマイで、眠そうなこっちの子がマヤだったか。


顔立ちとかは似てるんだけど、性格とかそういうところは正反対な感じだね。


薄紫の髪が顔立ちとも相まって、とても似合っている。


「わかった、それじゃあ今日はそこにお邪魔させてもらおうかな」


『はいっ!そうと決まれば早く行きましょう先生!』


『おーおーマイちゃん張り切ってる~。張り切りすぎてヘマしないようにね~』


『わ、わかってるもんそんなこと!』


うん、この二人、ものすごくいい関係なんだな。なんというかこう、相反あいはんする性格だからこそ、バランスが取れているというか。


そんなことを、僕はマイに手を引かれながら思った。


……さっきからマヤの手が首筋やら耳やらに触れてくるのは、なんでだろうか……


『う~ん、先生の肌って柔らかいねぇ……じゅるり……おっと、つい昨日の柔らかステーキの食感を思い出しちった……』


アーアーキコエナイー!








◆◆◆◆◆◆








「じゃじゃん!これがわたしたち双子が作製中の!」


「超オーバーテクロノジー、『ハイパートルネード』だ~」


「おお……これはまた…」


マイクを持つような動作で手を振り上げるマイと、謎のポーズを決めるマヤは、そう僕に紹介してきた。


双子の少し後ろにあるソレを見て、僕はなにやら既視感を覚えた。


教室の床に白チョークで描かれた魔法陣の上に鎮座する、まるで竜を思わせる外観のソレ。


灰色の素材で身を包み、綺麗な流線型りゅうせんがたのフォルム、そしてなにより、先端部分にはT字のアタッチパーツ。


うん、どこからどうみても完全に掃除機だ、これ。あの家を綺麗にしてくれる、しかもいつも吸引力の変わらないタイプのやつだ。


いや、まだわからないぞ!


「ち、ちなみに、これは完成するとどんな性能を発揮するの?」


いくら外観が掃除機とはいえ、これは魔法学の授業で生成された魔道具。もしかしたらものすごい特殊性能がついているのかもしれない。


例えば、近づいた敵に接近して、先端部で強力に吸引して足止めをする、とか。


いや、さすがにそんな性能はないか。AI兵器じゃあるまいし―――


『えっとですね……これが完成すれば、敵に対して魔法射撃、電磁ネット、メタルブレード、風魔法の付与された火炎放射器による迎撃を行う、完全自律式の対魔物型迎撃マシンドールになります』


予想の遥か斜め上だったっ!?


何その危険すぎるル〇バ!確かに掃除機だけど、掃除する対象が絶対におかしいよ!


というか15歳前後の少女たちは、学校の授業でなんて危険かつ高度なものを生成しようとしているのさ!


『これに出会えば最期……あとに残るのは硝煙だけだよ』


「やめて!せめて消し炭ぐらい残してあげて!」


後始末もばっちりとか、本来の掃除機としての機能まできっちりあるのか。


……いやそれでもやっぱり『掃除』する対象はほこりとかそういうものに限定してほしい。


さすがに魔物もこんなもので虐殺されちゃあ可哀想すぎる。


実を言うと魔物って物理的には人を殺したりとかしてないから、あまり害とかないんだよね。それが理由で、できるだけ魔物は殺さないようにしている僕としては、この兵器が完成するのはあまり嬉しくない。


嬉しくないけど、この子たちが頑張って作ったものを止めたり壊したりすることも、やっぱりできない。


「(ここは、とりあえず経過観察としますか)」


とりあえず実害が出そうになるまでは見守ることにしよう。


マース先生が何も言ってないってことはそれほど危険なものじゃないのかもしれないし。


『それじゃあそろそろ仕上げに入りますよ!先生、その可愛い両目をしっかり開いて見ていてくださいね!』


『レッツクラフト~♪』


マイとマヤが掃除機を挟んで向かい合い、各々の杖を握り締めて呪文を詠唱し始めた。


呪文の内容はまったく聞き取れないけど、そんな早口で舌を噛まないか心配だ。


しばらくすると、掃除機の下の床に描かれた魔法陣が白い光を帯び、だんだんとその光量を増していく。


蛍のような光の残滓ざんしがあたりを飛び交い始め、作業をしていたほかの生徒もこちらに集まってきた。


マースさんも、紫の宝石を先端に付けた杖を握りながら、事の行く末を見守っている。どうやら失敗しても全員無事でいる保障があるみたいだ。


魔法を詠唱する二人の顔には玉のような汗が浮かび上がっている。


魔法は、詠唱する際に術者の魔力だけでなく、体力や精神力をどんどん削っていくらしい。上級者になればその消費をある程度軽減することはできるらしいんだけど、やはりつらいものなんだとか。


現に、僕も失敗したとはいえ、魔法を詠唱したので結構ヘトヘトだったりする。正直言うと、武術の授業より圧倒的につらかった。


二人の呼吸もだんだん荒くなっていく。それと比例するように、魔法陣の輝きもどんどん増していく。


教室内に緊張が走る。僕も含め見守る全員が、目の前の現象の未来を固唾かたずを呑んで見ている。


『『―――――かの者に膨大なる力を与えよ!【クラフィテーション】!!』』


魔法の宣言、そして魔法陣の輝きが最高潮に達し、教室を白い光で包み込んでいく。


無論、目の前で見ていた僕はその光をもろに受けたので、


「目があああああああぁ!?」


この有様である。


やばい、ホントに何も見えない、というか痛い、ヒリヒリ?ジンジン?ああもうよくわからないよ!


