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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第二章

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エピローグ 普通の日々

 本日二度目の更新です。最新話から来た方は読み飛ばしにご注意ください。

 事件が解決してしばらくしたある日。リスティアはブレンダ理事長から、ギルドへの報告書を受け取ったので、それを持ってシスタニアのギルドへ向かった。

 そうして、受付に顔を出したのだが――


「リスティア様、マジ天使です――っ!」

「ふえぇぇっ!?」

 顔を合わせるなり、受付嬢のモニカに抱きつかれて目を白黒された。


「えっと、モニカさん?」

「なんですか、リスティア大天使様」

「いえ、その……どうしたんですか?」

 受付の顔であるモニカはかなりの美人ではあるが、リスティアより五歳ほど年上である。

 だから、そんなモニカに抱きつかれても嬉しくないんだけどな――なんて、身も蓋もないことを考えるリスティアであった。


「なにやら騒がしいと思ったら、嬢ちゃんだったか」

 リスティアが困っていると、アンドレアが姿を現した。

「アンドレアさん、こんにちは」

「うむ。こんにちはじゃ。それで……モニカ。お前は相変わらず極端じゃな」

 アンドレアの視線が、リスティアを抱きしめているモニカへと向けられた。けれど、極端と言うことは、モニカの行動に心当たりがあると言うこと。


「モニカさんはどうしたの?」

「うむ。嬢ちゃんが、わしの病気を治してくれたじゃろ?」

「あぁ……そっか」

 モニカはアンドレアをお爺様としたっているので、アンドレアの病を治したリスティアに感謝するあまりに、ナナミのようにリスティアを崇拝していると言うこと。

 モニカさんは、やっぱりおじいちゃん思いなんだね――と微笑ましく思いつつ、アンドレアと話すために、するりとモニカの拘束を抜け出した。


「アンドレアさん。依頼の報告に来たんです」

「おぉ、もう解決したのか?」

「はい。ブレンダ理事長からギルドへの報告書を預かっています」

「そうか。では、奥の部屋で詳しい話を聞こう」



 連れてこられたのは、前にも使ったギルドの会議室。

 向かいの席に座るアンドレアが、リスティアが手渡した報告書に目を通している。それを眺めながら、リスティアはソワソワとしていた。

 リスティアがギルドに加入したのは、冒険者ランクを上げればみんなの憧れの的になると考えたから。そして、今回の依頼はかなり重要な位置づけにあると聞いている。

 つまり、そんな依頼を華麗に解決したリスティアは、一気にランクが上がるはずである。

 そんな訳で、あたしもついに、みんなにお姉ちゃんと憧れられる日が来たよ! と、色々すっ飛ばして興奮していたのだ。


「さて、今回嬢ちゃんが引き受けた依頼じゃが……王都にあるラシェルの学校に潜入し、誘拐の手引きをする内通者を見つけ出すというものじゃったな」

 羊皮紙から顔を上げ、リスティアに確認を入れてくる。そんなアンドレアに向かって、リスティアは自信を持ってその通りですと頷いた。


「頑張ったようじゃな。ブレンダ理事長ばかりか、ウォルター公爵の感謝状も同封されておった。公爵から直々に感謝状を賜るなど、滅多にあることではないな」

「それじゃ、今回の依頼は……?」

「うむ。大成功と言って差し支えないじゃろうな」

「やったぁ。ありがとうございます。これでギルドランクも上がるんですねっ!」

 国を騒がすほどの事件を解決し、公爵にまで感謝された。いきなりSランクは無理でも、Aランクくらいにはなれるかも! なんて興奮していたものだから――


「うむ。そうじゃな。2ランクアップして、Dランクと言ったところじゃな」

 続けられたアンドレアのセリフは、リスティアの興奮に冷や水を浴びせるものだった。

「えぇっと……あたし、頑張ったんですよ?」

「うむ。そうじゃろうな」

「ギルドのランクって、そんなに上がりにくいんですか?」

「上がりにくいか上がりやすいかで言えば、上がりにくい。しかし、公爵から感謝状をもらうクラスの成果を上げれば、Aランクは確実じゃろうな」

「だったらどうしてです?」

「それは、この評価を考慮した結果じゃよ」

 アンドレアが、羊皮紙を手渡してくる。それを受け取って目を通すと、まずはリスティアに対する感謝の言葉が長々と書き連ねてあった。


 事件の内容が伏せられているのかと思ったりもしたが、続けられた文章には、極秘情報としてかなり詳しい事件の内容が書き込まれていた。


