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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第三章

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エピローグ

 学園祭最終日の夕方。

 リスティア達はお店で打ち上げをしていた。

 なお、VIPルームという名目のシスタニアにある孤児院食堂のフロアには、孤児院のみんなやシャーロット、それに真祖の姉妹までもが参加している。

 この国どころか大陸ごと掌握できそうなそうそうたるメンバーだが、リスティア一人でもこの世界を掌握できるので、とくに驚くことではないかも知れない。


 それはともかく、クラスメイトは大いに盛り上がっている。なんでも、有力な貴族や商人達がたくさん来たりで、なにかと顔を繋ぐことが出来たらしい。


「リスティア様、今回は本当にありがとうね!」

 レオーネやシエラ達がもう何度目か分からないお礼を伝えてきた。

 彼女達の場合は、アイテムボックスの魔導具の件もあるのだが、リスティアは気にしなくて良いよぅと笑う。

 リスティアはリスティアで、孤児院の子供達が楽しそうだったので満足なのだ。

 そんな訳で、レオーネ達としばらくおしゃべりした後、リスティアはシスタニアにある方のフロアへと移動した。


「リスティア、こっちに来なさいよ」

「はーい?」

 ロゼッタに呼ばれたリスティアは窓際のテーブル席に座った。この席では、ロゼッタとユフィア、それにシャーロットが三人でおしゃべりしているようだ。


「どうしたの、ロゼッタお姉ちゃん」

「ふふっ、いま、貴方が妹が欲しくて家出をしたって話をしてたのよ」

「ふえぇぇっ!?」


 リスティアは情けない悲鳴を上げる。

 というか、子供達はリスティアに物凄い恩を感じている。リスティアが妹を欲しがっていると知ったら、恩返しの一環でお姉ちゃんと呼ぶだろう。

 だから「しーっ、しーだよ、お姉ちゃんっ!」とリスティアは慌てた。


「心配しなくても、子供達には聞こえないように言ったから大丈夫よ」

「聞こえないように……って」

 魔法で周囲に――という意味なのは分かる。けれどロゼッタの両隣には、有力妹候補のシャーロットと、実の年上の妹であるユフィアがいる。


「あら、わたくしは何度も言ってますが、リスティアのお姉ちゃんですわよ」

「むぅ……」

 シャーロットは手強いなぁ。でも、あたしにはまだユフィアが――と、リスティアは根拠のない期待を込めてユフィアを見る。


「わ、私だって、いまは十倍以上年上だもの。お姉ちゃんなんて呼ばないからね?」

「しょんぼりだよ」

 わりと本気でしょんぼりした。


「というか、お姉ちゃんになりたいのなら、子供達に言えば良いではありませんか」

「あたしは、お姉ちゃんと呼ばれたいんじゃなくて、お姉ちゃんと慕われたいんだよぅ」

 リスティアがきっぱりと答えると、シャーロットがなぜか哀れむような顔をした。


「純真というか、鈍感というか……難儀な性格ですわねぇ」

「でも、そこが可愛いでしょ?」

「ええ。それはその通りですわね」


 良く分からないが、ロゼッタとシャーロットが仲良く話している。

 それを見たリスティアは、なんだか、シャーロットまで本当のお姉ちゃんになったみたいだよぅ……と、千年前には当たり前だった家族の団らんを思い出す。


「私は教えずに見守るのが良いと思うのだけど、シャーロットどう思う?」

「同感ですわ。ハイスペックなくせに、致命的に抜けてるリスティアは可愛いと思います」

「じゃあ、一緒に見守りましょう」

 というか、この二人はなにを話しているのだろうとリスティアは首を捻る。


「ねぇ、さっきからなんの話を――」

「リスティア、セラフィナがクラスメイトと仲直りできたそうですわよ」

 シャーロットがリスティアの疑問を遮るように被せてきた。


「――セラフィナ様? セラフィナ様がどうかしたんですか?」

 更には、給仕として通りすがったドロシーが割って入ってくる。

 シャーロット達の会話も気になったけれど、ドロシーがセラフィナのことを気にするのも分かる。ということで、セラフィナがクラスで浮いていたことをドロシーに教えた。


「……あたくしのせい、ですわね」

 まったくもってその通りだが、最近のドロシーは良い子にしているので、リスティアは指摘しないという優しさを発揮した。


「大丈夫だよ。さっきシャーロットが言ってたでしょ。クラスメイトと仲直りできたって」

「……リスティア様、今度はなにをやらかしたんですか?」

 ドロシーが呆れるような顔をした。


「どうして、あたしがやらかしたの前提なの……」

「違うんですの?」

「――違わないわね」

 シャーロットが代わりに肯定する。

 リスティアは「ぶぅ……」と頬を膨らませた。


「というか、リスティア。後の展開まで予想して、セラフィナにたくさんの優待チケットを渡したんですか?」

「みんなが欲しがってるのは知ってたから、多少の助けになるかなとは思ってたよ」

「そういうところには気が回るんですわねぇ……」

 なぜか呆れられてしまった。



 その後、シャーロット達との雑談を終えたリスティアは、お皿を下げるがてら厨房へと顔を出し、鼻歌交じりに皿洗いをしているマリアを見つけて背後から抱きついた。


