姿勢を正しく
リサ師匠はボルダリングをやっていた。
「シュートもやってみる?」
頭上から声が落ちてくる。ついでに僕も落ちそうだと思ったので、遠慮して、兄貴を探した。
しゅー、ひゅー。
吊り輪をやってる!
すごいなぁ。一通り連続技をみる。
僕は腕力もないし、到底無理だ。
「いきなりウルトラcなんて、だれもできやしないよ。ちょっとずつできるところからやってくといい」
兄貴が僕に声をかけた。
「うんていとか棒上りとか」
「どうしても身体動かさなきゃだめですか?」
「何もしないで何でもできるようにはならないと思うわよ」
いつの間にかリサ師匠が近よってきていた。
「まず、普段から姿勢に気をつけて、自分の手足の先まで意識して」
なかなかコツがつかめない。もどかしい。僕は癇癪を起こしそうになるのを必死でこらえた。
「ダンスとかもいいかもね」
そんなんで本当にシューティングゲームが上達するのか疑問だった。
イヤイヤやってたら、リサ師匠も気づいたらしく、もう何も言ってこなくなった。
「君の世界を広げるための道具と援助は揃ってる。あとは君の心次第だ」
半べそをかいて逃げるように帰る僕の背中に兄貴の声が響いた。
今は、無理だ。できない。僕は世界から爪弾きされてるんだ。悔しくて本当に涙がボロボロ出てきた。
ひとしきり泣きじゃくって、外の空を見上げた。広い大きな世界。そしてちっぽけな僕。あっけらかんと嫌だという気持ちが消え去って、僕は何を嫌がってたんだろうと、さっきと真逆のことを思った。
「リサ師匠!兄貴!ごめん。やっぱり最初から教えて!」
施設に飛び込んでいった僕を二人は暖かく出迎えてくれた。




