閑話 リスティアぐるみ
姉のロゼッタと再会し、年上になってしまったとはいえ妹のユフィアとも会うことが出来た。いまはまだ、ちゃんとお姉ちゃんと慕ってくれる女の子はいないが、わりと平和な毎日を送っている。
そんなリスティアだが、最近気になっていることがある。
それは――
「また増えてるよぅ……」
リビングに飾られているぬいぐるみを見て、リスティアはなんともいえない顔をする。
飾られているぬいぐるみは、女の子をデフォルメしたようなナリをしている。黒い髪に赤い瞳、ふにゃりとした表情は自分らしくないが(本人はそう思っている)明らかに、リスティアをデフォルメしたぬいぐるみに違いない。
そんなぬいぐるみが、一日一つくらいのペースで増え続けているのだ。
「リスティア院長、どうかした……あぁ、リスティアぐるみね」
「……リスティアぐるみ?」
「そう。リスティア院長のぬいぐるみだからリスティアぐるみ。とっても可愛いわよね」
「私は可愛がられるんじゃなくて、可愛がる方になりたいんだよぅ」
「じゃあ、はい。思う存分可愛がってね」
リスティアぐるみを渡されてしまった。
自分で自分のぬいぐるみを可愛がってどうするんだよぅとリスティアは嘆く。
というか――
「はいって言ったけど……これって、もしかして」
「え? あぁ、言ってなかったかしら。私が作ったのよ」
「なんで!?」
キリリとしたお姉ちゃんぐるみを作るならともかく、こんな妹っぽい愛らしいリスティアぐるみを作るなんて意味が分からないよとリスティアは混乱する。
なお、真に意味が分からないのはリスティアの思考パターンだがそれはともかく。
どうやら、最初は子供に作ったぬいぐるみをロゼッタが見たのが切っ掛けらしい。
そこで、リスティアのぬいぐるみを作れるのかと聞かれて作ったら、他の人からも作って欲しいと注文が殺到した。
それは孤児院の関係者だけに留まらず、孤児院食堂の客達にも広まっている。いまでは入荷待ちの人気商品となっているそうだ。
「……意味が分からないよ」
「そうかしら? みんな、リスティア院長のことが好きなのよ。その……私も含めて」
リスティア院長のことが好き。お姉ちゃんと呼びたい、私も含めて。
その言葉に、リスティアは舞い上がった。
つまり、本当のリスティアは凜々しすぎて、お姉ちゃんと呼ぶには恐れ多い。だから、みんなはこんな風に可愛くデフォルメしたぬいぐるみを慕っている。
そういうことなら仕方ないなぁと、リスティアは破顔した。
そして――見た目は可愛くても、あたしのぬいぐるみならみんなを護るくらいはしなくちゃねと、リスティアは考えなくても良いことを考える。
そんなわけで、リスティアはマリアにお礼を言って――いきなりお礼を言われたマリアは、意味が分からなくて困惑していたが――部屋を退出。
目につくリスティアぐるみを片っ端から、緊急時には自分で判断して動き、持ち主を護るようなエンチャントを施していった。
後に、リスティアぐるみシリーズと呼ばれるアーティファクトの誕生である。
それから数週間後。
街を騒がせていた空き巣集団がある日を境に街からいなくなったと、シャーロットを初めとした街の権力者のあいだで噂になったが……彼らがどうなったのか知る人間はいない。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
時々問い合わせがあるので、軽く触れておきます。
今作は最初から二巻が発売予定で、それにあわせてウェブ版も更新予定としていました。が、とある事情により二巻の延期が続き、その度にスケジュールを調整するのが大変だったため、出版社とご相談して二巻の発売を辞退。それによってウェブ版も完結としています。
私は納得していますが、続きを楽しみにしてくださっていた方々には申し訳ありません。
また事情につきましては、緋色以外がかかわることなのでお答えしかねます。こちらもご了承ください。
2020/11/01現在、コミカライズ版が連載中ですので、興味がある人はそちらをご覧ください。