 これなら、評価は凄く高いはずなのになぁ……と、読み進めたリスティアは、最後の一行を見て、思わず「あぁ……」と天井を見上げた。

 総評には一言『――しかし、彼女は間違いなく普通の女の子である』と書かれていた。


「なぜそんな評価になっているのかは……まぁ、予想がつく。だから嬢ちゃんが望むのなら、わしが裏から手を回してやっても良いが……?」

「うぅぅ……」

 もちろん、ランクは上げたい。高ランクになって、憧れのお姉ちゃんになりたい。けれど、みんなからお姉ちゃんと呼ばれるだけなら、魅了の力を使えば済む話である。


 だけど、リスティアは真っ当な方法で、お姉ちゃんと慕われたいので、魅了の力を使うことはない。そしてそれは、ギルドのランクも同じだ。

 だから――


「……このままで良いです」

 リスティアは泣く泣くそんな風に告げた。

 とは言え、ランクアップの機会はまだまだこれからもある。今後少しずつランクを上げて、みんなに認めてもらうのもありだろうと気を取り直した。


 その後、あたしには妹第一号、セラフィナがいるもん! と、リスティアは王都の学校に出向き、休み時間の合間に、授業に出席していたセラフィナのもとを訪れたのだが――


「リスティア様、先日は助けていただきありがとうございました」

 貴族クラスを訪れたリスティアは、セラフィナに様付けで呼ばれて思わずふらついた。


「え……あれ? えっと、その呼び方は……?」

「はい。前は……お姉ちゃんなんて呼んで、申し訳ありませんでした」

「うぅん、謝る必要なんてないよ? というか、あたしは凄く嬉しかったんだけど……」

 もう一度呼んで欲しいという想いを込めて、そんな風に言ってみたのだが……セラフィナは無言で首を横に振った。


「……あたし、リスティア様に憧れてます。リスティア様があたしのお姉ちゃんなら、凄く凄く嬉しいなって思ってます」

「あたしも、セラフィナのこと、妹みたいに思ってるよ?」

「……嬉しいです。でも、あたしは自分が未熟なせいで捕まって、更にはリスティア様を傷つけてしまいました。いまのあたしじゃ、リスティア様に釣り合わないから」

 あぁぁぁぁあぁぁっ! あのとき、あのときセラフィナのナイフを避けていたら! あたしのばかばかっ! どうして避けなかったの!? ――と、リスティアは血涙を流すが後の祭り。

 さすがのリスティアも時間を巻き戻すことは出来ない。

 そして、気にしなくて良いというセリフは泣く泣く飲み込んだ。セラフィナが、凄く大人びた――決意を秘めた目をしていたからだ。

 だから、リスティアはセラフィナの言葉に耳を傾ける。


「……あたしは、これから自分を磨きます。リスティア様に釣り合うくらい、素敵な女の子になります。だから、もしそんな風になれたら、そのときは……」

 もう一度お姉ちゃんって呼んでも良いですか? と、口には出さなかったけれど、セラフィナがそう言おうとしたのは分かった。

 だから――


「うん。セラフィナが素敵な女の子になるのを待ってるよ」

 そして、セラフィナがもう一度お姉ちゃんって呼んでくれたなら、そのときはあたしも勇気を出して、眷属になって欲しいとお願いしてみよう――とリスティアは決意した。


「ありがとうございます、リスティア様。それと……彼女のこと、お願いしますね」

 ドロシーと口にしなかったのは、他のクラスメイトに聞かれていることを意識したからだろう。だからリスティアも、大丈夫とだけ告げた。


「それと……あのとき、ドロシーが下賤な平民って言ったのを咎められなくてごめんなさい」

「……うん」

 一般人からすれば、たいしたことじゃないかもしれない。けれど、リスティアにとっては重要なことだった。だから、セラフィナがそれを謝罪してくれたことが凄く嬉しかった。

 やっぱり、セラフィナは良い子だなぁと改めて実感する。そして、早くあたしの妹になってくれないかなぁと、長寿のくせに我慢の利かないリスティアであった。


「それで……リスティア様、今日はなにかご用ですか?」

「あ、そうだった。一度シスタニアの街に帰ろうと思って、それを伝えに来たの」

「シスタニアの街に……ですか?」

「うん。そこにあたしが経営する孤児院があるの」

「……もしかして?」

「うん、そうだよ」


 ギルドへの報告――だけなら、学校に通いながらおこなうことが出来る。と言うか、さっき報告に行って、ダメージを受けて帰ってきたところである。

 けれど、ブレンダ理事長やウォルター公爵には、ドロシーをシスタニアの街に連れて行くことを告げてある。その都合上、往復に掛かる時間は、こちらにいる訳にはいかないのだ。