視力を一時的に失ったので状況がよくわからないけど、光が少しずつ弱まっていくのだけは感覚的にわかった。


そして、


『で…できたああああああああああ!!』


『おおう、今回はなかなかの出来だね~』


マイとマヤの声、そして後ろから聞こえる大音量の歓声。


どうやら、うまくいったみたいだね。


自分の教え子の努力が報われて嬉しいような、トンデモ兵器が完成してちょっと不安なような、目が痛すぎて泣きたいような……


いろんな感情が僕の中を駆け巡ってはいるけど……


「おめでとう、マイ、マヤ。本当に、お疲れ様」


見えないまま、僕はそう告げた。


どんなものであれ、人の努力が今、報われたんだ。祝福しなかったら人として恥だ。


『先生…わたし……わたし……!』


急に、胸のあたりに軽い衝撃。衝撃のあったあたりに手を伸ばすと、サラサラとした触り心地のよい何かに触れた。これは、髪?


どうやら感極まってマイが抱きついてきたらしい。僕の胸の中でわんわんと泣き叫ぶ声が聞こえてくる。


目が見えないせいで、いったいどんな状況になっているのかさっぱりでかなり不安なんだけど、とりあえずその頭だと思われるものを撫でる。


『いいなぁマイちゃん……あ、そうだ~』


ん?今度はお腹のあたりに何か重みが……


『う~ん、これはなかなかの寝心地……柔らかさといい暖かさといい肌触りといい……ここは、天ごぐぅぅぅぅ……』


は?この声、そして内容……まさか!?


「マヤ!?マヤは今一体何をしているの!?ラルフ君!!」


『へ?え、いや、先生のお腹の上で幸せそうに寝てますけど?』


「やっぱりさいですか!?」


くっ、視力が回復していない今、むやみにどかそうとすれば、まるでラノベのような典型的ラッキースケベが発動するに違いない。


かと言ってこのまま放っておくわけには……


あれ、別に何かされてるわけでもないんだから、このまま放っておいてもいいのか。


……二人とも、今日一番頑張ったんだから、これくらい僕が妥協しても、足りないくらいだろう。


「お疲れ様、二人とも」


『『えへへ……むにゃむにゃ……』』


勘でそっと頭らしいところを撫でると、二人とも幸せそうな声を上げた。


……いつの間にかマイまで睡魔に呑み込まれていた事実には触れないでおこう。


生徒の頑張りも報われて、僕も今日はいい気分で眠ることができそうだ。







◆◆◆◆◆◆







~放課後、学園中央広場~


「離してみんな!僕には……僕には行かなきゃいけないところがあるんだ!」


『ダメです先生!』


『いくら先生でも、それだけは絶対に阻止させてもらいます!』


前に駆け出そうとするも、後ろから数人の高等部の生徒に抑えられて身動きが取れない。


もう作戦決行までの時間がない!早く、早くしないとすべてが終わってしまう。


僕の視線の先には大勢の生徒―――――おそらく全校生徒の半分以上と考えられる―――――が一つの建物の前に集結しているというなんとも不可思議な情景が広がっている。


体をひねって無理やり出ようとするも、中等部と違い、僕よりも大柄な生徒の多い高等部の生徒では、抜け出したくても抜け出せない。


力技なら余裕だけど、それだと最悪死人が出てしまう……


「はっ!まずい!!」


視線の先の建物の上に、一つの人影。遠いけど、間違いない!


あれは、ラルフ!


手にはあのイルカを模した謎マイクが握られている。


大きく息を吸い込む動作をするラルフ、それと同時に僕の顔から見る見る血の気が引いていくのがわかる。


「やめろ、やめてくれ……」


ラルフの動きが止まる、そして――――









『ただいまより、異世界から来た勇者にして、もはやみんなのアイドルと化してきているカイト先生の【どきっ!カイト先生のクール可愛い生写真集☆~Vol.1~】の販売を開始しますっ!』


『『『わあああああああああああああああああっ!!!!』』』


「いやあああああああああああああ!?」







ラルフのしたの建物のシャッターが開く、それと同時に歓声怒声を撒き散らしながら生徒たちが建物に……正確にはそこにところ狭しと並べられた品物に突撃していく。


品物の名前は、言うまでもない……


「終わった……終わってしまったよ、父さん、母さん……」


どこにいるともしれない両親の顔を思い浮かべながら、僕は絶望のどん底に堕ちていった。











※余談だが、このあと写真集は即座に完売し、後日、その資金を元に『写真集発行部』は街への進出を果たすのであった。売れ行きのほうは……言うまでもない。



前回の話と若干つなげてみたのですが、いかがだったでしょうか。


魔法の話をちょっと混ぜて見たかったので改めて授業の一環として混ぜて見ました。


嬉しい感想をいただきました!これを糧に今後も頑張っていこうと思います!


感想・評価、新しく買ったラノベにウキウキしつつ待ってます!

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