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【なろう&書籍版】とにかく妹が欲しい最強の吸血姫は無自覚ご奉仕中! / 【コミカライズ版】最強の吸血姫は妹が欲しいっ!  作者: 緋色の雨
第二章

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エピソード 3ー7 亡国の危機

 異世界ヤンデレ、第一巻が発売中です!

 新刊コーナーで、紫のすっごい存在感があるのがそうです!

「お兄ちゃん、いってらっしゃい~」

 シスタニアの孤児院食堂。メイド服を纏うリスティアは、今日も今日とて、カリスマ妹メイドとして、お兄ちゃんやお姉ちゃん達を相手にお仕事をしていた。

 ――そう、お仕事である。

 リスティアがみんなを、お兄ちゃんお姉ちゃんと呼ぶのは、あくまでも孤児院食堂でのルールだからで、お客さんを本気で慕っている訳ではない。

 ――なんて、お客が聞いたら絶望しそうな事実はともかく、リスティアは常連のお兄ちゃんを送り出し、別の席で幸せそうにパフェを食べているナナミの向かいの席に座った。


「ナナミちゃん、パフェはどうかなぁ?」

「えへへ、凄く美味しいです! でも……良いんですか? いつも、ごちそうになってしまって、なんだか申し訳ない気がするんですけど……」

「良いんだよぅ。ナナミちゃんや孤児院のみんなは、あたしの特別なんだから」

 ナナミの向かいで、両手で頬杖をついて幸せそうにナナミを眺める。みんなの妹メイドとしてはあるまじき態度だが、客達はそんな愛らしいリスティアに見惚れた。

 俺もいつか、その特別に入りたい――と言った心境のようだ。


 それはともかく、最近のリスティアがナナミに甘いのには理由がある。

 いや、以前から無意識にだだ甘だったが、いまのリスティアは意識的に甘くなっているのだ。そしてその理由は、ナナミの様子がおかしいことにあった。

 先日、貴族の娘とトラブルがあってから、ナナミは少し落ち込んでいるのだ。


 理由は予想できる。シャーロットはナナミに優しく接してくれている――と言うか、リスティアを差し置いて、ナナミにお姉ちゃんと呼ばれているほどだ。

 だけど、ドロシーはナナミ達を下賤な平民と言い放ち、セラフィナもそれを否定しなかった。それがショックで、ナナミは落ち込んでいるんだろう。


「――な~んて、思ってるんじゃないですか?」

「ふえ?」

 パフェをパクつくナナミを眺めながら考え事をしていたつもりが、いつの間にか、ナナミにじっと顔を見つめ返されていた。驚いたリスティアは、ぱちくりとまばたきをする。


「……ごめん、ナナミちゃん。なんて言ったの?」

「ですから、あの貴族達に言われたことが原因で、私が落ち込んでると思ってるんじゃないですかって言ったんです」

「……ナナミちゃん、人の心が読めるの?」

「読めないですけど、リスティア様のことだから分かりますよ」


 それだけリスティアを慕っているという意味で、ナナミにとっては告白にも等しい言葉。

 だから、リスティアにとっては歓喜すべき言葉なのだが――そこまであたしの気持ちを分かってくれるのなら、お姉ちゃんと呼んで欲しいなぁとか思ったリスティアは気付かなかった。

