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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第三章

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エピソード2 自称普通の女の子は、あんまり自重しない 1

 とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! 一巻が、明日発売日を迎えます。早売りのお店だともう売っているかもなので、本屋で見かけたらぜひぜひ手に取ってみてください!

 書籍には書き下ろし短編が一本と、マリアとの関係についての新エピソードが追加されています。

 また、TOブックスストアと電子書籍版、二種類の特典SSがあります。緋色のサイン本も40冊ほど日本のどこかにあります。あと、お店に色紙とかもどこかに……

 

 緊急事態だと呼び出されたシャーロットは、ギルドの会議室でアンドレアからその内容について詳しく聞いていた。


「真祖の娘が王都に攻めようとしている……ですか?」

 アンドレアの口から聞かされた報告に、シャーロットは眉をひそめる。


「ええ。大森林の監視塔からの報告があり、王都に数千にも及ぶ魔獣が接近しているそうです。まるでなにかに追い立てられるようだ、と」

「スタンピート、ですか。それが真祖の仕業だという証拠はあるのですか?」


 真祖の一族は千年前に歴史上から姿を消した伝説の吸血鬼一族で、神族や魔族すら歯牙にも掛けなかった最強の一族だと伝えられている。

 そんな真祖の娘であれば、たしかに魔物を追い立てて王都を襲わせることも可能だろう。


 だが、シャーロットはその真祖の娘――リスティアを妹として可愛がっている。

 なにより、リスティア自身が非常に優しい心の持ち主だ。そんな彼女がスタンピートを引き起こすなど、シャーロットにはどうやっても考えられなかった。

 けれど――アンドレアは証拠ならありますと答えた。


「監視塔に真祖を名乗る黒髪の娘が現れたそうです」

「自ら真祖を……ですか? それは、たんなる騙りではないですか?」

 というか、リスティアであれば普通の女の子を名乗るはずである。真祖を名乗っている時点で、リスティアではない。


「むろん、名乗っただけではありませぬ。真祖にふさわしい力を見せつけ、後日王都に伺うと宣言して、忽然と姿を消してしまったそうです」

「そう……ですか」


 ないと思うが、リスティアが無自覚にやらかした可能性を否定はできない……と、シャーロットは考え、理由をつけてリスティアを連れてくるように頼んだ。

 そうしてリスティアを待ちつつ、話を続けることにする。


「真祖の娘は置いておくとして、問題はスタンピートの方ですね」

「なにをおっしゃいます、シャーロット様。真祖の娘が本物であれば、スタンピートなど問題にならないほどの大問題ではありませんか」

「たしかにその通りですが、もし本物であれば人類にどうにか出来るものではありませんわ。それに……いえ、とにかく、まずはスタンピートの件を考えましょう」

 シャーロットのセリフに、アンドレアが考え込むような素振りを見せる。


「シャーロット様、一つ質問をしても?」

「許しましょう」

「あの嬢ちゃんの孤児院に、魔導具――それも、自己修復機能を備えたアーティファクトが大量にあるようですが……ご存じですか?」

 アンドレアの質問の意図に気付き、シャーロットはわずかに微笑む。


「もちろん、存じていますわ。そして、わたくしはあれらの魔導具がすべて、無銘シリーズだと確信しております」

 孤児院にある魔導具の価値を知る者は多いが、あの魔導具の作り主がリスティアであることを知る者は意外と少ない。深遠を覗いたシャーロット達が隠蔽を図ったからだ。

 だが、アンドレアは気付いているのか、シャーロットの答えを聞いてなるほどと頷いた。


「そういうことでしたら、まずはスタンピートの件から考えましょう」

「賢明で助かりますわ。……さて、スタンピートは数千ということでしたわね。それだけであれば、王都の防衛に当たっている兵士だけでも対処が可能かしら?」

「……いえ、数千のうち大半は下位の魔獣だそうですが、中には大型の魔獣や、オーガなどの魔物も混じっているようです。王都の警備兵だけでは厳しいでしょう」

「変、ですわね。その割には、援軍要請が来ていないのですが」

「この情報は冒険者ギルドの情報網を使って、最速で届けられたモノです。最速で王城から要請が届くとしても、数日はかかるでしょう」

「そう、ですか……」


 王都を治めるのは国王だが、軍部は将軍を初めとした者達が幅を利かせている。

 将軍達が利害を考えた結果、各領地の貴族に応援要請が届くのはかなり後になるかも知れない――とシャーロットは唇を噛む。


「ウォーレン領から、自主的に援軍を送るべきですわね」

