お偉いさん
「シュート!ノリノリじゃないか!」
兄貴がバスケットボールを小脇に抱えて僕に言った。
家庭用ゲーム機の全身運動タイプを導入してもらったんで、僕はそれに熱中していた。
赤と青のブロックがランダムに高速で画面を流れてくる。手足につけたセンサーでブロックに合わせて動いて行くとポイントが入っていく。
「兄貴もなんでもやるんだね!」
さっきまでクロケットもどきのチーム戦に参加していたはずなんだけど、もうバスケを始めるのかなぁ。
ビープ!
エラー音。
ちょっとしくじった。それからドミノ倒し的に次々とズレて失敗。ゲームオーバー。
「すぐに挽回できるように、が課題かしらね?」
リサ師匠が小首をかしげて言った。
「イエッサー!」
あれ?誰か来た。みんなその人に注目して手を止める。
「浩二、例のプロジェクトについて話がある」
「わかりました」
兄貴が返事した。兄貴、名前、浩二さんなのか。
「リサ師匠、あの人誰?」
「ここの創業者」
「お偉いさん?!」
「まあ、そうね」
リサ師匠は何か気がかりがある様子で、そのお偉いさんと兄貴が入って行った会議室の方を見ていた。
「リサちゃん、兄貴連れて行かれるかもなあ」
兄貴と一緒にスポーツしていた青年たちが声をかけてきた。
「連れて行かれるってなんの話?」
僕が尋ねると、青年たちは顔を見合わせて、話すかどうか迷っている様子だった。
「いいか、ぼうず」
「ぼうずじゃない、シュート!」
「シュート。ここも慈善事業やってるわけじゃなくてね、身体を鍛えてある程度オールマイティになったら、兵役にかられるんだよ。莫大な報酬が用意されるけれど、命懸けの世界が待ってる」
「まさか、兄貴が?……冗談だろ?ここは日本だぞ」
リサ師匠がぷいとどこかへ行ってしまった。僕は追いかけたが見失ってしまった。




