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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード3 自称普通の女の子は、わりと自重しない 1

 空から降り注ぐ殺戮魔法。

 巨大な魔法陣から放たれたそれは荒々しくて暴力的。まるで、自らの力を誇示するためだけに放ったかのような非効率な攻撃魔法だった。

 活躍はしたいけれど必要以上に目立ちたくない。いまはまだ目立っていないと思っているリスティアは、同じ第六階位の魔法陣を緻密に描き出し、最小限の魔力で魔法を発動させた。


 空から降り注ぐ力任せの一撃を、リスティアの魔法障壁が受け止めた。障壁によって散らされた光が拡散して、周囲を虹色に染め上げていく。

 リスティアはその光が収まるよりも早く飛翔して、自称真祖の娘と相対する。光の中よりいきなり現れたリスティアを目の当たりに、自称真祖の娘が目を見開いた。


「嘘、でしょ。私の魔法を防いだって言うの? こんなことが出来るなんて、貴方は……まさかっ、おね――リスティアっ!?」

 名前を呼ばれたリスティアは誰だろうと首を傾げる。


「貴方、どうしてあたしの名前を知っているの?」

「私の名前はユフィア。貴方の姉よ」

「……姉? えっと……人違いじゃないかな?」

 リスティアの二人いる姉とは、顔も名前も一致しない。

 けれど不思議なことに、こうして相対すると同族であることが感じられる。同じ真祖であるのなら、家族以外にはありえないのだが……

 一体どういうことだろうと、リスティアは再び首を傾げた。


「貴方が知らないのも無理はないわ。だって私は、貴方が家出してから生まれた娘だもの」

「――え。それじゃ、貴方は……あたしの、妹……?」

 リスティアの胸が高鳴らせ、震える声で問いかける。

 だけど――


「違うわ」

 ユフィアが紡いだのは否定の言葉だった。

「どういうこと? あたしが家出してから生まれたんだよね? もしかして、お姉ちゃんの娘とか、そういう意味なのかな?」

「いいえ、そういう意味じゃないわ。リスティアと私の両親は同じよ。ただ……貴方はこの千年、自らの時を止めていたでしょ?」

「え? うん。そう、だけど――って、まさか!」

「そうよ。私が時を止めたのは八百年ほど前。つまり、私の方がお姉ちゃんなのよ!」


 リスティアは灰になった。

 いや、比喩表現である。さすがに本当に灰にはなったりはしないが、もはや言葉も出ないほどの大打撃を受けて、器用に空中で四つん這いになった。


 十七年! 十七年もチャンスはあったのに、どうしてっ! あたしはどうして、千年も寝坊しちゃったのよ! 寝過ぎ、寝過ぎだよあたし!

 悔しいっ、悔しいよっ。起きれば、起きれば可愛い可愛い妹がいたのにっ、あたしは、どうして、千年も寝過ごしたの! 馬鹿なの? 大馬鹿なの!?