 それはともかく――


「そんな風に聞くってことは、そうじゃないってこと?」

「ええ、貴族が平民を下に見るのは珍しいことじゃないですから。と言うか、シャーロットお姉ちゃんが例外なんです」

「……シャーロットお姉ちゃん」

 本当なら、あたしがそう呼ばれるはずだったのに、ぐぬぬ。なんて感じでリスティアは唇を尖らせる。ちょっとした意思表示である。


 もっとも、ナナミを含めた周囲の人間は、リスティアが『シャーロットはあたしのお姉ちゃんなんだからね?』と拗ねてると思っているのだが……それはともかく。


「じゃあ、ナナミちゃんが元気ないのはどうしてなの?」

「ん~、そんなに落ち込んでるように見えます? わりと普通にしてたつもりなんですが」

「ナナミちゃんのことだもん、分かるよぉ~」

 えへへと微笑むリスティアは愛らしくて、ナナミはほんのりと顔を赤らめた。そして、そんな自分に気付いたのか、ナナミはあたふたと慌てふためいた。


「えっと……その、たしかに少し落ち込んでます。私のことを気遣って、リスティア様がセラフィナ様達と対立しちゃったから……それが申し訳なくて」

「なぁ~んだ、そんなことを気にしてたんだね」

 ナナミの悩みがなんでもないことだと気付いて、リスティアはホッと安堵の息を吐いた。


「そんなことって……リスティア様、本当はセラフィナ様と仲良くしたかったんでしょ? それなのに、私のことを気遣って、あんな風に言ったんじゃないですか?」

「そう、だね。セラフィナと、仲良くしたいとは思ってるよ」

 愛らしい顔立ちで、自分のことをお姉ちゃんと慕ってくれる初めての女の子。仲良くしたくないなんて、たとえ嘘でも言えない。

「じゃあ、やっぱり……」

 自分のせいで、その邪魔を――と落ち込むナナミに、リスティアは違うよと笑った。


「セラフィナは悪い子じゃないと思う。だけど、まわりの子が平民を馬鹿にしてたのは事実だし、セラフィナがそれを止めなかったのも事実だから、ね」

「でも、リスティア様は……」

 周囲に聞かれることを警戒しているのだろう。ナナミは声には出さずに口の動きだけで、平民ではないですよねと呟いた。


「でも、ナナミちゃん達は嫌な思いをするでしょ?」

 妹になるかもしれない相手よりも、いま慕ってくれている女の子の方が大切。そんなリスティアの思いを理解したのだろう。ナナミは目を見開いた。


「リスティア様……リスティア様はどうして、そこまでしてくれるんですか?」

「だって、あたしはナナミちゃんのこと、大好きだもん」

 普通なら恥ずかしくて言えないようなことを、どこまでもまっすぐに口にする。それを聞いたナナミの顔が真っ赤に染まった。


「リスティア様……その、一つだけ聞いても良いですか?」

「えっと、一つでも二つでも、好きなだけ聞いてくれて良いけど?」

「それじゃ……あの、セラフィナ様にお姉ちゃんって呼ばれたとき、リスティア様はどう思ったんですか?」

「それは……嬉しかったけど?」

「そう、なんですね」


 リスティアには知り得ないことだが――ナナミは出会った頃からずっと、リスティアを姉のように慕っている。にもかかわらず、リスティアをお姉ちゃんとは呼ばない。

 それは、リスティアが雲の上の存在だから――ではなく、リスティアが妹と死に別れたと思っているからだ。


 だから、私じゃ死んだ妹の代わりになれませんか? ――なんて言えなくて、いままでずっとリスティア様と呼び続けていたのだ。

 だけど、突然現れたセラフィナが、リスティアをお姉ちゃんと呼び、それを聞いたリスティアが、とても嬉しそうな顔をしていた。それが、ナナミが動揺している本当の理由だった。