「そうですか。いつか……あたしも遊びに行って良いですか?」

「うん。もちろんだよぉ」

「嬉しい。いまから楽しみですっ」

 微笑むセラフィナが可愛い。思わず孤児院に連れて帰りたい衝動に駆られたが、先日誘拐されたばかりのセラフィナを連れ去るのは不味いと自重する。

 そんな風に思っていたのだけれど、セラフィナの表情が不意に曇った。


「セラフィナ、どうかしたの?」

「……えっと、そのまま、帰ってこなかったりはしないですよね?」

「もちろん。一度帰るだけで、また戻ってくるよ、ちゃんと学校を卒業したいしね」

 基本的にハイスペックなリスティアだが、人間と常識がずれていることを自覚した。なので、学校に通うことで、その辺りのズレを直せると考えたのである。

 もっとも、リスティアのズレっぷりが、学校で治るレベルなのかは謎であるが。



 ともあれ、セラフィナにしばしの別れを告げたリスティアは、ウォルター公爵で保護してもらっていたドロシーを引き取り、変装させて学生寮の自分の部屋へと連れ帰った。

「えっと……ここは?」

「あたしの部屋だよ?」

「いえ、その、それは見たら分かるんですが……なぜ、リスティア様の部屋に? ウォーレン伯爵領へ向かうのではなかったのですか?」

「そうなんだけど……取り敢えず、入ってもらった方が早いかな」

 戸惑うドロシーの背中を押して、学生寮の部屋の中へと押し込む。


「ちょ、押さないでください――って、なんですか、この部屋は!?」

 扉の中は、孤児院にあるリスティアの部屋。そのお姫様が暮らしそうな部屋の内装に、ドロシーが素っ頓狂な声を上げた。


「さっきも言ったけど、ここはあたしの部屋だよ」

「で、ですが、学生寮の部屋が、こんなに広いはず……」

「うん。ここは学生寮の部屋じゃなくて、シスタニアの孤児院にあるあたしの部屋だよ?」

「……ええっと。なにをおっしゃっているんですか?」

 首を傾げるドロシーに、リスティアはかくかくしかじかと、転移の門を設置して、王都にある学生寮の部屋と、シスタニアにある孤児院の部屋を繋いでいると説明した。


「貴方は一体……いえ、普通の女の子なんですよね」

 なにやら悟ったような表情で言われてしまった。そんなドロシーの態度が気にならなかったと言えば嘘になるが、先に戻ったナナミや、孤児院のみんなが待っている。


「それじゃ、シスタニアにあるあたしの孤児院にご招待、だよっ」

 リスティアは無邪気に言い放ち、隣の扉を引き開いた。

 そうして開けた扉の向こう側――つまりは、孤児院にあるリスティアの部屋の前では、マリアがいた。そしてその隣には、栗色の髪と瞳を持つ小さな女の子がたたずんでいる。


「……レ、レーネ?」

「シーお姉ちゃんっ!」

 フリーリングの床を「――だんっ!」と蹴って、わずか八歳のレーネが、ドロシーに向かって飛び掛かった。それを、ドロシーがひしっと受け止める。

「仲の良い姉妹だねぇ……」

 発生した衝撃波的なそよ風を受けながら、リスティアはしみじみと呟いた。


「……いえ、あの、リスティア院長?」

「マリア。ただいまだよぉ」

「おかえりなさい――じゃなくて。いまのを見て、なにか思うところはないの?」

 いまの――とは、レーネが物凄い勢いで飛び掛かり、それをドロシーが易々と受け止めたことを言っているのだろう。

 リスティアはドロシーの身体を一から作り、レーネの身体も治療して丈夫にした。

 マリアやナナミほどではないけれど、二人は心臓を刺されても平気なくらいには普通の女の子になっている。なので、なんにも不思議なことはない。


「とっても仲の良い姉妹だよね。それ以外に、なにか思うことがあるの?」

 小首をかしげると、なぜかため息をつかれてしまった。



 ドロシーとレーネの感動の再会の後。

 孤児院の子供達は、ドロシーが勉強を教えてくれるという話を知っていたようで、さっそくお勉強を教えて欲しいとドロシーにせがみはじめた。

 そんなこんなで――


「そ、それじゃ、文字の読み書きのお勉強をはじめます、わ」

 孤児院にあるリビングで、少し緊張した面持ちのドロシーが臨時の授業を開始する。その宣言を聞いた、孤児院のみんなやレーネがわーっと歓声を上げた。


 とくに、レーネは自分のお姉ちゃんが先生であることが嬉しいのだろう。物凄く幸せそうに、そしてキラキラとした瞳でドロシーを見上げている。