 うわああああああぁぁあんっ。


 あまりの悔しさにマジ泣きするリスティアであった。

 だけど――


「リスティア様!」「リスティア院長!」「リスティア!」「リスティア様!」

 地上から響くのは、リスティアを心配するたくさんの声。


 そう……だよね。

 あたしが千年眠らなければ、ナナミちゃんと出会うことはなかった。

 ナナミちゃんと出合わなければ、マリアや孤児院のみんな、そしてシャーロットやセラフィナ、リリアンヌとも出合わなかった。

 千年寝過ごしちゃったから、いまのあたしにはみんながいる。だから――と、リスティアは歯を食いしばって立ち上がった。

 なにやら少し熱血な展開に見えるが、寝過ごしただけの話である。


「ユフィア、良く聞いて。貴方の方が長く生きているかも知れないけど、生まれたのはあたしの方が先。だから、あたしがお姉ちゃんなんだよっ!」

 この娘、自分がユフィアの姉であることを諦めていない。わりと見境のない妹好き。それがリスティアであった。

 しかし、そんなリスティアの言葉に、ユフィアは瞳の奥に憎悪を浮かべた。


「貴方は、いつも、いつもそうやって好きかってして。絶対に許さないから!」

「許さない? ユフィアはあたしを恨んでいるの? ……どうして?」

「知りたければ、私に勝ってみなさい」

「……勝てば教えてくれるの?」

「そうね。勝てば教えてあげるわ。でも、貴方は私に絶対勝てない。だって私は、お父さんに匹敵する力を手に入れたんだから!」

「――なっ」

 リスティアは動揺した。


 思い起こされるのは、リスティアが十五歳になったころのことだ。

 みんなを驚かしたくて、覚えたての第八階位の魔法を使うと、リスティアの父は「わ、私は第九階位まで使えるはずだがなっ!」とリスティアに発破を掛けた。

 その父に匹敵すると言うことは、ユフィアも第九階位の魔法が使えると言うこと。


 ユフィアには勝てないかも知れない……とリスティアは思う。

 けれど、リスティアが勝てば、ユフィアは恨んでいる理由を教えてくれると言っている。

 それはつまり、リスティアが勝てば、ユフィアがデレてリスティアをお姉ちゃんと慕って甘えてくると言うことである!

 ――ということはまったくないのだが、リスティアはそんな風に考えた。

 だから――とリスティアはきゅっと唇を噛んだ。


「あたしは、絶対に負けない。貴方に勝って、どっちがお姉ちゃんか証明してみせるよ!」

「ふん、だ。その強がりがいつまで続くか試させてもらうからっ!」


 言うが早いか、ユフィアの足下に再び魔法陣が出現する。

 相変わらず大きい、第六階位の魔法陣で――リスティアは、初撃で力を誇示するのは分かるけど、どうして二回目もそんな非効率な魔法の使い方をしているんだろう?

