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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード2 自称普通の女の子は、あんまり自重しない 3

「えっと……もう一度聞くけど、地下に秘密基地ってどういうこと?」

「うぅん……実際に見てもらった方が早いかも」

 混乱するマリアの前で、リスティア院長が壁に設置してあったパネルに触れた。直後、その横の壁が扉のように開く。

 そこから見えるのは、わりと小さな部屋……だけど、この壁の向こうって孤児院の外じゃなかったっけ? と、マリアは少しだけ考えた。

 なお、少しだけ考えた後は、きっといつもの手品だと思って考えることを辞めた。


「ここが秘密基地?」

 そうして、リスティアの後について、その部屋に足を踏み入れる。

 本来は外であるはずの場所に部屋があることを除けば、ごくごく普通の部屋だ。


 しっかりと効いた空調に、煌々とした人工照明。貴族の屋敷はもちろん、お城にだって存在しないシステムが使われているが、子供達の部屋と同じごくごく普通の部屋である。


「リスティア院長にしては自重しているわね」

「ここは秘密基地の入り口だよ」

「……秘密基地の入り口?」

 どういうことだろうと首を傾げる。そんなマリアの前で、リスティアが奥の扉を開いた。


「な、なによ、これ……」

 呆然と呟く。マリアの黒い瞳が捉えたのは――楽園だった。

 扉の向こうには、淡い光が降り注ぐ巨大な敷地が広がっている。

 その敷地の中心には、神々しい巨大な建築物が建っている。マリアはそれを見るのは初めてだったが、お城であると理解することが出来た。


「ど、どうしてお城が……」

「あのお城は、あたしの自信作だよぅ」

「リスティア院長が建てたの!?」


 遠くにあってなお、見上げなければいけないほど巨大な城である。たとえ数百人が建築に関わったとしても、完成まで何十年掛かるか想像出来ない。

 そんなお城を一体どうやって……と視線を向けると、リスティアは「手品だよ」と微笑んだ。なのでマリアは「なるほど、手品なら仕方ないわね」と納得する。


 けれど、リスティアの非常識はまだまだ始まったばかりだった。リスティアはマリアに視線を合わせ、城の少し横を指差す。


「あっちに牧草地帯が見えるでしょ? あの小屋には、牛と豚と鶏を飼育してあるからね」

「牛と豚と鶏を飼育……」

「うんうん。そんでもって、左右に大きな湖があるでしょ? 右が海水で、左が淡水の湖だよ。それぞれ魚も生息しているよ」

「淡水と海水……」

「もちろん、塩害は出ないようにしてあるから大丈夫だよ」

「もちろん、塩害は……」

「うんうん。後はここからは見えないけど、お城の裏手には農地があるからね。空き地もたくさんあるから、その気になれば百人単位でいつまでだって暮らせるよ~」

「お城の裏手……」


 脳がオーバーフローしたのか、オウム返しに抜き出していたワードすらおかしくなってしまっている。混乱の境地にあったマリアだが、一分くらいでようやく我に返った。


「ねぇリスティア院長。そもそも、ここはどこなの?」

「ここはシスタニアの街の地下三千メートルだよ」

「……意味が分からないのだけど」


 さっきまでリスティアの部屋にいたはずなのに……というのは今更だから置いておくとしても、地上と変わらない――いや、それ以上に穏やかで温かい光が降り注いでいる。

 そんな巨大な空間が地下だと言われても、もはや理解不能だった。


「あたしの魔法でちょいちょいと掘ったんだよ。もちろん、外圧に耐えるための処理も施してあるし、地上にも絶対に影響が出ないようにしてあるよ」

「……本当に、シスタニアの地下なの?」

「うん。ちょうどあの真上が孤児院だよ」

 なお、孤児院にあるリスティアの部屋は真後ろにあるのだが……その部屋の主が指差しているのは正面にあるお城の上空であった。


「……リスティア院長」

「うん?」

「やりすぎよ。これは、手品の域を超えているわ」

「そっかな?」

「そうよ」

「そっかぁ……」


 リスティアが差して困った風でもなく呟く。

 お城を建てるのが手品の領域で、それ以外が手品の対象外というマリアの基準も謎だが、それを突っ込む者はこの場にはいない。

 マリアは「手品を否定されても慌てないって珍しいわね?」と尋ねた。


「えへへ、秘密基地はロマンだからね」

「……ロマン?」

「ご先祖様が秘密基地を作ったときの言葉だよ。ちなみにそのご先祖様の秘密基地は、なんでも女人禁制だったらしいけどね」

「へぇ。真祖にも女性蔑視ってあるの?」

「うぅん。真祖にそういう価値観はないよ。むしろ女性の方が強いかも?」

「なら、どうして女人禁制なの?」

 良く分からないわと、マリアは首を傾げる。


「なんかね、ご先祖様は凄く姉妹にモテたらしいの」

「……姉妹に? 女性に、じゃなくて?」

「うん。なんか良く分からないけど、姉妹にモテたんだって。羨ましいよね」

「……はい?」

 なんか、いま良く分からないことを言わなかった? とマリアが首を傾げるが、リスティアはそれには気付かずにしゃべり続ける。


「それでね。いつも襲われるから、女人禁制の秘密基地を作ったんだって」