「ひゃ――って、リスティア院長、びっくりさせないでよ」

「えへへ、ごめんね?」

 リスティアは謝りつつもマリアをぎゅっと抱きしめる。


「もぅ、全然反省してないでしょ?」

「……ダメ?」

「……ダメじゃないけど。でも、どうしたの? 私の血、飲みたくなっちゃった?」

「ダメ、かな?」


 真祖であることを打ち明けて以来、リスティアはときどきマリアの血を飲んでいる。最初は恥ずかしがっていたリスティアだが、最近は素直に飲みたいというようになった。


「ダメ、じゃないけど……ここじゃダメよ。夜にリスティア院長の部屋で、ね」

「うん、約束だよ」

 背後から抱きしめたまま、マリアの耳元で囁く。

 その姿を――


「……リスティア様?」

 ナナミに目撃された。


「ナ、ナナミちゃん?」

 リスティアが呼びかけるが、ナナミは無言で踵を返して立ち去っていく。


「あ、あれ、ナナミちゃん、どうしたんだろう」

「どうしたんだろう、じゃないわよ。リスティア院長、後を追い掛けてあげた方が良いわよ」

「えっと……でも」

「私の方は平気だから。ほら、早く追い掛けてあげなさい」

「えっと、そういうことなら……」


 背後から「まったく、世話の焼ける、お姉ちゃんね」――と、マリアが呟く。けれど、ナナミのことを心配していたリスティアは、そんなマリアの声を聞き逃した。


 そうしてやって来たのは、孤児院の裏にある空き地。夜の帳が下りる空間にぽつりと、ナナミがたたずんでいた。


「ナナミちゃん、どうかしたの?」

 リスティアが声を掛けると、ナナミがピクリと身を震わせた。


「……リスティア様。いいえ、どうもしませんよ」

「どうもしない子は、こんな暗がりで寂しそうにたたずんだりしないんだよ?」

「こんな暗がりで寂しそうにたたずんでいるだけの、どうもしない子なんです」

「その言い訳は苦しいと思うなぁ」

「リスティア様にだけは言われたくないですよっ」

 ナナミは全身で向かってくるような体勢で唇を尖らせた。

 その様子を見て、リスティアはふわりと微笑みを浮かべた。


「……なんですか? どうして笑うんですか?」

「ナナミちゃんは、そうやって元気な方が可愛いなぁって思って」

「~~~っ」

 ナナミの顔が真っ赤に染まる。

 だけど次の瞬間、再び寂しげな表情を浮かべた。


「……ナナミちゃん?」

「リスティア様は、その……以前に言いましたよね、私のこと、絶対に眷属にしないって」

「え、あ、うん……言った、よ」


 リスティアの目的は、ナナミやマリア、可愛い女の子達に妹になってもらって、更には眷属になってもらって、ずっとずっと一緒にいること。

 だけど、ナナミに真祖であることを打ち明けたとき、もしかして眷属にするのかとナナミが怯えたので、絶対に眷属にはしないと約束してしまった過去がある。


「でも、マリアさんのことは眷属にするんですか?」

「ふえ? ……マリア?」

「だって、さっき……」

 ナナミが言葉を濁す。なんだろうと思ったリスティアは、すぐにマリアの血を吸おうとしていたことだと気がついた。


「吸血行為と眷属とは別だよ」

「そう、なんですか?」

「前に言わなかったっけ。眷属にするときは、あたしの血を与えなきゃダメなの。だから、あたしがどれだけ血を飲んでも、眷属にはならないよ」

 なにやら誤解していたのだろう。

 ナナミは複雑そうな表情で、唇に両手の指を添えて黙りこくった。


「……というか、それがどうかしたの?」

「え、いえ、その、リスティア様が、眷属をマリアさんに決めたのかなって……」

 ナナミがごにょごにょと言葉を濁すが……リスティアは再び首を傾げる。


「えっと……その、マリアに決めるってどういうこと?」

「だから、その……眷属って、真祖にとっては家族みたいな存在、なんですよね? その相手に、マリアさんを選んだのかなって」

「いつかマリアが望んでくれるのなら、もちろん答えるつもりだけど、マリアだけを選ぶとか、そういうことはないよ?」

「……………………え?」

 ナナミがぱちくりとまばたきをした。

 そして、その顔がどんどん赤らんでいく。


「も、もしかして、眷属って何人でも増やせるんですか?」

「試したことはないけど、特に制限はないと思うよ?」

 リスティアの言葉に、ナナミが沈黙した。


「ナナミちゃん?」

「……………………リスティア様が悪いです」

「え、なにが?」

「なにがもなにも、リスティア様が悪いんです」

「ええっと……なんだか分からないけど、ごめんね?」

「謝られたら、私が悪いみたいじゃないですか、謝らないでくださいよっ!」

「意味が分からないよっ!?」


 リスティアは、ナナミちゃんが駄々っ子みたいだよぅ。でもでも、駄々っ子みたいなナナミちゃん、可愛いよぅと、わりと重症だった。


「はぁ……なんか、一人だけなのかもって思って、色々と悩んでたのが馬鹿みたいです」

「……ふみゅ?」

「なんでもありませんっ」

 やっぱり良く分からない。

 けれど……ナナミは笑顔を取り戻し、リスティアも楽しいと感じている。

 いまはまだ、ちゃんとお姉ちゃんと慕ってくれる妹は出来ないけれど、いつかきっと、可愛いみんなを妹にしてみせるよ――と微笑みを浮かべる。

 リスティアは、とてもとても幸せそうだった。

 

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