 なんて思いながら、あっさりとユフィアの魔法を散らした。


「ねぇ……ユフィア?」

「なによ? いまさら泣いて謝っても遅いわよ!」

「いや、そうじゃなくて、どうしてそんなに大雑把な魔法陣を使ってるの? もっと、精密に書いた方が、変換効率が上がると思うんだけど……」

「う、うるさいわねっ! 私にはこの方が使いやすいのよ。おね――リスティアと違って、私は魔力が一杯あるんだからっ!」

「ふみゅ……」


 いくら魔力がたくさんあっても、無駄遣いしない方が良いと思うんだけどなぁ……と思ったリスティアだけど、なんとなくその指摘は自重した。


「そういうリスティアこそ、いつまで魔法で空を飛んでるのよ、非効率でしょ? それとも余裕のつもりなの!?」

「……ふえ? 魔法のダブルタスクは別に手間でもなんでもないよ? というか、ユフィアだって、魔法で飛びながら攻撃魔法を使ってるでしょ……?」

「んなっ!? ……そっ、そそそっそうよ。私も魔法で飛んでいるわ。アーティファクトで飛んでたりなんて、しなっ、しないんだからぁっ!」

 声を荒げるユフィアがどうして涙目なのか、リスティアには良く分からなかった。


「良く分からないけど……ユフィアはいつまで小手調べをするつもりなの?」

「むっかぁ~~~っ。良いわよ、そこまで言うなら、これを受け止めてみなさいよっ!」


 ユフィアが展開したのは、先ほどよりも更に大きな、六つの魔法陣を内包する魔法陣。

 つまりは、第七階位の魔法なのだが……第六階位の魔法陣よりも雑な完成度で、なんというか……出力を五割増しにして威力は二割増しとかそんな感じである。

 そんな無駄なことをするなら、第六階位の緻密な魔法陣で出力を上げれば良いのに……と思いつつ、先ほどより少し魔力量を増やした第六階位の魔法で受け止めた。


「そん、な……私の最大の魔法を……第六階位の魔法で受け止めた!?」

「……え? 最大の魔法?」

「そそそっそんなこと言ってないわよ。いまのもちょっとした小手調べよっ! 貴方の魔力がどのくらいあるか、確かめてやろうと思ってるだけなんだからっ!」

「なるほど……」


 魔力を大量に使っていたのは、魔力量で勝負をするため。でもって、粗末な魔法陣で効率を悪くしているのは、大威力にして周囲に被害を出さないための気遣いだろう。

 それなのにあたしは最小限の魔力しか使わなくて、ユフィアより魔法の技術が上かもなんて思い込んで恥ずかしいとリスティアは反省した。


「良いよ。それじゃ、その勝負、受けてあげる」

「え? なんのことよ」

「どっちの魔力が多いか勝負するんでしょ?」


 あれだけ無駄に放出するくらいだから、ユフィアは相当魔力量に自信があるのだろう。だけど、お姉ちゃんとして負けることは出来ない。

 たとえ無謀な勝負だったとしても――と、さきほどユフィアが使った二回分の魔力を込めて、とんでもなく巨大で、それでいて無駄な魔法陣を展開した。


「……な、なによその魔力量はっ!」

「これ? これは、さっきユフィアが使ったのと同じ分だけ消費しようと思って」

 言うが早いか、リスティアは空に向かって魔法を放った。

 光の奔流が天を登り、空から降り注ぐ素粒子を弾き散らす。


 ――話は変わるが、重力というのは、素粒子が物体を通り抜けるときに掛かるわずかな抵抗の結果だと言われている。

 大きな物質は重力を発生させるのではなく、大きな物質が素粒子の流れを弱めた結果、それ以外の方向からだけ抵抗が掛かる。

 その結果、人は地面に押しつけられているのだ。


 なら、空から降り注ぐ素粒子を弾き散らせばどうなるか。

 ――答えは重力が喪失する。リスティアの魔法が消えるまでの刹那、周囲数十メートルが星の重力から解き放たれた。

 地上にいる者達からざわめきが上がる。


 なお、ほぼ全力攻撃の二倍近い出力を見せられたユフィアは涙目だが、自分の方が弱いと思い込んでいるリスティアは気付かない。

 だから、「これで対等だね」と強がってみせる。


「た、対等? ~~~っ、馬鹿にしてっ! 絶対、泣いて謝らせるからっ!」

 ユフィアはアイテムボックスから長剣を引き抜いた。


「長剣の……エンチャント品? もしかして、ユフィアが作ったの?」

「そうよっ。私はエンチャントだって出来るのよっ! 私の作った武器は、リスティアが作った最高傑作にだって負け……な、なによそれ?」

 今度は剣での対決なのかな? と、リスティアがお気に入りのレイピアを引き抜くと、なぜかユフィアの顔色が変わった。


「なっ、なななによそれっ!」

「ふえ? これは最近になって頑張って作ったレイピアだよ」

「が、頑張って作った? 頑張って……作れる、ものなの? 緻密な紋様が、そんなにたくさん。一体、いくつ紋様魔術を刻んでいるのよ」

「えへへ。あたしの自信作だよ。この柄のレリーフのデザインとか、頑張ったんだぁ~」

「頑張ったって装飾の話!? というか、おかしいじゃない! 貴方の最高傑作は、ロゼッタお姉ちゃんにプレゼントした長剣でしょ!?」