「……襲われる? 姉妹に? 男が? なにそれ?」

 大人の男なんて大半は獣だって思ってるマリアには分からない世界だった。


「まぁ、そんな訳で、あたしも秘密基地をつくったってわけ」

「もしかして、男子禁制にするの?」

「孤児院のみんながいるからそのつもりはないよ」

「そう、なんだ……」

 男性恐怖症のマリアとしては少し複雑だった。

 けれど、リスティアはそれを理解してくれているようで、「マリアの部屋は、マリアが許可した人しか入れないようにしておくよ」と頭を撫でてくれた。


「それから、この秘密基地の名前も決めてあるんだよぉ」

「……秘密基地の名前?」

「うんっ。シスタニアの地下にあるから、アンダーシスタニアだよ」

「……そのまんまね」


 マリアは冷静に突っ込んだ。

 なお、たしかにそのまんまではあるが、シスタニアの地下だからという意味ではない。年下のシスターばっかりを集める予定だからである。

 さすがのマリアも、それには気付かなかったようだけれど。


「ひとまず、アンダーシスタニアの全体を見せてあげるね」

 お城を見上げていたマリアは、いきなりリスティアにお姫様抱っこをされる。

 そして――


「え、ちょっ、リスティア院長!?」

 周囲の景色がぐんぐんと下がっていく。

 いや、マリアをお姫様抱っこしたリスティアが浮かび上がっているのだ。自分の身体が地面から離れていく感覚に、マリアは思わず悲鳴を上げた。


「あわわわっ、なにこれ。私、飛んでる? 飛んでるの!?」

「飛んでるんじゃなくて浮かんでるだけだよぅ」

「なにが違うのか分からないわよっ」

「飛ぶって言うのは……」

 リスティアのセリフが終わるより早く、マリアの身体が横へのベクトルを受ける。それに伴い、景色が凄い速さで横に流れ始めた。


「ひゃああああああぁぁぁぁあぁあっ!?」

「旋回しつつ……宙返り~って……マリア?」

「はぁ……はぁ。もぅ、リスティア院長のばかぁ……。私、初めてなんだからね? もう少し優しくしてくれなきゃ、どうにかなっちゃうじゃない」


 リスティアが飛翔をやめたとき、マリアは息も絶え絶えになっていた。

 地下とは言え、地面からの高度は数十メートルで、時速百キロ近い速度で宙返りまで体験させられた。マリアが涙目になるのは無理もないだろう。


「あはは、ごめんごめん。ナナミちゃんがわりと平気だったから、みんな結構平気なのかなぁって思ったんだけど……恐かったかな、ごめんね?」

「……む。ナナミちゃんと一緒に飛んだことがあるんだ?」

「うん。王都に行くときにね」

「王都までずっと? ……むむむ」

 マリアはちょっぴり焼き餅を焼く。そうして、ぎゅーっとリスティアに抱きついた。


「……………………せて」

「……マリア?」

「やっぱり、このままで色々なところを見せて」

 腕に身を預けて呟くと、リスティアの身がぶるりと震えたような気がした。


「……リスティア院長?」

「えへへ、なんでもないよ。それじゃ、軽く周囲を案内するね」



 その後、マリアはアンダーシスタニアを上空から案内してもらう。更にはお城の中を案内してもらったりして、マリアは秘密基地の全容をなんとなく把握した。

 ちなみに、突っ込みどころが多すぎて、どこにも突っ込めないくらい規格外だった。


「それで、私に秘密基地を見せてくれたのはどうしてなの? さっき、避難がどうとか行ってたけど、それとなにか関係があるの?」

「あたしが王都に行ってるあいだになにかあれば、ここに避難してもらおうと思って。マリアには教えておこうかなって」

「……避難って言うか、もはや永住したいレベルよね」


 孤児院は空調が効いていて、気候によっては外に出たくなくなったりするのだが……この秘密基地は、空間全体に空調が施されているとしか思えないほど快適だ。


「気に入ってくれたのなら嬉しいけど、地下に引きこもって欲しくはないかなぁ」

「冗談よ。私はリスティア院長とずっと一緒にいるって言ったでしょ。リスティア院長がここに引きこもらない限り、私は引きこもったりしないわよ」


 わりと大胆に、リスティアとずっと一緒にいると言ったつもりなのだが、真面目モードのリスティアは「なら安心だね」とまるで気付かない。


「……リスティア院長って意外と鈍感よね」

「ふえ?」

「なんでもないわ」

 マリアはぷいっと明後日の方向を向いた。


「……良く分からないけど、あたしの部屋を介して行き来できるから、緊急時は好きに使って良いよ。ナナミちゃんにも教えておくから仲良く使ってね」

 リスティアのその一言に、マリアはハッと顔を上げた。

 そうして、あることについて思いを巡らす。


「……ねぇ、リスティア院長、なにかあれば好きに使って良いってことは、あたしはリスティア院長の部屋にある扉を全部(・・)、開くことが出来るのよね?」

「もちろん、マリアはすべての扉を使えるよ。というか、敵意がなければ誰でも開けるようになってるけど……それがどうかしたの?」

「なんでもない、なんでもないよ。ちゃんと伝えておく。緊急時には、みんな()ここに避難できるようにしておくわね」

 マリアはある決断をして、そんな言葉を口にした。

 

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