「ですが、スタンピートからはぐれたモノがウォーレン領にこないとも限りません。なにより、要請もなく大軍を動かすのは……」

「もちろん分かっていますわ。ですから、送る援軍は少数精鋭に致します」

「それが無難でしょうな。だとすれば――」



 シャーロットはアンドレアと話を煮詰め、一流の冒険者を若干名と、この街に所属する騎士達の二割を援軍として派遣する計画を立てる。

 それからほどなく、リスティアが会議室に姿を現した。


「リスティア、貴方を待っていましたのよ」

「うん。なんだか、おかしなことを聞いて来たんだけど?」

「ええ、それについてはわたくしが説明いたしますわ」

 シャーロットはリスティアを自分の隣に座らせて、その華奢な腰を抱き寄せる。


「既に聞いていると思いますが、真祖の娘が王都に宣戦布告したそうよ」

「あたし、そんなことして――」

 余計なことを言おうとしたリスティアの脇をコッソリとくすぐった。リスティアはひゃうんと可愛らしい悲鳴を上げてセリフを呑み込む。


「それで、リスティアに聞きたいのだけど……千年前に姿を消した真祖の娘が、なんらかの理由で復活すると言うことはあると思うかしら?」

「そ、それは、まぁ……あ、あるんじゃないかな?」


 シャーロットが聞きたかったのは、リスティア以外の真祖の話なのだが……この様子では、そこまで気が回っているか怪しい。

 ……いや、リスティアはこう見えて、色々と鋭いところもある。きっと動揺しているように見えるのはなにか理由があって、実際にはちゃんと考えているだろうと質問を続ける。


「なら、その真祖が王都を攻めることはあると思いますか?」

「あたしそんなことしないよぅ」

 シャーロットは無言で顔を覆った。


「シャーロット様、順を追って話した方が良いのでは?」

「……そうですわね。たしかにそのようです。リスティア、順を追って話します」

 シャーロットは前置きを一つ。森の魔獣や魔物が何者かから逃げるように王都に向かっていること、監視塔に真祖を名乗る黒髪の少女が現れたことを伝えた。


「……監視塔?」

「ええ。森の入り口付近にある大きな塔ですわ」

「……ええっと、森の近く、だよね。あぁ、たしかに建造物があるね」

 まるで、いまこの瞬間に確認したかのようなセリフ――だが、シャーロットは考えないようにした。だって、考えたって恐らくは無意味だから。


「それで、真祖の娘の目的は王都のようなんです。スタンピートの件もありますから、わたくしが兵や冒険者を率いて王都に向かう予定です」

「……シャーロットが行くの?」

「この領地はお父様が護ってくださいます。ですからわたくしは、王都を護りに行きます」

 王都が蹂躙されれば、ウォーレン領もただではすまない。だからこそ、逃げることは許されないとシャーロットは覚悟を決める。


「……そうなんだ。なら、あたしもついていってあげる」

「リスティアが? 良いの……ですか?」

「うん。あたしも王都の友達が心配だし、それに……」

「それに?」

「妹を護るのは、お姉ちゃんの役目だもん」

「あら、お姉ちゃんはわたくしですわよ?」

「ぶぅ……」

 ちょっぴり拗ねるリスティアを見て、シャーロットは言いようのない安心感を得た。



 その後、アンドレアはひとまず王都に派遣する冒険者の選出をおこなうと退出。会議室には、シャーロットとリスティアの二人になった。

 隣の席に座るリスティアがこれからどうするのと言いたげに問いかけてきたので、シャーロットはその腰を軽く抱き寄せ、少しだけ砕けた口調で問いかける。


「……ねぇ、リスティア、本当に良かったの?」

「ふえ? なにが?」

「相手は真祖の娘を名乗っている。貴方の家族かも知れないのよ?」

「ななななっなななんのことっ!?」

「落ち着きなさい」

 シャーロットは立ち上がろうとするリスティアの腰をぐっと引き寄せた。


「天使だろうが魔族だろうが、真祖だろうが人間だろうが関係ないわ。だから、そんな風に慌てる必要なんてなにひとつないのよ」

 シャーロットが宣言すると、リスティアは驚いた顔をする。


「あたしが真祖の一族と知っても変わらないの?」

「ええ、変わりませんわ。というか、知っても変わらない人が、既に他にもいるんじゃありませんか?」

「たしかに……ナナミちゃんやマリアは、いまでもあたしと仲良くしてくれてるけど」

 それを聞いたシャーロットは、やはりナナミちゃんも知っていたんですわねと思う。


「わたくしも二人と一緒ですわ。リスティアの正体が真祖であっても関係ありません。貴方はわたくしの可愛い可愛い妹です」

 シャーロットが断言すると、リスティアはなぜか「しょんぼり」した。というか、しょんぼりという声が実際に聞こえてきた。


「……どうしてそのような顔をするんですか?」

「ねぇ、シャーロット。あたしが真祖だったら、お姉ちゃんと妹が入れ替わったりは……」

「しませんわ」

「しょんぼり」


 リスティアは再びしょんぼりした。