 仲の良い姉妹だなぁと、リスティアはその光景をしばらく眺めていた。



 授業をしばらく見守った後、リスティアは孤児院食堂へと顔を出した。もちろん、子供達は授業中なので、今日は閉店している。

 けれど――孤児院食堂のテーブル席には、幸せそうにパフェを食するナナミの姿があった。

「ナナミちゃんはパフェがお気に入りだね~」

「はいっ! とっても美味しいですから……って、あれ? 授業の方はもう良いんですか?」

「うん。最初はみんな緊張してたみたいだけど、少しずつ馴染んできたみたいだから」


 なお、馴染んだのは子供達ではなく、ドロシーの方である。

 子供達はドロシーの素性を知らないので、特に緊張する理由はない。いや、シャーロットに懐いているので、ドロシーが貴族だったと知っても変わらないかもしれないけれど。

 問題は、ドロシーの方だった。どういう訳か、ドロシーは「リスティアさんが面倒見る、普通の子供達……」と、なにやら警戒していたのだ。

 とは言え、それは最初だけ。ドロシーに懐く子供達に、ドロシーは「普通じゃないだけの、普通の子供達で安心しました」と、すぐに警戒心を解いていった。

 ちょっとなにを言っているのか分からなかったけど、根は優しい女の子なのだろうと思う。


「でも、羨ましいです」

「え? ナナミちゃんも勉強がしたかった? 王都の学校は、これからも通えるよ?」

「そっちじゃなくて。孤児院で先生が、です。私も、リスティア様のところで働きたいです」

「じゃあ、ナナミちゃんも先生をする?」

 聞き返すと、ナナミはきょとんとした。


「したいです……けど、そんなにたくさん、先生はいらないですよね?」

「いまは、ね。でも、空いている敷地に学校を建てて、街の子供達と一緒に勉強させようかなって思ってるんだよぉ~」

 今回の一件でリスティアが学んだのは、貴族と平民の子供には隔たりがあると言うこと。だとすれば、孤児院の子供と、他の子供にも隔たりがあるだろう。

 その垣根を取り払う第一歩として、孤児院に学校を作ろうと思ったのだ。


「学校を作るって、またそんなに簡単に……って、リスティア様なら簡単なんでしょうけど」

「実は、もうウッドさん達に建築依頼を出してあるんだぁ」

「相変わらず、行動が早いですね」

 なんとなく呆れられている気がするけれど――学校に街の子供達が通い始めれば、リスティアの妹候補が増える。学校を作らない理由はなかった。


 なお、セラフィナという、将来は妹になりそうな存在が出来たリスティアだが――

 セラフィナにお姉ちゃんと慕われて凄く嬉しかったよ! この調子で、他のみんなも妹にしちゃうぞ! と、わりと節操のないことを考えていた。


 そんな訳で、傾きはじめた日の光が、窓辺から差し込むテーブル席。ナナミの向かいの席に座ったリスティアは頬杖をついて、パフェを食べるナナミをニコニコと眺めていた。

 妹を幸せそうに眺めるお姉ちゃんをしているつもりである。

 実際は、どっちが妹なのか分からないくらい可愛らしい姿なのだが――それはともかく、そんなリスティアの視線に気付いたナナミが「リスティア様……」と口を開いた。


「なぁに、ナナミちゃん」

「リスティア様にお願いがあるんです」

「良いよ。この国をプレゼントすれば良いの?」

「リスティア様が言うと冗談にならないから止めてください」

「別に冗談じゃないよ? ナナミちゃんが望むのなら……」

「望まないので止めてくださいっ」

「……しょんぼりだよ」

 いつものセリフを口にするリスティアは笑っている。ナナミがそんなことを望まないのは分かっているので、いまのセリフは冗談だったのだ。

 もちろん、ナナミが本気で願えば……


「それで、お願いってなにかな? 将来的に、孤児院で先生をしたいっていうのなら、もちろんかまわないよ? それまでに、王都の学校を卒業してくれると嬉しいけど」

「それはそれでお願いしたいですけど、今回はそれじゃなくて……えっと」

 ナナミは少し躊躇うように視線を彷徨わせた。ナナミがリスティア相手に遠慮するのはわりと良くあることだが――今日は少しだけ雰囲気が違っていた。

「……どうかしたの?」

「えっと……その、リスティア様には、妹が最初からいなかったんですよね?」

「え? うん……そうだけど?」

