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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード4 自称普通の女の子は、まったく自重しない 5

 レオーネに厨房を代わってもらったリスティアはマリアと二人仲良く、学園祭に訪れた人々で賑わう中庭を歩いていた。


「うわぁ……凄い人の数ね。こんなにたくさんの人を見るの、初めて……は、スタンピードのときに見たけど、こんなに賑わってるのを見るのは初めてよ……とっ」

 周囲を見てはしゃいでいたマリアが、対面の人と軽くぶつかる――寸前、リスティアが腕を引いて抱き寄せた。


「……大丈夫?」

「あ、ありがとう、リスティア院長」

「どういたしまして。でも、ここは人が一杯で危ないから、はい」

 リスティアは微笑んで、腕を軽く差し出す。それが、腕を組んで歩くという意味だと気付いたマリアは少しだけはにかんで、そっと自分の腕をからませてきた。


「ふふっ、なんだかリスティア院長が王子様みたい」

「王子様? それだと、マリアに怯えられちゃうから嫌だなぁ」

「リスティア院長が王子様だったら、私の男性恐怖症なんて一瞬で治っちゃうわよ」

「ふみゅ……」


 リスティアは、マリアのために、一時的に性転換するべきかとわりと本気で悩む。

 けれど、マリアの言葉が冗談の可能性があるし、なにより男はお姉ちゃんになれないという判断により、性別を変えることは自重した。


「リスティア院長?」

「なんでもないよ、マリア。ほら、あっちでなんか色々と出店してるよ」

「あら、本当ね。リスティア院長はなにか行きたいところとかある?」

「あたしは、マリアが喜んでくれるところに行きたいなぁ」

「~~~っ。もう、リスティア院長ってば、私を口説いてどうするつもり?」

「もちろん、これからもずっと一緒にいてもらうんだよ?」


 照れ隠しに茶化すマリアに対しても、リスティアのアプローチは止まらない。マリアは恥ずかしそうに、それでいて、少し不思議そうにリスティアの顔を見上げてきた。


「あたしの妹や姉が現れたりで、マリア達に心配をさせたでしょ? でも、そんな心配する必要なんてどこにもないから。あたしにとっては、みんなも同じくらい大切な家族だよ」

