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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード3 自称普通の女の子は、わりと自重しない 3

 信じられないほど強力な殺戮魔法が天から降り注ぎ、シャーロット達は死を覚悟した。

 だけど、リスティアはその魔法をあっさりと防いで見せた。

 そのことに気付いたのはシャーロットを初めとしたリスティアを知る者だけで、兵士達はなにが起こったのかすら理解できていない。

 兵士達がざわめく中、リスティアが深紅のドレスをはためかせながら空へと舞い上がり、漆黒のドレスを纏う真祖を名乗る少女と相対する。


 漆黒のドレスを纏う娘が本当に真祖なのかどうか確証はないが、先ほどのような魔法を放てる人間なんて存在しない。

 神族や魔族が真祖を名乗る可能性は考えにくいし、彼女は真祖で間違いないだろう。

 だとすれば、リスティアが説得してくれるはずなのだけれど……とシャーロットがきゅっと拳を握りしめて見上げていると、リスティアが虚空で突っ伏した。


 なにも攻撃を受けていないはずなのに、一体なにがあったのかと、見守っていた者達から動揺の声が上がる。

 しかし――シャーロットを初めとした女の子達が続けざまに名前を呼ぶと、リスティアはふらつきながらも立ち上がる。

 その光景を目の当たりにしたシャーロットはふと思った。

 ――なんだかこの光景、ときどき見ますわね、と。


 シャーロットの記憶がたしかなら、あれはお姉ちゃんと呼ばれたいリスティアが、子供達にお姉ちゃんと呼んでもらえなかったりして、しょんぼりしているときの仕草だ。

 あの子、もしかしてわりと余裕なんじゃないかしら? なんて思いながら状況を見守る。


 それからほどなく、交渉が決裂したのか、二人の戦いが開始された。

 漆黒の娘がありえないほど巨大な魔法陣を展開する。

 対して、リスティアの魔法陣はずっとずっと小さい。

 最初は相手の方が勝っているのかと心配したが、何倍もある魔法陣から放たれる攻撃魔法を、リスティアはあっさりと打ち消している。

 リスティアの表情はわりと険しいのだが、やっていることはどう見ても勝っている。あの子、自分が勝っていることに気付いていませんわ! とシャーロットは確信した。


 しかも、リスティアは漆黒の娘が展開した魔法陣の倍以上のサイズを誇る魔法陣を展開。まるで威力を見せつけるように、空へと向かって打ち出した。

 なにが起きたのか、一瞬ふわりと身体が浮く。

 シャーロット達が抱く圧倒的な力量の差を、本人も感じているのだろう。遠目にも、漆黒の娘の表情が引きつっているのが分かる。

 もはや、どこからどう見ても弱い者イジメのようにしか見えないと、シャーロットはちょっぴり、漆黒の娘に対して同情を抱いた。


 そして……ついに漆黒の娘が声を上げて泣き出してしまう。その「お姉ちゃんがいじめる」という泣き声が、シャーロット達のところまで聞こえた。


 やはりリスティアの身内のようですが……リスティアは末娘だったはずでは?

 いえ、それよりも問題は、この状況をどう誤魔化すかが先決ですわね。このままでは、漆黒の娘はもちろん、リスティアまで敵として認識されてしまいますわ――と考えたそのとき。

 リスティア達の輪郭が一瞬ぶれたかと思えば、二人が再び戦い始めた。


 さっきまではリスティアが漆黒の娘を圧倒して(いじめて)いたのに、なにやら互角――というか、激戦が繰り広げられている。むしろ、リスティアが圧されている。


 それを見たシャーロットは、その光景が幻だと確信した。

 なぜなら――

 リスティアが、あんなに凜々しい顔をするはずがありませんわっ!