「……ふえ? ふぇえぇぇ。あ、あの長剣を見たんだ。あれは、あたしがちっちゃな頃に初めて作ったエンチャント品なんだよぅ。……恥ずかしいなぁ」

 もじもじするリスティアの前で、ユフィアの顔も真っ赤に染まっていく。なお、こっちは断じて照れている訳ではないだろうが……それはともかく。


「もう泣かす、絶対泣かすっ!」

 ユフィアが弾かれたように加速して、リスティアの脇を通り抜けざまに長剣を振るった。モジモジしていたリスティアはそれに反応できず、胴体を真っ二つにされてしまった。


「って、なんで反応しないのよ!? 大丈夫なの――って、あれ?」

 ユフィアが一瞬だけ顔を青ざめさせて、次いでいぶかるような顔をした。


「……どうなってるの? いま、真っ二つにしたわよね?」

「されたよぅ。ユフィアは剣技が得意なんだね、お姉ちゃんびっくりだよぅ」

「お姉ちゃんじゃないしっ! というか、なんで真っ二つにされたのに平気なのよ!?」

「ドレスに自己修復機能をエンチャントしてあるからだよ? してなかったら、ドレスの下半分が落ちちゃって、大変だったね」

 空の上でスカートなしは恥ずかしいもんねと、リスティアははにかんだ。


「そうじゃない、そうじゃないでしょ――っ! なんで、真っ二つにされたのに、ダメージ一つ受けてないのよっ!?」

 ユフィアは器用に空の上で地団駄を踏む。

 それに対して、リスティアは意味が分からなくて首を捻った。

 真っ二つにされたので、もちろんダメージは受けている。いまは日中だし、あと数万回くらい真っ二つにされたらピンチだよ――と、そんな感じである。


「こ、こうなったら、仕方ないわねっ! お互いに最強の魔法で勝負よ!」

 ユフィアはアイテムボックスからなにやらマジックアイテムを取り出し、それを自分の周囲に展開させた。


「……それは?」

「ふふん。これは自分の出力を上げるためのアーティファクトよっ。正直、やりすぎかもって思ったから自重してたけど、絶対泣かすっ。全力で泣かすんだからっ!」


 なるほど、たしかに出力の上がる紋様魔術が刻まれている。

 自分の方が技術でも出力でも劣っているのに、そんなモノを使われたら勝てないよと焦ったリスティアは、大急ぎでユフィアが使っているのと同じマジックアイテムを作り出した。


「……へ? ちょ、なんで、おね――っ、リスティアがそれをっ!?」

「ごめんだけど、模倣させてもらったよ。あたしだって、お姉ちゃんとして負けられない。これが、あたしの全力全開だよっ!」

 お姉ちゃんは、妹の発明品を盗んだりしない――という冷静な突っ込みは誰もしない。ということで、リスティアは空を覆わんばかりの魔法陣を足下に展開した。


「な、なによ、なんなのよ。どんな出力をしてるのよ」

「ユフィアのマジックアイテムのおかげだよ?」

「ふざ、ふざけないで……こんな馬鹿げた出力になるはず、ないでしょ!?」

「あたしだって、一応は真祖の娘だし、頑張ればこれくらいはなんとかなるんだよ?」

「そ、そういう次元じゃないでしょ。それに、なによその緻密な魔法陣は。しかも内包する魔法陣が……な、七つ? 第八階位!?」

「うん。あたしはユフィアと違って、第八階位までしか使えない。だから――」


 魔力も技術も到達階位も、すべてがユフィアに劣っていると誤解しているリスティアは、歯を食いしばって意識を集中する。

 そして――


「これが、あたしの全力全開だよっ!」

 リスティアは自らの頭上にもう一つ、第八階位の魔法陣を展開した。


「嘘、でしょ……第八階位の魔法を二つ、同時に――っ!?」

「お姉ちゃんにだって、意地があるんだよっ!」

 なお、やっていることは完全に妹イジメである。


「なによ、なんなのよ。こんなの、ありえない。ありえるはず……ないっ」


 ユフィアがガチガチと歯を鳴らしている。

 リスティアにはそれがどうしてかは分からなかったけれど、最大出力の魔法陣を二つ、アクティブなまま待機させておくのは辛い。

 ということで――


「そろそろ、撃つよ?」

 リスティアは内心の必死さを隠し、右腕を天高く掲げた。

 そして――


「うわああぁぁぁぁあんっ、お姉ちゃんがいじめるううううううううぅううっ」

 虚空でぺたんと座り込んだユフィアが号泣を始める。

 その瞬間――


「お姉ちゃんだよっ!」

 すべての魔法としがらみを消し去ったリスティアは、光の速さでユフィアを抱きしめた。

 

 

 「お姉ちゃんだよ!」再びっ!


新作『不遇の聖者はサードライフを謳歌する』

 誰もが持つはずの精霊の加護がない。たったそれだけの理由で報われない人生を送っていたセツナが最高の機会を得て、新たな人生を謳歌する師弟愛ファンタジー!

 わりとシリアスな内容です。もうすぐ一章が終わるのでこの機会にどうぞ!

https://book1.adouzi.eu.org/n7270ey/

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