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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第三章

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プロローグ 孤児院の日常

 三章の投稿を開始します。

 夏は複数投稿予定なので、他の作品共々楽しんでいただけると嬉しいです。

 *本作は5日に一回くらいのペースを予定しています。(場合によっては早くなるかもしれません

 その複数投稿ですが、第一弾として、新作【仲間に見限られた俺と、家族に裏切られた彼女の辺境スローライフ】を毎日更新中です。


 今作の一巻書影は25日公開予定なんですが、異世界ヤンデレと、無知で無力な村娘、今作と、著作:緋色の雨の書籍が三社から発売する事情で、合同バナーの制作許可をいただきました。


 そのバナーですが、緋色の雨のツイッターのバナーとして、本日7月15日から使用しています。

 今作の表紙イラスト(一部です)が公開はたぶん最速です。

 活動報告にある異世界ヤンデレ2巻の書影公開スレから、緋色の雨のツイッターに飛べるので、気になる方はぜひぜひご覧ください。

 

「ミュウ、そのグラタンを七番テーブルに。カリンはバニラアイスを用意して。でもって、それが終わったら、少し休憩して良いわよ」


 孤児院食堂の厨房。

 マリアは孤児院の子供達に指示を出しながら、中華鍋を振って焼きめしを炒める。

 まだ十五歳のマリアにとって、本来であれば重すぎるはずの中華鍋を軽々と振る。リスティアからのプレゼントであるブローチのおかげだ。


 ほーんと、リスティア院長ってやることがぶっ飛んでるわよね。

 マリアはそんなことを独りごちながら、焼きめしを作り上げた。そうして、自分も休憩するべくエプロンを外し、ちらりとフロアを覗き見る。


 フロアではメイド服に身を包んだリスティアや子供達が客の対応をしている。

 昼食の時間を過ぎた頃。普通なら夕食時まで客足は途絶えるはずなのだけれど、最近の孤児院食堂には……なんと言うか、変な客達がたくさん集まっているのだ。


 一角に集まっているのは、リスティアファンクラブのメンバー達。

 天使のような微笑みを浮かべ、クルクルと踊るように給仕するリスティアの姿を、優しげな視線で見守っている。

 これは……別に変じゃない。というか、リスティアファンクラブを変だという者がいたら、会員ナンバー0003のマリア自身が許さないだろう。


 そして、もう一角に集まっているのは、孤児院の子供達を見守る会。

 これは文字通り見守っているだけだから大丈夫。

 というか、会長がリスティアなので、色々な意味で問題はない。問題があったら、リスティアがなんとかするに決まっている。


 という訳で、マリアが気にしているのは、席から立って孤児院の家具やらなんやらをジロジロと見回している中年達だ。

 どうしてそんなところを見ているのか、マリアは不気味に思っていた。


「マリア、なにを見ているんですの?」

「え? あぁ……シャーロットさん、こんにちは」

 孤児院食堂の常連となったシャーロットが、マリアに話しかけてくる。客が厨房に顔を出している訳だが、いつものことなのでマリアは気にしない。


「こんにちは、マリア。わたくしのことはお姉ちゃんで良いと言っていますのに」

「あはは……ごめんなさい」

 お姉ちゃんと呼びたい相手は一人だけだから――なんてことは決して口にせず、マリアは苦笑いを浮かべてお茶を濁す。


「まぁ無理にとは言いませんけどね。それより、なにを見ていたんですの?」

「あの人達……なにが目的なのかなぁって」

 マリアはあちこちを見回している中年達に視線を向ける。

「あぁ……あの人達ですか。恐らくは研究者かなにかですわね。孤児院に使われている材質や、調度品なんかの観察が目的だと思いますよ」

「……研究者、ですか」


 マリアはなるほどと思った。

 リスティアの取り出した材質について大工達が驚いたり、割れても勝手に修復されるツボに、シャーロット達が驚いていたことを覚えているからだ。


「でも、建材はともかく、魔導具はリスティア院長が片手間に作った物ばっかりですよ? わざわざ学者や研究者が来るほどのモノなんですか?」

 マリアが問いかけると、シャーロットは少し思い悩むような顔をした。


「マリアは、リスティアが何者であっても、その態度を変えないって約束できますか?」