 ――ということらしい。


 たしかにさっきまで必死の表情だった漆黒の娘がほんわか可愛らしい表情で、ほんわか可愛らしい表情をしていたリスティアがキリリとしている。


 シャーロットが、他のみんなはどう思っているのかと周囲を見回すと、セラフィナは「危ない、リスティア様!」といった感じでハラハラ見守っている。

 色々悪い噂も聞きましたが、純粋無垢な方ですわねと、暖かい視線を送った。

 でもって、ナナミは目と口を三角形にしていた。

 さすが、ずっとリスティアと一緒にいるだけあって、わたくしと同じ予想に行き着いているようですわね――と、シャーロットは推察する。

 ひとまず、この二人は問題ない。問題は……と他の兵士達に視線を向ける。

 ウォルター公爵や兵士達は、みな一様に困惑しているようすだ。


 色んな意味で、あんなありえない光景を立て続けに見せられたら、その反応も無理もない。

 一体どうやって誤魔化すつもりなのかしらとシャーロットが行く末を見守っていると、やがて起死回生の一撃を放ったリスティアが漆黒の娘を攻撃魔法で消し飛ばした。


 お姉様素敵! といいたくなるような光景だが、色々とありえない。

 茶番ですわねぇ……と思ったそのとき、再びリスティアの輪郭がぶれる。そうして、いつもの可愛らしいリスティアが現れた。

 それで幻影は終わったと理解したのだが――


「シャーロットお姉ちゃ~ん、後のことはお願いね~」

「は? え、ちょっと、リスティア!?」

「また後でね~」

 リスティアはそう言って、東の空に飛び去っていった。


 ……あ、あの子、わたくしに丸投げしましたわねっ!? しかも、こんなときだけお姉ちゃんとか言って……可愛いですわねっ!

 ――わりとチョロいシャーロットであった。

 だが、状況が収拾不可能なのは間違いがない。しかも、そこに五千にも及ぼうというスタンピードの群れを殲滅したマリア達が帰還。

 リスティア院長、褒めて褒めてと子供達は言いたげだが……そのリスティアがいない。しょんぼりとする、一騎当千の子供達。とてつもなくカオスな状況だった。


「……ウォルター公爵、く、詳しい報告は後日ということで、よろしいですか?」

「う、む……それ以外にはなさそうだな」

 ということで、シャーロット達は大急ぎで王都へと帰還。リスティアの学生寮を通って、シスタニアの街にあるリスティアの部屋へと突撃した。



   ◇◇◇



「ということで、正座ですわ」

「……しょんぼり」

 自分が色々やらかしたことをこんこんと説明されたリスティアは、しょんぼりと正座した。


「それで……一体、なにがどうなっているんですか? その娘は?」

「この子はユフィア、あたしの妹だよ」

「いえ、私が姉です」

 リスティアの答えを、背後にいたユフィアが訂正する。


「……どっちなんですの?」

「あたしの後に生まれたんだけど、あたしが時を止めてるあいだに、百八十歳くらい年上になっちゃったみたい。それで、あたしよりお姉ちゃんだって言ってるの」

「……はぁ。なんともスケールの大きい話ですわね」

「でもでも、たとえあたしが年下でも、あたしの方がお姉ちゃんなんだよ?」

「年上とか年下とかいう問題ではなく、あなたは存在が妹だと思いますが」

「……すっごくしょんぼりだよ」


 というか、存在が妹ってなんだよぅと拗ねる。その仕草がまさに妹的なオーラを放っているのだが……当の本人は気付いていない。

 更にいえば、リスティアの実力を知ったユフィアが、『リスティアをこんな風に正座をさせるなんて……この人間、何者なんですか?』と戦慄しているのだが……それはともかく。