「でも、アイテムボックスに入ってる料理は、妹のために作ったんですよね……?」

「あぁ……」

 リスティアが目覚めたその日、森の中で一夜を明かしたときのこと。リスティアが料理を振る舞ったときに、ナナミにそう打ち明けたことを思い出した。


「全てではないけど、いつか妹が出来たら食べてもらおうと作った物だよ」

「なら、リスティア様は、もしかして……」

 こ、これは、あたしが妹を欲しがっていると知って、立候補したいとかそういう……? ついに、ナナミちゃんがあたしの妹になるかも! と、リスティアは期待する。

 そして――


「私を、リスティア様の、その……い……いも……そ、そう言えば、セラフィナ様にお姉ちゃんって呼ばれていましたよね!」

「……ふえ?」

 どうして急にそんな話を? と思ったのは一瞬だった。セラフィナにお姉ちゃんと呼ばれたことを物凄く喜んでいたリスティアは「うんっ、そうだよぉ」と幸せそうに微笑んだ。

 凄く凄く幸せなリスティアは、答えた瞬間にナナミの頬が引きつったことに気付かない。


「お姉ちゃんって呼ばれて、その……嬉しいって、言ってました……よね? セラフィナ様にお姉ちゃんって呼ばれて、そんなに、嬉しかったんですか……?」

「もちろんだよっ。ドロシーが平民のことを悪く言ったこと、止められなくてすみませんって謝ってくれたし。セラフィナって凄く優しくて可愛いんだよっ。いまはお姉ちゃん呼びじゃなくなってるんだけど、いつかまた呼んでも良いですかって――」

 興奮してセラフィナの可愛さをまくし立てていたリスティアだが、途中でそのセリフを飲み込んだ。いつの間にかナナミが頬を膨らませていたからだ。


「……リスティア様の馬鹿」

「ふぇ? ……あたしがなにかした?」

 リスティアはきょとんとしてナナミを見る。

「知りませんっ!」

 ツーンと明後日の方を向く。そんなナナミを見るのは初めてで、リスティアは自分がなにか怒らすようなことを言ってしまったんだろうかと戸惑った。


「えっと……ごめんね?」

 リスティアが謝ると、明後日の方を見ていたナナミは、横目を向けてきた。

「……反省、してますか?」

「反省してるよぅ」

 ホントだよ? と首をかたむけた。


「なにをしたか、心当たりもないのに、ですか?」

「……うん。それでも、だよ。あたしはナナミちゃんを大切に思ってるから。だから、ナナミちゃんがあたしのせいで怒ってるのなら、あたしは凄く反省するよ」

「はぅ……」

 なぜか頬を染め――リスティアの顔を上目遣いに覗き込んでくる。


「……ナナミちゃん?」

「こ、んど…………たら、ゆ……して、…………ます。……ぉ……ぇ……ちゃん」

「ふえ?」

 真祖の聴力をもってしても、声になっていなければ聞き取ることは出来ない。なんて言ったのかなと思って首を傾げると、ナナミの顔が朱色に染まった。


「~~~っ。今度、私と一緒にお出かけしてくれたら許してあげますって言ったんです!」

「……お出かけ? それなら喜んで」

 いくらでも行くよと満面の笑みを浮かべた。

 リスティアは、ナナミからお出かけをおねだりされたことが嬉しすぎて、最初にナナミが口にしたときには、最後に一言付け加えられていたことに気付かない。


 もしその一言に気付いていたのなら、この国の歴史が変わるほどの転換期だったのだが――

 それにしても、どうしてナナミちゃんは不機嫌になったんだろう? あたしがなにかしたのかなぁ? よく分からないけど……怒るナナミちゃんも可愛かったよぅ――と頬を緩める。

 リスティアはわりと平常運転で――楽しそうだった。

 

 エピローグまでお付き合いくださってありがとうございます。

 これにて二章は閉幕となります。

 三章で書きたいエピソードはたくさんあるので、日をあけてキャラクター紹介、閑話と続く予定ですが、書籍化の予定がもう少し先になるようで、そっちの様子を見つつ今後の予定を決めようと思っています。

 

 今回のリスティアの物語は、少し構成重視に内容を寄せてみました。そのため、一時的にヘイトを残すようなエピソードもあったのですが、いかがだったでしょう?


 ――楽しかった、続きを読みたい。

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