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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード3 自称普通の女の子は、わりと自重しない 5

 スタンピードの件を解決してから数日。

 ユフィアは孤児院の子供達とすっかり打ち解けていた。

 子供達はもともとリスティアという規格外の存在を受け入れていたので、ユフィアを異質扱いすることがなかったし、ユフィアもまた子供達を可愛がっている。


 結局のところ、ユフィアもリスティアと似たような環境で育ったので、年下の子供が可愛くて仕方がないのだろう――というのはリスティアの見解だ。


 それがあっているかどうかはともかく、孤児院は日常を取り戻した。

 そして、休校になっていた学園も今日から再開と言うことで、リスティアはナナミと一緒に学園に登校することになった。



「えへへ、リスティア様と学校に行くの久しぶりですね」

「そうだね。みんな元気にしてるかなぁ」

「元気だと思いますよ。みんなが避難を始めるより早く、スタンピードの群れも撃退しちゃいましたし、むしろみんな退屈してるんじゃないですか?」


 スタンピードの撃退は、光によるモールス信号で迅速に伝えられた。その結果、王都から避難の準備をしていた者達は拍子抜けすることになったらしい。

 なので学園が数日休みになったのは、シャーロットのように戦場におもむいた者達や、まだ事情を知らぬ、生徒達の実家からの声に対応したりするためだったそうだ。


 という訳で、リスティアとナナミは数日ぶりに教室を訪れた。

「みんな、おはよう~」

「おはようございます~」

 リスティアとナナミがクラスメイト達に声を掛ける。

 その瞬間、みんなの視線がリスティア達に集まる。そうして、その集団の中から、レオーネが駆け寄ってきたのだが――


「遅いよ、リスティア様、ナナミちゃんっ!」

 なぜか、そんなことを言われてしまった。


「遅い……って、どういうこと? 学園、今日からだよね?」

 リスティアはナナミと顔を見合わせる。

「学園が再開するのは今日からだけど、授業はお休みで、学園祭の準備中なの。でもって、みんな学園祭の準備で自主的に集まってたんだよ」

「ふわぁ……そうだったんだ。言ってくれれば良かったのに」

「寮の部屋をノックしたけど、いなかったよ?」

「あぁ……ごめん、きっとウェイトレスをしてたときだね」


 リスティアは他のクラスメイトには聞こえないように小声で答える。

 その直後、レオーネが少しだけ笑った。


「そっか……安心したよ。あんなことがあったから、学園に顔を出せなくなってるんじゃないかなって、少しだけ心配してたんだ」

「……あんなこと?」

 どんなことだろうと首を傾げる。

 すると、そんなリスティアの耳元にレオーネが顔を寄せてきた。


「正体不明の自称普通の女の子って、リスティア様のこと、でしょ?」

「……あたしは自称じゃなくて、本当に普通の女の子だよ?」

「やっぱりリスティア様だ」


 なぜか納得されてしまった。

 リスティアはちょっぴり抗議したい気分だが、ここでその話は不味いと言いたげなナナミに袖を引かれたので、ちょっとだけ拗ねた顔で受け流した。

 そして、それはレオーネにも分かったのだろう「それより――」と口調を変えてきた。


「リスティア様がいなくて相談できなかったから勝手に進めちゃってたんだけど、学園祭に孤児院食堂に来てもらう、ってことで良いのかな?」

「うん、大丈夫だよ。予定通り料理はマリア達に作ってもらうから、みんなにはメイドと執事をしてもらおうと思ってるんだけど……大丈夫?」

「あぁ……やっぱりそうなんだ」

 レオーネが苦笑いを浮かべる。


「嫌だったら、普通の格好でも良いよ?」