 それが、今日のあたしがマリアに優しい理由だよ――と、言外で伝える。


「……リスティア院長、ありがとう。私にとっても、リスティア院長は家族だよ」

「うんっ」


 リスティアは笑顔で答えながら、その流れでお姉ちゃんと呼んで良いんだよっ! と、心の中で繰り返す。

 けれど残念ながら、リスティアの心の声はマリアに届かなかった。

 リスティアはお姉ちゃんになれないことを残念に思いつつ、だけど家族になれたことを喜んで、マリアと一緒に学生が出店しているお店に向かった。



「ここはなんのお店かな?」

 リスティアとマリアはぶらぶらと学園内を歩き回る。そうして気になった教室を利用したお店に顔を覗かせると、受付らしき制服姿の女の子が駆け寄ってきた。


「いらっしゃいませ。ここは生徒が作ったアクセサリーを売っているお店です。色々あるので、良かったら見ていってくださいね~」

「アクセサリーなんだね。マリア、見ていく?」

「良いわね、見ていきましょうか」

「ありがとう、二人ともゆっくりしていってくださいね」


 受付の女の子に案内されて、リスティアとマリアはお店の中に入る。そこには実に様々なデザインのアクセサリーが展示されていた。


「うわぁ……見て見てマリア、色々あるよ」

「ホントに、どれも綺麗ねぇ」

 計算を重ねたような精細なデザインや、自然をそのままに現したようなデザインなど、想像以上にたくさんあるアクセサリーを前に、リスティアとマリアは顔を輝かせる。


 もちろん、真祖の末娘と呼ばれるリスティアは、優れたデザイナーとしても評価されているのだが、自分とはまったく違う感性で作られた芸術品に心を躍らせていた。


「ふわぁ……これ、凄く計算されてるね」

「計算……って、どういうこと?」

 リスティアの呟きに興味を持ったのか、マリアが手元を覗き込んできた。


「このアクセサリーはね、黄金比がたくさん使われているんだよ」

「黄金比……?」

「黄金比って言うのは、1:1.618……っていう比率のことだよ。この比率をたくさん使って描かれた図形は、多くの人が美しいと感じるの」

 リスティアは前置きを一つ。

 アクセサリーを指差して、こことここの比率が黄金比だとか説明してみせる。


「たしかにこのアクセサリーは綺麗だと思うけど、その黄金比だから綺麗に見えるの? なにか根拠のある話なの?」

「実は、他にも白銀比などなど、いくつか美しいといわれる比率が存在するんだよ。でもって、その理由は諸説あるんだけど……」


 リスティアは大きな画用紙を取り出して、空いているテーブルの上に置き、フリーハンドで黄金比を使った螺旋を書き出していった。


「一番の理由は、バランスがよく見えるんじゃないかな」

「……たしかに綺麗な螺旋だけど、バランスって?」

「この螺旋は、無数の黄金長方形が使われているの」


 リスティアは螺旋がぴったり収まるように大きな長方形を描き出した。


「これは黄金長方形っていって、縦横の比率が黄金比なんだけど……こうして、正方形を取ると、残った部分が小さな黄金長方形になるの。で、それをどんどん繰り返していくと……」

 螺旋が綺麗に収まるように、いくつもの正方形と黄金長方形が生み出されていく。


「こんな風に、あちこちの比率が同じだったりと、共通点が多い形は綺麗に見えるんだよ」

 なお、フリーハンドで黄金比の螺旋なんて書けるモノではないのだが……それはともかく。


「その中でも黄金比が好まれやすい理由だけど……見慣れてるからじゃないかな」

「見慣れてる? もしかして、そこら辺にたくさんあるからですか?」

 いつの間にか横で話を聞いていた受付の女の子が問いかけてくる。リスティアはちょっぴり驚いて、ぱちくりとまばたきをした。


「あ、急に横からごめんなさい」

「うぅん、それは良いけど、どうしてそう思うの?」

「実はそのアクセサリーを作ったのは私で、自然界にある綺麗な螺旋を参考にしたんです。だから、そうなのかなって思って」

「へぇ、これは貴方が作ったんだね。黄金比の概念なしに作ったなんて凄いと思うよ」

 リスティアは感心してアクセサリーを眺める。


「ありがとうございます。……それで、その、さっきのは正解ですか?」

「それも理由の一つだと思うよ」

「理由の一つってことは、他にも理由があるんですか?」

「うん。そう、だね。ちょっと片目をつぶってみて?」


 リスティアがそう言うと、マリアと受付の女の子だけでなく、いつの間にか話を聞いていた周囲の人達までもが片目をつむった。


「そのまま一点を見つめて、どこからどこまでが見えるか意識してみて? 鼻側がとんがった五角形になると思うんだけど、その縦横の比率がおおよそ黄金比なんだよ」

 つまりは、人間がもっとも見慣れていて、自然界にも存在し、様々な図形を描くのにも収まりの良い比率。それが黄金比の正体である。


「どの比率が一番好きかは、時代なんかによっても変わると思う。ちなみに、あたしのご先祖様は、白銀比の方が好みだったらしいよ」


「ほへぇ……」

 マリア、そして受付嬢や周囲の客達から感嘆のため息が洩れる。黄金比という概念すら持たない者達にとって、リスティアの解説は衝撃的だったようだ。


「っと、話が長くなっちゃったね。あたしはこのアクセサリーが気に入ったから購入しようかな。えっと……これっていくらなの?」

 リスティアが受付の女の子に問いかける。


「えっとえっと……さ、差し上げます」

「ふえ?」

 ここ、お店だよね? 差し上げちゃダメじゃないのかなとリスティアは戸惑った。


「あ、いえ、その……出来れば、お姉さんが描いた図面と交換、してくれませんか!?」

「もちろんだよっ!」


 お姉さんと呼ばれて浮かれたリスティアは即答した。

 もっとも、リスティアはお互いが納得していれば、どんな内容の取り引きでも気にしない性格なので、お姉さんと呼ばれていなくても了承していたが……

 浮かれた分、白銀比二種や、青銅比の図面が上乗せされた。


 なお、リスティアはこうして手に入れたアクセサリーをお気に入りとして、ときどき身に付けるようになり、陛下を初めとしたリスティアの知り合いが制作者に興味を持つことになる。

 なおかつ、その制作者である少女は、リスティアから得た様々な比率を使ってアクセサリーの生産を始め、瞬く間に有名になっていく。

 やがて、この国を代表するにまで上り詰めるのだが……それもまた別のお話である。

 

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