「もちろんです。リスティア院長は、私の恩人ですから」

 マリアはきっぱりと断言する。そして、自らの覚悟を証明しようと、シャーロットの視線をまっすぐに受け止めた。


「……分かりました。これは念のために他言無用でお願いしたいんですが……孤児院で使われている魔導具は、無銘シリーズである可能性が高いんです」

「無銘シリーズ、ですか?」


 それはなにかと尋ねると、最高級のアーティファクトであるにもかかわらず銘が入っておらず、かつ自己修復機能を備えた魔導具の総称であると教えられた。


「共通点として、高い芸術性を兼ね揃えていて、取り引きされれば最高クラスの取引額となります。そして……制作者は真祖の末娘だと言われています」

 シャーロットが静かに告げた。


「……最高クラスですか? でも、さっきも言いましたけど、リスティア院長が片手間に作った魔導具なんですよ? それで最高クラスなら、本気で作ったのはどうなるんですか?」

「そこまで行くと、もはや値がつけられないので……というか、反応するところはそこなんですの? わたくし、わりと驚きの事実を口にしたと思うんですが」

「あはは……」

 マリアは視線を逸らした。

 それを見たシャーロットが目を見張った。


「その反応……もしかして、リスティアの正体を知っているんですか?」

「えっと……シャーロットさんは気付いてるみたいだから言うけど、私は知ってます。ちょっとした事情があって、聞く機会があったんです」

 なお、なろう版では語られていない、ちょっとした事件があった。マリアはそのときに直接、リスティアから正体を打ち明けてもらったのだ。


「……驚きましたわ」

「私が、リスティア院長の秘密を知っていることが、ですか?」

「いえ、ナナミも知っていそうな雰囲気がありますし、マリアなら知っていても不思議なことじゃありませんわ」

「じゃあ……なにに驚いたんですか?」

「リスティアの秘密について、ですわ。そうかなとは思っても確信が持てなかったので」

「あぁ、そうだったんですね。リスティア院長が自分で言ってましたよ」


 本来なら失言だったと慌てるところだ。

 けれど、リスティアの言動からあまり隠す気がないと思ってるマリアは、シャーロットなら大丈夫だろうと気にしなかった。


「ともかく、あの人達はそんな無銘シリーズや、この時代にはありえない建材の研究が目当てだと思いますわ」

「理由は分かりましたけど、放置すると不味そうですよね……」

「そうですわねぇ……」

 シャーロットと揃ってフロアへと目を向ける。研究者達はいま、ミュウに群がってあれこれ話を聞いているようだ。


 接客に慣れているミュウは気にしていないようだが、あのままだとお店の運営に支障をきたすかもしれない。

 止めさせた方が良いかもしれないとマリアが思ったそのとき、ミュウがブローチを外して、研究者の一人に手渡した。


「――お、おぉ、なんだこれはっ、力が、力がみなぎってくるぞ!」

 研究者が声を上げ、感動に打ち震えるように手足を動かす。だけど――マリア達がそうだったように、過剰に強化された身体を扱いきれなかったのだろう。

 研究者の振り回した腕がミュウに当たった。

 そして――


 ミュウが壁に向かって吹き飛ばされる。


「「危ないっ!」」


 マリアが、そしてシャーロットが叫び、必死にミュウに向かって手を伸ばす。

 けれど、離れた場所にいた二人の手が届くはずなんてなくて、ブローチを持たない普通の女の子と化したミュウが、壁に思いっきり激突。

 ――する寸前、いきなり出現したリスティアがミュウの身体を優しく受け止めた。それとほぼ同時、ひゅっごっ! と謎の音と衝撃がマリアの元に届く。

 およそありえない現象だが、とにもかくにもミュウは無事だと目撃者達はホッと息をつく。

 だけど――


「どういう……つもり、かな?」

 普段は天使のように愛らしい妹メイドの、聞いたこともないほど冷たい声が、気を抜いた者達の心を凍り付かせた。

 

 

 前書きでも書きましたが、新作【仲間に見限られた俺と、家族に裏切られた彼女の辺境スローライフ】を毎日更新中です。

https://book1.adouzi.eu.org/n3178ew/

 タイトル通りの二人が、現実逃避のスキルを駆使して悠々自適に暮らすスローライフ。

 ランキングもジャンル別日刊12位と、順調な滑り出しをしています。

 暑い日のお供かなにかとして、ぜひぜひご覧ください!

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