「うぅん……まぁ良いんじゃないかな。意図も分かるし、なにより目立ちそうだし。一応、孤児院食堂の話をして、そっちの方向になるかもって言ってあるよ」

「そっか、なら安心だね」


 クラスメイト――とくに年下の女の子をメイドにして、自分のことをお姉ちゃんと呼ばせる計画を立てたリスティアはにへらと笑った。


「それで、出店場所なんだけど……」

 レオーネが表情を曇らせた。

「……なにか問題があったの?」

「どういう訳か、中庭の超一等地になってるの」

「……それのなにがダメなの?」

 こてりと首を傾げるリスティアに、ナナミとレオーネの非難めいた視線が集中した。


「この学園には貴族クラスもあるんだよ? それなのに、平民クラスの私達が、超一等地に選ばれたんだよ?」

「やっかみとか、嫌がらせが在るかもしれないってこと?」

「リスティア様に面と向かって喧嘩を売る人はいないと思うけど、ね。お店の出来が悪ければ、陰口くらいはされると思う」


 いまでは和解しているとはいえ、リスティアに楯突いたと噂されたセラフィナの実家は、落ち目だと言われるまで追い詰められた。

 そんな二の舞にはなりたくないから、直接攻撃は考えにくい。だけど、だからこそ、影でこそこそされるかも知れないとレオーネは心配しているのだ。

 リスティアはそれを理解したので――


「つまり、誰にも文句を言われないようなお店にすれば良いんだね」

 そんな暴論に至った。

 ナナミとレオーネが口を逆三角形にするが、リスティアは「うんうん、そうだよね。せっかくだし、綺麗なカフェテラスにしようか」と一人で頷く。

「レオーネ、出店予定地に連れて行ってくれる?」

 ノリノリなリスティアを前に、ナナミとレオーネはなにかを諦めた顔で頷いた。



「ふえぇ……ここが出店予定地なんだ。たしかに広いねぇ~」

 レオーネの案内でやって来たのは学園の中庭。

 その中でも目立つ場所に、孤児院をまるごと……はさすがに無理だが、孤児院の食堂だけなら二つくらい収まりそうなスペースが取られていた。


 学園の中庭は非常に広いので、全体から見ればそこまで占領している訳ではないが、周囲はすべて貴族クラスのお店なので、リスティアのクラスが特別扱いなのは間違いがない。

 もっとも、それはリスティアだから特別扱いされている訳ではなく、お店の内容を考えた当然の判断でしかないのだが……事情を知らぬ者からはやっかみの視線が集まっていた。


 しかし、注目を浴びるのが普通のリスティアは気にした風もなく、ナナミもまた慣れてしまっている。という訳で、レオーネだけが居心地が悪そうにしていた。


「見ての通り……出店予定地はここよ。正直、私達には荷が重いわ。もっと普通の場所に変えてもらった方が良いと思うのよね」

 レオーネが後ろ向きなことを口にした。


「――はっ、その通りだと思うぜ。どんな手段を使ったのかしらんが、平民クラスがここに店を出すなど――がはっ。なにを、がはっ!? する――ぶへらっ!?」

 いきなり現れて高圧的なセリフをのたまった男が、同じくいきなり現れた生徒達に連続で殴られてダウンした。


「いってぇ……なんだお前ら、なにをするんだっ!」

「うるさい、黙れっ!」

「そうよ、黙りなさい。自分の家を破滅させるだけなら勝手にすれば良いけど、あたし達を巻き込まないでっ」

「……は? 意味が分からないんだが」

「いいから黙れって、言ってるの、よ!」

「ぎゃあああっ」

 女生徒に急所を踏みつけられ、男は悲鳴を上げて気を失った。


「ごめんなさいね。こいつ、少し学校を休んでて、色々事情を知らなくて、ちゃんと言い聞かせておくので……あ、学園祭が始まったら、リスティアさんのお店に遊びに行くね」

 なんて感じで、気絶した男子生徒は、他の生徒達に引きずられていった。


 リスティア以下三名は、その光景を呆然と見送った。そうしてたっぷり数十秒ほど経って、リスティアはふと我に返った。