 もちろん、リスティアは知らないことで――


「リスティア様、その……亡くなった妹って、どんな方だったんですか?」

 そんな風に聞かれたリスティアは、「なんのこと?」と小首をかしげた。

「あたし、妹なんていないよ?」

「……え?」

「いるのはお姉ちゃんだけだよ?」

「え、え? でも、あのとき――」

 ナナミがなにかを言いかけたが、リスティアは慌てて席を立った。リスティアの部屋の扉。それも学生寮の扉がノックされたのを感知したからだ。


「――ごめん、ナナミちゃん。部屋に誰か来たみたいだから行ってくる!」

「え、え?」

「それじゃ、また後でね!」

 リスティアは身をひるがえし、孤児院にある自分の部屋へと大急ぎで向かった。




「リスティアさん、いませんか?」

 リスティアが孤児院の部屋へと飛び込むと、すぐ隣の扉――王都にある学生寮の出入り口と繋がっている扉から声が聞こえてきた。

 最初にノックされてから、結構な時間が過ぎている。それを感知していたリスティアは、慌てて扉を開いた。


「すみません、お待たせしましたっ!」

「あぁ、居たんですね……って、なにをなさっていたんですか?」

 扉をノックしていたのはアニス先生だった。そしてアニス先生は、扉から姿を見せたリスティアを見て目を丸くした。


「えっと、その……すみません、少しウトウトしていて」

「はぁ……その格好で、ウトウト、ですか……」

 なんだか視線が痛い。どうしたんだろうとその視線をたどると、孤児院食堂のメイド服を身に纏う自分の身体があった。


「これは――普段着です」

「ふ、普段着ですか?」

「ええ、普段着です」

 自分でも苦しいと思ったのだけれど、まさかさっきまでシスタニアの街にある孤児院食堂でメイドをしていたなんて言えるはずもなく、リスティアは普段着だと押し通した。


「ま、まあ、普段着のことは良いでしょう。それよりも、理事長からの伝言です。話があるので、急いで理事長室に来て欲しいと言うことです」

「理事長が用事……ですか?」

「ええ。話の内容は聞いていませんが、とにかく急いで欲しいとのことです」

「分かりました。いまから向かいます」

「いえ、せめて服は着替えてからになさい」

「……あ、そうでした」

 リスティアはちょっぴり恥ずかしがるように頬を染めた。



 制服に着替えたリスティアがやって来たのは理事長室。リスティアは部屋の扉をノックして、返事を聞くと同時に、理事長室へと足を踏み入れた。


「おぉ、待っていたぞ」

 リスティアを目にするなり、ブレンダ理事長が立ち上がった。

「すみません、お待たせしてしまったようで。なにかあったんですか?」

「ああ、心して聞いてくれ。実は――セラフィナ嬢が姿を消した」

「……え? セラフィナが姿を消した……って、どういうことですか?」

「訓練室で訓練をすると護衛に言い残して、姿を消したらしい」

「それは……訓練室でなんらかの事件に巻き込まれたってことですか?」

「いや、調べたが、そもそも訓練室を使った形跡がない。だから、自分の意思で姿を消した可能性が高いのだが……例の事件の標的になった可能性もあると思っている」

「……セラフィナは誘拐される条件から外れていると思いますが」

 ジュノー辺境伯の娘であるセラフィナが行方不明となれば、間違いなく大騒ぎになる。誘拐しても目立たない人物には、どうやっても当てはまらないはずだ。


「彼女は今回の件で孤立していたからな」

「……孤立、ですか?」

 セラフィナと会ったのは、お姉ちゃん呼びされたときが最後なので、いまのセラフィナがどういう状況にあるか、リスティアは把握していなかった。


「お前との一件で、他の貴族に見限られたんだ。だから、セラフィナが行方をくらましたら騒ぎになるが、それが理由だと納得する者は多いだろう」

「……そんなことが」

 セラフィナの現状を知らなかったリスティアは、わずかに目を見開いた。


「現時点ではなんの根拠もないが……万一のことを考えて探し出して欲しい」

「分かりました。それじゃセラフィナを迎えに行って、犯人がいるのなら捕まえてきますね」

 リスティアはこともなげに言い放った。


「なにを……言っているのだ? その言い様だとまるで、セラフィナの居場所に心当たりがあるようだが?」

「セラフィナの居場所に心当たりはないですが、探す手段ならあります」

「――それは本当か!?」

 システムデスクに手を突いて立ち上がる。そんなブレンダ理事長に向かって、リスティアは本当ですよと微笑んだ。


「あたしは、魔力の波長を見分けることが可能なんです」

「魔力の波長――だと?」

「ええ。大気中に存在する魔力素子(マナ)を、人は無意識下で魔力に変換して体内に取り込む。そのときに生成される魔力には固有の特徴があるんです」

「仮説として聞いたことはあるが……お前はそれを判別できるというのか?」

「ええ。もちろん、見分けることが出来ても、対象の波長を記憶していなければ探しようはありませんし、人が多い場所では精度が下がってしまいますが……」


 リスティアは学校に通い始めてから、攫われそうな生徒をピックアップして、それぞれが持つ魔力の波長を記憶していた。セラフィナは攫われそうな生徒の対象外だが――魔法の決闘をした際に、魔力の波長を見て覚えている。

 つまり――


「セラフィナが体内に宿す魔力の波長を記憶していると?」

「ええ。ある程度まで近づけば、セラフィナの魔力を見つけ出すことが可能です」

「分かった。まずは最悪のケースを考えて、スラム街から探してくれ」

「分かりました。セラフィナのこと、必ず連れ帰ってきます」

 リスティアが力強く頷くと、ブレンダ理事長が少し意外そうな顔をした。


「……どうかしましたか?」

「いや、リスティアはセラフィナを嫌っていたと思っていたからな」

 リスティアが協力的なことが意外だったらしい。それに気付いたリスティアは心外ですと唇を尖らせた。


「あたし、セラフィナのことは嫌いじゃないですよ?」

「だが……ウォルター公爵が社交界での話を持ちかけたとき、迷わず乗っていたではないか」

「それはだって、学校を退学になったら困りますし」

「それだけの理由で、辺境伯を窮地に追いやったというのか?」

 辺境伯が掛けてきた圧力を跳ね返すために出来る対処をしただけ。正当防衛どころか、相手を完膚なきまでに叩き潰した――なんて欠片も思っていないリスティアは小首をかしげた。


「なるほど。普通の女の子とは良く言ったものだ」

「ふえ?」

「なんでもない。セラフィナの件、よろしく頼む」

「はい、任せてください」

 あたしを初めてお姉ちゃんと呼んでくれた女の子。

 もしセラフィナが攫われたのだとしたら、たとえこの国を更地にしてでも、必ず探し出してみせる――と、リスティアは物騒なことを考えた。

 

 次回、王都が更地に……はならないはずです、たぶん。


 ところで、タイトルを改題予定で色々と考えているんですが、『妹が欲しい吸血姫は、今日も人里で全力を尽くします!』略して妹吸血姫とかどう思います……?

 良いとか悪いとか、こんな感じの方が良いとか、ご意見いただけると嬉しいです。

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