 そうして落ち込む姿が凄まじく愛らしい。こんなに愛らしい女の子をどうして姉に出来ましょう。誰がなんと言っても妹に決まっていますとシャーロットは思う。


「……ねぇ、シャーロット」

「お姉ちゃん」

「シャーロットお姉ちゃんは、どうしてお姉ちゃんにこだわるの? あたしとシャーロットは同い年だし、あたしの方が大人っぽいし、それに……あたしは真祖なのに」

「いまの貴方の顔を、鏡で見せてあげたいですわね」

「ふえ?」

 リスティアが愛らしく首を傾げる。


「いいえ、なんでもありませんわ。……そうですわね。わたくしが姉である理由は一つ。わたくしには、年の離れた妹がいるから、ですわね」

「年の離れた……妹?」

「ええ。わたくしには妹がいたんです。強くて優しくて優秀な、完璧な妹が」

 シャーロットはリスティアの腰を抱き寄せたまま、静かに語り始める。


「わたくしが四歳で出来るようになったことを妹は三歳で。わたくしが八歳で出来るようになったことを妹は六歳で為し遂げました。わたくしが必死に為し遂げたことを、妹はいとも容易く超えて行ってしまう。わたくしは、妹にずっとずっと嫉妬していました」

「……ふみゅ」

 リスティアは小首をかしげつつも、シャーロットの顔をじっと見つめている。


「妹に辛く当たってしまったこともあります。だからきっと、わたくしは妹に嫌われていると、そう思っていました。あの事件が起きるまでは」

「……あの事件?」

「街を歩いていたわたくし達の前に賊が現れたんです。その賊はいきなり斬り掛かってきて、反応できないわたくしに刃を振り下ろしました」

「……無事、だったんだよね?」

「ええ。妹が庇ってくれたんです。すぐに駆けつけた護衛が、賊を取り押さえてくれましたが……妹の傷は深くて、そのまま……」

 シャーロットは一度言葉を切って、きゅっと唇を噛んだ。


「妹が意識を失う前に聞いたんです。どうしてわたくしを庇ったのかって。そうしたらあの子、わたくしのことが大好きだからって言うんですよ。

 おかしいですわよね。わたくし、あの子に対してろくにお姉ちゃんをしていなかったのに。あの子はずっとわたくしのことを慕って、わたくしの後を追い掛けていただけだった」


 自分が四歳まで出来なかったことを、妹は三歳で出来るようになった。

 シャーロットはそんな風に考えていた。

 だけど、妹はそんな風には考えていなかった。色々なことが出来る姉に少しでも早く追いつきたい。ただその思いだけで頑張り続けていたのだ。


「最後の言葉は『私の分まで幸せになってね』でした。あの子は結局、わたくしの心配ばっかりして眠りにつきました。あのとき、誓ったんです。もう同じ過ちは繰り返さないって」


 シャーロットが妹の気持ちに気付いていれば、未来は変わっていたかも知れない。

 それが良い未来かどうかは分からない。もしかしたら、代わりにシャーロットが死んだり、二人ともが死んでしまう未来になっていたかも知れない。

 だけど、それでも、大切な妹に寂しい思いだけはさせずにすんだはずだ。

 だから――


「だから、リスティアがわたくしより優れているのなんて関係ありませんわ。わたくしにとって貴方は、可愛い可愛い妹なんです……って、なにを泣いていますの?」

 気がつけば、リスティアが赤い瞳から大粒の涙をポロポロとこぼしていた。


「だって、だってぇ。そのときのシャーロットの気持ちを考えると、あたし……ぐすん」

「あぁもう、そんなに泣かないでください。わたくしが言いたかったのはただ一つだけ。貴方が何者でも、わたくしの妹であることには変わらないと言うことだけですから」


 リスティアがこんな風に泣くなんて思っていなくて慌てる。そんなシャーロットの顔を、涙を流しながらもキリッとした顔のリスティアが見つめてくる。


「大丈夫、大丈夫だよ、シャーロット。あたしが、その妹の――」

「――ちなみに、嘘ですわよ」

 リスティアのセリフを遮るように言い放った。


「……ふえ?」

「だから、わたくしの妹が襲撃で死んだなんて事実はないと言うことですわ」

 シャーロットのセリフにリスティアは沈黙。理解が追いつくにつれ、その頬がぷくぅと膨らませていった。


「もう、もうもうもうっ! シャーロットのイジワルっ!」

「ふふっ、ごめんなさい。その方が、わたくしの気持ちを分かってもらえるかなって」

「むぅ……シャーロットの気持ちって?」

「リスティアを妹のように思っている気持ちですわ。貴方が何者でも、わたくしよりどんなに優れていても、わたくしの気持ちは変わりません」

「シャーロット……そんな風に言ったって誤魔化されないからね?」


 ツーンとそっぽを向く。

 シャーロットはリスティアのことを心から妹のように可愛がっている。だけど、だからこそ、妹の代わりになって欲しい訳じゃない。

 ――だから、いまはこれで良いとシャーロットは微笑んだ。

 

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