「ねぇねぇ、シャーロット。あたし、ユフィアと一緒に暮らしたいんだけど、なんとか出来ないかなぁ?」

 リスティアは自分の想いを口にした。


「一緒に、ですか? それは、この孤児院で、ですわよね?」

「地下の秘密基地でも良いけど、出来ればみんなとも交流させたいかな」

「……秘密基地? 良く分かりませんけど、なにかやらかしたのは分かりました」

 やらかしてないよ? と目で訴えかけるが無視されてしまう。

 シャーロットはリスティアの背後へと視線を移した。


「ユフィアさんでしたわね。確認させていただきたいのですが、貴方にはもう、人間を襲うつもりはない、ということでよろしいのでしょうか?」

「ええ、もちろんないわ」

「そうですか。……ちなみに、どうして人間を襲おうとしたのですか?」

「いつの間にかリスティアの眠るケージがなくなっていて、人間達がリスティアの作ったアーティファクトを大量に所持していたからよ」

「あぁ……つまり、リスティアの眠るケージが人間に運ばれたと思ったんですわね」

 シャーロットは呟いて、考え込むような素振りを見せた。


「そうですわね。今後、自衛以外で人間に危害を及ぼさないと約束してくださるのなら、別に良いんじゃないでしょうか?」

「……良いの?」

 リスティアが心配になって問いかける。


 リスティアが防いだとはいえ、ユフィアは大規模な攻撃魔法を放っている。

 知らない人達はともかく、シャーロット達を殺しかけたのは悪いことじゃないかな? と、リスティアはズレたことを考える。


「もちろん、厄介事を避けるためには、別人になりすましてもらいますが……ユフィアのしたことを、わたくし達に裁く手段はありませんから」

「ふみゅ」

 たしかに、ユフィアを虐殺未遂の罪で拘束するとか言われても、リスティアは従わない。

 皆殺しにしたらシャーロットが怒りそうだからと気を使って、全員の記憶を書き換えるくらいに留めるのが関の山だろう。

 でも、あたしの言いたいのはそういう意味じゃないんだよね……とユフィアを見た。


「ユフィア。シャーロットはこう言ってくれてるけど、みんなにはちゃんと、ごめんなさいをしなきゃダメだよ?」

「うぐ。ご、ごめんなさい……」

 ちょっと嫌そうにしながらも頭を下げる。

 ユフィアの中で、シャーロット>リスティア>自分という力関係が出来上がっているからなのだが、それを知らない者達の中で、素直なユフィアの評価がちょっとだけ上がった。


「ひとまず、ユフィアの件は後で報告ですわね。リスティア、後日で良いので、わたくしと一緒に、王都に行きますわよ?」

「うん。いまじゃなくて良いの?」

「私達は強行軍で戻りましたから。まだ、他の者達は帰還していないでしょう。ですから、報告は……そうですわね。明日か明後日くらいになると思いますわ。という訳で――」

 シャーロットがにっこりと微笑む。


「……ええっと、なにかな?」

「わたくし、その秘密基地というのがとても気になるのですが」

「あぁ……ちょうど良いから、ユフィアと一緒にみんなの部屋も選ぶ?」

 シャーロットだけではなく、マリア達に向かっても問いかける。そうして、マリア達の表情がいまだに硬いことに気がついた。


「みんな……」

 どうしたのと問いかける前に、ナナミが「リスティア様」と口を開いた。

「その秘密基地って、私達だけで見ても問題ないですか?」

「え? うん、それは問題ないけど……?」

「だったら、私とシャーロットお姉ちゃんと、ユフィアさんだけで見てきます」

「ふえ? だけって……マリア達や、あたしは?」

 置いてきぼりなのと首を傾げる。

 そんなリスティアの顔を、ナナミが真剣な顔で覗き込んできた。


「リスティア様、私は今回、リスティア様がやらかさないか心配でついていっただけです。結果的に、ありえないくらいやらかしましたけど……それは良いんです」

「……良いの?」

「困るのはリスティア様ですから、リスティア様が良ければ私はかまいません。だけど……マリアさん達のことはダメです。ダメダメです。ちゃんと、お話して謝ってください」

「……えっと、うん」


 良くは分かっていないけれど、マリア達を傷つけたと言うことは理解出来る。だから、リスティアはナナミ達を秘密基地へと案内だけして、マリア達と話すことにした。



「それで、みんなは――わわっ」

 リスティアが言い終えるより早く、マリア達がリスティアに抱きついてきた。

 ドロシーを初めとした一部の子供は抱きついていないが、ほぼ全員が抱きついている。リスティアとしては、かなり幸せな状況と言いたいところだが……


「みんな、どうしたの? なにかあったの?」

 子供達が戦っているときは、ずっと様子をうかがっていた。立ち去るときだって確認したので、怪我とかは間違いなくしてない。

 もしかして、誰かになにか言われたのだろうかと心配したのだが――


「ねぇ、リスティア院長。私達はもういらない子なの?」

「ふえぇっ!? そんなことあるはずないじゃない!」

「……ホントに、私達は、いらない子じゃない?」

「マリア達はみんなみんな、可愛くて大切な……えっと、あたしの大切な子供達だよ」

「「「……本当?」」」

「本当の本当だよ。どうしてそんなことを思ったの?」


 マリアだけでなく、子供達に一斉に問いかけられたリスティアは首を傾げた。そしてマリア達を悲しませるなんて、誰かしらないけど絶対許さないよと怒りを燃やす。


「だって……リスティア院長、私達を置いてユフィアさんと帰っちゃうし」

「ボク達の身体を強化して、一人でも大丈夫なようにしたよね」

「それに、私達だけで生活できるように、秘密基地も作ったわよね」

 リスティアは、悪い子はあたしだった!? ――と動揺した。誤解は誤解なのだが、子供達が不安に思っても仕方がないと、ようやく理解したようだ。


「えっと……その、心配掛けてごめんね。さっきも言ったけど、みんなのことをいらない子だなんて思ったことは一度もないよ」

 リスティアは子供達を一人一人抱きしめていく。

 中には「お、俺は別に心配してないからなっ」とツンデレアレンや、「あたくしは、そもそも心配する理由なんてありませんもの」とツンツンドロシーなどがいたが、リスティアはかまわず抱きしめた。

 

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