「……あの女の子、遊びに行く……って、お店であたしを指名するつもりなのかな? あたしの方が年上だと思うんだけどなぁ」

「リスティア様、戸惑うところはそこじゃないです。あの人、男の人の股間を迷わず踏みつけましたよ。恐ろしいです」

「……いや、二人とも驚くところが違うと思うんだけど」

 レオーネの冷静な突っ込みに、リスティアとナナミは揃って首を傾げた。

 そんな訳で、レオーネは深々とため息をつく。


「……いや、まぁね? ひとまず直接的な危害は加えられそうにないから安心だけど。……それで、お店はどうする?」

「そうだねぇ……普通ならどうするの?」

「教室なんかの場合は、内装をみんなで頑張るくらいなんだけど……この規模になると、お抱え大工とかを呼んで、仮設のお店を作ったり、かな。私やシエラの実家のコネを使えば、大工は呼べるけど……さすがに資金が、ね」

「ふむふむ。それなら……」

 リスティアは、ぽんと手を打った。


「リスティア様、やりすぎです。少しは自重してください」

「まだなにも言ってないよぅ」

「じゃあ……聞くだけ聞いてあげます」

「うん、あのね。アイテムボックスから、それらしい家を取り出して使うって言うのはどうかな? ちゃんと、周囲に見られてない深夜とかに設置したら大丈夫だよね?」

 胸の前で手を合わせて、えへへと身体を傾ける。大天使リスティアに対して、やっぱり大天使のナナミは優しい顔をした。


「リスティア様、頑張って自重しましたね。とくに、深夜に設置しようと思ったところは、凄く凄く頑張ったと思います」

「じゃあ……?」

「ダメに決まってるじゃないですか」

「ふええぇぇぇぇえぇっ!?」

 さっきのは、オッケーの流れだったよね!? とリスティアは嘆く。


「リスティア様にしては頑張ったと言っただけで、全然ダメですよ。そもそも、一晩で家が建ってたら、みんなびっくりするでしょ?」

 なお、普通はびっくりする程度じゃすまない。


「じゃあじゃあ、手品って言えば……」

「ダ メ で す」

「……しょんぼりだよ」

 リスティアは言葉のごとくにしょんぼりしつつも、だったらどうしたら良いかなと考える。


「……うぅん。学園祭っていつだっけ?」

「十日後ですよ」

「十日かぁ……いまから大工さんに頼んでも、家は建てられないよね」

「……一応自覚はあったんですね」

「それはまぁ。孤児院は数ヶ月かかったしね」

 リスティアがコッソリ手伝うことを考慮しても、十日で一軒建てるのは不可能だろう。

 そうなると……と、リスティアはぽんと手を打った。


「リスティア様、だからやりすぎですってば」

「今度は大丈夫だよぅ」

 ということで、リスティアは簡易のテーブルと椅子を三脚用意して、テーブルの上でサラサラサラと設計図を引いていく。


「提案の内容以前の問題ですよ……」

 はぁっとため息をつき「みなさん、これは手品ですよ~」と、ナナミは天使のような笑顔で説明して回った。すっかり、リスティアのフォロー役が板についてきている。

 フォローが雑――というか、細かいことには目をつぶるという意味でも適任だろう。


「手品?」

「いや、そんな馬鹿な。いま、なにもない空間から机が……」

 なんて聞こえる声をすべて黙殺して、ナナミはリスティアの隣に座る。

 しかし――


「ねぇ、ちょっと。いまのは手品とか、そういう問題じゃないと思うんだけど」

 いまだ普通を捨てきれないレオーネが追及してくる。


「リスティア様」

 ナナミが耳打ちをしてくる。それを聞いたリスティアは、「もちろん良いよ」とテーブルの上にアイスクリームを三つと、紅茶を三つ並べた。


「レオーネさん、これも手品なんですけど……食べませんか?」

「手品って最高だね」

 レオーネは大天使ナナミの賄賂に屈した。

 いや、喜んで飛びついたのを屈したというかは疑問だが、それはともかく。レオーネとナナミがティータイムをしているあいだに、リスティアはささっと図面を引き終えてしまう。


 テーブルの上に広がるのは、色彩豊かなイラストと図面。

 五十センチほど底を上げたステージのような床に、四本の柱で天井を設置してある。そして壁は膝上くらいの壁で囲まれている。

 シンプルな――といっても、この世界には類を見ないオープンカフェが描かれていた。


「どうかな、レオーネ」

「リスティア様、絵が上手すぎだよ」

「えへへ、ありがとう。でも、そっちじゃなくて、内容を見て欲しいかな」

「そうだね……シンプルな作りだから、時間的には大丈夫そうだね。問題は大工だけど」

「それなら、ウッドさん達に頼んでみたらどうですか?」

 レオーネに向かって、ナナミがそんな提案をする。


「ウッドさん? 大工さんってこと?」

「はい。リスティア様のファン――知り合いなので、色々と都合が良いんです」

 なお、リスティアが色々やらかしたとしても、ウッド達なら手品ということで受け流してくれるという意味である。


「厨房の機密もあると思うから、そっちの知り合いに任せるのは良いんだけど……資金はどうするの? ある程度なら、私達の実家がスポンサーになってくれると思うけど……」

「そっちも大丈夫だよ。資金には困ってないから」

「あぁ、そういえば、後ろ盾が凄いもんね」

 なお、リスティアが無駄に金貨をたくさん持っているだけなのだが……面倒なことになりそうなので、リスティアは微笑んで受け流した。


「じゃあ、他の問題は……厨房かな。肝心の厨房は、図面のこの場所だけだよね。広さ的に、こんな小さなスペースで足りるの?」

「うん。そこは大丈夫」

 リスティアは、孤児院食堂の厨房と繋げるから――とは口に出さずに答えた。


「そっか。だったら厨房は問題ないね」

「厨房はってことは、他に問題があるってこと?」

 リスティアが首をこてんと倒した。


「肝心の食事するスペースだよ。静かな貴族のお屋敷の中庭とかなら素敵だと思うけど、当日のこの辺りは人で溢れてるから」

 喧噪に砂ぼこりが心配だとレオーネは口にする。


「それなら大丈夫だよ」

「……大丈夫って、どうして?」

「この木枠の上は一面、ガラス張りにするつもりだから」

 リスティアはさらっととんでもないことを口にする。ナナミがこめかみを引きつらせて、レオーネはきょとんとまばたきをした。


「ガラス? ガラスってあの、孤児院食堂にあった透明な板だよね。あれ一枚一枚が宝石くらいの価値がありそうだったけど……というか、そもそもこんなに巨大なのがあるの?」

「あるというか作るから大丈夫だよ」

「へぇ……高価そうに見えたけど、簡単に作れるものなんだね」

「良かったら、作り方を教えてあげようか?」

「え? 良いの? もしホントに教えてくれるなら、お店で売ってみたいんだけど」

「もちろん良いよ~」

「ありがとうっ」


 こうして、レオーネは近い未来、この世界で最初に透明なガラスを量産して販売した商人として一躍有名になっていくのだが……それはまた別の、良くある普通のお話。


「今回は二重にして、防音対策もバッチリ。更には強化ガラスにしておくから、ドラゴンが飛んできても平気だよ」


 なお、頑丈すぎですという突っ込みはなかった。

 事実だと理解しているけど、目立たなければ問題ないと思っているナナミと、そもそも冗談だと思っているレオーネしかこの場にいなかったからだ。

 という訳で、孤児院食堂出張店の計画は順調に進んでいたのだけれど――


「探しましたわよ。リスティアさん」

 不意に声を掛けられて顔を上げると、そこにはクラスの担任であるアニス先生がいた。


「先生、あたしになにか用事ですか?」

「例の件で、お城から呼び出しが掛かっていると、ウォルター公爵が知らせに来ました。今度は一杯なにをやらかしたんですか?」

「……い、一杯? まさか、一つもやらかしてないですよ?」

「なにもやらかしてない人は、お城から呼び出されたりしません」

 ついでにいえば、公爵が伝令になったりもしないのだが……それはともかく、大工の手配をナナミに任せて、リスティアはお城に出向くこととなった。

 

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